第二十六話【すすたけ村の優等生】byデュオ
竜、メッシュ、カリパー、キドゥ、ゲンジ。
一挙に五体の実力者が、我がエデンの最高戦力『十二使徒』として正式に登録されたわ。
特に竜については、加入経緯ゆえに他メンバーよりも幾分か厳しい規律を課し、監視下に置くことになったけれど。ともあれ、我がトゥルースが手繰り寄せた糸は、着実にエデンの喉元を太く、鋭く鍛え上げている。
セルヴォの脱走という下らなすぎる騒ぎのせいで無駄な時間を食わされたけれど、あの大馬鹿野郎の謹慎も解けたことだし、ようやく次の『獲物』を探す準備が整った。
けれど、ここで一つ厄介な問題が浮上した。
これまでの十二使徒探しは、もっぱら戦場に漂う『噂』を頼りにしてきたわ。社会的な地位もなく、万が一失踪しても世間が騒ぎ立てないような、根無し草の強者たち。
ところが、ここ最近のネットワークログに、嫌な文字列が頻出するようになったの。
――『何処かの組織が「メダ攫い」をしているらしい』。
……困ったことになったわね。
やはり、竜を追い詰めた際、軍を動かすほどの派手な立ち回りを演じたのが不味かった。
目立ちすぎたのよ。本格的な戦争の火蓋を切るまで、エデンの再興は絶対の機密。
これ以上の露見は、ラヴドの主力軍を呼び込む致命的な事態になりかねない。今後は火花を散らすような戦闘は避け、極力スマートに、平和的に事を進めなきゃいけないわ。
平和的に、平和的に……。
そうね。一つ、面白いアプローチを思いついたわ。
私はこれまで、ベルゼルガのような山賊が暴れる村や、タインのような格闘家が暴れる地帯……つまり『戦いの匂い』がする場所にばかりセンサーを向けてきた。
けれど、逆に考えてみる。
未だに戦争の爪痕が深く残り、略奪や紛争が日常茶飯事のこの世界で。もし、どこにも属さず、暴力とも無縁な『平和な場所』が存在したならば。
それは統計的に見て、極めて特異な、異常な現象だと言えないかしら?
その平和を維持している「根拠」を辿れば、おのずと未発見の強者に辿り着くはず。そして、平和を愛する個体ならば、力尽くよりも搦め手の方が落としやすい可能性があるわ。
そうして情報を精査した結果、一つの「異常」が網に掛かった。
その場所の名は――『すすたけ村』。
ラヴドの統治を受けていない境界領域にありながら、戦中も戦後も、奇跡的な平穏を保ち続けている集落。
野盗が現れることもなく、道を踏み外した軍の脱走兵に食い物にされることもない。
噂によれば、その均衡を独りで支えている一機のメダロットがいるらしい。
類まれなる戦闘の才能を持ちながら、害悪を退けるだけでなく、時には説得し、改心させて村の一員として迎えてしまう……。
村を守る若き英雄。……いい素材じゃない。
詳細を調査する必要があるわね。誰を派遣しようかしら。
……セルヴォ、あいつは真っ先に除外ね。
隠密行動ができないわけじゃないけれど、あの性格のせいで、どうしても話を暴力的な方向へ持っていきがちだわ。我が強すぎるのよ。
けれど、その我を押し通してまで任務を完遂してくるから、あの大馬鹿が優秀なのは認めざるを得ないのだけれど。事実、今の十二使徒の殆どはあいつの活躍で入隊しているし。メッシュたちの件がなくとも、エデンが手放すには惜しすぎる逸材だわ。
今回はただ、あいつの不得意分野というだけ。
そうなると、選択肢は一つしかないわね。
―
ビート:「すすたけ村……ですか」
やはり、ビートしかいないわね。
この男の石像のように物静かな性格と、波風を立てずに真実を掬い上げる丁寧な仕事ぶり。今回のような「平和的な勧誘」という極めて繊細な任務において、エデン中を探しても、彼以上の適任者は見当たらないわ。
「ぅん♪ そこに偉く強ぃコがぃるらしぃから、ちょっと調査してきて頂戴♪」
ビート:「了解しました」
ビートが短く、けれど確かな信頼を感じさせる声で応じる。すると、その横でずっと落ち着かなそうに脚を揺らしていた青い影が、案の定口を挟んできたわ。
セルヴォ:「さて、デュオさーん。俺へのオーダーは?」
「セルヴォちゃんは、もう少し前回のことを反省するために事務仕事ょ♪ ぉ外はぉ預け、ね♪」
セルヴォ:「……はい」
さて、と吐き捨てる元気もなく、セルヴォは力なく肩を落としたわ。
間違っても「お前のようなガサツな男には向いていない」なんて本音を漏らしてはいけないのよ。この男はプライドで動く生き物。今は「規律」という枠組みで大人しくさせておくのが、トゥルースの主任としての正しいマネジメントよ。
リネル:「デュオさん! 私も、私も行きます!!!」
「ぇ?」
リネルが身を乗り出して食いついてきたわね。
ただの調査任務ならビート一人で十分……ああ、なるほど。そういうことね。
チラリと、彼女が憧れの眼差しを向けている先――無表情なビートの横顔を確認して、私は心中でニヤリと笑ったわ。
「ぅ~ん……じゃあ、任務はリネルちゃんとビートちゃんに任せちゃおうかしら♪」
リネル:「はいっ!」
リネルが小さくガッツポーズを取る。
当のビートは、その隣で繰り広げられている新人の一喜一憂に全く気づいていないようだけど。まぁ、いいわ。新人に経験を積ませる意味でも、二人一組で行かせるのが最善ね。
リネル:「では、デュオさん。標的の特徴を教えてください!」
「ぇーとね。ちょっと珍しぃ機体で、メタル・ビートルょん♪」
ビート:「メタル・ビートル……」
「そ♪ ビートちゃんと同じKBT型ょん♪」
同じタイプのメダロットのことなら少しは分かるだろう。そういう意味でも、ビートがこの任務に就くのは必然だった。
「ぁともう一つ、分かりやすぃ特徴がぁるらしぃの」
ビート:「……?」
リネル:「……なんですか?」
期待に満ちた二人の視線が私に集まる。
これも「噂」の断片に過ぎないから、情報の信憑性は保証できないけれど。情報のプロである私が、あえて資料に残した最高に不確かなキーワード。
「関西弁♪」
第二十六話【すすたけ村の優等生】終わり