APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

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第十四話【ラミエル2】

第十四話【ラミエル2】byデュオ

 

 

 リネルからの定期連絡が途絶えた。

 最後に受信したGPS信号は山奥にあるあの「探偵事務所」の座標を指したまま動かず、代わりに近隣の観測点から「小規模な爆発を確認」という不吉なログが私のコンソールへ飛び込んできた。

 

 リネル……しくじったわね。

 

 彼女に命じたのはあくまで潜入と偵察。標的である『竜』に対して物理的な接触を試みるフェーズではなかったはずよ。だというのに、爆発音と共に沈黙。考えられるシナリオは一つ。向こうから「お出迎え」を受けた、ということ。

 部下の不手際に対する苛立ちが思考回路を焼いたけれど、それは一瞬で凪いだ。  ――本当に、リネルだけの失態かしら?

 

 今回、リネルに与えた情報は確かに微々たるものだった。

 けれど、それは諜報活動における必要悪なのよ。詳細な身元が割れているような「大物」を十二使徒にスカウトしようとすれば、それこそ失踪しただけでラヴドに察知されるし、そもそも既にどこかの勢力に肩入れしている場合がほとんど。

 だからこそ「噂」の域を出ない、情報の曖昧な個体を釣るしかなかった。これまでのメンバーもそうやって少ない情報から手繰り寄せてきたけれど。

 

 ……何か、嫌な予感がするわね。  相手は組織を一人で壊滅させたという探偵。情報戦の専門家を相手に、私の「情報」そのものが足元を掬われている可能性。

 

 私は即座にコンソールのキーボードへ指を滑らせた。打鍵音が実験室の静寂を細かく刻む。

 以前、あの事務所を発見したのと同条件のフィルタを解除し、さらに対象範囲を広げて再走査をかける。画面を流れる膨大なデータログ。ノイズの海を掻き分け、一つの整合性が網膜を叩いた。

 

「な……っ!?」

 

 ディスプレイに、既視感のある幾何学的な座標が浮き上がる。  見つけてしまった。あのアジトと、運用プロトコルが酷似した『もう一つの拠点』を。

 

 ……(デコイ)か。

 あの探偵は、自らの所在を隠すために複数のダミーを配置していたんだわ。リネルが踏み込んだ場所は、最初から「招かれざる客」を処理するための箱だった。

 私の、完全な調査不足。情報のプロを自称しておきながら、相手の土俵で踊らされていたのは私の方だったのね。

 

 ……落ち着きなさい、デュオカイザー。  焦燥は判断を鈍らせ、判断の鈍りはさらなる真実を見失わせる。  深く、深呼吸して、私は思考を静めた。

 

 ふと、胸の奥で古い記憶の断片が熱を帯びた。  今の私を形作った、あの「適当で、軽薄で、けれど誰よりも賢かった男」の言葉。

 そういえば、昔もこんな事があったわね……。

 

 

 

 

 ――世界が人類とメダロットの熾烈な戦火に包まれていた、あの狂乱の時代。

 

 

ラミエル:「次の任務のハ・ナ・シをはじめるよ♪」

 

 当時の私の上官だったラミエルさんは、地獄のような戦場にあってなお、遠足の予定でも立てるような明るい声を響かせていた。

 当然、当時の私はこの男の「軽さ」が我慢ならなかった。同胞が次々と物言わぬ鉄屑に変えられていく戦争の最中に、楽しい任務なんて存在するはずがない。不真面目で、無責任な上官。それが私の彼に対する評価のすべてだった。

 

ラミエル:「G地区の敵の支部を全滅させるよ♪ 数は……」

 

 提示された作戦概要を耳にしながら、私は心の奥で冷たく毒づいていた。この人は任務を一体何だと思っているのかしら。もう少し真面目に、兵士としての義務と向き合えないのか、と。

 

ラミエル:「……という事で最後に残った所には僕とデュオカイザー君の2人サ♪」

 

 割り振られた作戦地図を見て、私は即座に異議を唱えた。

 

「お言葉ですが、その程度の戦力しか持たない支部ならば私一人でも十分に落とせます。ラミエルさんは他支部への攻撃に参加したほうが、軍全体の利益になるのではありませんか?」

 

 本音を言えば、最も小規模な拠点を落とすのに二人も必要ないし、何より、大嫌いな上官と肩を並べて歩く時間の無駄を省きたかった。

 

ラミエル:「う~ん……ナ・ル・ホ・ド♪ それではそっちにはデュオカイザー君1人で行っておくれ♪」

 

 ……あっさりしたものだった。

 部下の意見を聞き入れる度量、と言えば聞こえはいいけれど、当時の私には単なる職務放棄にしか見えなかった。自分は安全な場所で高みの見物を決め込むつもりなんだ、と。

 とことん、馬鹿な女だったわね……私は。

 

 作戦決行日。  結果は、私の予測通りだった。敵の射撃は私の装甲をかすめることさえなく、私は無傷のまま拠点の心臓部へと突き進んだ。  

 ただ、一つだけ誤算があった。敵が異常なまでにしぶとい。

 ティンペットが剥き出しになっても、脚部が千切れても、わらわらと這い寄ってきては私の進路を阻む。戦力そのものは取るに足らないけれど、その泥臭い物量に時間を取られ、内部の敵を完全に排除するのに手間取ってしまっていた。

 けれど、私自身の勝利への自信は揺らがなかった。実際、目立った危機なんてどこにも――。

 

ラミエル:「へ~い♪ デュオカイザーくぅ~ん♪ 撤退するよ♪」

 

 不意に背後から飛んできた場違いな声。  驚いて振り向く間もなく、ラミエルさんが私の胴体を強引に抱え上げたわ。

 

「な、何を!? あと少しでこの支部を落とせるんですよ!! 」

 

 抵抗しようとしたけれど、それは不可能だった。ラミエルさんの両腕から伝わる出力は、私の想定を遥かに凌駕する凄まじいトルク。彼は私を小脇に抱えたまま、爆発的な機動力で出口へと向かって疾走した。

 そのスピード。そして私を羽毛のように持ち上げるパワー。当時の私にとっては、すべてが別次元の挙動だった。

 

 私たちが正門の門扉を潜り抜けた、その直後だった。

 

 ――ド グ オ ォ ォ ォ オ ォ ォ ン ! !

