マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-   作:鏑木カヅキ

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第9話 魔法研究と分析2

 自室。最近はもっぱらひきこもりだ。

 桶に入れていたトラウトは湖に戻して、今は自室に一人。

 僕は目を閉じたまま静止している。

 しばらくして、カッと目を見開き、叫んだ。

 

「ファイアーボール! サンダーボルト! ウインドブラスト! アイスストーム!」

 

 ダメだった。

 やっぱり何も起きなかった。

 

「深淵より来たり闇と光の混淆せし異形なるもの。顕現せよ!」

 

 召喚なんてできるはずもなかった。

 それどころか魔力が放出された形跡もない。

 身体も熱くないし、発光もしてない。

 

「うん、わかってた。やっぱりそうだよね」

 

 魔法が発動するなんてことはなかった。

 予想はしていた。当然の結果だった。

 でも試してみるっていうのは大事なことだと思うんだ。うん。

 とりあえず、魔法が発動しないということは確実だ。

 きちんと足元を見よう。

 魔法なんてあるかどうかもまだわからない。

 でも、近しい何かは発見したのだ。

 焦らず、少しずつ進もう。

 僕は心を落ち着かせて、瞑想状態に入ろうとする。

 魔力を放出するにはどうすればいいのか。

 まだよくわかってない。

 とりあえず、漫画とか小説の基本である瞑想から始めてみることにした。

 実際、魔力はあったし、身体は光ったのだ。

 だったら後は発動条件を明確にしていけばいいだけ。

 ということで、まずは瞑想から始めた。

 一時間近く、心を静めて、腕や身体に意識を集中してみた。

 はい、何も起きませんでした。

 これも想定通り。

 そも、僕が魔力を放出できた状況を考えると、瞑想はまったくもって関係ない。

 やはりやるしかないようだ。

 と、バタンと扉が開かれた。

 

「シオン! いる? いた!」

「姉さん、ノックしようよ」

「何よ! 恥じるようなことがあるの?」

 

 まだないけど、それなりの年齢になったら、あるんだよ。

 無神経な母親みたいなことしないでほしいんだけど。

 言っても聞かないんだよな、この姉は。

 

「丁度よかった。姉さん、そこに座って」

「お菓子の時間って言いに来たんだけど……まあ、いいわ」

 

 僕の言うとおりに、僕の隣に座るマリー。

 僕はベッドに腰掛けている状態だ。

 僕は姉さんを真剣に見つめる。

 

「な、何、じっと見て」

「姉さん、僕は、姉さんが好きだよ」

 

 真摯な姿勢を崩さず、僕は言った。

 思いをそのままに口にした。

 本音だ。

 異性としてではなく、家族としてだけど。

 するとマリーは一瞬で白い肌を朱色に染める。

 

「な、ななな、なっ、何、何を、いい、い、いきなり……っ!」

 

 すると、僕の身体は光を放ち始める。

 ぼんやりと淡い光が生まれ、数秒して、消失した。

 

「ああ、やっぱり告白すると魔力が放出されるんだ。

 どういうことなんだろ……まさか、毎回告白しないと反応しないとか?

 いやいや、それはさすがに荒唐無稽だよね。ってことは」

「……ねえ、シオン?」

 

 思考を巡らせていると、マリーが僕を睨んでいることに気づいた。

 あ、まずい。

 これ、かなり怒っている時の顔だ。

 僕は頬を引きつらせて、答える。

 

「な、なんでしょう、お姉様」

「あんた、あたしをオモチャにしたわよね?」

「し、してません!」

「馬鹿にしたわよね?」

「し、しし、し、してません!」

 

 額に青筋を立てて鬼の形相をする姉。

 やってしまった。

 しかし、自分の行動を考えると、怒って当然だと、今さらながらに気づいた。

 僕は魔法のことになると視野狭窄になるらしい。

 

「ほ、ほら、前に求愛行動したら魔力が発動したから……」

「それで嘘を吐いたの? ねえ?」

「い、いや嘘じゃないよ。本当だから。本音だから!」

「ほ、本当、なの?」

 

 さっきまで憤怒の表情だったのだが、すぐに柔らかくなった。

 あ、この姉、チョロイ。

 

「うん、本当だよ」

「そ、そそ、そっかぁ、じゃあ許してあげよっかなぁ。えへへ」

 

 はい、可愛い。

 思わず頭を撫でたくなるけど、耐えた。

 姉の威厳もあるしな。子ども扱いすると怒るんだ。

 まあ、一応、僕は弟なわけだし。

 本当は年上だけど。

 

「それで、何かわかったの?」

 

 マリーは僕のことを馬鹿にせず、真剣に話を聞いてくれる。

 魔法についても、本当にあるんじゃないか、と思ってくれている。

 マリーは僕の味方だ。どんな時でも。

 だから僕も彼女の味方でいるつもりだ。

 

