夜食に薔薇の毒はいかが? 作:キャンディマン
ばら撒かれたガスにはクレオの念が宿っている。無理に通れば感知できる。現在決死で霧の壁を越えて外に出てはいない。と
「!!」
虚ろな目で駆けてくる男。振るった拳が木の幹を砕く。拳も砕けて皮膚と肉を木の残骸と骨が貫いた。
「普通はああなるのか」
動き気持ち悪い。人間の限界を超えて動くのか。
ハンター試験に来るだけあり多少は動けるか。
ナンバープレートは390……。
ターゲットじゃなかった。
「!!」
殺到する蛾の放つ毒ガスで皮膚が爛れながらも怯むことなく迫る。
近くに落ちていた蜂を噛み潰すクレオ。
無数の蜂が現れ、飛び付き毒針を突き刺す。
「………ん?」
倒れる男を見てクレオが訝しんだ瞬間背後から迫るイルミ。手刀を躱し、腕を絡め投げる。上下逆さにイルミの背中に添えるように手を当てた瞬間、車でも激突したかのような衝撃がイルミを内部から破壊する。
「2度目」
「ありゃ」
クレオは
ゴキビキと異音を立て血反吐を吐いたイルミの死体の顔が変わる。筋肉を操作して顔の形を変えていたのだろう。器用なことをする。
「そっちは念じゃねえのか」
「まあ、念で顔を変えるとバレるからね。ちょっとした肉体操作の一環だよ」
ビギッとイルミの爪が鋭く伸びる。並の人間相手なら肉も骨も貫き内臓を奪えるだろう。
その爪を直ぐに振るわずクレオの周りを歩く。緩急を付けた歩法は残像を生み、無数のイルミがクレオを囲む。
(新しく毒虫の念獣を生んだけど、外周の蛾の群を呼び戻す気配なし)
一度与えた命令は覆せない? 或いはもう既に蛾は消滅し毒だけ残っているのか。
あくまで毒を散布するのが目的の念獣の場合、変化系寄りの具現化系。オーラを毒に変えて、毒のオーラを蓄積させた毒虫を放つ。
(ミルキが何かのゲームかアニメの話でしてたな。虫って結構凄いんだっけ)
飛べるし跳ねるし走れるし潜れる。硬くて小さくて多い。複数の形を取れることから具現化系としてもかなり高度。
なら強化系は適性が低いはずだが、それは操作系の自分にも言えること。となれば素の肉体の性能が物を言う…………んだけど、さっき強化を使っていなかったのに普通に強かったな此奴。
「!!」
と、クレオへ襲いかかる
「っ!」
ジュウと焼け爛れる皮膚。ホスゲンオキシムの薬効。
「らぁ!」
「ぐぅ!」
ゴッとバールで頭部を叩かれる。反射的に振るった爪がクレオの頬を削る。
額が切れドロリと血が流れる。
裂けた頬から流れた血が顔を汚す。
「痛み分け……じゃないか」
傷が塞がる。治癒力の強化だろう。或いは傷周辺の細胞の操作?
強化、変化、具現化を高純度で使いこなしている。範囲を考えれば放出もか。
(……………!)