 

 後方で世界が裂けるような爆音。  あの小規模な支部の設備では、逆立ちしても出せないはずの膨大なエネルギー。

 凄まじい爆風が私たちの背中を叩き、そのまま前方へ三十メートル以上も吹き飛ばした。

 

 ガシャン!!    床板に激しく叩きつけられ、視界にノイズが走る。  火薬の熱波と土煙が舞う中、真っ先に耳に届いたのは、あの男の「真剣な」声だった。

 

ラミエル:「大丈夫か!デュオカイザー君!!」

 

 初めて聞いた、ラミエルさんの険しい声。そして、余裕をかなぐり捨てた真剣な顔。

 幸い、私は彼の背中の陰にいたおかげで無傷だった。けれど、私を庇うようにして爆風を真正面から浴びたラミエルさんは、その美しい装甲をズタズタに引き裂かれ、命に別状は無いものの、一度本部に戻る必要があるほどの傷を負っていた。

 

 振り返れば、さっきまで私が制圧しかけていた場所は、もう影も形もない瓦礫の山へと変わり果てていたわ。

 

ラミエル:「と~っても小規模な支部だったからね♪ 自爆するんじゃないかと思って、君に秘密で中を調べてたのさ♪」

 

 立ち上がった彼は、もういつもの、鼻に付くほど明るい調子に戻っていたけれど。

 

「じゃあ、最初から自爆の可能性を教えてくれれば良かったのではありませんか?」

 

ラミエル:「いや、君には攻撃に集中してほしかったからね♪元々この支部は2人で役割分担して進むのがベストだったのサ♪」

 

「では、何故私が意見した時、一人で行くように作戦を変更したのですか? 」

 

ラミエル:「君は自信家だからね♪ 〝君1人では無理だ〟なんていったら怒っちゃうだろ?」

 

 ……言葉が出なかったわ。

 この男は、部下である私の短気な性格さえも作戦の一部に組み込んでいた。私が納得する形で作戦を進め、その影で最も危険な「裏の調査」を独りで完遂させ、いざとなれば身を挺して部下を救う。

 だらしのない上司。そのイメージは、粉々に砕け散った。

 

「では、何故私を助けたのですか? あの脱出、私を抱えていなければ、貴方はもっと余裕を持って逃げ切れたはず。実際に私のせいで、貴方は傷を負ってしまった。」

 

 合理的に考えれば、一兵卒が犠牲になったところで、拠点を一つ落とせたのなら十分な釣果のはず。上官が傷を負う必要なんて、どこにもなかったのに。

 

ラミエル:「君は優秀な部下だからね♪ 僕はご存知の通り1人では無力でね~♪ 君のような優秀な部下がいないとダメなのサ♪ だから……」

 

 彼は少しだけ言葉を溜めて、眩しいほどの笑顔で続けた。

 

ラミエル:「優秀な部下を守るために、優秀な部下である君にはこれからも僕を手伝ってもらうよ」

 

 ……これが、私が初めてラミエルさんという男を尊敬した瞬間だった。

 

ラミエル:「ところで……今度2人っきりで乗馬にでもいかないかい?♪」

 

「結構です!」

 

 ま、尊敬したからって、あのデリカシーの無いノリをすべて許容できるかどうかは、また別の話だったけどね。

 

 

 

 

 ――優秀な部下を守るために、優秀な部下である君にはこれからも僕を手伝ってもらうよ。

 

 私のメダルの深淵に刻まれていたその一節が、今、確かな指針となって思考を駆け巡った。

 かつての私なら、焦燥に駆られて自ら戦地へ飛び出していたかもしれない。けれど、今の私には、あの男が言った「優秀な部下」が……私の意志を体現する、最高のスペシャリストたちが揃っている。

 

 セルヴォは、どうせまた廊下をふらふらと、不真面目に目的もなく歩き回っているのだろう。対照的に、ビートは次の命令が下るまで、彫像のように自室で待機しているはず。

 私は迷わず、ビートの居室の通信回線を叩いた。

 

ビート:「……はい。こちらビート」

 

 期待通りの、一分の狂いもない淡々とした応答。私は思考を「上官」のそれに切り替えつつ、外面にはいつもの軽薄な仮面を被せた。

 

「ちょ~~っと大変なことになったから、手伝ってほしぃのょねぇ。セルヴォちゃんも一緒に、ね♪」

 

ビート:「分かりました。すぐに向かいます……」

 

 短く、けれど一点の迷いもない承諾を最後に通信が途切れた。

 

 優秀な部下。

 それこそが、諜報という闇の世界において私が手にした、最強の『真実』。

 私の『トゥルース』さえ揃えば、探偵の一人や二人、真実の闇に引き摺り込んで、赤子の手を捻るようにひとひねりにしてやるわ!

 

 

 

第十四話【ラミエル2】終わり

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