夜食に薔薇の毒はいかが?   作:キャンディマン

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針と毒

「80…………誰だったか」

 

 ヒソカ、キルアなど自信のある者はナンバープレートを隠さず、そうでない者はクジが始まった時点で隠し始めていた。

 

 終われば残る試験は最終試験。ハンターが即席のチームを組むことがあるように、最終試験もチーム戦になる可能性もある。なら、自分のターゲットだけを狙い数を残すべきか?

 

「クソ、思い出せねえ………」

 

 クレオからすれば二十年以上も前の話。一度も読み返せない物語など記憶から薄れるものだ。

 

「ま、一日二日は捨てていいだろ」

 

 下手に自分のターゲット以外のナンバープレートを手に入れても敵が増えるだけ………というのが多くの者が考える前半を休息に当てる理由だろう。

 

 だが一部………クレオやヒソカなどは、別の理由。何時でも手に入れられるという、強者故の絶対の自信。

 

 意図せず2人の強者は狩りに参加することなく、2日が経過した。

 

「………………」

 

 ムクリと立ち上がるクレオ。茂みの奥から一人の男が赤い蝶の群と共に現れた。

 

「手合わせ願おう」

「…………断る」

 

 現れた男は371番ゴズ、そこそこ強いから覚えていた。ターゲットでもない男に興味もない。

 

「………」

 

 が、ゴズは構えを取る。

 

「じゃ!!」

 

 力強い踏み込みで距離を殺し、大木をも穿つ突きが放たれる。クレオの背後の木の幹が爆ぜ轟音を立て倒れた。

 

 当てる気はなかった。示威行為。

 これだけ強いから本気で来いと言っているのだ。故に、次は本気。

 

 本気の突きを、素手で受け止められた。

 

「ば、馬鹿な………!」

「凝が堅で受け止められたのがそんなに不思議か? 簡単だ、お前の必死に集めた凝より、俺の堅の方が強い」

「ぎょ、ぎょう………?」

 

 圧倒的なオーラの差。反応からして四大行や応用技について、名を知らないようだ。どこぞの戦闘部族が『念』の概念を知らぬまま受け継いでいたと言うところか。

 

「闘気の事を、言っているのだろう。確かに私とお前の闘気は、比べるのもおこがましい差がある。だが……! 私は戦士として、お前に挑む!!」

「黙れよ死にぞこない」

 

 叫ぶゴズに対してクレオはやはり冷めた目を向けるだけ。

 

「戦士として生まれ、鍛え、生きてきたからには最期まで? 知るか馬鹿、面倒臭え」

 

 ゴズの周りに飛ぶ蝶の名は好血蝶。名の通り血の匂いを好む蝶。夥しい蝶の数はそのままゴズが負っている傷の深さを示す。

 

「そこまで分かって居ながら尚、私と戦ってくれぬのか!」

「戦う気もねえのにほざいてんじゃねぇ」

 

 ゴズの怒号をクレオは吐き捨てる。

 

「勝つ気もねえくせに槍を握んな。慈善の殺しなんざ真っ平だ。殺されてえなら殺す気で来い。死ぬ気しかねえなら戦士名乗んな」

「……………すまない」

 

 乱れていたゴズのオーラがピィンと静まり返る。

 

「改めて、手合わせ願おう」

「ああ」

 

 今度はクレオも構え、膨大なオーラを放つ。

 

 ゴズも改めて覚悟を決め、意思を固め、先程とは比べ物にならないオーラを纏うがそれでもクレオが上。

 

(ならば………!)

 

 漲るオーラを全て槍の穂先………そのさらに先端にのみ収束。そのまま前進……全身全霊の突きにて穿つ。

 

(捨て身)だなあ……………来な」

 

 それはゴズの生涯最後にして最高の一撃。正面から受けるクレオの拳が槍を砕き、ゴズの頭部を破壊した。

 

「──────」

「はい、お終い」

 

 その背中に突き刺さる針。茂みから一人の男が出てくる。受験生の中には明らかにいなかった黒髪の男だ。

 

「ナンバープレートはいらないし、取り敢えずそのまま自殺して──」

 

 風切り音。

 男が反射的に首と頭を庇う。右腕………顔を庇う腕がミシミシと悲鳴を上げる。

 

「!?」

「いきなりだな。いい気分が台無しだ」

「………人殺して気分上げるのどうかと思うよ、人として」

 

 確かに刺さっていた。だが、操れない。

 

「う〜ん………」

 

 考えられる可能性は幾つかある。操作系の念に対して迎撃(カウンター)能力を持つ護符(アミュレット)を具現化していたか、そういう特質系能力を作っていたか…………既に操作されているか。

 

「……………よし、逃げよう」

 

 将来家を継ぐ弟に勝手に助言なんてした事へのほんの意趣返しに()()()()()()()()

 まあ助言自体は家族以外がしたことが気になるだけで至極真っ当だったし………。

 

 あれと戦うなら金を貰わなきゃ割に合わないね。

 

 

 

 

 クレオの母は薔薇の毒の被毒者。個を殺すより国を殺すことを目的とし散布性能に優れた遅効性の猛毒に、クレオも母の肚の中で晒された。人の形で生まれられたのは母の想『念』故か………。

 

 だが無事に生まれたわけではない。クレオは生まれながらの()()()()。故に首から下は全てマニュアル操作。指一本に至るまで念にて操作する。

 

 操作系能力『健全なI()』(ヒソカ無断命名)。

 

 早い者勝ち。それだけの事。

 

 そして、これは操作系の基礎を突き詰めた結果でありメモリーの圧迫はない。故にクレオの本来の系統に何の支障もない。

 

 クレオは取り出した注射器を己の胸に押し当てる。針が服を突き破り皮膚へ突き刺さり体内に猛毒が流れる。

 

「が、っあ………はっ。はは………朝食にホスゲンオキシムは如何?」

 

 ブァっと大量の蛾が羽を広げ鱗粉のようにガスを振りまく。

 

 

 

 

「っ!」

 

 前方を遮る煙の壁。無数の蛾が飛んでいるのが見える。

 

 煙を浴びた動物が地面にて倒れている。死んでいるな、あれは。まあ毒なら効かないけど。

 

 男はイルミ=ゾルディック。

 ゾルディック家は暗殺者の家系で生まれた時から毒に対して抵抗力を上げられる。簡単に言えば免疫を上げるのだ。

 

(念で作られた毒って免疫意味あるのかな? 毒の念使う奴会ったことないからなあ)

 

 日常が猛毒だったはず。あ、うちがそうだ。幼少期から毒を入れて耐性つけるわけだし。まあ、そういった家庭の事情がない限りオーラを毒に変化するなんて出来ない。同業者だったのだろうか?

 

(まあ狙いは俺だよね。かなり広範囲に散布してる……円を描かせているのは………)

 

①好戦的な性格。こちらを逃さず直接叩くため

②毒の量に限りがあり面で広げるより線で円を描いたほうが範囲を広められるから

③通常の虫同様群で動く習性のある念獣。広範囲に拡散させるのに向かない

 

(あ、でも考える意味ないか。①②③のどれにしろ、この能力を発動した時点で彼は俺をぶっ殺したいわけだし)

 

 ブブブと羽音。飛んでくるのはハネカクシの群。針を投げて数匹潰すと飛び散った体液が木を溶かす。酸性の毒。これは当たりたくないなあ。

 

「仕方ない。本体を殺そう…」

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