第十九話【REAPPEARANCE of RYU】byセルヴォ
さてさてさてさてさてさてさてさて!
オイオイオイオイ、ふざけんじゃねえぞタイン!!
ストレスがマッハで、俺の怒りが有頂天だぜ。
クソがッ! どいつもこいつも勝手な真似しやがって!!
……さて、少し落ち着くか。
このままじゃ言語機能がおかしくなって死ぬ。
さて、とにかくあの馬鹿野郎の尻拭いをするためだけに、俺は一般兵の分隊を置き去りにして、独りで訳の分からねえ座標まで移動させられたわけだ。
目の前に建っているのは、さっき叩き潰してきた竜の隠れ家にそっくりな、灰色の立方体。不気味なほどの静寂。だが、設置されていた罠のいくつかが既に作動した形跡があるな。あの脳筋野郎、ここでも罠を正面から踏み抜いて突っ込んでいきやがったのか。
呆れながら侵入経路を探っていると、デュオさんから全軍一斉送信の緊急通信が入った。
デュオ:「全軍攻撃中断!! 各部隊は班長を含み十名を選出し、今から送る地点へ移動!! 残りは速やかに退却せよ!!!」
いつもの浮ついた調子が消え失せた、冷徹な司令官の命令。
俺は嫌な予感を抱きながら、通信機に声を吹き込んだ。
「さて、デュオさん。まさかとは思うがよ……」
デュオ:「そのまさかょん! タインが竜に遭遇したわ!!」
「さて、デュオさんの精密な頭脳よりも、あの脳筋の勘が勝ったってか? そんなのアリかよ?」
デュオ:「ぃや、私の勘もここを示してぃたのだけどね……だからあえて行かせた訳だし?」
さて、勘だけでいえば互角。ただ、論理というブレーキが無かった分、あのアホの方が一歩早く動いたってことか。
そう思いたい。そうでなきゃ、長年この人を上司として仰いできた俺の立場がねえからな。
「さて、デュオさん。俺は今、その探偵事務所の真ん前にいるんだが。突入のタイミングを計りたい。タインと竜の会話ログ、こっちに流せるか?」
デュオ:「何か考えがぁる訳ねぃ? ぉっけー♪」
通信が切り替わると、ノイズ混じりに二機の会話が流れ始めた。
竜:『……以上の理由から、今私の探偵事務所を攻撃している組織は、復活したエデンだと判断したのですが。正しいですね……?』
タイン:『よく分からなかった!! さり気にもう一回説明してくれ!!』
……実にタインらしい、知性を一切感じさせない回答だ。逆に安心したぜ。
さて、会話の垂れ流しを聞きながら、俺も「仕事」を始めるとするかね。
俺は音もなく建物に接近すると、指先に内蔵された精密ツールを展開した。
入り口付近の装甲板を僅かにずらし、壁の内部を通る回路をバイパスする。
竜:『……まぁいいです。私はほぼ正しいと認識しています。……それよりも、私がここにいると分かった理由が知りたいです。どうしてここに私がいると?』
タイン:『さり気なる俺の勘だ!!』
竜:『あなたの勘で組織が動くのですか?』
タイン:『いや、これは俺の個人的な判断だぜ。何となく強者のオーラがしたんでね』
さて、ここの罠はかなり悪趣味だな。踏んだ瞬間に高圧電流か。
俺は竜の仕掛けた回路の一部を強引に引き抜き、俺の特製品――高感度の起爆チップをそこにねじ込んだ。
特定の周波数にだけ反応するように、制御装置と同期させる。
竜:『……興味深い男ですね、あなたは。勘とはいえ、私の裏をかくとは』
タイン:『そんなことよりも、お前はさり気に俺たちの仲間にすると聞いている。さぁ、俺と一緒にエデンに行こうぜ!』
さて、あらかたの準備は整ったな。
事務所の防衛システムを逆手に取った『俺の罠』のセットは完了だ。
竜:『お断りします。……私に何の利益もないじゃないですか』
タイン:『それを言われちまうとな……。確かに無理やりってのはなぁ……』
甘いんだよ、脳筋野郎。
俺は扉の電子ロックを解錠すると、重厚な扉を蹴り開けて、冷え切った闇の中へと足を踏み入れた。
「いいや、タイン。この女には無理やりでもエデンに入隊してもらうぜ。……でなきゃ、ぶち殺し確定だ」
すべての準備を終え、俺がその薄暗い部屋に踏み込んだ時、そこにはタインと竜が睨み合うように対峙していた。
さて、仮面のような無機質な無表情。極端な猫背。いかにも根暗そうな、ブラックスタッグの女だ。
正直に言えば、俺はこういう「頭が切れるタイプ」との戦闘が一番苦手なんだが、まぁいい。仕事だ。
