夜食に薔薇の毒はいかが?   作:キャンディマン

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森と獣

 ポンズは激怒した。

 必ずや、かの邪知暴虐の師を除かなければならぬ。

 ポンズには念は分からぬ。ポンズは少し人より優れた特技を持つ可愛いだけのハンター見習いである。

 

 しかし人一倍理不尽には敏感……でなくとも流石にこれは理不尽だ。

 

「ハフー、ハフー………」

 

 ズン、と音を立て巨大な動物が大木をへし折りながら獣道を進む。

 キツネグマだ。子育ての時期は特に気が立ち、そのマーキングを見ればどんな呑気な動物でも隣の山まで逃げ出すと言われる凶暴にして強力な猛獣。

 

 息を潜めて過ぎ去るのを待つポンズ。その身は匂いを消すために土や草の汁で汚れている。

 

「…………」

 

 それでも違和感を感じたのかスンスン鼻を鳴らすキツネグマ。ポンズはそっと指を動かし蜂を飛ばす準備をして………没収されていたのを思い出す。

 

 渡されたのはナイフとショベルのみ。心許ない。

 

「ぐおおおお!?」

「!」

 

 凶暴なキツネグマが巨大な蛇に絞め殺された。

 

「……………………はぁ」

 

 蛇なら体温でこちらに気付いていただろうが、キツネグマをくらい満腹になったようだ。ズルズルと森の奥へと消えていく。音が消えるまで生きた心地がしなかった。

 

 出された課題は至極単純。樹海から出ること。方位磁石も持たされている。課題の文だけ見ればハンター試験よりも簡単だが、そう単純じゃないのが猛獣達。

 

 立ち上るオーラが()()()()()()。精孔が開き、流れ出る生命力を保持しているのだ。つまり、念能力の使い手。恐らくポンズと同じ方法で念の力を解放された動物達。

 

 元より人間より優れた身体能力を持つ獣相手に知恵を使えず、唯一のアドバンテージになりそうだったオーラは獣も使える。

 

 本人曰くやる事があるとのことだ。

 

『なんせ俺は嫌われてるからなあ。クレオは受かったが独蜘蛛は落ちた。実は大したことないに決まってると、馬鹿が釣れる釣れる』

 

 ただ勝利を続ければすぐに来なくなるだろうから、その間の修行として、らしい。本人曰く暇があり、念能力の修行にもってこいの生物が居たらそこで修行をつけていたとのことだ。

 

「……………お腹すいたな」

 

 薬使いのポンズは薬草毒草は勿論食用に向く果実や茸なども分かる。伊達にハンター試験を数回生き残ってないし、トンパに記憶されていない。それでもそれを活かせるかはやはり環境による。

 

 実は食用に向く樹の実を見逃してたりする。平時ならともかく、今のポンズには集中力が足りてない。或いは注意を広げ過ぎで細かいところが見えていないと言うべきか。

 

 シャベルで木の根の下に穴を掘る。木の根が防波堤の役割を果たし大きな獣相手にも少しは足止めになるはず。反対側にも出口を作っておく。

 

(…………寝る時は穴でも掘れって……あれは多分助言じゃなくて命令)

 

 オーラで強化された肉体でならそこまで苦ではないが………纏だけでは流石に不可能。練を使えば疲労が溜まる。

 

 絶にて体力の回復を図るも寝れば絶が解ける。かといって寝なければ回復も何もない。絶はあくまでオーラを身の内に留める技術。絶と休息が揃って体力回復が出来るのだ。

 

(使用自体は、出来るけど)

 

 石塊を宝石に変える一刺(エメラルドワスプ)というらしいクレオの念能力。念使いとして遙か先達のオーラ操作を文字通り身体に直接教え込まれた結果。

 

 解除された後、纏を行うのに時間は掛かったが行えてからはスムーズ。自転車に一度乗れたら後は意識せずに乗れるようになったのに感覚としては近いだろう。

 

 慣れれば寝ていても自然と纏を使えると言っていた。おそらく、絶も。難易度は違うだろうが可能な筈。

 

 絶………絶だ。死にたくないなら絶。体力の回復はもちろん猛獣からも隠れられる。隠れられなきゃ、休む事も出来ない。

 

「…………!」

 

 フゴフゴと匂いを嗅ぐ音が聞こえた。キツネグマではない。普通の熊だ。

 

 匂いは消しているはず。文字通り息を潜めて………絶。漏出するオーラが徐々に内に収まっていく。

 

 少しでも意識を乱すと絶が解ける。熊が立ち上り背中を木に押しつけた。

 

「!? グォゥ!」

「!!」

 

 絶が乱れたポンズに気付き穴に突っ込んでくる熊。根が邪魔をして奥へと進めない熊の叫び声を聞きながら反対の出口から出る。

 

 

 

 

「はぁ…………はぁ………」

 

 結局木の上に避難し蔓で落ちないよう体を縛り眠る事にした。穴を掘れ、というのは念修行の一環なのだろうが、まずは絶をものにしないことには………。

 

「…………………綺麗」

 

 猛獣を避けるために高い木を選び、星空が良く見える。人工の明かりもない樹海の空は星の光が良く見える。

 

 明日も木の上でいいかも…………。

 

『お前の弱点は見切りの速さだな。自分には無理だと判断してからの行動が速い』

『私、別に戦士を目指してないもの』

『だがハンターとしては致命的。チャンスは多く与えられるらしいが………お前は()()()()だぞ?』

 

