ということでようやく2話です。
タイトルはシリアスっぽいですが、そこまで重くはない……はず。
きままに読んでってください。
前回のあらすじ
シンクに釣られて、謎の異次元空間へダイブ。
まさかフラグ回収するとは思っておりませんでした。
◇
今私が落ちている場所は、何かファンタジーチックな魔法陣の中。
周りも幾何学な紋章などが散りばめられた不思議な空間となっております。
現実にこんなことが起きるとは思ってなかったので、多少困惑中。
そもそも想像すらできるわけがない。
……てか、何で私だけ落ちるスピードやけに早いのですか?
やけにシンクにぐんぐんと近づいているのですが。
……重くないよ、むしろ軽いほうだよ。
「とりあえずシンクと合流してーー痛っ! 一体何……?」
もうすぐシンクに追いつく、というところで何かが私の頭に落ちてきた。
掴んで手元に引き寄せてみると、どこか見覚えのあるカバンが。
……これ、絶対シンクのだよね。
朝持たされたもん、間違いない。
絶対に、飛ぶ前に頭上に放り投げたシンクのカバンだよね。
やけに重かったし、痛かったもん。
……許さん。
「シンクゥゥゥゥゥゥ!!」
「うおわぁぁぁぁーーってあれ? なんでユイも……ごぶっ!」
私の声に気がついたシンクがこちらに振り向いた瞬間に、持ってたカバンをシンクの顔面にスパーキング。
慈悲はない。
「ちょっ、何で!? 何でユイがここにいるの!? 何でカバン投げられたの!?」
「しらん、自分に聞け! というか、何で落ちてるのか知りたいのはこっちだよ!」
「いや、僕も何が何だか……ていうかユイ、終業式は!?」
「あんたの忘れたパスポート届けに来たんだよ! そしたらこの有様だよ!」
落下中にも関わらず互いに言い合う。
そうこうしている間に前方に光が見えてきた。
まぶしい光に目が眩み、思わず手で視界を塞ぐ私とシンク。
「「…………!」」
そしてその光が晴れ、手をどけた瞬間に広がる景色に呆然となる。
周りに広がるのは紫色の空。
そして転々と存在する浮遊大陸。
明らかに日本ではない。
……それどころか、私が知ってる世界でもない。
「……ねぇシンク、ここどこ?」
「僕にもわからない」
「……ねぇシンク、私達夢でも見ているのかな?」
「そうだといいけどねぇ」
「……ねぇシンク、今気づいたけど……私達このままだと地面に激突しない?」
「恐らく、そうなるね」
「……ねぇシンク、この速度で落ちると、死ぬよね?」
「……間違いなく」
「……ねぇシンク、実はシンクはここから着地出来るとか……?」
「それは無理かなぁ……」
……えっ、うそ、やだ。
「死にたくない! 死にたくないよぉ!! 助けてシンク!!」
「いや無理だよ! 僕だって死にたくない!」
「私を抱きかかえて着地してよ! 何のために身体鍛えてるのさ!」
「少なくともこんな時のためじゃないよ!?」
「あぁ、もう! 使えないなぁ……ってもうすぐ地面じゃん! 嫌だぁ!!」
一心不乱にシンクの身体に抱きつく。
「ちょ、ユイ!? そんな強く抱きつかれると、その、胸が……!」
シンクが何か呟いているが、内容までは聞こえない。
念仏でも唱えてるのじゃないのかな?
あぁ……父さん、母さん。
ユイはここまでのようです……。
激痛を覚悟し目を閉じて衝撃に備える。
まぁ、無駄だとは思うけど。
……。
………。
………あれ?
いつまでたっても、痛みがこない。
目を開くと、周りに広がる大地。
お尻もちゃんと地面についてる。
間違いなく落ちたはず……どゆこと?
「シ、シンク……助かった、の?」
「どうやら、そうみたいだねぇ……」
ホッと安堵の息を吐いて座り込むシンク。
私はと言うと……はい、腰が抜けました。
今や全く足に力が入りません。
「で、その、ユイ……出来れば、そろそろ離してもらえると……」
「えっ? ……はっ!」
そうだ、未だにシンクにしがみついたままだった!
