DOGDAYS 勇者の参謀しています   作:ラバーワンダ

1 / 2
初めまして、ラバーワンダです。
「あれ? 見た事あるな」というお方はお久しぶりです。
DOG DAYS三期放送記念に投稿して行きます。
更新はまちまちになりますが、これからよろしくお願いします。


春休みの出来事
日常なんて、あっさり変わるものです


「……イ、ユイ。早く起きなさい、学校に遅刻しちゃうわよ」

 

「……ん〜」

 

 朝。

 私の部屋にお母さんの声が響く。

 時間にしては午前七時。

 前日にお母さんには起きる時間を伝えていたので、その時間に合わせて起こしに来てくれたのだろう。

 それでも……眠い。

 もう、少しだけ……。

 

「いつまで寝てるの? ほら、起きなさい」

 

「うぅ〜、眩しい……」

 

 お母さんが私の部屋についている窓のカーテンを開ける音が聞こえた。

 その途端、再び夢の世界へとはいろうとする私に太陽の光が襲いかかる。

 

「布団から出て。……よしっ、朝ご飯の準備しなくちゃいけないからお母さん行くからね? 二度寝しちゃダメよ」

 

「は〜い」

 

 もそもそと布団から出てきた私の様子を見て安心したのか、お母さんは何処かへ行ってしまう。

 朝ご飯の準備、ということはおそらく行き先は台所だろう。

 ……さて、それじゃあ私も行きますか。

 先程まで自分が潜っていた布団を畳んで、自分の部屋から洗面所へと向かう。

 歯磨き粉から湧き出る口内の爽快感と、顔にかかる冷たい水が私のボーッとした意識を吹き飛ばしてくれる。

 

「よしっ!」

 

 髪も整え、スッキリしたところで洗面所を出る。

 私の家は昔の屋敷みたいなもので、渡り廊下などがあったりする。

 そこから感じれる、春の陽気な香り。

 渡り廊下に面して作られた庭に植えられた梅の花が、まだ早い春の訪れを祝福するかのように花を開かせる。

 そう、これが私の日常。

 誰もが当たり前だと思える、最高の一日が……。

 

「ーーあ、おはようございますお嬢! おら、てめぇら! お嬢が来られたぞ!」

 

『ちーっす、お嬢!!』

 

「馬鹿野郎、そんななめた挨拶があるか! もっと誠意を見せやがれ!」

 

『おはようございます、お嬢!!』

 

「……あっ、はい。みなさん、おはようございます……」

 

 一瞬で崩れ去った。

 せっかく洗面所で気持ちを切り替え、気持ちよく廊下を歩いていた私のテンションを下げていったのは、誰が見ても『ヤクザ』としか言いようがない人相の方々たち。

 彼らは私のお父さんである高島(たかしま)総一郎(そういちろう) が結成した『高島組』と呼ばれる人たちである。

 で、私に真っ先に挨拶をしてきたお方は、高島組の幹部のお方である片桐(かたぎり)さん。

 パンチパーマに肩から腕にかけてのタトゥーなどでいかにも怖そうな人。

 そんな人が笑顔で挨拶をしてくるのには、私の精神的に未だになれないものがある。

 十四年も生きてきて、と言われるかもしれないが、怖いものは怖い。

 

「お嬢……いつも申しておりますが、俺たちに対してそんな他人行儀にならないでくだせぇ。お嬢は俺たち『高島組』の次期女頭領なんですから」

 

「いえ、私はそもそも裏の仕事に関わるつもりは……」

 

「何言ってんすか。お嬢ほど『高島組』に相応しいお方が何処におられますか。間違っても『シェパード』には継がないでくださいね」

 

「いえ、だから私としてはどちらも……」

 

 私としてはこんなところよりかは、平和に一般企業に勤めたいのです。

 毎日誘うのは結構なのですが、勘弁してください。

 

「おやおや、また野蛮な猿がキーキー吠えていますねぇ」

 

「あぁん?」

 

 私が対応に困っているところに、もう一つの騒動の原因がぞろぞろとやってくる。

 片桐さんが鬱陶しそうに振り返ったその先には、白いスーツに金髪をオールバックの男の人。

 片桐さんとまた違った、危ない雰囲気を醸し出しているこのお方はチェルシーさん。

 お母さんであるカーリー・エルレインが率いているイタリアのマフィア、『シェパード』の幹部である。

 彼もまた幹部のようなお方で、現に今も似たようなスーツを着た数人の部下を引き連れて私たちの方へと近づいてくる。

 

「お、おはようございます。チェルシーさん」

 

「おはようございます、お嬢様。そろそろボスのお食事が出来るとのことでお呼びに参りました」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「おいてめぇ、今俺らのこと猿だって言ったよなぁ、あぁ?」

 

「ささっ、共に広間へと向かいましょう。部下もお待ちです」

 

「あ、はい……」

 

「無視とはいい度胸じゃねぇか、えぇ!?」

 

 ちょっ!