竜:「ようやく、話のできそうな方が来ましたね……」
「さて、話なんざするつもりは無ぇよ。探偵竜、説明しなくても分かるだろ? エデンに入れ。……でなきゃ、エデンは全力でお前を抹殺する」
さて、竜の戦闘力がどれほどのものかは未知数だが、デュオさんを出し抜くほど賢けりゃ、組織の駒としてどこかで使い道もあるだろう。
何より、エデンの再興を知るイレギュラーを、エデンの外に野放しにしておくリスクは冒せねえ。
竜:「お断りします。どうぞ、抹殺してみてください」
……。
さて、とことん舐めやがって。
「さて、いいだろう。エデンを……トゥルースを舐めやがった罪、その身に刻んで地獄へ行きなッ!!」
俺は隠し持っていた制御装置のトリガーを引いた。
瞬間、天井の通気口から、無数の鋼鉄の槍が雨となって竜の頭上へと降り注ぐ。
もっとも、これは元々この事務所に仕掛けられていた罠だ。タインが派手に踏み抜いてくれた「作動済みの残骸」を、俺が即座に回収・再利用したに過ぎない。
タインが何か言いたそうなマヌケ面をしているが、知るか。
竜:「……ただし。私もあなた達を壊滅させるつもりですが」
「なッ……!?」
死の雨に晒されたはずの竜の声が、俺の真後ろから響いた。
振り返る間さえなかった。
視界が強烈な衝撃と共に火花を散らし、俺の頭部は真横から振り抜かれたハイキックによって強引に弾き飛ばされた。
そのまま壁へと激突し、衝撃で視界がチカチカしやがる。
なんだ、この女。ただの知能犯じゃねえ。戦える……『武闘派の知略家』か……!
油断もあったが、俺の死角を完璧に奪い、なおかつこれほど重たい一撃を叩き込みやがるとはな。
竜:「……さようなら」
竜は冷徹に言い捨てると、壁に設置された別のスイッチへと指先を伸ばした。
カチリ、と乾燥した音が響く。
……。
……。
だが、何も起きない。
竜のポーカーフェイスに、初めて微かな困惑の陰が差した。
「さて……。残念だったな。お前のご自慢の罠は作動しないぜ」
俺はひしゃげた装甲を軋ませながら、ゆっくりと立ち上がった。
できるだけ相手がムカつくようなニヤケ面を作って、その無機質な目を見据える。
時間が無かったんで、部分的に基盤をショートさせただけだが……俺の工作精度を侮るんじゃねえよ。
竜:「確かに、罠は封じられているようですが。……通信機器はまだ、生きているようです」
竜は室内の大型モニターと、俺たち二機を交互に見比べながら淡々と答えた。
竜:「ですから、いま、ここで。……ラヴドにエデンの情報をすべて売り飛ばすことができますが、どうでしょう?」
さて、また面倒な揺さぶりをかけてきやがる。
確かにここでこいつを殺せても、ラヴドにエデンの所在を知られるのは致命的だ。何らかの妥協案を出し、身の安全の保障と引き換えに口を塞がせるべきか。
……いや。
違うな。そうじゃねえ。
「さて、ハッタリはよせよ、名探偵さん」
竜:「ハッタリかどうかは、あなたが一番よく知っているでしょう? ここの通信機器を破壊した覚えがあるのですか?」
「いいや、無ぇよ。……だがなぁ。ラヴドに情報を売るつもりなら、お前にはそのチャンスがいくらでもあったはずだ。……なのにお前はそうしなかった。何故だ?」
竜がスイッチを強く押し込んだ。だが、やはり事務所は静寂を保ったままだ。
「さて、……お前は鼻っから、ラヴドの力なんて借りる気は無ぇのさ。お前の経歴は調べさせてもらったぜ。全部独りで片付けてきたよな?」
リネルの報告から感じた傲慢さ。
こいつはプライドの塊だ。他人を小馬鹿にして掌で転がすことでしか、自らの知性を証明できねえ類の人間……じゃねえや、メダロットだ。
ラヴドなんていう分かりやすい組織の力を借りて勝ったところで、こいつの中では「勝利」とは呼べねえんだろうよ。
「さて、だが、確かに通信回線は厄介だ。……そこで、こうする」
俺は予備のスイッチを親指で跳ね上げた。
事務所の至る所で、小規模な爆発がドカンッ!ボカンッ!!と連鎖した。
リネルを吹っ飛ばした時のような殺傷用じゃない。建物を崩さない程度の、精密な設備破壊。
俺やタインには影響はねえが……これでここの通信機器は、ただの燃えカスだ。
「さて、八方塞がりだな、探偵さん」
勝った。
確信した瞬間、竜の機体が陽炎のように揺らぎ、俺の目の前まで肉薄してきた。
速えぇ……ッ!!
