第二十一話【APPEARANCE of MESH , CALIPUR , KIDU & GENJI】byセルヴォ
さて……。
例の「竜探索戦」が幕を閉じてから、早一ヶ月。あの探偵の入隊手続きとやらは、経緯が経緯だっただけに、事務処理の段階で文字通りの暗礁に乗り上げていた。
本当にこいつはエデンを裏切らないのか、寝首を掻かないか。そんな、組織としては極めて真っ当、かつクソほど面倒な確証を得るために、俺たちトゥルースは連日、情報の荒波と不毛な交渉の泥沼に叩き落とされていた。
さて、そんな地獄の日々の果てに、現在この俺が何をしているかと言えば。
――薄汚ねぇ牢屋の中で、謹慎の身に甘んじていた。
忌まわしき事件の引き金は、およそ四時間前にまで遡る――
終わりの見えない地味なデスクワークを積み重ね、機体の発熱が危険域に達していた頃。俺は廊下のベンチで、今にも口から魂が抜け出しそうな虚ろな面を晒していた。
何かを、景気良くドカンと爆破でもさせなきゃやってられねぇ。そんな破壊衝動が思考回路を支配し始めたその時だ。
目の前を、鈴を転がすような涼やかな音が通り過ぎた。
流れるような曲線美、気品すら感じさせる装甲の質感。
……疲れていたんだと思う。癒やしという名の不純物を、俺のメダルが求めていたんだろうな。
後悔しているが、反省はしていない。
気が付けば俺は立ち上がり、音もなくその女の背後に忍び寄っていた。そして、その優雅な曲線を描く尻を撫で回しながら、極上の口説き文句を吐こうとした。
女の顔を見た瞬間、俺の視界に『終わり』が降ってきた。
ハードネステン:「し、し…… 仕 事 中 に 何 し て る ん で す か ァ ァ ァ ー ー ー ッ ! ! ! 」
教訓。口説いていい相手かどうかの識別は、どれほどオーバーヒート気味でも怠るべからず。
――以上、回想終了。
さて、そんなこんなで俺は、ハードネステンの強すぎる権力と、火山のように激しすぎる怒りの余波によって、予定されていた休憩を超えた「超休憩」を強制される羽目になったわけだ。
とはいえ。このカビ臭い牢屋の中で十日間もじっとしていろなんて、退屈で死んじまう。
幸いなことに、俺は『トゥルース』だ。
それが何を意味するか。俺はここから出る術を熟知しているし、監視カメラの死角も掌握している。ついでに言えば、見張りの兵士を大人しくさせるための「ネタ」も、何件か引き出しに隠し持っている。
さて、最近忙しくて顔を出せていなかった店が、何軒かあったな。
謹慎という名の自由を謳歌しに、シャバへ遊びに行きますかね♪
ビート:「……で? このクソ忙しい最中に、何故俺は呼び出されたんだ?」
脱獄の準備を整え、鉄格子の前に相棒を呼び出した。ビートの奴、各部の関節が軋むほどダルそうな顔を隠そうともしていねぇ。お疲れ様だな、優等生くん。
「さて、ちょっくら脱獄してくるわ」
ビート:「……手伝えと?」
「いや、そういうわけじゃねーが。もし万が一上が嗅ぎ回ってきたら、適当に尻拭いしといてくれ」
ビート:「断る」
「さて、よろしく頼むぜ! 謹慎が解ける前日辺りには戻るからよ!」
俺は言いたいことだけを最速で吐き出すと、呆然と立ち尽くす相棒を残して牢を後にした。
あんなつれないことを言ってはいるが、最後には折れてくれるのが我が相棒ビート君の美徳だ。信じてるぜ。
……さて、脱獄の礼に、高そうな酒でも土産に持ち帰ってやるとするかね。
ちなみに、牢屋の監視役だったボブの野郎は、組織の備蓄倉庫から高級オイルをくすねている決定的な証拠を突きつけてやったら、顔色を変えて鍵を開け、挙句に「お気をつけて!」と爽やかに送り出してくれたぜ。
―
さて、久々に外の空気を吸い込むぜ。
エデン本部のあの
さて、このまま羽を伸ばして行きつけの店をハシゴしてやろう――そう目論んでいたんだが、ここで想定外のトラブルだ。
俺が
気のせいだと思いたいが、あのお嬢様の執念深さを考えると、俺の「超休憩」の行き先を潰しにかかっている可能性は極めて高い。念には念を入れて、馴染みの店には近づかない方がよさそうだ。