 ここで喧嘩は勘弁して!

 

「か、片桐さん! 今はその、朝ごはんを食べに行きませんか……?」

 

「……お嬢がそうおっしゃるなら仕方ねぇ。後で覚えておけよ?」

 

「はて、私が何を申したと言うのかな?」

 

「てめぇ……!」

 

 ……ふぅ。

 とりあえずは一時休戦出来たかな?

 こうして私は一触即発の空気に挟まれながら、大広間へと向かうのだった。

 あぁ、朝から大変だよ。

 ……でも正直なところ、これだけで終わるわけがない。

 むしろ、これからが始まりだったり……。

 

『お嬢(様)、おはようございます!!』

 

「…………あ、あはは……」

 

 大広間にたどり着いた途端に聞こえる、野太い声達。

 それと共に、先に座って待っていた『高島組』の皆さんと『シェパード』の皆さんの視線が一斉にこちらに向けられる。

 その数、およそ百人。

 その尊敬のまなざしに思わず苦笑い。

 心臓はとっくにリズムビートどころか、ヘッドバウンドしてますよ。

 こんな状況に慣れたくはないです、えぇ。

 

「さ、お嬢様。こちらへ」

 

 そう言ってチェルシーさんに案内させられたのは、前のほうのみんなより一段上がったところ。

 上座とも言われるここで、私とお父さんとお母さんはみんなに見つめられながら食事をする。

 ……正直、気が進まないところもあるけど。

 相変わらず百人の皆様に見つめられながら、わたしも自分の席につく。

 お父さんはまだ睡眠中。

 お母さんも家事の途中なので、今のところは私一人がポツンと座っている状況である。

 ……寂しい。

 ちなみに今日はご飯、味噌汁、卵焼き、アジの塩焼きといったシンプルは和食だ。

 

「ささっ、お嬢。よろしくお願いしますよ」

 

 片桐さんに催促されるのは、小学校などでよく見られるもの。

 この家での決まりで、当主格の人が食べ始めるまで食べてはいけない、ということになっている。

 破った人がどうなったかは私は知らない。

 昔はお父さんかお母さんの役目なのだったけど、私が学校に行くようになってからは私の仕事となってしまいました。

 

「そ、それでは……いただきます」

 

『いただきます!』

 

 本日二回目となる野太い声が響き、そしてすぐに喧騒に包まれる。

 ……小学校か、ここは。

 まぁ、いいや。

 私も手に持ったお箸で卵焼きを掴み口の中に入れる。

 ほのかに甘い卵焼きは私好みの絶妙な味付けで、思わず顔が綻ぶ。

 あぁ……幸せ……。

 あまりの美味しさに私が別世界に旅立とうとしたその時、何かが割れる音がした。

 慌てて現実に戻ってみると、席の一角で何人かが揉めている様子が見られた。

 

「……何かありました?」

 

 とりあえず前にいる人に事情を聞いてみましょうかね。

 

「それが……『高島組』の奴らが『シェパード』の奴らが醤油とソースをわざと間違えて渡した、とか言いだしまして……仲裁に入った片桐さんとチェルシーさんもヒートアップしてしまって、こんなことに……」

 

「はぁ……」

 

 しょうもない。

 まぁ、『高島組』の皆さんはちょっと血気盛んというか、頭に血が上りやすいというか、そんな人達が多いからなぁ……。

 それにしても、私の幸せを邪魔した罪は高くつくね。

 お父さんもお母さんもいないし……私が止めるしかないのかなぁ?

 

「お嬢、お願いします」

 

 あ、やっぱり。

 まぁ私自身そろそろ我慢の限界だし、止めに行きますか。

 私がため息を吐きながら立ち上がった時、私の頬を何かが掠めた。

 

「……えっ?」

 

 恐る恐る振り向いたときにあったのは、一点だけ穴の空いた壁。

 いや、穴というよりは……銃痕。

 おそらくカッとなった誰かが威嚇のつもりで撃ったのだろう。

 下手したら、誰か死んでかかもしれないのに。

 

「お、お嬢! お怪我は……お嬢?」

 

「……おい」

 

「へっ?」

 

 

 

「……何してんだクソ共」

 

 

 

 

「ーーおおっ、ユイ。朝からあいつらしめてんのか? やるなぁ〜」

 

「ーーふえっ?」

 

 いつの間にか起きてきたお父さんが、私の隣に立って笑顔で話しかけてくる。

 ……あれ、何してたの私?