「…………っ!」

 

 クレオの言葉が蘇る。そう、今ポンズが木の上を選択したのは、星空の為ではない。絶を諦めた。ただそれだけ。

 

 クレオの言葉は事実だろう。つまり、ネテロは()()()()()()()()()()()()()と判断していた。事実、ポンズはクレオと当たらなければ、キルアが殺人を行わなければ今年も不合格だった。そもそもクレオと契約しなければ最終試験にさえいけなかった。

 

 そして自分は、それに悔しいとすら思わなかったろう。いや、多少は思う。だがどうせ次があるとすぐに切り替える。今回は運がなかったと見切る。

 

 そういうところが駄目なのだろうと自覚しつつも………と、不意に感じる振動。携帯が震えた。

 

『そろそろ音を上げる頃合いだと思ったが、迎えに行ってやろうか?』

「……………まだ1日目」

『1日あれば十分だろ?』

「嫌味?」

『嫌味だよ』

 

 事実、一日目にして、穴を掘るのを諦めようとしている。提案ではなく命令と気づきながら、だ。

 

「……………一日目で諦めるような人間と思ってたなら、なんで私なの?」

 

 それこそクラピカやレオリオも、友達関連の問題が終わってから弟子に出来ただろう。レオリオはちゃんと医者として学校に通うつもりらしいが……。

 

 4次試験でポンズを勧誘したとしても、その後は選べた筈だ。

 

『別にお前が特別才能あったとかはないぞ。それはむしろゴンと99番。クラピカとレオリオだってお前より才能はある』

「………………」

『勧誘しちまったもんは仕方ない』

 

 しちまったもん、って。

 

『その扱いが不服なら、生きて戻ってくるんだな。諦め上手のポンズちゃん』

「………………」

 

 煽られていると自覚しつつも、やる気は湧いた。

 

『まあそこに命の危険になる猛獣は居ないし』

「いるけど!?」

『俺はそこじゃ死なねえし』

「…………絶対戻って殴る」

『じゃあ戻ってきな。折角ショベルまで貸してやったんだ』

 

 

 

 

 翌日の夜。

 ポンズは狩ったウサギを食べながらクレオの言葉を思い出す。

 

 ショベルを渡した。つまりこのショベルに何か………は、ないだろう。念修行の一環で此処に放り込まれたのだから、これも?

 

 そういえばオーラを纏った体が頑丈になるなら、手にしている物は?

 

「……………っ!」

 

 オーラの移動までは出来たが、物に纏わせる練度が足りない。

 

(…………オーラは服ごと私を包んでいる)

 

 なら、オーラの範囲を広げて…………!

 

「これ、なら…………」

 

 ザグリとショベルは地面を容易く突き刺す。昨日よりも早く土を掘り起こす。

 夜は穴を掘り眠れという命令を守るうえで穴を掘る時間を考え移動していたが、これなら移動時間を増やせるかも!

 

「…………はぁ………」

 

 しかしかなり疲れる。

 今日の寝床が出来た頃にはオーラは枯渇寸前。

 なら、むしろ。

 

 絶が昨日よりも自然に行えた。オーラが少なくなったからこそ、疲労を軽減させるために本能が絶を求めている。新生児に念を目覚めさせると短期間で絶や纏を本能的に習得するのと同じ理由だ。

 

 第一段階は一先ず超えたと言っていいだろう。

 

 

 

 

「あー、だろうな。俺の感覚を叩き込んだんだ、コツさえ掴めば習得は早い」

 

 陰獣の座を狙い暗殺に来た侵入者の首を掴みながら電話の相手の報告を聞くクレオ。独蜘蛛の異名に恥じない表向きの念能力である毒蟲の念に全身を犯され既に息も絶え絶えの男は毒に神経が侵されていなければ命乞いでもしていただろう。

 

「スパルタ? 何言ってんだ、その森に危険な生き物はいない。俺があのレベルの念が使えるようになった時は猛獣だらけの森に入れられたぞ」

 

 念を鍛えるには自然環境に身を置くのが丁度いいのだ。自然と気配を消す獣達……そんな獣から逃げる感覚の鋭い小動物。

 

「そこは念を鍛えながら進めるよう調整してんだ。むしろ幼少期の俺が羨みそうな環境だね」

 

 背後から迫る別の男の顎を蹴り砕く。突然現れた。首を掴んでいる男と顔が似ている。兄弟の放出系念能力者。

 

 念使いとしてはゴズより上なのに、自分達の勝利を疑わないならまだしも相手が弱い事を前提に挑みに来ているのが片割れの目から解っていたクレオは大して興味も持たない。

 

「勝つ気なのはいいが、せめて相手が自分を殺せる可能性も考えろよ。その上で勝とうとしねえ念なんざ俺に通じるかよ」

 

 ズッと影に沈んだ男が別の場所から現れる。そこに既に居た蜂に刺される。

 

「マーキングもなく片割れの視界に移動する能力だろ? なんでこんな能力持ってて弱いんだ」

「何故、俺達の能力を………」

「師の教え。観察が得意なんだ」

 

 男を持ち上げ心臓を奪い取る。もう片方も死んだ。

 死を共有する事による念の強化。かなりの距離を移動出来たのかもしれない。マーキングもなしに視界内に無制限の移動は、相応の制約と誓約が必要だったのだろう。

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