……そうして店を転々としてみたものの、驚いたことに全滅だ。どの店も入り口にゃ、ご丁寧にエデン兵が
さて、完全に行き場を失ったな。
おとなしく牢屋に戻ってボブと世間話でもするか? いや、そんなの
仕方ねぇ。どこか適当な、軍の目が届かない辺境の飲み屋で一杯ひっかけよう。この貴重な休暇の使い道は、油を買って考えるとしようじゃねぇか。
そう思い立ち、センサーの感度を上げて店を探してみたんだが、結局辿り着いたのは名もなき村の、今にも崩れそうなボロい酒場だった。
まぁいいさ、酒さえありゃあな。そう自分に言い聞かせてドアを蹴り開けると……。
男。男。男。……からの、追い打ちをかけるように男。
店内は、手入れもされず錆の浮いたを晒した、むさ苦しい野郎どもの溜まり場だった。
さて、どうにも今日は運に見放されているらしい。俺は溜息をつきながらカウンターの片隅に腰を下ろし、適当な安酒を注文した。
喉を通るオイルは、可もなく不可もなく。不純物の混じった液体を回路に流し込みながら、俺はぼんやりとこれからのプランを練っていた。
女遊びは絶望的、野郎とつるむ趣味はねぇ。どうやってこの退屈を殺すか……。
そういや、ビートの奴に高い土産でも買って帰らねぇとな。あいつ、口では「断る」なんて言いつつ、菓子折り一つで機嫌が直るチョロい奴だからな。
そんなことを考えていると、背後から不自然なほど威勢のいい、やかましい一団がなだれ込んできた。
???:「ファーッファッファッファ! 久しぶりだなオヤジ!! 元気に油売ってたか!?」
そこにいたのは、トランプのエースをモチーフにしたメダロット――『ファーストエース』をリーダーとした四機組だった。
どうやらこの界隈では有名人らしく、店の主人が顔を綻ばせて応対している。
店主:「メッシュにカリパー、キドゥ、ゲンジか。久しぶりだな、お前さんたち」
メッシュ。それがあのファーストエースの名前らしい。
メッシュ:「今から『フユーン』に行くんだ」
店主:「ほう、あの呪われた遺跡にか? なんでまた」
メッシュ:「ファッファッファ……! 何やらあそこに『秘宝』が眠っているという噂を耳にしてな。トレジャーハンターの血が、うずくのさ!!」
店主:「トレジャーハンター? 何一つまともな宝を持ち帰った試しのないお前が、か?」
メッシュ:「こ、これからだ! これからすごいのを掘り当てるんだよ!!」
さて、どうやらあのメッシュとかいうのは、中身の詰まっていない、ただの愉快な奴らしいな。他の三体、カリパーとかいう奴らは慣れきっているのか、そのやり取りを菩薩のような無表情で眺めていた。
……ん? 待てよ。
さて、確か『フユーン』って言ったか。
あそこには確か……伝説の……至高の……。
この世のあらゆる
――『ヘベレケスペシャル』。
割られたボトルのシミが、脳裏に鮮烈に蘇った。
「 ち ょ っ と 待 った ぁ ぁ あ あ ぁ ぁぁ ぁ あ あ あ ぁ !! 」
さて、俺の理性は、考えるより先に身体を跳ね上げさせていた。
あまりの勢いに、座っていた椅子が後方へと『ぽぽぽぽ~ん』と派手な軌道を描いて吹っ飛んでいく。
メッシュ:「お……?」
「さて、そのお宝探し。この俺も、一枚噛ませてもらうぜ!!」
椅子の生死なんざ知ったことか。
俺の突然の咆哮に、店内の野郎どもがドン引きしているのもどうでもいい。
美味い酒! 伝説のオイル! 今の俺の思考回路は、それだけに占拠されていた。
人差し指をビシィッとメッシュに突きつけた俺の姿が、そのおめでたいトレジャーハンターの目にはどう映ったのか。
メッシュは目をキラキラと輝かせ、これ以上なく好意的な笑みを浮かべた。
メッシュ:「ファッファッファッファ!! お前、面白いな!!」
さて、お前に言われたくはねーよ!!
第二十一話【APPEARANCE of MESH , CALIPUR , KIDU & GENJI】終わり