 辺りを見渡すと、いつの間にか周りの景色も一変していた。

 先ほどまでギャーギャーと騒いでいた部下の人たちは、みんな揃って私に土下座。

 目の前には、どこにあったのかわからない大量のナイフで、壁に張り付けられている片桐さんとチェルシーさん。

 当の私に至っては、これまたどこから取り出したのかわからない大量のナイフを両手合わせて八本構え、今まさに投げつけようとしているところでフリーズ。

 ええっと……何これ?

 確か揉め事を仲裁しようとして……そしたら弾丸が私の方に飛んできて……それから……。

 

「お父さん、私……何してた?」

 

「俺が起きてきた時にはこんな状況だったしなぁ……カーリー、どうなったか知ってる?」

 

 えっ、お母さんもいたの?

 

「さぁ……急に物音が消えたなと思って様子を見に行ったら、ユイが私のナイフを使ってこの状況作って二人を脅していたから……原因まではわからないわねぇ」

 

「そっかぁ……それにしても、練習させてない割には相変わらずナイフの扱いうまいなぁ。カーリーに似たんじゃないかな?」

 

「やだぁ、それを言うならチェルシー達の脅し方なんて、あの時の総一郎さんじゃない〜。懐かしくて、ほれぼれしちゃったわぁ」

 

 お父さん、それあんまり嬉しくない。

 そしてお母さん、そんな結構最初あたりの方から見てたのなら止めてよ!

 

「カーリーにそう言ってもらえるなんて嬉しいなぁ。ユイも嬉しいだろ、こんな素敵な人に褒められるのは」

 

「いやだぁ、総一郎さんもカッコいいわよ〜」

 

「カーリー……」

 

「総一郎さん……」

 

 あぁ、ダメだ。

 自分達の世界に行ってしまった。

 この空間がとてつもなく甘く感じるのは、そのせいかな。

 原因を聞いただけなのに、なんでこんなことになったんだろう?

 こうまでして釣り合わないヤクザとマフィアが同じかまどのご飯を食べているのには、実は理由がある。

 ヤクザの頭領である、お父さん。

 マフィアのボスである、お母さん。

 二人が出会ったのは互いと抗争中の時で、まさしく一目惚れだったらしい。

 抗争の真っ只中にも関わらず互いに愛の告白を行い、そのまま電撃結婚したというぐらいだから驚く。

 そして、そんな二人から生まれた私。

 当初はどちらの跡取りにするかで問題になったらしいけど、両親としては私に両方の長になってほしいらしい。

 それ故に名前の方もユイ・T・エルレインという名前になってたりする。

 そんな二人の血が流れているからか、怒ると時々記憶が飛んでたりする。

 そして我に返ると、いつも相手の方が土下座してたり泣き喚いていたりする。

 ……その度に、私としては疑問と後悔の念に押されるわけなのですが。

 頭痛に苛まれながら、私は張り付けにされた二人のところに近づき、そっとナイフを抜いていく。

 

「……あの、ごめんなさい。ここまでするつもりは、なかったのですが」

 

「いえ、我々の方こそ申し訳ありませんでした」

 

「いやぁ、やっぱお嬢は恐ろしいっすわ! 次期頭領に相応しいお方だと、改めて思いました!」

 

「この猿は急に何を言い出すのやら。お嬢様には、我々『シェパード』のボスになっていただくのですから」

 

「あぁ? 何腑抜けたこと言っていんだ、カマキリ野郎が」

 

「野蛮な猿が、またキーキーと喚くか」

 

「上等だ。廊下の続きでもするか?」

 

「やれやれ……ここまで血気盛んな馬鹿だと、哀れすぎて涙が出てきそうだ」

 

「んだとゴラァ!」

 

「……まだやる?」

 

「「申し訳ありませんでした、お嬢(様)」」

 

 ……あの、ちょっと言っただけで土下座されられると、私としては精神的にくるものがあります。

 

「ーーあらっ、ユイ? あなたそろそろ行かないと、シンク君起こしに行けないんじゃないの?」

 

「んっ?」

 

 自分達の世界から帰ってきたお母さんの指摘で私は壁にかかった時計を見る。

 時間は……えぇっ、八時!?