慌ててシンクの身体から手を離し、少し距離をとる。
……やけにシンクの顔が赤いのは何故だろう?
「あ、あの……召喚にお答えいただいた、勇者様でございますか?」
突然聞こえてきた声に目線を上げると……目の前に女の子がいた。
特徴的なピンク色の髪に王族をイメージさせる神秘的な服装。
何故か私を見ては首をしきりにかしげる可愛げな仕草。
そして、一番の特徴は頭に生えた獣耳と羽織ったマント越しも揺れているのがわかる尻尾。
……なんか犬みたいで、めちゃ可愛い。
「あ、あの、あなたは……」
「えっ、あっ、すみません、申し遅れました! 勇者様を召喚させていただいきました、ビスコッティ共和国代表領主のミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します」
「あっ、はい。どうも、シンク・イズミです」
「ユイ・T・エルレインです。よろしくお願いします」
とりあえず流れで互いの自己紹介。
勇者って、シンクのことかな……?
それにしても……ビスコッティ?
聞いたことない……やっぱり異世界なのかな?
あぁ、ベッキー連れてきてたらなぁ……あの子こういうの大好きだから、きっと喜ぶはずなんだけど……。
「…………」
「…………」
「…………」
……うん、というかこの沈黙どうしよう。
ていうかシンク、さっきからその子……もとい、ミルヒオーレ姫見すぎ。
何か、変態っぽい。
「ワンッ!」
その時、救世主は空から舞い降りた。
沈黙を破るかのように私の目の前に降り立ったのは、ここに来る前に学校でみたワンちゃんだった。
その口に変な魔法陣を出す際に使った短剣と、シンクのカバンの紐を加えている。
私がスパーキングした後に回収してくれたのかな?
「タツマキ! 勇者様のお出迎え、大義でありました!」
「……クゥーン」
その姿をみて、ミルヒオーレ姫はパアッと顔を輝かせ、ワンちゃんを優しく撫でる。
しかし、ワンちゃんはその心地よさに頭を預けることはなく、か細く鳴く。
まるで、何か後ろめたいことがあるかのように。
その様子にミルヒオーレ姫はコクリと頷き、私達の方に向く。
「勇者様、召喚にお答えいただきありがとうございます。その……ユイさんに関しましては、申し訳ございません。この騒動が片付きましたら、すぐに元の世界へお送りいたしますので」
私の方にぺこりと頭を下げる。
まぁ、あの慌てぶりを見ればおおよそは理解できるね……。
「そんな、私が勝手に入ってしまっただけですから、そんなお気になさらずに……」
「そういうわけにはいきません! 私も、姫としての責任がありますから!」
「いや、本当に大丈夫ですから!」
「で、ですが……」
……どうしよう。
「私が穴を見てなかっただけです」なんてふざけた理由を、その潤んだ瞳の前では言えない……。
とりあえず落ち着かせねば!
すっと立ち上がって、ミルヒオーレ姫……長いから姫様でいいや。
姫様の元へ近づき、そっと頭を撫でる。
……やばい、本当に犬みたいな触り心地で気持ちいい。
「え、えーと……本当に気にしないてください、姫様。私の失態なのですから、何も気にしなくて大丈夫です」
「……ありがとう、ございます」
……上目遣いで笑顔は反則だと思います。
あぁ、抱きしめてやりたい。
「……僕もいきなり飛ばされた感じなんだけどなぁ」
「シンクお願い、今は空気読んで」
「……ごめん」
全く、困ったもんだ。
それから、しばらくこうしていたおかげか姫様も元気になられたので、そろそろ話を戻そう。
「それで、騒ぎというのは?」
「あ、はい! そうですね……」
姫様が話し出そうとした時、何やら遠くの方で花火が上がった……何あれ?
「っ、いけない! もう始まっちゃってる!」
え、何が?