「うーん、告白すると魔力が放出されてるみたいなんだけど。

 多分、告白に限定して放出されるわけじゃないと思うんだよね」

「どういうこと?」

「ちょっとやってみる」

「ま、また告白するの!? ま、待って、そ、その、心の準備が」

「あ、いや、それはしないよ」

「……しないのね」

 

 顔を赤くした後に、すぐにしゅんとしてしまった。

 ころころと表情が変わるところは可愛いけど、今はやるべきことがある。

 告白は相手に思いを伝える際、自分もまたその思いを自覚する。

 つまり、強い感情を抱いているということ。

 これは愛情だけではなく他の感情でもいいのではないかと思った。

 そこで、僕は怒りを想像してみる。

 人間、生きていれば怒ることなんてごまんとあるし。

 怒り。憤り。

 

 …………あれ、ないな。

 

 そういえば僕、あんまり怒った記憶がないなぁ。

 そうだ。別に負の感情でなくてもいいじゃないか。

 前向きな。そう。丁度いいのがある。

 楽しい、期待、ワクワク、嬉しい。そんな感情を込めてみよう。

 魔法を発動できる。その思いを強く意識してみよう。

 僕は明確に魔力を身体に帯びるような想像と共に、喜びの感情を伴わせた。

 熱と光。

 それが僕の身体から生まれるイメージ。

 それを数分続けた。

 姉さんは無言で動向を見守ってくれている。

 そして。

 心臓付近から熱が広がる感覚がした。

 徐々に身体の末端まで温度が伝播する。

 高熱の時のような気怠さはなく、また夏場のように不快な暑さもない。

 ただ柔らかな心地いい感触が身体を満たした。

 僕の身体は光っていた。

 

「で、できた!」

「ひ、光ってる!?」

 

 姉さんと視線を合わせて数秒すると、光は消えた。

 やっぱり意識を逸らすと、魔力放出は終わるようだ。

 

「い、意識してできたのよね?」

「う、うん! できた! ただ光っただけだけどね!」

「そ、それでもすごいじゃない! 光っただけだけれど!」

 

 身体が光っただけ。何の利便性もない。役にも立たない。

 だけど、それは常識的には考えられない現象だった。

 魔力の存在はここに確立されたのだ。

 心臓の近く、身体の深いところからそれは生まれた。

 ふとデンキウナギを思い出した。

 彼等は電気受容感覚というものを持っており、電場を感じ取ることができるという。

 そして体内に特殊な発電器官があり、その器官を利用して電気を発生しているとか。

 この世界の人間の身体にはそれに類する『魔力受容感覚』や『発魔器官』のようなものがあるのかもしれない。

 とりあえず、僕は現時点での魔力放出の状況を『帯魔状態』と名付けることにした。

 実際、身体に魔力を帯びているだけで、何も効果はない。

 発光はしているけど、それに意味はない。

 なぜならば、発光自体は世界に影響を及ぼさないからだ。

 見えない人もいる。

 それはつまり、発光する魔力の塊を知覚できる生物は限定されているということ。

 そして、光を放っているのに、物質に光を反射させることはない。

 知覚できないわけだから当然だ。

 特殊な現象のため、魔力の塊があっても周辺を照らす光源にはなりえない、ということだ。

 つまり帯魔状態になれても、暗闇を照らしたりできないので、何の意味もないということ。

 遠くから自分の存在を誰かに知らせることはできるかもだけど。

 まあ、トラウトの求愛行動に伴って生まれる魔力の塊も、大した影響を与えることはない。

 あれはただのコミュニケーションなのだろう。

 クジャクの羽を見せて、踊るようなものと同じなんだと思う。

 ただ素質のある人間には、僅かな温度と感触を得ることはできるけれど。

 とにかく。

 僕は自分の意志で、自分の思う通りの結果を得たのだ。

 ただ光を放つだけ。それだけのことだったが、僕は嬉しくてしょうがなかった。

 

「う、うへへへ、魔法が使えたぁ」

「……すごい顔になってるわね」

 

 僕はだらしなく頬を緩めて、気持ち悪い笑い声を発し続けた。

 だって嬉しかったのだ。

 ずっと憧れていた魔法が使えた。

 正確には魔法にもなっていない。ただの魔力放出だ。

 でも、いずれは魔法を使えるんじゃないか、という期待を持つには十分だった。

 それに非科学的な、非現実的な現象を僕が起こしたのだ。

 大したことではないとしても、高揚を抑えきれない。

 嬉しくて、嬉しくてしょうがない。

 ずっと夢見てきたのだから。

 

「うへへへぇ、へへ」

「ふふ、変な笑い方。でも、そんなに嬉しそうにしてるシオン、初めて見たわ。よかったわね」

「うん! へへ、嬉しいよ、うへへ」

 

 よしよしと頭を撫でられた。

 優しい笑みを浮かべているマリーと、気味の悪い笑みを浮かべている僕。

 よくわからない空間がそこにはあった。

 けれど僕もマリーも確かに、幸せを感じていた。

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