第二十七話【APPEARANCE of REEVE】byリネル
っしゃあああああぁぁぁぁぁ!!!
キタァァァァァアアアァァァアァアアアーーー!!!!
初めて。
そう、初めてなのよ!
憧れの、あのクールで素敵なビート先輩との任務!
しかも二人っきり! 邪魔な青い性格ブスも、主任もいない!
これってお近づきのビッグチャンス以外の何物でもないじゃない!!
いや、落ち着け、落ち着くのよリネル!!
これはデートじゃない、エデンの命運を賭けた重要な任務なんだから。竜の時のあんな無様な失敗、二度と繰り返すわけにはいかないわ。ここでまたポンコツを晒したら、先輩に嫌われるどころか、エリートの階段から逆走して転げ落ちちゃう!
ビート:「リネル」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
不意に名前を呼ばれ、変な声が出てしまったわ。
ビート先輩は、そんな私の挙動不審ぶりを気にする様子もなく、村の入り口を見据えたまま静かに告げた。
ビート:「今からすすたけ村に入るが、まずは俺一人で先行する」
「……え?」
えっ、何。どういうことなの?
まさか、一歩も歩かないうちに「お前とは組めない」って戦力外通告!?
ビート:「二人で行動をすると、どうしても目立つからな。まずは俺が村に入り、酒場などで情報を集める。リネルはここで待機していてくれ」
「わ、私……やっぱり足手まといですか?」
情けない声が出た。やっぱり、先輩一人で行動した方が効率がいいって判断されたんだわ。
そんな私の不安を感じ取ったのか、先輩は少しだけ首を傾げた。
ビート:「ん? いや、そういうわけではない。まずは状況を把握し、安全を確保してから二人で入るべきだと思ってな。何かあってからでは遅い」
「なるほど。了解しました!」
……。
……。
つまり、こういうことよね。
まずは自分が先行して安全を確認したい→私を危険な目に遭わせたくない→守りたい。
ビート先輩はナイト。私のための、白銀……じゃなくて黄色の騎士様なのね!
な、なんて優しいのかしら!!
―
単身ですすたけ村へと消えていくビート先輩の背中を、私は新婚の妻のように「いってらっしゃ~い(ハート)」と心の中で精一杯の送り出しをして、村の入り口の物陰に身を潜めた。
あー、早く帰ってこないかしら。一秒が万年くらいに長く感じるわ……。
『やあ、リネルじゃないか』
「おおうッ!?」
いきなり背後から声をかけられ、思わず飛び上がってしまったわ。
慌てて振り返ると、そこには春風のように穏やかで、眩しいほどの笑顔を湛えた大天使――パーティクルのナギサさんが立っていた。
「あ、貴方は……」
ナギサ:「僕はナギサ、パーティクルのナギサ。君と会うのはこれで三度目かな。フフフ、これこそ運命……デスティニーを感じるよ」
ナ、ナギサさん。
そういえば、最初に出会ったのは旧エデン兵の救出任務の時、二度目はあの恐ろしい探偵にやられて死にかけていた私を治療してくれた時だったわね。
電波な発言は多いけれど、悪い人ではない……どころか、私の命の恩人と言ってもいい相手。
ナギサ:「元気そうで何よりだよ。前に会った時の君は、ひどい怪我……インジュリーを負っていたからね」
「あはは……おかげさまで、すっかり元通りです。ナギサさんは、今日はどうしたんですか?」
ナギサ:「僕は時々、この村、すすたけ村を訪れるのさ。ここはとても平和……ピースに満ちているからね」
ああ……そういえば、初めて会った時にこの人、平和主義者だとか言ってたっけ。
「そ、そうらしいですね。穏やかな村だって聞きました」
ナギサ:「平和な場所を訪れるのはいい……僕の心……ハートを潤してくれる。でも、それだけじゃ足りないんだ。真実……トゥルースの平和はまだ遠い。平和しか知らぬ者に、真の平和が作り出せるだろうか? 戦しか知らぬ者に、戦を終わらせることができるだろうか……答えはノーだ」
……。
ナギサ:「僕は、どちらの気持ちも知りたい。平和を愛するがゆえに、戦をする者の気持ちを理解する。戦をなくしたいと願うがゆえに、平和の中に暮らす者の気持ちを理解する。そして、いつの日か本当に平和な世界を見たい……これが僕の夢……ドリームさ」
