【完結】APPEARANCE of TRUTH 作:土地_0000
第零話【プロローグ】by セルヴォ
さて、薄暗い店内には、安物の潤滑剤と、拭いきれない埃の匂いが入り混じっていた。
赤、青、黄色。毒々しい原色の照明が不規則に明滅し、その光に照らされながら、中央のステージでは女たちが艶やかに舞い踊っている。
俺は両脇に女を侍らせ、沈み込むようなソファへ深く身体を預けながら、その光景を眺めていた。
悪くない気分だ。
右腕で隣の女の肩を抱き寄せ、左手に持ったグラスから琥珀色のオイルを口に含む。喉を通る刺激が心地いい。
グラスが空きそうになれば、絶妙なタイミングで別の女がやって来て、しなやかな手つきで次を注いでくれる。
まったく、最高だ。
さて、この店は最高なんだ。
ここにいる女たちは、客である俺を悦ばせるという一点において、完璧にその任務を遂行している。
その気にさせる媚びた仕草も、グラスを空けさせない細やかな気配りも、すべては計算されたプロフェッショナルの仕事だ。
そう。
俺は「プロフェッショナル」という響きを愛している。
プライベートでは思う存分遊び、仕事になれば泥を啜るような役目でも完璧にこなす。
その二つをきっちり分け、どちらの自分にも一切の妥協を許さない。
それこそが、最高にカッコいい生き様ってもんだ。
ここの女たちとは職種こそ違うが、俺もまたプロフェッショナルの一人である。
エデン軍リーダー直下諜報部――通称『トゥルース』。
六年前の戦争でラヴドに敗れ、一度は灰燼に帰した我らが『エデン』。
だが、実のところ、エデンは水面下で着実にその牙を研ぎ直している。
そして俺は、その暗部に身を置く超エリート集団、トゥルースの実行部隊員だ。
もっとも、今は束の間の休憩中。
つまり、誰にも邪魔されない完全なる自由時間である。
「さて、お前ら。これはチップだ。とっときな」
俺は無造作に、テーブルへ札束を放り出した。
プロフェッショナルは、その見事な仕事に見合うだけの報酬を受け取る権利がある。
それがこの世界の正しい循環だ。
まあ、この金は俺の懐から出しているわけじゃなく、エデンの経費をテキトーに使い込んでいるだけなんだが。
そんなことは瑣末な問題だ。
至福の時間を謳歌していた俺の目が、店の入口付近に紛れ込んだ「不純物」を捉えた。
極彩色のネオンに照らされながら立っている、黄色く無骨な男。
同じ『トゥルース』に所属する俺の相棒――ビートだ。
さて、あの糞がつくほど真面目なビートが、自分からこんなキャバクラへ一杯やりに来るはずがない。
あいつがこんな場所に姿を現した。
となれば、答えは一つ。
仕事の呼び出しだ。
ビート:「セルヴォ、デュオさんが休憩は終了だと」
ほら、やっぱりな。
だが、予定されていた休憩時間は、まだ残っているはずだ。
いくらなんでも早すぎやしねぇか。
「さて、デュオさんは他に何か言ってなかったか?」
ビート:「新人の紹介をするそうだ」
相変わらず、必要なことしか喋らねぇ奴だ。
……さて?
今、新人とぬかしたか。
「さて、新人だぁ? そんな話、初耳だぜ」
ビート:「お前、こないだの会議中に居眠りしていただろ」
心当たりがありすぎて何も言い返せねぇ。
俺の失態を指摘したビートが、呆れたようにため息を吐いた。
へいへい。
不真面目で悪かったな、この真面目すぎる優等生くん。
さて、会議の内容を忘れていたことは棚に上げよう。
それより、もっと重要な確認事項がある。
「さて、その新人は男か? それとも女か?」
ビート:「女だ」
俄然、興味が湧いてきたぜ。
退屈な仕事の合間の、ちょっとした刺激になればいい。
しゃあねぇな。
新人様とやらに、お目にかかってやろうじゃねぇの。
「さて、……おい、釣りはいらねぇよ」
俺は店のママにテキトーな額の紙幣を掴ませ、ソファから腰を上げた。
ビートと並んで出口へ向かうと、店の女たちが総動員で通路に並び、俺たちを見送りにやって来る。
さて、さすがはプロフェッショナルだ。
たとえ裏で何を考えていようと、最後の瞬間まで客を大事にする。
その姿勢だけは、見習う価値がある。
……さて。
じゃあ俺も。
独りよがりの『プロフェッショナル』に戻るとするかね。
第零話【プロローグ】終わり