姫様がめちゃ慌ててるけど、状況がわからない私たちはポカンと様子を見つめるしかできない。
「勇者様、ユイさん! お話は移動しながらでも、よろしいですか!?」
「えっ、あっ、その」
「その上で、力をお貸しいただけたら、嬉しいです!」
「あっ、は、はい!」
「それでは、行きましょう!」
そう言って姫様は備え付けられていた階段を駆け下りていく。
そうして残された私達。
……何か、嵐のようだったなぁ。
「……ユイ、どうしようか?」
「……とりあえず、行ってみるしかないんじゃないかな? ゆ・う・しゃ・さ・ま」
「う〜ん、あんまり実感ないんだけどなぁ……」
「まぁ、いいじゃん。少なくとも、校長のお話よりかは退屈じゃないよ!」
「うん、それについては僕も同感! それに、なんだか楽しそうな予感がするんだ!」
「……? 何で?」
「勘だよ! アスリートの勘!」
それだけ言い残し、シンクも階段を駆け下りていく。
……ま、あいつが楽しそうならいっか。
私もシンクの後を追うように階段を下り始めた。
またまたシンクのカバンを持って。
「シンク、いい加減自分でカバン持ちなさい!」
「ごふっ!」
今度は後頭部にクリーンヒット。
同じネタばかりだと飽きてくるからね。
……それにしても、お願いってなんだろう?
お祭りか何かの、手伝いかな?
◇
ただいまの状況を説明しよう!
今、私とシンクは姫様と一緒に大きな鳥、ハーランに乗って大地を駆けている!
……まぁ、可笑しな話だろうがこれが現実。
一切の虚偽はありません。
ちなみにこの鳥、ハーランと言うのは姫様が付けた名前で、正式名称はセルクルというらしい。
これを見たことないと告げると姫様は驚いていましたが、そんなものがいるとお馬さんが涙目になります。
そして、その間にも姫様にはこの国の状況を色々と説明してもらいました。
姫様が治める国、ビスコッティ共和国は隣国、ガレット国と只今戦争中。
なのだが、ガレットの人達が強すぎてビスコッティは敗戦一方。
次の戦では本城まで攻められ、もう後がない状態。
そこで今回使われた切り札が勇者召喚。
異世界から勇者を召喚し、その勇者に危機を救ってもらおう!
……と、言うことらしい。
ちょっと待って、その勇者って……。
「それが……僕?」
「はい。勇者様、お力をお貸しいただけますか?」
「いやでも、僕は戦士でもなんでもない、ごく普通の中学生なのですが……」
「そんなご謙遜を! 勇者様の勇姿は、よく存じております!」
私的には、ただの運動好きのお馬鹿さんだと思うのだけどなぁ……。
「そ、そうなの? でも……」
まぁ、シンクが言葉を濁すのもわかる。
戦、と言うからには間違いなく危険がある。
最悪の場合、死ぬことも。
そんなとこに、わざわざいきたいと思う人はいないだろう。
ましては、何の力も持たない一般人が。
「…………ハーラン!」
何か思いついたのか、姫様はハーランを崖近くへと止める。
ここからだと、下の様子がよく見える。
「……あれが、戦の様子です」
「「こ、これが……」」
姫様はすっとある方向を指差す。
そこにあったのは、まさしくテレビで見るような戦場だった。
互いの兵士が剣や弓を持ち、他国のものに刃を振る。
あるものは斬られ、あるものは射ぬかれ、それでも雄叫びは止むことはない。
命と命の奪い合い。
その様子を大々的に報道するテレビ。
恐らくこの世界では当たり前なのであろう空飛ぶテレビでは、キャスターが熱く戦争の様子を語る。
いや、正確には……実況する。
のどかなアスレチック広場らしき場所での戦いを。
「「……戦?」」
「はい。戦をご存知ないですか?」
キョトンと首を傾げる姫様……可愛い。
いや、そうじゃなくて!