先ほどの意趣返しのようにクレオがイルミの周りを回る。残像を残す独特の歩法。肢曲。
「あー、なるほどね……」
先程針が効かなかった理由は、自分で自分を操作していたのだろう。肉体を完全に制御可能なら初めて見た技だろうと他人の動きだろうと
(……………来る)
それでも熟練度はイルミが上。攻撃の際の僅かな体重移動を見抜き、カウンター。完璧なタイミング。
銃弾よりも高速なイルミの針が迫り、髪に触れる。それ以外には触れられなかった。
「あー、そりゃそうか…………」
念で自らを操作しているなら、考えた瞬間に動ける。思考に身体が完全に追いつく………初速の圧倒的差。おまけに高度な身体強化。
単純に強く、能力も凶悪。
やっぱり報酬もなしに相手していい強さじゃないなぁ。面倒を避ける手段に殺しがまず来るのは俺の悪い癖だと反省。
(ま、家を継ぐのはキルアだから、ここで俺が死ぬのはいいけどさ)
今もキルアの心を縛る棘のような針。自分の弟を想う兄としての愛があれば、死後の念となりキルアをゾルディック家に相応しい次期当主に変えるだろう。
自分を殺すのはヒソカか………自分が死ぬのはヒソカを殺した後かと思っていたが、人生は分からないものだ。
「……………ま、もう少し抗ってみるか」
「…………………」
先程まで悪意も敵意もなく無機質な、虫のような殺意だったイルミに少しだけだが闘気が宿る。何か来るな、と警戒する中イルミは手品のように無数の針を何時の間にか握っていた。
散弾のようにばら撒かれる無数の針。動物の死体と先程クレオが殺したばかりのイルミに顔を変え操られていた男に刺さり、動き出す。人間以外の死体も操れるらしい。
操作系は道具を使う場合、媒介に思い入れのある愛用品を使う。結果道具を使う操作系は道具を失った時が脆い。ただこの針の多さ………愛着がさしてあるとも思えない。身体に刺さった無数の針からして、一度己の身体を経由することでその辺りをスキップしてるのか。
(似たような発想は誰でもするな)
「………ガム?」
懐から取り出した包みを空け球体を口に含むクレオ。一瞬見えたのはガムのような柔らかそうな質感。喉を鳴らし飲み込むと片足を地面に突き刺す。
「!!」
地面から現れた大量のムカデが死体群に絡みつく。小さいのでオオムカデサイズ。巨大な奴で人の腕程。
ほとんど無臭に近いそれらから、常人を超えるイルミが嗅ぎ分けた匂いは………
「C‐4!」
轟音と共に炎が咲いた。
「やるな……」
「まあね…………」
イルミもクレオも、本来希少な念能力者を凡百扱いする程度に、人並み外れた遥か化物。
(いくらなんでも変化の種類が多すぎる。あの時飲み込んだガムのようなものがC‐4だとして…………体内にある物を再現するように変化………それ自体を制約とすることで………不可能ではないだろうけど何か………)
恐らくそれが攻略の鍵になる。好戦的に笑うクレオを眺め………流れる脂汗に気付く。
(そもそもゾルディック家ですら細胞や神経伝達物質を直接攻撃する化学兵器への耐性は付けれていない………此奴もしかして、
「君、放出系か………」
「正っ解。気付いたのはお前が初めてだ……その前に殺してたから」
理屈は不明だが体内で毒を増幅………薬効を『強化』して薄まっても効果が高くなるようにして血や汗に混ぜた? いや、多分違うな。だけど薬効強化自体はされている。
体内に入った毒を改めて操作しているのだろう。自分の針の発想に似ている。虫の形はただ散布するより効率がいいのと、系統を誤魔化すためか。或いは制約と誓約。
「でも、毒自体は君を蝕んでいる。限界が近いんじゃない?」
「限界は超えるためにある」
新しく毒の入った注射器を取り出す。
(蜂は直接注射してくるタイプの毒………蛾は散布、百足は爆薬……その全てがブラフの可能性がある。素早い蜂に囲まれた瞬間爆ぜて毒ガス、なんて展開もあり得るわけで…………)
新しく毒を出される前に攻撃するべきなのだろうが、自らを操作、強化した毒に侵されてもパフォーマンスの落ちぬ戦士。あからさまな隙に乗ったらこっちがやられる。毒に耐える強化もこちらより余程上手だろうし。
「…………取引をしよう」
