第十八話【DRAGON QUEST】byデュオ
『さて、第1班配置完了~。いつでもいけるぜ』
『キッシャッシャシャ!! 第2班OKだぜ! 早く壊させろよ!』
『フン……第3班も同じく完了だ。強者の気配を待つのみ』
『第4班、ようやく準備OKです。絶対にあの女をギャフンと言わせてやりますから!』
『第5班、配置完了です。指示を待ちます』
『女一人相手にこの戦力か……まぁいいや。第6班さり気に準備完了!!』
各班が指定された座標に着き、次々に本部へとステータスログを投げ込んできた。
登録されたばかりの十二使徒、そして彼らに率いられたエデン一般兵。新生エデンの戦力を一点に結集させた「竜探索戦」が、今まさに幕を上げようとしていた。
私は無数のモニターが並ぶ管制卓の前に座り、指先一つで巨大なチェス盤を動かす棋士のような心地で、全回線を開放した。
「了解~。この戦いではすべて、ぁ・た・し、デュオカイザーの指示に従ってもらうゎょん♪」
外向きのギャルめいた軽い調子で班長たちを繋ぎ、私はシステムの時計を中央モニターに固定した。
「それじゃ、攻撃開始十秒前……。九、八、七、六」
相手は組織を一人で壊滅させた探偵だ。小手先の策は通用しない。
竜ならば、この圧倒的な包囲網をどう分析し、どのような行動に出るか。導き出せるすべての分岐をシミュレーションし、網を張った。
最善を尽くし、あらゆるプランを網羅した今の私に、死角はない。あとは、時の運――。
「五、四、三」
電子の秒針が、運命の刻限を削り取っていく。
「二、一……攻撃開始!!」
私の号令が響いた瞬間、モニター群が同時に戦闘データの激流を吐き出し始めた。
本部内には、各地の隠れ家を襲撃する各分隊からの音声、画像、そして各機体のセンサーログがリアルタイムで転送されてくる。
ハードネステン以外の五班については、随行する一般兵にすべてを記録させてこちらに送らせているが、彼女の班だけは例外だった。
カヲス様の命により、ビートを彼女に張り付かせ、熱量から装甲への負荷まで、実に五十二項目にも及ぶ詳細なバイタルデータを個別に収集させている。
……何故、カヲス様は今さら彼女のデータを欲しがるのかしら。
調整の済んだ側近のデータなんて、もう取り尽くしているはずなのに。
何か、ハードネステンという機体に私が知らない「秘密」でも……?
ゴッドエンペラー:『キッシャーーーーーー!!!!!!!!』
鼓膜を劈くような絶叫が思考を遮った。
「ぅ・る・さ・ぃ!!!」
思わず叫び返してしまったわ。
少し考え事をしている間に、第2班――ゴッドエンペラーの蹂躙が始まっていた。
送られてくる画像には、隠れ家であったはずの建物が跡形もなく燃え尽くされ、白銀のレーザーが瓦礫を融解させていく惨烈な光景が映し出されていた。十二使徒……相変わらずメチャクチャね。
セルヴォが慎重に罠を解除しながら一般兵に的確な指示を出し、
リネルが竜の仕掛けの癖を学習し、兵士を傷つけぬよう立ち回る中。
十二使徒の連中は、そもそも「攻略」という概念を忘れているようだった。
圧倒的な光学兵器で罠もろとも拠点を木っ端微塵にするゴッドエンペラー。
サクリファイス攻撃を叩き込み、強引にこじ開けていくベルゼルガ。
この二人は、場合によっては竜をスカウトして「仲間」にするという任務の目的を完全に無視しているわね。まぁ、あの探偵が素直に要求に応じるとは思えないし、最終的には処分することになるだろうけれど。
そして、ハードネステンとタイン。
この二機は竜のスカウトを視野に入れて動いているようだけれど、その手法はやはり規格外だった。
二機は罠の存在を認識しながら、一切の回避を行わずに前進を続けていた。
ダイヤモンド型メダロット。ハードネステンの強固な装甲には、竜の仕掛けた爆圧さえもかすり傷一つ付けていない。
問題はタインの方よ。あいつ、普通に罠にかかって装甲を傷つけ、まともにダメージを食らっているように見えるのだけれど……何故か歩みが止まらないの。
「タイン、ぁなた大丈夫? かなり罠のダメージをぅけてるゎょ?」
タイン:『こんなもの!! さり気に「根性」で乗り切るぜ!!!』
……根性。
精密機械の塊である私たちメダロットにとって、最も論理的でないその一言で、あいつは深刻なダメージを強引にねじ伏せているらしいわね。
ある意味、あの男が一番、私の計算を狂わせる「不純物」だわ。
『さて、第1班、最初の隠れ家攻略。……竜の姿、無しっと』