「いや、想像してたのと違って……」
「そちらでは、どういったものなのですか?」
「こう、人が殺し合いをするというか、何というか……ねぇ?」
いや、私に振られても。
「あの、この戦で人が死んだりとか怪我をしたりは……」
「とんでもありません! 死者や怪我人を出さないというのが、戦主催者の義務なのですから!」
「そ、そうなんだ……」
わぉ、すごい剣幕で言われた。
それから話を聞いてみると、私たちの戦とは大きく違うことがあった。
まず一つ、戦は言わば交渉術のようなもの。
熱くなることもあるらしいが、基本的には互いに怪我なく、正々堂々行われる。
日時すら指定されるというから驚きだ。
更には戦といっても殺し合いなどではなく、一種のスポーツのお祭りのようなものらしい。
だから、町の人も勇んで参加するということらしい。
更には、もし切られたとしてもフロニャ力たるものが発動し、無傷で済むとか。
だったら、シンクが参加しても大丈夫だろう……恐らく。
一通り説明を終えた姫様はシンクの手を掴み、身体を寄せる。
……シンク、また赤くなってる。
「敗戦続きで我々ビスコッティの民や騎士達は寂しい思いをしています。そのうえ、お城まで攻められてしまったら……ずっと頑張ってきた皆は、とてもションボリします」
「……ションボリ?」
「はい。……ションボリです」
目を伏せ、悲しそうに告げる言葉は見てるこっちまで悲しくなってくる。
ーー何とか、してやりたい。
そういった思いが私の中を駆け抜ける。
……でも、それを言うのは私じゃないよね。
この国に必要とされて召喚された『この国の希望』が、自分の言葉ではっきりと言わないといけない。
そうしないと、誰も安心できない。
だから……って、言うまでもないか。
初めから答えは、決まってたね。
「……えっと、姫様?」
「はい?」
「僕は、この国の……勇者?」
「は、はい! 私達が見つけ、私が迷うことなくこの方と決めたーー
この国の……勇者様です!」
姫様の言葉にシンクは笑顔で頷く。
「それじゃあ! 姫様の召喚に応じて、皆をションボリさせないように『勇者シンク』頑張ります!」
シンクの言葉に姫様はパァッと顔を輝かせる。
……全く、シンクらしい。
「ユイ、ごめん。ちょっと寄り道することになるけど……」
「……わかってたよ。最初に話を聞いた時から、こうなることぐらい」
だから私もーー
「ーーだから私も、付き合ってあげる」
ーーそんなあいつを、支えるんだ。
「ユ、ユイさん!? お気持ちは、嬉しいのですが、その……」
「手伝わせてください、姫様。私も、気持ちは同じですから。……まぁ、何が出来るかはわかりませんが」
これでも戦略ゲームは得意だったりする。
そっちの方で力を貸せたらいいかな?
「……ありがとう、ございます……」
……あぁ、姫様。
やっぱり可愛いです、すごく。
「そうと決まったら行こう! 時間もあまり無駄には出来ないし!」
「そうですね! 急いで城に戻りましょう! 装備も武器も用意してありますから! ……ハーラン」
姫様がバッと右手を掲げると、ハーランの翼にピンク色の光が灯る。
そして、畳まれていた翼が……開いた。
……開いた!?