 いや、学校自体は間に合うけど、その前にシンク起こしに行かないと!

 ちなみにシンクというのは私の幼なじみの名前。

 小さいことに知り合ってから、親同士でも仲良くしている、唯一の男友達だ。

 いい奴っちゃあいい奴なんだけど……運動バカ?

 口を開けばアスレチックの話ばかりするぐらいの大の運動好き。

 ちなみに過去にアスレチックの大会で準優勝取ってたって言ってたから、その実力は十分あるよ。

 で、そいつの両親、いまはどこか行ってていないって言ってたから、きっとまだ寝てそうだろうなぁ……。

 って、今はそれどころじゃない!

 

「い、急いで用意しなくちゃ!」

 

 自分の部屋に戻り、10分で制服に着替えた私は鞄を持って玄関へと向かい、扉を開ける。

 

「それじゃあお母さん、行ってきます!」

 

「はぁい、いってらっしゃい」

 

 今からだと……よし、まだ間に合う!

 始まりからフルスロットル!

 私は全速力で通学路を駆け抜けた。

 

 ◇

 

「はぁ、はぁ……つ、疲れ、た、ぜぇ、はぁ」

 

「だ、大丈夫?ユイ……」

 

「だ、大丈夫だよ、ベッキー! 大丈夫、だから……ひぃ、ふぅ」

 

 家から全速ダッシュ開始から約七分。

 シンクの家に着くと、もう一人の幼なじみがすでに家の前でスタンバイしていた。

 明るい栗色のツインテールを揺らし、礼儀正しくシンクが出てくるのを待っている女の子。

 ベッキーことレベッカだ。

 献身的な性格で今も全力ダッシュで温まった私の身体を、持っていたタオルを濡らして冷やしてくれる。

 あぁ、こんな娘がいてくれたら私はどれだけ幸せか。

 

「ベッキー……うちにお嫁に来ない?」

 

「そ、それはご遠慮かなぁ……」

 

 あぅ、私の一世一代の告白が儚く散ってしまった。

 ……もちろん、レズの毛なんてこれっぽっちも生えてないので冗談に決まってるけど。

 

「ところでシンクは? あの子起きてるの?」

 

「うん、さっき私が起こして「おーいっ!」ほら、あんな感じ」

 

 あぁ、すっかり覚醒していますね。

 ……これ、私全力で走る意味あったのかな?

 私が悶々と考えていると、シンクの家の二階につけられたベランダから、シンクが出てきた。

 ちゃんと制服を着て鞄を持ってるということは……ちゃんと用意できたんだね。

 ……何ですでに靴まで履いてるんだろ?

 

「あっ、ユイも来てたんだ。おはよう、ユイ、ベッキー」

 

「おはようシンク」

 

「おっはー。早く降りてこないと遅刻するよ」

 

「わかってるって、さっきベッキーにも言われたんだから……ちょっとこれ持ってもらっていい?」

 

「はいっ? ……って、おわっ!」

 

 なんのことか分からず頭に疑問符を浮かべていると、突然私のところにおそらくシンクのであろう鞄が落ちてきたので、何とかキャッチ。

 ……あんにゃろう、無駄に重い荷物を私に持たせやがって。

 次にシンクがベランダの柵を乗り上げ、そのまま柵の外へと飛び出す。

 ちなみにシンクがいた場所は二階のベランダ。

 普通の人ならそこで驚くのだろうが、私達にとってはもはや日常茶飯事と化している。

 別に二階から飛び降りたとしても、着地さえ綺麗に出来れば怪我することなんてないし。

 案の定、私達の前にストンと着地するシンク。

 ご丁寧に決めポーズまでつけやがるから、何がイラっとくる。

 

「はい、お見事。相変わらずの運動神経ね」

 

「あはは、ありがとうベッキー! さ、行こうかもぶっ!」

 

「こんな重たい荷物を女の子に持たせるな!」

 

 とりあえずこのクソ重たい荷物を持ち主に投げつけることでスッキリしておこう。

 シンクもちゃんと顔面キャッチしてくれたから問題なし!

 

「う、うん、ごめん。ユイもありがとう」

 

「全くもう……」

 

 シンクを迎えてから数分後。

 私達はなだらかな道なりを歩いていた。

 ……いや、正確には私とベッキーが。

 シンクはというと道路に備えられたガードレールの上を平均台のように歩いている。

 やってる本人は楽しいのだろうけど、見てるこっちはヒヤヒヤするんだよね……。

 

「そうだベッキー、ユイ」

 

 心配そうに見つめているとシンクがこちらの方に向く。

 ……てかあんた、そんなところで方向転換とかマジでやめてくれないかな?