放たれた一発目のハイキックを、俺は首を傾けて紙一重でかわした。だが、間髪入れずに二発、三発……。ミドルからローへと流れるような、一点の淀みもないコンビネーション。
最後の一撃。避けきれないと悟り、俺は両腕を交差させてガードしたが、その重圧を殺しきることはできなかった。
ッ、ガギィィィン!!という嫌な音を立てて俺は吹っ飛ぶ。
クソがぁ……!!
屈辱だが、純粋な格闘戦じゃ、俺の性能ではこいつにかなう気がしねぇ……。
タイン:「お前ら、さり気にいい加減にしろッ!!」
そうだ。まともな正面衝突なら、十二使徒の「怪物」がいたんだったな。
タインが竜の背後を取り、その細い腕を強引に締め上げた。
タイン:「仲間にするってのに……さり気におかしいだろうが、こんなの!!」
……さて、まだそんな寝言を言ってやがんのか、このバカは。
今のやり取りを見てりゃあ、こいつがエデンに入る気なんてさらさらないことくらい、確定的に明らかだろうが。
おっと……。少し言語機能が乱れたか。蹴りを食らいすぎたらしい。
「さて、ナイスだタイン。そのままその女を固定してろ!!」
俺は左腕のハンマーを限界まで励起させ、動けない竜の頭部へと振り下ろそうとした。
「今度はテメェの言語機能を、粉々に狂わせてやるよ!!!」
タイン:「やめろおおおぉぉぉぉぉッッッッ!!!」
「がぁっ!!?」
放たれたのは、俺の顔面への渾身の正拳突きだった。
再び壁へと叩きつけられ、今度は本当に視界がブラックアウトしかける。
見なくても分かる。
タインの糞野郎が、あろうことか任務遂行中の俺を、……味方をぶん殴りやがった。
タイン:「俺は、こいつを仲間にするとさり気に聞いてたんだぞ! なのにお前ら……。女一人のために軍隊動かして、結局ぶっ殺すのかよ!?」
「さて、……。こいつはエデンにとって、邪魔すぎるイレギュラーなんだよ。テメーもエデンの一員なら、俺じゃなくてその女を殴れッ!!」
タイン:「断る! ……一つだけ答えろ。……お前たちの『正義』ってのは、一体何なんだ!?」
正義……?
さてさて、こいつ……マジで分かってねえな、オイ。
「さて、トゥルースとしての正義ってんなら、『任務達成』以外に価値なんてねえよ。それ以前にだ、タイン。……お前、勘違いすんなよ」
俺は壁を背に、泥とオイルを吐き捨てて言い放った。
「エデンってのはな。自分勝手な正義を振りかざして、かつて人間を全滅させた組織だ。今だって、戦争なんていう厄介なモンを起こそうとしている……救いようのない『悪』なんだよ。……悪の癖に、正義ぶってんじゃねえよ」
そうだ。エデンは悪だ。
そしてそのエデンの中でも、俺たちトゥルースは、卑怯で汚い「悪の中の悪」だ。
タイン:「……確かに、エデンは悪かもしれない。俺は、さり気にそこの一員だってことは認める。……約束だからな」
ほらみろ。分かってんじゃねえか。俺たちはクズだ。
それでも。
悪には、悪にしか持てない美学がある。
目的のためなら、その指先をどれだけドロドロに染めても文句は言わねえ。そんな覚悟を決めた奴らだけが、このトゥルースで生き残ってきた。
そして、悪には、悪なりの『居心地の良さ』があるのさ。
他の兵士も、十二使徒も、きっと根っこは同じだ。
掃き溜めのような場所で、同じ志を持った仲間とつるんで、笑って、馬鹿をやって、たまにキレる。
……そうやって、いつの間にかエデンが自分にとって唯一の『居場所』になっちまった奴は、俺の他にもいるはずだ。
そんな下らねえ理由で、戦争をおっぱじめようとしているクズが。
悪のために手を汚す覚悟を決めたヤツが。
今さら「殺し」なんていう当然の結末を、否定できるわけねぇだろ。
タイン:「……でも、違うんだよ。この女を仲間にすると決めた以上は……。さり気に、どんなに俺たちが悪であったとしても、クズであったとしても……!!」
タインの腕の中で、竜はポーカーフェイスを崩さず、静かに様子を窺っていた。
反撃の計画を練っているのか。あるいは、自分を巡って衝突する二機の言葉を、情報の欠片として収集しているのか……。
タイン:「……それは、こいつが殺されていい理由にはならねえんだよッッッッ!!!!!」
「さて、……やっぱり分かってねえよ、タイン。……〝悪の美学〟ってやつがな」
タイン:「――そんなふざけた美学は、俺がさり気にぶっ壊す!!」
第十九話【REAPPEARANCE of RYU】終わり