「さっ、勇者様」
「はい、姫様!」
驚く私をよそに、シンクはさっとハーランに乗ってしまう。
……驚きとかないのか、あんたは。
「さぁ行こう、ユイも!」
……いや、違うな。
それとは違う未知の体験に、ワクワクしてるだけだ。
それもそうだろう。
あいつにとって、こんなにのびのびできる場所や機会はないのだから。
そりゃ、そうなるよね。
「……ふふっ」
「? どうしたのさ?」
「んーん、なんでもない! 」
差し出されたシンクの手を掴み、ハーランに乗る。
私達を乗せたハーランは、翼を羽ばたかせ、大空へと舞い上がった。
◇
こうして私とシンク、そして姫様を乗せたハーランは姫様のお城、フィリアンノ城へと到着した。
そして城の皆さんとの挨拶もそこそこに、王座の間という場所に案内された。
そこではメイドの皆さんが5人ほど既にスタンバイ状態で待っておられた。
……正直、ビビった。
メイド長らしい人の合図で、シンクがカーテンスタンドに入れられ、シンクのお着替えタイムがスタート。
私も手伝おうとはしたのだけど……メイドの皆さんの動きにはついていけません。
ちなみに私は客人扱いという事らしく、戦に参加しなくてもいいらしい。
もともとシンクみたいに暴れるのは得意じゃないから、そっちの方がありがたい。
でも、手伝いたいと言った反面、何か力にならなければ。
「では勇者様、改めてルールの説明をさせていただきます!」
「あっ、はい! お願いします!」
姫様の最終チェックが始まる。
てか、戦にルールとかあるんだね……正にスポーツみたい。
「まず、襲ってくる敵はバンバン倒しちゃいましょう!」
い、意外とシンプルだ……まぁ簡単な方が覚えやすいけどさ。
「武器で強打を与えられればノックアウト! ノックアウト判定をされた人は『けものだま』、ガレット国の皆さんの場合は『猫玉』に変化し、一定時間無力化します!」
へぇ、ガレットの人たちは猫かぁ。
それじゃあ、こっちだと『犬玉』なのかなぁ。
姫様の『犬玉』……見てみたい。
「……ユイさん? そんなに私を見つめて、どうかしましたか?」
「あぁ、いえ、何でもないです!! それで、他には!?」
おっと、ついつい行動に出てしまった。
慌ててかぶりを振り、続きを促す。
「そうですね……あ、そうでした! 後、相手の頭部が背中に手のひらでタッチすることでもノックアウト判定になります! そちらの方は危険が伴う分、ボーナスポイントが加算されます!」
「あ、そうなんだ! そっか〜!」
あ、絶対シンクそっちを狙ってやがる。
それにしてもポイントなんてあるんだ……。
「姫様、その、ポイントというのは?」
「そうですね。戦ごとに設定されている勝利条件とは別に、どれだけ敵を倒したかというのもポイントとして集計し、勝敗を決める場合もあるのです。今回は『砦攻防戦』となってますので、時間内に砦を落とせなかった場合、スコアで勝敗を決めるのです」
「ほぉ〜」
なんかボクシングみたいだね〜。
「姫様、勇者様のお着替え完了いたしました!」
メイドさんの一人がそう告げると共にシンクを包んでいたカーテンスタンドが開かれる。
「わぁ……」
「おぉ……」
そこから現れたシンクの姿に思わず感嘆する。
タレが腰まで届く青色のロング鉢巻き。
赤のジャケットと黒のズボン、更には白いマントに身を包んだその姿は、正しく『勇者』そのものだった。
「ど、どうかな……」
「勇者様、とてもお似合いです!」
「うん、私もそう思う。なんかカッコいいよ、シンク」
「ありがとう、姫様、ユイ」
嬉しそうに頭を掻くシンク。
そんなシンクの元に、姫様は何かを渡した。
それは……指輪?
「これが勇者様の武器、ビスコッティに伝わる宝剣『神剣パラディオン』です。勇者様が望めば、どのような形にもなりますよ」
「ん〜っと、それじゃあ……棒で!」
すると指輪が光りだし、シンクの目の前に2mぐらいの棒が現れる。
シンクはそれを手に取り、その感触を確かめるかのように振り回す。
「でもシンク、棒なんかで良かったの? 剣とかの方がいい気はするけど……」
「う〜ん、やっぱり慣れてる物の方が扱いやすいと思ってさ」
まぁ、それもそっか。
確かにシンク、いつもナナミとかと棒術やってるもんね。
「では最後に紋章術の説明をしますね」
紋章術?姫様がハーランに使ってたもののことかな?
