APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

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第一話【APPEARANCE of LINELL】

第一話【APPEARANCE of LINELL】by リネル

 

 

 エデン本部。

 かつて世界を震撼させた組織の心臓部。巨大なコンクリートの塊であるこの建物は、四年前に一度崩壊したはずの爪痕を隠すように、静かに、けれど傲慢なまでの威容を湛えてそこに在る。

 ラヴドの連中はまだ戦争の後片付けに追われていて、こちらまで目が届いていないんでしょうね。エデンの復活にはまだ気づいていないようだけど、もう少し、見つかる可能性を考えて設計してほしかったわ。

 本格的な戦争を始める前に、再興した事実がラヴドに漏れたら取り返しのつかないことになる。……でも、そんなことよりも、今の私にはもっと切実な問題がある。

 

 この基地、広すぎて完全に迷子になっちゃったじゃないのよ!

 

 私の名前はリネル。

 今日からなんと、あのエデン軍の最精鋭――超エリート諜報集団『トゥルース』に配属されることになった。

 合格の通知を受け取ったときは、天にも昇る心地だったわ。「トゥルースのお部屋」と呼ばれる機密エリアへ向かう足取りも軽やかだったけれど……さすがはエデンの暗部を担う部署ね。辿り着くためのセキュリティと構造がメチャクチャに難しい!

 ヤバイわ。もうすぐ指定された時間が来ちゃう。配属初日から遅刻なんて、エリートの階段から転げ落ちるようなものじゃない! ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

 

 焦燥に突き動かされた私は、なりふり構わず廊下を全速力で駆けた。

 っていうか、この殺風景な灰色の曲がり角、さっきも通った気がするわ! パニックで完全に方向感覚を失っている。

 T字路に差し掛かったそのとき、思考回路がオーバーヒート気味だった私は、横から曲がってきたメダロットの存在に気づくのが遅れた。

 気づいたときには、もう手遅れ。車は急には止まれない。そして、この猛スピードの私も、急には止まれない。

 

 ガギィィィィィィン!!

 硬質な金属同士が正面からぶつかり合う、鈍い衝撃音が鼓膜を叩いた。

 私の頭とその人の頭が派手にご挨拶。強烈な反動で、私の華奢な機体はあっさりと後ろへ跳ね返され、床に無様に転がった。

 

「イツツ……。あ、す、すいませ……」

 

 痛みを堪えながら謝罪の言葉を口にし、顔を上げる。

 すると、視界に飛び込んできたのは、無言のままスッとこちらに手を差し伸べる、黄色い装甲を纏ったメダロットの姿だった。

 あまりにスマートな挙動に、私は呆然としてその手に縋り、立ち上がらせてもらった。

 

 この人……カ、カッコいい……。

 

 や、やだ! 何よこの、古い少女漫画のテンプレートみたいなベッタベタな展開は!

 誤解しないでよね。私はこんなことで簡単に一目惚れするような、安い女じゃないんだから。……でも!

 

『怪我はないか?』

 

 いやん、声まで低くて渋くてカッコいいわ。

 もういいわ。ベッタベタでも何でも受け入れてあげる。この出会いは、神様が用意してくれた『ご褒美』に違いないもの!

 

「は、はい」

 

 私は差し伸べられた手に縋りながら、高鳴る胸を宥めるのに必死だった。

 至近距離で見つめ合う形になり、私の目は彼の精悍な顔立ちを余すことなく捉える。でも、なんだかロマンチックな雰囲気じゃない。彼はまるで「どこかで見たことあるな、こいつ」とでも言いたげな、冷徹な観察者の目で私を値踏みしていた。

 沈黙。数秒の後、その整った口が動く。

 

『新たにトゥルースに配属されたリネルとは、君のことか』

 

「え? そ、そうですけど……」

 

 あれ? なんだか会話のベクトルがおかしな方向に向いていないかしら。私の乙女回路が予期していた甘い言葉とは、正反対の事務的な響き。

 

ビート:「トゥルースのビートだ。たぶん迷っているだろうと思って迎えに来た」

 

 ――何ですとぉぉぉぉ!?

 こ、こ、こここここの人、私が今日から仕えることになる『トゥルース』の直属の先輩だったの!?

 そんな雲の上の人に、初対面で正面衝突の頭突きをかましちゃったわけ!? これって配属初日からクビもあり得る大ピンチじゃない!

