夜食に薔薇の毒はいかが?   作:キャンディマン

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料理試験と飛行船

 2次試験の試験官は美食ハンターのブハラとメンチ。

 前半はブハラの試験。メニューは豚の丸焼き。

 

 ビスカ森林公園に生息する豚はただ一匹。グレイトスタンプと呼ばれる巨大で強固な鼻で敵を潰す(スタンプする)豚。油断すれば逆に食われることになるだろう。

 

 ハンターとして必要な最低限の戦闘能力を要する試験だ。バカ正直に大人を狩っているが、クレオは子豚狙い。

 

 高い戦闘能力を必要とする森の豚だ。自分を守る大人達に囲まれブヒブヒ呑気に餌を食う子豚共。

 

「ぷぎぃ! ぴいぃ!」

「ぴぎぃぃ!!」

 

 相手は美食ハンター。ただ焼くだけの豚で満足するとは限らない。なるべく美味い方がいいし、やり直しになった時の為に腹を空けておく必要もある。

 

 グレイトスタンプの子供は主な食材は植物。大人に比べ、肉に臭みが少ない。

 

 ガンガンとバールのようなもので木を叩き威嚇。子を守る為に直ぐに突っ込んでこなかった親豚達もこちらが逃げる気がないと分かると突っ込んできた。

 

 

 

 

「うわ、すごい血だらけ! 大丈夫なの?」

「ゴン…………」

「あれ? オレのこと知ってるんだ」

「会話が聞こえた」

 

 そっか、と納得するゴン。

 

「これ全部返り血」

「なんだ、よかった………」

「俺達は合格を争うライバルだぞ?」

「うん。お互い頑張ろうね!」

 

 思わず頭を撫でてしまうクレオ。マフィアに在籍していると厳つい奴等ばかりが集まるからね。子供の笑顔は貴重だ。無垢な笑顔はサラサ思い出すし。

 

「お、おいゴン! 平気かよ、そんな危ない奴に近づいて………」

「危ない? 何処が?」

「いや、何処って………」

 

 バールのようなものを肋に引っ掛け引きずられた子豚を見るレオリオ。

 

「なんで? だって、これから食べるんでしょ?」

「厳密には食べさせるだな」

「あ、そっか」

 

 食うために殺す。そこに獲物が幼いなど関係ないのだ。因みにプロのハンターを目指す者として無益な殺生はしないので親豚達はちょっとボロボロだが他の獣の糧にならない限りは再びこの森で新たな子供でも産むだろう。

 

 クレオは血を捨て内臓を取り代わりに香草と酒で洗った石をぶち込んで焼いた。ブハラ曰く一番美味いとのことだ。71名が合格した。

 

 そして2次試験後半。

 曰くブハラよりカラ口のメンチが出したお代は寿司。聞いたこともない料理名に困惑が広がる。

 

「ねぇ、クレオ♣ すしって知ってる? どんな料理なんだろうね♦」

「川魚なんか生で食えるか。俺は肉寿司で行く」

「ふぅん♥ 魚料理だけど、肉でも代用可能なんだね♠」

 

 と、ヒソカはいいことを聞いた、と笑う。

 

「ヒントをあげるわ! 中を見てごらんなさーい! ここで料理を作るのよ!」

 

 建物の中にはキッチンが用意されていた。

 

「コンロもオーブンもねえだと………」

「焼かない料理なんだね♦」

「最低限必要な道具と材料はそろえてあるし、寿司に必要なご飯はこちらで用意してあげたわ」

「そういうことかよ……」

 

 当たり前だが味を見る試練ではない。ヒントをやるから答えを見つけてみろと言うことだろう。

 

「そして最大のヒント! 寿司は寿司でも握り寿司しか認めないわよ!」

 

 仕方なくコンロのかわりを探すクレオ。バーナーを見つけたが、これで満足いく焼き方は………。

 

「魚ァ!? お前、ここは森の中だぜ!?」

「声がデカい!」

 

 レオリオの大声に受験生達が森や池に向かい駆け出していく。ヒソカもお先に♠ と去っていった。

 

「…………よし、馬探そう」

 

 

 

 

「馬刺し寿司……なるほど、そう来たか………」

「薬味は針生姜…………お上がりよ」

 

 漸くまともな形にニヤリと笑うメンチ。既にタレがかかっていたので醤油は必要ない。

 少し甘めのタレが馬肉の味とよく馴染む。

 そしてシャキシャキと細かく切られた針生姜が口の中をすっきりとさせた。

 

「……………まだまだつたないわね」

 

 美食ハンターの舌を少し料理するだけの一般人(?)が満足させられるわけがなかったか。と肩をすくめるクレオ。

 

「でも及第点。知っている料理と驕らず海水魚と淡水魚の違いも気にして、料理場にないものを把握して知恵を絞った。合格よ」

 

 合格もらえた。いい食いっぷりを見て腹も減ってきたクレオは川で魚を釣って塩焼きにすることにした。ヒソカが体育座りで水面に石を投げていた。

 

「………………何してんの?」

「自信あったんだけどなあ♠」

 

 謎の料理が置いてあった。寿司のつもりだったのだろうか?