 

 

「春休みの最後の二日間、空いてる?」

 

「え、うん。私は空いてるけど」

 

「そっか〜ユイは?」

 

「私も空いてるよ。今のところは」

 

 確かその日は特に予定は入ってなかったはず。

 

「その日にお母さん達が帰ってくるからさ。みんなで和歌山の別荘に行こうって。もちろんそっちの両親も一緒で……それからナナミも来るってさ」

 

 あ、ナナミも来るんだ。

 ナナミもシンク達と同じく、幼なじみの女の子。

 シンクと同じぐらい運動好きで、その実力はシンク以上。

 過去にシンクとナナミ、二人でアスレチックの大会に出たらしいけど、その結果はナナミが1位、シンクが2位だったらしい。

 僅かな差だったから、そんなに違いはないと思うけどなぁ……。

 ちなみにナナミは私たちとは違う場所に暮らしている。

 なので、実際会えるのはとても楽しみなのだけど……親もねぇ……。

 

「そうなんだ……うん、多分いけると思うよ」

 

「いける……かな……? ……うん、抗争とかなければ」

 

「……あ〜」

 

「ユイのところも、色々大変だね……」

 

「……うん」

 

 うちの場合は、裏の世界では名のあるヤクザとギャングが合併しているようなものだから、色々と恨みや因縁をつけられることが多い。

 そのため、よく各国に飛んではドンパチしているのだ。

 まぁ、お父さんもお母さんも強いから負けることはないけどね。

 ちなみに私の家庭事情は二人と先程話に出たナナミはすでに知っている。

 知っててなお、変わらず接してくれるから嬉しかったりもする。

 ほら、他の人は私の家庭を知るだけで逃げ出してしまうから……。

 

「で、でも、何とかなるよ! 言ってくれれば空けてくれるはずだからさ!」

 

「そ、そうね! だけどやだよ。前みたいに二人でアスレチックばかりして、私とユイを置き去りにしちゃあ」

 

「それは大丈夫! 前日に身体動かしておくから!」

 

「……そういう問題?」

 

 何か居たたまれなくなってきた状況を払拭しつつ、話題転換してくれるベッキーに感謝。

 その後は特に何もなくただ学校へと近づいていった。

 

「……まさか、あのようなことが起きるとも知らずに」

 

「……急にどうしたの、ユイ?」

 

「なんでもないよ、ベッキー。ただ、こんなこと言ってたら本当に何か起きるかなと思ってさ。例えば、宝くじが当たったりとか」

 

「……ごめん。多分、私共感出来そうにない」

 

「ありゃ、残念」

 

 ◇

 

 インターナショナルスクール。

 そこは、留学生の人やハーフの人など様々な出身国の人達が集まる学校。

 イギリス人のハーフであるシンク、在日イギリス人であるベッキー、そしてイタリア人のクォーターである私もまた、自分達が住む紀乃川市鴇野町にある中高一貫のインターナショナルスクールに通っている。

 そして季節は春。

 実は今日が中学一年生の終業式だったりもする。

 なので、現在私たちは教室ではなく体育館にいます。

 今も前で校長が長々と春休みの暮らし方やこの一年についてを語っていたする。

 ……やっぱり眠い。

 校長のお話を華麗にスルーしながら、ちらっと横を見る。

 そこには真面目に話を聞いているベッキーと、ガサゴソと自分の荷物を弄っているシンクが。

 ……ベッキーにとっては、校長先生の話面白いのかな?

 そしてシンク、貴様は一体何をしている。

 

「……ちょっとシンク、なにガサゴソしてるのさ」

 

 とりあえず真横の彼に話を振ろう。

 シンクの一つ隣に座っているベッキーに話しかけられるほど、私の小声は大きくないし。

 

「あれ、ユイに言ってなかったっけ? 僕これからコーンウォールに行くんだ」

 

「コーンウォール? ……あぁ、シンクの実家か」

 

「そうそう」

 

「……ねぇシンク、コーンウォールに行くの私と代わらない?」

 

 正直バックれたい気持ちでいっぱいだ、話長いし。

 この際、この暇な時間を潰せるのならどこでもいいや。

 

「僕に代わってコーンウォールに行ったところで、ユイは何するつもりなの? 」

 

「う〜ん……家漁り?」

 

「それはご遠慮かな……それじゃ、今日の返事はまたメールでよろしくね」

 

 それだけ言うと、シンクは席を立って静かに抜け出していく。

 ……あぁ、暇つぶし対象がいないだけでこんなに寂しくなるとは。

 

「……んっ?」

 

 ため息と共に落とした視線。

 その一瞬の間に、何か見えたような……。

 私の足元にあったから、何か落としたのかな……?