 

「あ、あの! ぶつかって本当に申し訳ありませんでした!」

 

 いまさら遅いとは思いつつ、私は勢いよく腰を折って頭を下げた。お願い、私のこの必死の誠意よ、どうか届いて!

 

ビート:「いや、構わん」

 

 ――あっさり! 驚くほどあっさり許してくれたわ! ビート先輩、見た目通りに心まで広いのね。まさに理想の貴公子だわ。

 

 その後、ビート先輩という名の白馬の王子様にエスコートされ、私は無事に『トゥルースのお部屋』へと到着した。

 聞き及んでいた話では、トゥルースの構成員は私を含めてわずか四人。だというのに、目の前に広がる執務室は四人で使うにはあまりに広すぎた。最新の端末が並び、高い天井からは柔らかな照明が降り注いでいる。さすがエデン本部の深淵。エリートは待遇からして次元が違うわね。

 部屋の最奥、ひときわ巨大なデスクに鎮座する人物へ、私はできる限り丁寧に、かつ優雅さを意識してお辞儀をした。

 

「このたび、トゥルースに配属されましたリネルです。よろしくお願いします」

 

デュオ:「ょろしく~♪ ゎたしは主任のデュオカイザーょ~ん」

 

 ……えっ、なんか、すごい軽い人が出てきた。

 意表を突かれて思わず顔を上げた瞬間、壁にかかったデジタル時計が網膜に焼き付いた。

 げっ……指定された時間を五分も過ぎてしまっている。

 最悪だわ。一発目から「時間にルーズな新人」なんて印象を持たれたら、トゥルースとしてのキャリアが終わっちゃう!

 私がどのタイミングで土下座を敢行しようかと必死に計算していると、デュオさんが拍子抜けするようなことを口にした。

 

デュオ:「それにしても、ぉもったょり早ぃゎねぃ。大抵の新人は、ぁと二時間はかかるんだけど……」

 

 ――なんですとぉ!?

 

デュオ:「困ったゎねぃ。セルヴォちゃんにあと二時間半も休憩ぁげちゃったゎょ」

 

 〝セルヴォちゃん〟ってのは、もう一人の先輩のことかしら。

 っていうかこの主任、私が二時間遅刻すること前提でスケジュール組んでたわよ! エリート集団の洗礼、斜め上すぎるわ!

 

デュオ:「ちなみにビートちゃんが初めてのときは二時間ぉくれだったゎょん♪」

 

 すごく楽しそうに暴露するデュオさん。この人のノリ、〝デュオカイザーさん〟なんて堅苦しく呼ぶより、〝デュオさん〟って呼ぶほうがしっくりくるわね。

 

ビート:「……一時間半です」

 

 少しだけムッとした様子でビート先輩が言い返す。あぁ、今のちょっとした抵抗、なんて可愛らしいの!

 

ビート:「……セルヴォを呼びに行けばいいですね、デュオさん」

 

 あ、やっぱりデュオさんって呼んでる!

 

デュオ:「ふふ~ん♪ 分かってるじゃな~ぃ」

 

 デュオさんが艶っぽくウインクすると、ビート先輩は無言で部屋を出て行った。その背中を見送るだけでも、私のテンションは上がりっぱなしだわ。メチャクチャクールで素敵!

 あ、でも、浮かれてる場合じゃないわね。

 

「あ、あの、私はビート先輩に案内されてここに来られただけで……。別に私が特別に優秀で迷わなかったわけでは……」

 

 後で「期待外れ」なんて言われるのは耐えられない。自分のポンコツぶりを正直に申告しておくのも、新人の処世術よね。

 

デュオ:「分かってるわょ。ァナタの実力を勘違ぃしたりしなぃから安心しなさぃ♪」

 

 ――あ、最初からバレてたのね……。お気遣い、ありがとうございます!

 

 ……しばらく待っていると、ビート先輩が青い装甲のメダロットを連れて戻ってきた。この人が、もう一人の先輩――セルヴォ先輩ね。

 私は気を取り直し、新人の模範となるような快活な挨拶を投げかけた。

 

「初めまして! 今日から配属になりました、新人のリネルです!」

 

 今日は朝から頭を下げてばかりだわ。でも、これもエリートへの登竜門。最初が肝心だもの。

 ところが、私の爽やかな挨拶を受けたセルヴォ先輩は、返事をするより先に、失礼極まりない視線を私に寄越した。

 彼は不敵な笑みを浮かべたまま、私の足元から頭のてっぺんに至るまで、執拗なまでにジロジロと舐め回すように観察してくる。何なの? 私の体になんか変な汚れでもついてるっていうの?

