【完結】APPEARANCE of TRUTH 作:土地_0000
第十三話【黒歴史】by セルヴォ
さて、新入りのリネルが偵察任務に駆り出されている間、俺の手元にはぽっかりと暇な時間が転がり込んできた。
エデン本部の殺風景な廊下を眺めていても、面白いことなんざ何もない。
さて、せっかくの暇だ。
ちょっくらその辺の女の尻でも触りにいくか。
そんなくだらねぇことを考えながら廊下を歩いていた、その時。
前方から一人の女が歩いてきた。
ハードネステン。
ダイヤモンド型メダロット特有の硬質で透明感のある装甲が、天井の蛍光灯を鋭く反射している。
相変わらず、冗談の一つも通じなさそうな顔だ。
……さて、今日はやめておこう。
俺の勘が、あの女には手を出すなと告げている。
俺の言うところの「ちょっとした危険な遊び」や「おちゃめな悪戯」を仕掛けたところで、返ってくるのは笑い声じゃねぇ。
最悪の場合、エデンの軍律を引用したシャレにならねぇ『粛清』が待っている。
引き際を間違えないのも大事な仕事ってやつだ。
俺は何食わぬ顔で、ハードネステンの横を通り過ぎた。
さて、相棒のビートはといえば、自室のベッドでガチ寝を決め込んでやがる。
あのアホ面をわざわざ見に行くのも癪だ。
そして、俺たちのボス――デュオさんは、相変わらず忙しいことこの上ない。
通信記録の確認。
各支部の動向調査。
カヲスさんへの報告。
あんな浮ついた口調で喋ってはいるが、その実、エデンの暗部を背負って働き続けているようなメダロットだ。
少しは羽を伸ばす時間ってのをもらえないのかね、あのお方は。
あんだけ組織のために働いてんだ。
たまにはベッドの上で泥のように眠るなり、高級オイルでも飲むなり、少しくらい贅沢したってバチは当たらねぇだろ。
さて、最後にデュオさんとゆっくり酒を酌み交わしたのは、いつだったかな。
そんな昔のことを思い返しながら、俺は廊下の隅に置かれた、塗装の剥げかけたベンチへ腰を下ろした。
ん?
ベンチの端に、妙なものが置かれていた。
埃を被り、ページの端が変色した古い雑誌。
さて、こいつは大昔のゲーム雑誌か。
まだ人間共が生きていた頃の代物だ。
兵士の中に、人類滅亡前のレトロゲームを趣味にしている奇特なヤツでもいたのかね。
俺は雑誌を拾い上げ、適当にページをめくっていった。
すると、その中に妙な記事が目に留まった。
〝ロケットカンパニー株式会社は9月3日、ニンテンドーDS用RPG「メダロットDS(仮称)」を発売することを明らかにした。
発売日は未定で、価格は5,040円。
「メダロット」はゲームボーイで発売され、その後ゲームボーイカラー、ゲームボーイアドバンスなどで発売。
TVアニメや、コミックスなどで展開を経て、約八年ぶりに新作が発表された。〟
さて?
ページをめくる手が止まった。
今読み飛ばしかけた数行を、もう一度読み返す。
約八年ぶりに新作が発表された。
八年ぶりに新作?
八年……。
さて、俺の記憶が確かなら、このシリーズはその「新作」が出る六年前にも、一つ作品を世に送り出しているはずだ。
だが、この記事を書いた人間は、その作品など最初から存在しなかったかのように平然と「八年ぶり」と書いてやがる。
つまり、こういうことか。
あの作品は――〝存在していたのに、無かった事〟にされたわけだ。
「………………」
俺はしばらく雑誌を眺めた後、そのまま近くのゴミ箱へ放り投げた。
カサリ、と音を立てて古雑誌が沈んでいく。
クッククク……。
いいねぇ。
最高だねえ。
どういうわけか、その不条理な一文に妙な親近感が湧いてきやがった。
さて、俺たち『トゥルース』は、エデンの再興を支えながら、決して歴史の表舞台に顔を晒すことはない。
王だのリーダーだの、英雄だの神様だの。
そういう連中が眩しい光を浴びる裏側で、俺たちは人に知られちゃ困る仕事を片づけていく。
俺たちが何をしたのか、誰を救ったのか、何を守ったのか。
そんなものは、表の連中に知られなくていい。
知られちゃならねぇことなら、記録は誰にも触れられない場所へ隠す。
真実そのものは残したまま、表の歴史から姿を消す。
〝存在しているのに、無かった事になっている〟。
そう考えりゃ、「黒歴史」なんて呼び名も案外悪くねぇ。
俺たちが表舞台に名前を残していないってことは、それだけ裏側で仕事をやり遂げた証拠でもある。
名誉も、尊敬も、感謝の言葉さえも集められない。
……いや。
集めちゃいけない。
さて、つくづく割に合わねぇ商売だぜ。
そんな独りよがりな考えに浸っていた、その時だった。
ビート:「セルヴォ」
「……おわっ!? さて、……いつの間にいたんだよ、お前」
すぐ耳元で声がして、思わず肩が跳ねた。
振り返れば、そこにはいつの間にか寝所を抜け出した相棒が、いつもの仏頂面で立っていた。
足音一つ気づかなかったとは。
少し勘が鈍ってるらしい。
ビート:「デュオさんが呼んでいる」
ビートは俺の動揺など気にすることなく、それだけを告げた。
いつもの淡々とした口調。
どうやら、また仕事らしい。
さて。
感傷に浸る時間は、もう十分だ。
ゴミ箱に捨てた雑誌のことは忘れ、俺はいつもの笑みを口元へ戻した。
「さて……お仕事再開だな♪」
第十三話【黒歴史】終わり