 

「まあ食えるかって放り捨てられなかっただけ良かったな」

「かぶってたんだよね、他の人の料理と♦」

 

 そっちは捨てられたらしい。厳密にはブハラが美味そうに食った。

 

「飯を一口サイズの長方形に握ってその上にわさびと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろうが! こんなの誰が作ってもたいさねーべ!」

 

 と、そんな叫び声が聞こえてきた。レオリオ並の馬鹿が他にもいたらしい。

 

「ふぅん、なるほどね♥ そういう料理か♠」

 

 ヒソカはゆらりと立ち上がった。

 

「作り方は知れた♦ 早いところ終わらせようか♣」

 

 

 

 

「だから、合格者は一名! 他が失格の理由? 味よ、味」

 

 2次試験後半……作り方知っても意味なかった(合格者一名)。メンチはその事を上に報告するも何やら揉めているらしい。

 

「報告していた審査規定と違うってー!? なんで! はじめからあたしが“おいしい”って言ったら合格するって話だったでしょ!」

「それは建前で審査はあくまでヒントを見逃さない注意力と………」

 

 ブハラの言うように本来この試験は数々のヒントを見逃さない集中力を試すもの。百キロ以上の持久走に加え、グレイトスタンプとの戦闘もあり集中力の落ちていた受験生達だがハンターに疲れていたから見逃したなんて通用しない。

 

 尤も、ハンゾーが大声で寿司の作り方を暴露したせいで観察力、集中力、推理力のテストは完全に意味をなくし味で審査することになったのだ。

 因みにメンチは頭に血が上ると味に対して妥協できなくなるという欠点がある。ハンゾーの舐め腐った態度にキレてしまった。まあハンゾーのせいだけではないが。

 

「……………ん?」

 

 と、轟音を立てシンクが破壊された。255番の仕業だ。

 

「納得いかねえな。とてもはいそうですかと帰る気になれねえ」

 

 どうやら失格を受け入れられないらしい。まあ寿司の作り方を見つけられなかった、なら兎も角、味が悪いからが失格理由なのはクレオもどうかと思う。

 

「俺が目指してるのはコックでもグルメでもねぇ! ハンターだ! しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ! 美食ハンター如きに合否を決められてたまっかよ! だいたい、こんななよっちい奴が俺よりハンターに相応しいってか!」

「そりゃそうでしょ。あんたより強いし」

「そりゃなあ」

 

 当たり前のことすぎて思わず肯定してしまうと255番の顔が屈辱で赤く染まる。

 

「なめんじゃねええええ!!」

「うるせえよ」

 

 文字通り蹴り飛ばす。天井を突き破り屋根に落ちた男。たぶん死んでないだろう。多分。と、少し無責任なクレオ。

 

「あら〜」

「やるじゃない。ま、ハンターたるもの武芸なんて後から付いてくるものだけどね。あんたらが狩ってきた豚だって、私の経験からすれば可愛いものよ」

 

 あれより凶悪な猛獣の巣に飛び込むこともある。そんな猛獣相手に出来るだけの自信がある密猟者と戦うこともある。美食ハンターだからといってなめられる謂れはないのだ。

 

 というかハンター試験を任せられる時点で間違いなく荒事には慣れているだろうに。去年ヒソカは試験官を半殺しにしているが、ただのアマチュアが納得いかず暴れても制圧できる程度の力がなくては話にならない。

 

「…………♦」

 

 とはいえ、メンチが結局『味』を採点基準にしたのは間違いなくヒソカは折角面白くなりそうだったハンター試験が終わるのが納得いかないのか殺気を強める。と………

 

『しかし合格者一名というのはちときびしすぎやせんか?』

 

 唐突に聞こえた機械音声。空を見上げると上空に浮かぶハンター協会のマークをつけた飛行船。審査委員会の飛行船から1人の老人が飛び降りてきた。

 

 落下死どころか骨折すらしてない老人に多くの者が驚愕する中、ヒソカの興味は老人に向きクレオは感心したように研ぎ澄まされたオーラを眺める。それも当然。なにせこの老人は。

 

「審査委員会のネテロ会長。ハンター協会の最高責任者よ」

「「「「!?」」」」

 

 ネテロはメンチに問う。元々提出していた審査内容である『未知へ挑む気概』を見た上で判断したのかと。

 

 メンチは途中までは、と応えた。ハンゾーにより未知が既知に変わりしかもその際料理を軽んじられる発言をされ頭に血が上ったと。

 

