夜食に薔薇の毒はいかが?   作:キャンディマン

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駆ける者達

「とんかつ定食、生姜焼き定食、チキン南蛮定食、カレーセット………後、ポークソテー定食にハンバーグ定食」

「は、はい!」

「最後にステーキ定食」

「……………や、焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「…………こちらへどうぞ。あの」

 

 女の店員は確認するような目を向けてくる。

 

「参加予定」

「はい………」

 

 部屋に案内され注文したメニューが運ばれてくる。ワゴンも用意してもらった。

 

 部屋が下へと動く。部屋そのものが昇降機のようだ。

 

 クレオは早速注文したメニューを食べ始めるが量が量だ、その前にB100にたどり着く。

 

 百の階層が用意されていたのか、或いは百メートル降りたのか。飯がもったいないのでワゴンに載せそのまま扉の向こうへ。

 

 殺気、焦燥、敵意、興味、嘲笑…………様々な視線が一瞬で集まり直ぐに逸れていく。否、ただ一人逸れない視線にクレオは視線を返す。

 

「…………♥」

 

 ニコッと笑顔で手を振ってくる道化師のような顔をした男。

 

「番号札をどうぞ」

 

 小柄な緑の人……人?

 動く豆から番号札を受け取る。番号は334番。惜しいと思った。

 

「どうした兄ちゃん、残念そうな顔をして」

「…………………」

 

 クレオに馴れ馴れしく話しかけてきたのは小太りの男。一見何処にでもいるような中年だが、そこそこ強い。このハンターの卵達の中では上の方だろう。

 

「あ! ゾロ目じゃなかったからかい? いやあ、惜しいねえ。後1人分早ければな………と、自己紹介がまだだったな。俺はトンパ、よろしく新人君」

「ああ……」

「しっかしあんた、それ全部食うのかい?」

「ん、まあな」

 

 実はクレオは結構な健啖家なのだ。陰獣辞めた後もハンターライセンスがあれば公共ホテルなんかのビュッフェ使えないかなとか思ってる。

 

「水じゃ味気ないだろ。ジュース飲むかい? 知り合えた記念にプレゼントだ」

「ん、どうも」

 

 ニヤリと笑うトンパ。実はジュースには下剤が入っているのだ。一口飲めば3日は土石流のようにクソが止まらない最早毒。それを警戒せずに飲みやがって。

 

「じゃあ俺はこれで」

「ああ、待て」

「ん? なんだ──ぐっ!?」

 

 そそくさ去ろうとして顔面を掴まれるトンパ。

 

「な、なにを………」

「お返し。同じのだから、解毒剤飲むなら早めにな」

「なんのこ…………!?」

「因みにトイレはあっちにあったぞ」

 

 トンパは大慌てで駆け込んでいった。暫くしてゲッソリして出てきた。まあ、解毒剤くらい持っているか。

 

「やあ♣」

「……………」

()()()()♠」

「ああ………」

 

 実は知り合い。

 2年ほど前陰獣の仕事の一環として天空闘技場で使えそうな出場者を見に行った時にあった男だ。

 

 そう言えば蚯蚓の奴にハンター試験でも使えそうな奴はスカウトしてくるように言われてたな。彼奴と梟真面目なんだよなあ。と思い出しながら視線を巡らせる。使えそうな奴………ふと隣を見る。

 

「お前って………やっぱいいや」

「なんだい、気になるじゃないか♦」

「仕事関係。良さそうな受験者いたか?」

「う〜ん…………99番、294番かな♠」

「成る程………」

 

 確かハンゾーとキルアだっけ? と前世の記憶を探るクレオ。もう20年以上も前の記憶。殆ど覚えてない。とはいえ、昔見た漫画のキャラだ。少し嬉しい。

 

 クレオの横で笑うヒソカもだが、生憎とクレオはもう主人公とその相棒ぐらいしか覚えてない。古い方のアニメを見ていれば間違いなく忘れなかっただろうが。続々と集まる参加者をみながら点数をつけていく。

 

 クレオは3人組にお、と反応した。

 

「ガキ90点、金髪86点、黒髪64点」

「高いね♠」

「期待値だろ? 現状の実力は関係ない。」

「なるほどね♣」

「………………」

 

 そんな風に会話しているのを見てふん、と鼻を鳴らし近付いてくる影。余裕そうに見えたのが気に入らないのだろう。ドン、とヒソカに体をぶつける。

 

「………………?」

 

 ふと肩が軽くなり、じわりと広がる熱。

 

「!? ぎゃああああ〜〜〜!?」

 

 その熱を痛みの認識してから痛苦に叫ぶ男。

 

「アーラ不思議♥ 腕が消えちゃった♠ 種も仕掛けもございません♠」

「お、ォ゙、俺のォォ〜〜」

「…………………」

 

 クレオがふと天井を見る腕は天井に張り付いていた。

 

「気をつけようね♦ 人にぶつかったら謝らなきゃ♣」

 

 結果としてヒソカから受験者が距離を取る。ついでにクレオからも。

 

ジリリリリリリリリリリリリ!!