 不快感が限界に達しようとした瞬間、その口から信じられない言葉が漏れた。

 

セルヴォ:「さて、セルヴォだ。……それにしてもだ」

 

 彼は深く、心底がっかりしたようなため息を吐きながら、こう切り捨てた。

 

セルヴォ:「……色気の無い女だ」

 

 ――は あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !?

 

 何なのこの人!? 初対面の後輩に対する第一声がそれ!? それって完全にデリカシーの欠片もないセクハラじゃない! 

 怒りで回路がショートしそうになったけれど、追い打ちをかけるように彼はもう一度「やれやれ」と肩をすくめてみせた。私はアンタを喜ばせるために、血の滲むような努力をしてここに来たんじゃないわよ!!

 

ビート:「すまん……こういう奴なんだ」

 

 私の怒りが漏れ出していたのか、ビート先輩が申し訳なさそうにフォローを入れてくれた。

 ビート先輩、貴方は何も悪くないのよ! 謝る必要なんてないわ! 悪いのは全部、この青い性格ブスの方なんだから!!

 でも、愛しのビート先輩にこれ以上心配をかけるわけにはいかないわね。私は鋼の精神力を発揮して、顔面に張り付いたような不自然な笑顔を作ってみせた。

 

「いいえ、ちっとも気にしていませんから。……大丈夫です!」

 

 私の内面で吹き荒れる嵐などお構いなしに、デュオさんがパンと手を叩き、いつものハイテンションな声を響かせた。

 

デュオ:「さぁ! リネルちゃんも入ったところで、長期任務の説明を始めるゎょ!」

 

 あれ? トゥルースとしての心得とか、機密保持のレクチャーとかは無いの?

 習うより慣れろ、現場で覚えろってことかしら……。さすが、エリート集団の教育方針はスパルタね。私、この濃いメンツの中で本当にやっていけるのかしら?

 

デュオ:「今のエデンは兵の数こそ増えたものの、まだまだ小粒な個体ばかりだゎ。とぃぅゎけで、今回ゎたし達が受ける任務は、通称『十二使徒任務』。旧エデンの将軍クラスに匹敵する実力者たちを十二体ほどスカウトして、リーダー直属の戦闘特化集団――通称『十二使徒』を結成させるのが目的ょん」

 

セルヴォ:「さて。スカウトってのは、穏便な勧誘だけでいいのか?」

 

デュオ:「〝無理矢理〟連れてくるのも、もちろんオッケーょん♪」

 

 デュオさんがそう告げると、セルヴォ先輩がニヤリと、何か良からぬことを考えているようなムカつく笑みを浮かべた。対するビート先輩は、相変わらず凛々しい表情を崩さず、任務の重みを噛み締めている。

 それにしても、旧エデンの将軍クラスなんて、化け物みたいな強さだと聞いているわ。そんな凄まじい個体を一度に十二体も集めるなんて、正気の沙汰じゃないわね。

 

デュオ:「ぁ! ちなみに一人はもぅ決まったから、あと十一人でぃぃゎょん♪」

 

 えっ、もう決まったの? さすがトゥルースの主任、仕事の速さが異常だわ。やっぱりこの人は、尊敬に値する上司に違いない……。

 

 そう、トゥルースそのものは、私の憧れ通りの素晴らしい場所よ。

 でも……あのセルヴォとかいう先輩だけは、絶対に認めない。

 ふと視線を横にやれば、彼のデスクには乱雑に置かれた酒の瓶と、あろうことか教育上よろしくない類の雑誌まで積み重なっている。プロ意識の欠片も、品性の「ひ」の字もありゃしない!

 

 決めたわ。

 この最低な男にだけは、絶対に負けない。

 いつか実力でこの青い奴を追い抜いて、私がビート先輩の最高の相棒になってみせるんだから!

 

 

第一話【APPEARANCE of LINELL】終わり

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[機体解説]

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【キャラクター名】

 リネル

 

【機体名】

 リネル

 

【公式/オリメダ区分】

 公式(真型メダロット)

 

【モチーフ(型式)】

 メデューサ(MED)型メダロット

 

【パーツ】

[頭部]

 サーペンテ/デストロイ(がむしゃら)

[右腕]

 ペテロケミセルト/デストロイ(がむしゃら)

[左腕]

 ペテロケミエスク/デストロイ(がむしゃら)

[脚部]

 ペルーナフェア/二脚

 

【備考】

 公式(真型メダロット)情報を参照。

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