 正しい審査基準ではなかったとメンチは審査員から降りると宣言するも、ネテロは審査員であるメンチが実演してみせる試験内容を提案。一同はマフタツ山という名前そのまま真っ二つに割れた山へ向かった。

 

 

 

「…………一体、下はどうなってるんだ?」

 

 底の見えない深い谷底に息を呑む255番。あのあと意識を取り戻し参加したのだ。

 

 因みに下は深い川。流れが速くあっという間に海に着ける。

 2次試験後半やり直しはこの谷の間に糸を張りその糸から複数の卵を吊るすクモワシの卵を取ってくるというもの。半数近くが怖じ気付く中、残りの者達は飛び込む。飛び込めなかった者達の中には255番もいた。

 

 

 

 

「やっぱ美味いなこれ」

「クレオさんは食べたことあるの?」

「高級だが売ってるとこには売ってる」

 

 既に合格していたがクレオも参加し卵を取ってきた。濃厚でいて舌でとろけるような深い味わいは、なるほど天敵が多くあんな卵の産み方に進化するのも納得だ。

 

 第2次試験後半、合格者43名。

 

 

 

 

 3次試験会場に向かう為に飛行船で移動する受験者達。試験官であるサトツとメンチ、ブハラも乗っている。

 

「ねぇ、今年は何人くらい残るかな?」

「合格者ってこと?」

「そ、今年は中々粒ぞろいだと思うのよね」

 

 特にルーキーがいい。メンチの押しは334番。

 

「彼ですか。確かに、受験者の中では群を抜いていますね。私の試験でもノロノロと走るのが面倒なのか先に向かいましたし」

「ていうか彼奴使()()()()()()

「そーなの?」

「垂れ流しにして偽装してるけど、偽装しすぎなのよ。実力に見合わないオーラの少なさ。押さえてるんでしょ」

 

 本来()()()()()()()()は垂れ流しになっているオーラを纏うことで体を強化する。が、オーラとは人の内から湧くエネルギー。当然個人差がありそれが強さなどを測る指標になる。334番は強さにオーラ量が見合っていないので見る者が見ればオーラを抑えているのがわかる。ブハラは解ってなかったが。

 

「思い出しました」

「サトツさん?」

「彼、ビスケットさんの弟子ですね」

 

 まさかの名前に目を見開く二人。それは二つ星(ダブル)ハンターの名前。

 

「確か天空闘技場で出会った、当時十一歳。既に目覚めかけていたらしいですが、不自然に精孔(しょうこう)の開きが半端でそれをこじ開ける為に来たようです」

「そんなことあるの?」

「普通はないでしょう。だから邪法に目をつけたわけですが…………あの方は面倒見のよい方ですからね。十を超えたばかりの子供がそんな無茶をしようとするのを見て放っておけなかったのでしょう」

 

 そして彼自身も安全に開けるならと従った。

 

「ただ十年ほど前に一度勝手にいなくなり、戻ってきたと思ったら5年程でまた居なくなった、と」

「結構永い間一緒にいたのね」

「才能に溢れたお弟子さんらしいですよ。3千万人に1人の逸材とのことです………後料理を自慢されました」

 

 料理の腕はそこからか。メンチを満足させる料理人が世界でも数えるほどしか居ないだけで、彼の料理も十分美味かったのだ。

 

「でもなんで今さらハンターを目指したのかしら? 逃げたのにバレちゃうんじゃない?」

「実はずっと殺気を向けてくる44番を警戒している時に少し会話を聞いたのですが、どうも今の仕事を辞めるらしく、新しい就職先に選んだようです」

「新しい就職先に選ぶのが超難関(ハンター)か、ある意味有望な人だね〜」

 

 それだけ自信があるということ。実際、余程特殊なルールでもない限り難なく進むだろう。

 

 

 

 

「ん?」

「がっ!?」

 

 クレオはぶつかった奴から攻撃されたので反射的に殺しかけ止まる。

 

「なんだキルアか………骨は………折れてないな。なにより」

「っ!!」

 

 人体を容易く引き裂く手刀はあっさり止められ、掴まれた手首を軸に地面に叩きつられ頭を踏まれる。クレオが気付いて力を抜くのがあと数秒遅ければキルアの頭は赤いシミとして床を汚していただろう。

 

「気を付けろよ、お前別に最強でも何でもなく、普通にガキなんだから」

「………………ああ」

 

 じゃ、と手を離し別れるクレオ。その背を見つめ歯ぎしりするキルア。カタカタと頭を揺らすギタラクル。

 

 クレオはプルタブを空けジュースを飲んだ。

 

 

 

 

「…………? 速度が落ちたな」

 

 8時到着予定であった飛行船が3次試験会場に着いたのは、予定時刻から1時間半遅れの九時三十分だった。

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