『キッシャッシャシャ!! 多分、こっちも竜はいなかったぜ! 多分な!』
『フン……第3班、同じく目標の姿は確認できず』
セルヴォ、ゴッドエンペラー、ベルゼルガの三班から相次いで「空振り」の報告が入る。
あの探偵は、自らの敵が組織的な動きを見せるエデンだと正確に理解している節があるわ。だからこそ、大規模組織特有の「穴」――情報の伝達ラグや機動力の鈍さを突き、エデンを巧妙に遠ざけるよう立ち回る可能性があった。
この三班には、その『竜が敵を遠ざける場合』にヒットするはずの座標を攻めさせたのだけれど……。空振りなら、次の候補へ駒を進めるまでよ。
「次の地点のデータを送るゎ。その隠れ家のァンテナをぶっこゎしてから移動してちょうだぃ」
私の指示が飛ぶのとほぼ同時に、残りの班からも通信が入る。
『第4班、竜を見つけられませんでした……はぁ~』
『こちらも同様です。次の指示を』
『ぜえぜえ……こっちもだ。しっかし、さり気に疲れるな、この作戦はよぉ』
リネル、ハードネステン、タイン。こちらの三班は『竜がエデンの情報を他組織に
それでも見つからない……。けれど、想定内よ。万全を期すために、私は隠れ家を叩く順番さえも計算していたのだから。
単に「確率の高い場所」から回るんじゃない。もし外した場合、竜がどのルートで逃走するかを予測し、その退路を塞ぐように攻め順を決めている。一発目でヒットしなくても、網は確実に狭まっているはず……なんだけど。
……何かしら。この、体の奥が冷えるような嫌な予感は。
「……次に攻める地点のデータを送るゎ。アンテナの破壊後に移動してちょうだぃ」
回線を通じて、二人の女――リネルとハードネステンの「了解」という声が届く。
けれど、もう一機。あのアホ面をした男の声だけが、数秒経っても返ってこない。
『……さり気に、違う気がするぜ』
数秒の沈黙を破り、タインが低く、けれど確信に満ちた声を漏らした。
『強者のオーラがするのは……さり気に、こっちの方向だ!!』
言うが早いか、モニター上の第6班を示す光点が、私の指示した地点とは真逆の方向へ向かって、猛烈な速度で移動を開始した。
「待ちなさぃ!! タイン、命令通りに……! ッ!?」
命令を無視して爆走するタインの進行方向。その先にある座標を視認した瞬間、私は言葉を失ったわ。
そこは、今回の作戦を立案する直前、私があえて切り捨てた『三つ目の可能性』だった場所。
――『竜が、エデンという組織をたった一人で一網打尽にしようとする場合』。
確かにあの探偵は、かつて独りで巨大組織を壊滅させた実績がある。けれど、今のエデンは当時とは比較にならない戦力を持っているし、何より情報をラヴドに流すだけで「勝ち」を拾える状況なのよ。真正面から戦うなんて選択、リスクがあまりに大きすぎる。
……あまりに、非効率。合理的な「情報のプロ」なら、絶対に選ばない道。
けれど……。
「……分かったゎ、タイン。そのまま行きなさぃ。ただし、報告は秒刻みで入れなさいょ!」
『おうよ!! 任せな!!』
タインの咆哮。
けれど、あいつの独断を放置するわけにはいかないわ。一般兵の監視だけじゃ足りない。あのアホの暴走を抑え、かつ万が一の時には仕留められる本物の目が。
「セルヴォちゃん……」
『さて、こちら第1班。目的地到着まで残りおおよそ大体百二十秒ですよー』
「目的地変更ょ」
『さて、了解~……っておおおおぉぉぉいいいッッ!!?』
耳を劈くような絶叫。
掴みどころのない暗殺者の仮面をかなぐり捨て、セルヴォが全力のノリツッコミで回線を震わせた。
『さて! デュオさん!! どういうことだよ!? 到着二分前だぞ二分前!!』
「タインが命令無視したから、今からそっちぉねがぃ♪」
セルヴォは派手な舌打ちをした後、明らかに不機嫌そうな「了解」という呟きを残して通信を切った。
それから五分。
残された四つの班が次なる隠れ家への攻撃を開始したわ。
相変わらず圧倒的な暴力で拠点を更地にする十二使徒たち。そして、復讐の炎を宿しながらも、一分の隙もなく冷静にトラップを解体していくリネル。
すべては私の掌の上。混乱はあれど、状況は掌握できている。
――そう、信じていた。あの絶叫が届くまでは。
『こちら、タイン!! ブラックスタッグに、さり気に出会ったぜええぇぇえぇぇ!!!!』
……!!?
まさか。
本当に……?
竜はこの巨大組織エデンを相手に、
最初から、たった一人で私たち全員を「殺す」つもりだったっていうの!?
第十八話【DRAGON QUEST】終わり