 

「何これ……パスポート?」

 

 うわぁ、なんか嫌な予感するなぁ……。

 とりあえず持ち主確認。

 どうか杞憂で終わりますように。

 

「……やっぱりか」

 

 パスポートに書かれた名前はシンク・イズミ。

 先ほどまで私の隣に座っておられた方です。

 ……あいつ、これ忘れてどうやって渡るつもりなんだろ?

 仕方ない、どうせ暇だったし届けに行くか。

 まずは先生という名の関門を……。

 

「あの、先生……」

 

 近くにいた先生を呼び止める。

 

「ちょっと、お腹の調子が悪いのでお手洗いに……」

 

「お、おぉっ。そうか、行ってこい」

 

 よし、関門突破!

 

「……だ、大丈夫、ユイ? 付き添おうか?」

 

 あうっ、ベッキーまで心配していまうとは思わなかった。

 まぁ、ベッキーには本当のことを話しとこう。

 

「……いやぁ、実はあのバカがパスポート落としていったから、お届けに」

 

「そうだったんだ……気をつけてね」

 

「うん。あ、荷物だけ見ていて」

 

 気をつけると言っても忘れ物届けに行くだけだし、大したことはないけどね。

 全く、ベッキーも心配性なんだから。

 さて、行きますか。

 ささっと通路を移動し重たい扉を開く。

 さて、シンクはどこに……って、何してんだあの子は。

 シンクがいたのは学校の門の前ではなく、校舎二階の私達の教室。

 そこの窓の外にある足の半分もないところに立っていた。

 おそらく大きい荷物を教室の中に置いていたのだろう。

 シンクの他にも、そのまま母国に帰る人が一時的に置いとく場所として利用していたらしい。

 ……てか、先生も注意しないのかい。

 まぁ、私としてはさっさとシンクを見つけられたから良しとしよう。

 とりあえず降りてきたらこのパスポートを届けて……。

 あっとここでシンク選手、鞄を空に投げ上げた!

 そして、自ら地上に向かってジャンプ!

 クルリと綺麗に一回転が決まった!

 ……って、実況している場合じゃない、私もそっちに……。

 

「……あれっ?」

 

 私がちょうどシンクの視界に入ったその時。

 一匹のワンちゃんが茂みから飛び出してきた。

 その口に咥えているのは……短剣?

 そして私と同じようにシンクの着地点近くに立つと、咥えていた短剣を器用に持ち直し、地面に突き刺す。

 そうすると、そこから魔法陣が……魔法陣!?

 なんかアニメでよく見そうな魔法陣が展開された!

 凄い! なんかかっこいい!

 多分ベッキーだったら目をキラキラさせるはず!

 あの子ああ見えてファンタジー的な漫画が大好きだったから!

 そしてその魔法陣の中心、丁度シンクの着地点には異次元の穴らしきものが……んっ、これやばくない?

 

「えっ、えっ! えぇぇぇっ!!?」

 

 案の定、空中では何も出来ずにシンクは穴の中へと吸い込まれてしまう。

 どういう仕組みなのかは私が知る由も無い。

 ……って!

 

「ちょ、シ、シンク!」

 

 慌てて私もシンクの方に駆け寄ろうとして……

 

「……しまった」

 

 瞬時に後悔する。

 ここにきて私は二つほどやらかしたことがある。

 まず一つ、先程立っていた場所の時点でもうすでに魔法陣に少し入っていたこと。

 そして二つ、さっきの行動により魔法陣どころか、シンクが入っていった異次元の穴らしきもののところまで入ってしまったこと。

 

「うわっ……!」

 

 気付いた時にはすでに遅し。

 私もシンクと同じように穴へと吸い込まれていった。

 最後に私が見たのは、慌てた様子で飛び降りるワンちゃんの姿だった……。




いかがでしたか?
一話……というよりかは主人公の家庭状況みたいな感じでしたね(汗)。
まぁ、一話はプロローグみたいな感じですので、これから原作の世界に入って行けたら良いなと思ってます。
それでは、また次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。