「紋章術とはこのフロニャルドの大地と空に眠るフロニャ力を集めて使う技術です。フロニャ力をあらかじめ持っている自分の紋章に集め、混ぜ合わせることで『輝力』というものに変換できます」
そう言って姫様は手のひらに光を集める。
先程ハーランにやったのと同じ、ピンク色の光。
「そしてこの『輝力』を用いることで色々なことができるのです。勇者様の場合は……紋章砲ですかね」
「紋章、砲?」
「やり方については前線で戦っているエクレールに聞いてください。エクレール、紋章砲の扱いがとても上手なのですよ!」
「わかりました! それでは早速……」
「ちょっとストップ、シンク!」
今にも駆け出そうとするシンクに待ったをかける。
さっきお城に入る際に見た兵士さんの様子を見る限り、シンクが参戦するだけじゃダメだ。
あの目は、諦めてる目だ。
どうせ敵いっこない。
やるだけ無駄だと。
そう言ったムードが流れてる。
今のままじゃ、ダメだ。
強烈な、インパクトを与えないと。
そうすることで、味方の兵士さんに希望を持たせるんだ。
まだ勝てるんだと、思い込ませるんだ。
「ど、どうかしましたか、ユイさん?」
「いえ、どうせなら、派手にやっちゃいましょう。兵たちの士気を上げるためにも」
姫様も何を言いたいのかわからないといった表情で私を見る。
大丈夫、私に考えがある。
戦略ゲームで学んだこと、切り札の存在は大きく!
今回のシンクの立場である『勇者』はさっきの姫様の話を聞く限りでは間違いなく強烈な一手。
なら、その存在は大きく誇示させた方がいい。
「シンク、一番目立つところに立って、一番目立つ方法でみんなの前に現れて」
「えっ、僕としては早く行きたいのだけど……」
「そう慌てない。これも必要な事だよ。勝利に、一歩でも近づくためにね」
「う、うん、わかった」
よしっ、なんか乗ってきた!
「そして姫様! シンクが来ることを知っているのは!?」
「え、えと、私と隊長格の人のみです」
「でしたらその報を他の兵にも知らせてください。あのテレビの人にも!」
「で、でも、敵さんに知らせてもよろしいのでしょうか……?」
「むしろ知らしめるんです! 敵さんがビビるぐらいに!」
「わ、わかりました! アメリタ!」
「はい、すぐにお伝えいたします!」
うぉ、いつの間に。
あの人が姫様の秘書さんかな?
なら、ちょうどいい!
更に派手に、もっと大々的に!
「それから演出も派手にします! 勇者登場にふさわしいBGM、それと花火を数発お願いします!」
「かしこまりました!」
よしっ、後は私達次第だ!
「それでは、私達も移動!」
「「は、はいっ!」」
私の号令と共にシンクは目立つ場所を探しに、姫様と私は他の兵にも見えるようにバルコニーへと移動していった。
「あ、あの、ユイさん、その……」
「ごめんなさい姫様。でも、こういうの、楽しいと思いませんか?」
「それは……はい、とっても!」
不安そうな顔から一転、楽しそうな笑みを浮かべる姫様。
よしっ、やっぱり間違ってない。
「兵士さん達にも、安心してもらいましょう!」
「そうですね、姫様!」
「……あ、あのっ」
「はい?」
「出来れば、私の事は『ミルヒ』と呼んでいただけますか?」
はいっ!?
「い、いや、そんな、恐れ多い……」
「いえっ、構いません! それに……ユイさんなら、私とお友達になれるかなって。その……同じ立場で、気兼ねなく」
「姫様……」
「他にも、お友達はたくさんいるのですが……みんなしてどこかよそよそしい感じがして、申し訳なくて……」
「…………」
立場の違いは時として大きな壁を作り出す。
それは現実世界でも同じかもしれない。
先輩後輩だったり、教師と生徒だったり。
確かに立場が上の人には、敬意を示さないといけない。
だけど、それだけじゃダメな時もある。
今は多分……それじゃ、ダメなんだ。
「……あの、ユイさん?」
少し考え過ぎただろうか。
姫様が不安そうにこっちを見る。
……ううん、『姫様』じゃないね。
「行こう、みんな待ってるよ……ミルヒちゃん」
私が、変えるんだ。
「……はいっ! 行きましょう、ユイさん!」
ミルヒちゃんが私の手を掴み走り出す。
心底、嬉しそうに。
「……そうだね! うん、行こう! シンクも待って……」
「あ、着きました! ここです」
タイミングゥゥゥゥ!!