「あ?」
「さっき君が殺した男、俺のターゲットでね。俺はもう時間まで隠れるだけなんだ」
そう言って取り出すのは391番と80番のプレート。
「これあげるから、手打ちにしよう」
「そっちから喧嘩売っといて?」
「それがそうでもないよ。君が飛行船で虐めた子、俺の弟」
「先にこっち殺そうとしてきたのその弟だろ」
「…………………………………」
言い返せないらしい。
「一度こっち殺しに来たてめぇ逃がすより、てめぇを殺して奪った方が確実だ」
「君は金貰わない限り相手しないよ。強いしね」
「メリットはあるが、受けなくてもデメリットが強いとも言えねえ」
だよね、と肩を竦めるイルミ。と………
「なら、僕も混ざろうかな♠」
「「ヒソカ……」」
新たに現れる影。毒ガス対策にゴムスーツならぬ
「これ以上戦うなら、勝った方を頂くよ♣ このまま見続けたら昂ぶってしまうからね♥」
「だってさ………」
「…………………」
流石に今の状態でイルミと戦った後ヒソカと戦うのはキツイか。勝てる前提で考える程度には余裕があるが、その後にヒソカの相手となると。
「詫びが足りないって言うなら今度格安で依頼を受けるよ」
「…………………ナンバープレート、寄こせ。80だけでいい」
「ん」
と、イルミがナンバープレートを投げ渡す。その瞬間背後から現れた百足が首に巻き付く。
「……………ねえ、これ」
「期間中に俺を殺しに来たら爆発する。終了日に取れる」
「それ本当?」
「お察しの通り俺は放出系。維持よりも距離の方が得意でな、1週間はギリ持たねえよ」
「6日ぐらいは持つんだね」
十分凄いが。
「一方的すぎない?」
「最初一方的に攻撃してきたのは何処のどいつだ」
「ハーイ、ボクでーす」
強そうな相手には喧嘩を売らない、という弟に自分が教えたことを守れなかった罰として甘んじて受け入れよう。
「それから、ほら」
伸ばしていた
「イルミも見ていきなよ♦」
「え〜? よくわからないけど、いいの?」
「…………まあ別にこれは対策されるようなことでもない」
そう言うとゴズの死体を受け取る。
「何が起こるの?」
「彼、複数の念を持つんだよね♠ イルミに使ってたのは
放出系の強み?
体からオーラを切り離して維持出来る攻撃範囲の広さも一つ。父と祖父がまさにそれ。後は瞬間移動とか念空間とか、オーラの徴収……………と、クレオがゴズの心臓を抉りだし食べた。
「消費したオーラが回復…………いや」
「そ♥ 殺した相手の心臓を食らうことで、そのオーラを取り込む♥ 放出系徴収型………無限に進化出来る最高の発さ♥」
より高次に行くための儀式として贄の内臓を神に捧げる………その神を宿した者が神の代わりに喰らい力を授かる。超常の力を得るものとして古典的な制約と誓約。
(恐らく制約は
①念能力を習得していること
②相手が自分へ殺意を向けた場合のみ
③相手を殺すのは自分
ってとこかな………俺を見逃すのも俺が殺意をなくしたから? いや、一度殺意を持てば一定時間は有効とみていいだろうな)
そうじゃなければ折角殺しに来た獲物が実力差に怯えてしまえばその瞬間に意味がなくなる。
「因みに彼、僕の殺し損ねた今の職場の、僕の前任殺してる♣」
「あー、君が興味ないから逃がした、オーラ量だけならやたら多いっていう…………でも」
確かにオーラ量は人並み外れているが、それほどだろうか?
「制約かな♠ 今は自前のオーラのみしか使えないみたい♦」
微々たる変化ではあったが確かに増幅していたゴズ分のオーラが消える。いや、抑えられたのだろう。
一見並外れた念能力程度のオーラ量。その内側にどれだけのオーラが詰まり、解放された時は何れ程か。
(想像するだけで…………昂奮しちゃうじゃないか♥)
ヒソカ×ノ×アソコが再びモッコリ。
「まあ取り敢えず助かったよヒソカ」
「ふふ♣ 僕はただ友達が殺し合うのをみたくなかっただけさ♠」
何時かは両方美味しくいただきたいからね♥ と内心で付け足すヒソカを横にイルミとクレオはヒソカを指差しながら僅かばかりの親切心で告げた。
「「お前/君此奴と友達なの? 友達は選んだほうがいい」」
「……………………♦」