 

 不意に鳴り響く音に視線を向けるとカイゼル髭の紳士がいた。何処かで見たような? 因みにジリジリ音を鳴らすのは人の顔を模した機械。誰の趣味かはしらないが趣味が悪い。

 

「ただ今をもって受付時間を終了いたします」

 

 406名。

 最後に入ってきた金髪と黒髪と子供のコンビを最後に、参加者人数が決まる。

 

 参加意思がある者はついてくるように言う。因みに向かう先は2次試験会場。1次試験は紳士ことサトツについていくことだ。

 

 ただ歩いているようでグングンと加速していく。

 

「そういえば♥ どうしてハンター試験に? 君、必要でもないだろ♦」

「あー、今年の9月に仕事辞める予定なんだよ」

「ふ〜ん♣ 楽しい月になりそうだ♥」

「なんでお前も関わる気なんだよ。ま、そいうわけで次の職探してたら、師匠にハンターになれって言われてたの思い出してな。勝手にいなくなって無職になったと知られたら絶対五月蝿い」

 

 実は師の下から無断で去っていたクレオ。

 しかもその後勝手に就職した先がマフィアと知られたら……かぁなり怒られるだろう。

 

「強いのかな、君の師匠♠」

「強いぞ。ま、殺し合いになれば俺が勝つけどな。だから、妙な色目使うなよ………」

「君の方が強いなら、僕の興味は君に向くよ♥ ところで辞めるなら、面倒な仕事はしなければいいんじゃない?」

「仕事は最後まで責任持って、てのが日本人(おれ)の信条なんでね。それに、二つ星には優秀な弟子がいる」

 

 天空闘技場で目をつけた男はいたが、ライバルからの施しは受けない。対等な敵でありたいからね、と断れてしまったし。

 

「まあその為にはまず一つ星からか………とはいえ試験官になるわけでもねえ、目をつけるなら今だろ」

「ふふ、そうだね♦目をつけるなら、今だね♣」

 

 ネットリとした視線を周囲に向けるヒソカ。クレオは他人のふりをする事にした。

 

 地下通路を走り、先の見えない階段を登って行く。

 やがて光が見えてきた。受験者達の顔に喜色が浮かぶ。ゴールだと思ったのだろう。

 

「……………ここは」

 

 受験者達の目に飛び込んできたのは濃霧が流れる湿原。ゲェゲェと不気味な鳴き声の鳥が群れをなして飛ぶ。地下通路のシャッターが閉まっていく。階段を這いながら手を伸ばす男がいたが無慈悲にも閉まった。

 

「ヌメーレ湿原。通称“詐欺師の塒”。2次試験会場へはここを通っていかねばなりません」

 

 この湿原にしか生息しない珍奇な動植物。その多くが人間をも欺き食料とする狡猾で貪欲な生き物ばかり。

 

「十分注意してついてきてください。騙されると死にますよ」

「嘘だ! そいつは嘘をついている!」

 

 と、不意にそんな叫び声が聞こえた。振り返れば地下通路入り口の物陰からボロボロの男が現れた。

 

「そいつは偽物だ! 試験官じゃない! 俺が本当の試験管だ!」

 

 そう叫びサトツを指差す男。ザワザワと動揺が広がる。

 

「偽物!? どういうことだ!」

「じゃあ此奴は一体!?」

「これを見ろ!」

 

 と、男が引きずり出したのはサトツに似た顔をした猿。手足が細い。

 

「ヌメーレ湿原に生息する人面猿! 人面猿は新鮮な人肉を好む。しかし手足が細長く非常に力が弱い。そこで自ら人に扮し言葉巧みに湿原に誘い込み他の生物の連携して獲物を生け捕りにするんだ! そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!」

「あの猿ヤロー! 騙しやがって……」

「おかしいと思ってたんだ、明らかに人の動きじゃなかったからなあ」

 

 と、やる気になる黒髪グラサンとハゲ。

 瞬間、自称試験官の顔にトランプが突き刺さる。サトツがトランプを持っていたが、投げたのではなく受け止めた。

 

「くっくっ♣ なるほどなるほど♠」

 

 放ったのはトランプでカードスプリングしながら楽しそうに笑うヒソカである。

 

「キキィ!」

 

 ()()がやられたのを見て慌てて逃げ出す人面猿。その後頭部に突き刺さるカード。

 

「あの猿、死んだふりを!?」

「これで決定♦ そっちか本物だね♥」

 

 ハンター試験の試験官は審査委員から依頼されたハンターが無償で就く。つまり実力を認められたプロのハンター。あの程度の攻撃避けられないわけがないと説明する。

 

 褒め言葉として受け取ってくれたが次はないとも忠告。

 

 311名が引き続き1次試験を続行。ヌメーレ湿原に入る。

 

 

 

 

「僕は少し味見してくるよ♥ クレオはどうする?」

「1次試験で落ちるような奴に興味はねえよ………」

 

 そっか、とヒソカは去っていった。

 

 しかし遅いな、とクレオは前を走るサトツを見る。試験なのだからハンター未満の者達に合わせて走るのは仕方ないとはいえ速度落として長時間走るのはやはりイライラする。ゲームや小説でも持ってくればよかった。

 

「…………………時にサトツ試験官……ついてこいとのことだが、2次試験会場に行ければ先に行ってもいいのか?」

「……………ええ、構いませんよ」

 

 サトツはニコリと微笑む。

 

 ヌメーレ湿原からこの方角は………と脳内に周辺の地図を浮かべるクレオ。ハンター試験会場となるザバン市周辺の地形は頭にたたき込んでいる。

 

「後は…………」

 

 確か、豚。

 濃密な二十を超える歳月を過ごし薄れた前世の記憶から何とかヒントを絞り出す。

 

 この辺りでハンター試験にも使えそうな豚が住んでる場所は……………ビスカ森林公園。

 

「じゃ、お先」

「……………はい」

 

 ミシッとちょうど足を置いていた根が軋み、爆ぜると同時にクレオの姿は霧の奥へと消えていった。

 

「……………いやはや、期待の新人(ルーキー)ですね」

 

 

 

「ねぇ、クレオ♣ すしって知ってる? どんな料理なんだろうね♦」

「川魚なんか生で食えるか。俺は肉寿司で行く」




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