もうちょっとだけ待ってよ!
もうちょっとだけ感動に浸らせてよ!
いまいいところだったんだからさぁ!
「……ユイさん? どうかなさいました?」
「……ううん、何でも……何でもないよ、ミルヒちゃん……」
私の葛藤をよそにミルヒちゃんはバルコニーへの扉を開ける。
そこには老人3名と小さな女の子がいた。
「姫様、戻られたでありますか!?」
「遅くなってごめんなさい、リコ。勇者様とそのご友人の方、お連れしてきました」
姫さまの声に老人の方々もオオッと声をあげる。
まぁ、その勇者は早速戦地にいるのですがね。
「どうも、ユイ・T・エルレインです」
「リコッタ・エルマールであります! お待ちしておりました、勇者様!」
軽く自己紹介をすると、女の子が笑顔で返してくれる。
でもちょっと待って……。
「いや、あの、私は勇者じゃなくて……その友人の方です」
「そうでありますか……」
ううっ、そんなに残念そうな顔しないで……。
「それでは、勇者様はどちらに」
「そうですね、それでは登場してもらいましょうか」
そう言うと姫様はすっと前に出る。
その手に、メガホンらしきものを持って。
……あれ、いつの間に?
まぁ恐らく後ろで隠れてサムズアップしているアメリタさんが渡したんだろうね。
さて、シンクの方は準備できたかな?
たまたまポケットの中に入れてた携帯で連絡を……
『圏外』
……ですよねー。
まぁ、今考えたら多分シンクもカバンに入れっぱなしだったかな。
ていうかこれ、提案しときながら言うのもなんだけど、上手くいくかわからない作戦だったかも……。
『おおっと、ここで緊急速報! 今回の戦にてビスコッティ国が勇者召喚を行ったようです!』
アメリタさんのお陰でテレビにも広がった。
さぁ、ミルヒちゃん。
ミルヒちゃんもこくりと頷き、メガホンを口に当てる。
「ビスコッティの皆さん、ガレット皆さん、大変長らくお待たせ致しました。……近頃、敗戦続きの我らビスコッティですが、そんな残念展開は今日限りでお終いです! ビスコッティに、希望と勝利をもたらしてくれる素敵な勇者様が来てくださいましたから!」
下からどよめきが聞こえる。
よしっ、掴みはバッチリ。
流石お姫様。
「それでは、華麗に鮮烈に登場していただきましょう!」
さぁ、シンクは……いた。
ちょうどテレビに映ってる。
シンクがいたのはビスコッティの兵士が出入りする門。
その上にマントをたなびかせ後ろ向きで立っている。
バックに華やかなBGMも聞こえてくる。
ナイスです、アメリタさん!
さぁ、後はシンクだけ……。
手に持った棒を高く上げ、落ちる前に自ら飛び上がる。
そのまま、ひねりを宙返りで華麗に着地。
落ちてきた棒を掴み、華麗に棒を回してみせる。
「姫様の相伴に預かり、勇者シンクここに見参!」
そして決め台詞。
シンクが考えたにしては、悪くない!
そして打ち上がる花火!
そぅ、これだ。
これこそ、私が演出したかったこと。
「……ミルヒちゃん。私達、期待された召喚されたからには、負ける気なんてない」
兵士さんもやる気を取り戻した。
そう、ここから……
「ここからは……ビスコッティのターン!」
さぁ、反撃開始だ。
2話、いかがだったでしょうか?
これを書くにあたって、色々な単語検索を行いました。
テスト中なのに、無駄な知識ばかり覚えてしまう……まったくもう。
ちなみに申しておきますと、作者自身は戦略を考えるのは苦手です。
ここで次回の内容を推察できる人は参謀に向いてます(笑)。
それでは、また次回。