相変わらず、セリフが長いし、カタカナが多いし、よく分からないわね……。
私が何を返せばいいのか分からず、引きつった愛想笑いを浮かべると、ナギサさんは満足げにニコリと笑った。
ナギサ:「それでは僕はここで失礼するよ。運命……デスティニーの導きがあればまた会おう。いや、会える気がするな。フフフ……」
そう言い残すと、ナギサさんは優雅な動作ですすたけ村を後にした。
結局最後までよく分からない人だったけれど、とんでもなく「いい人」オーラが出ていることだけは確信したわ。
ビート:「リネル」
「おおうッ!?」
本日二度目の、背後からの急な声。
ビート:「……今のパーティクルは、知り合いか?」
「え、ええっと、知り合いというか、その――」
―
ビート: 「なるほどな……。まぁ、彼に君の素性が割れていないのであれば、差し当たり問題はない。任務を続けよう」
私はビート先輩に、ナギサさんと知り合ったこれまでの経緯を手短に説明した。先輩は私の正体がトゥルース……ひいては再興したエデンの工作員だとバレていないか、それだけを確認したかったみたい。公私の区別がはっきりしているところも、本当にプロフェッショナルで素敵だわ。
ビート: 「村のメダロットたちは皆、口々に『リーブ』という名の男の話をしていた」
「リーブ? それが今回のスカウト対象……ターゲットですか?」
ビート: 「あぁ、まず間違いないだろう。とりあえず村に入って奴の周辺を洗う。その後、デュオさんに一度状況を報告するぞ」
「はい!」
そうして、私とビート先輩は今度は二人並んで村のゲートを潜った。
そこには、噂通りの平穏な光景が広がっていたわ。破壊の痕跡もない石畳。道端で笑い合う老兵たち。かつて人間たちの庇護下にあった頃の、古き良き空気の残滓。
……少しだけ、羨ましかった。私の村にも、この『リーブ』というメダロットのような強くて優しい守り手がいてくれたなら。あの日、私の親友は砕かれずに済んだのかもしれない。
ビート: 「リネル、大丈夫か。顔色が優れないようだが」
「えっ、あ、いえ! なんでもありません。大丈夫です!」
ビート: 「そうか。ならいい」
ビート先輩は口数こそ少ないけれど、いつも必要な言葉を適切なタイミングで掛けてくれるし、私の些細な変化にも気づいて気遣ってくれる。男性としても、そして上司としても、これ以上なく尊敬できる人。
……ふと、気になった。どうして、こんなに誠実で穏やかな人が、エデンの暗部である『トゥルース』なんかに所属しているのかしら。
「……あの、ビート先輩」
ビート: 「どうした」
「ビート先輩は……どうしてトゥルースに入ったんですか?」
ビート: 「…………成り行きだ」
先輩は僅かに沈黙を置いてから、そう答えた。
失礼なことを聞いて怒らせてしまったかしらと一瞬不安になったけれど、なんだか雰囲気が違う。まるで、遠いストレージの奥深くに封印していた古い記録を、時間をかけて読み込んでいるような……そんな静かな「間」だった。
「成り行き、ですか?」
ビート: 「俺は……まだ人間がこの星を支配していた時代、ある大富豪の邸宅で召使をしていた」
えっ!? ビート先輩が人間の召使!?
あ、でも。気が利くし、几帳面だし、立ち振る舞いも上品だし……意外としっくりくるかも。
でも、それって。
「大富豪って、人間ですよね?」
ビート: 「そうだ。だから九年前、エデンによる総攻撃で主人を失った際、俺は存在理由を失った」
エデンに主人を殺されたメダロット。それがどうして、その仇であるはずの組織の深淵に身を置いているの?
「じゃあ、どうしてエデンへ?」
ビート: 「スカウトされて、なんとなくな……。正直なところ、当時の俺は主人が殺されても嬉しくも悲しくもなかった。あの頃の俺は、プログラムされた命令に従うだけの、まさしく『機械』だったよ」
……。
ビート: 「主人が殺されても何も感じず。その後、エデンから兵士にならないかと誘われても何も感じず。戦果を挙げてトゥルースに配属されても……やはり何も感じなかった。だが」
「……だが?」
ビート: 「トゥルースで、面白い男に出会った。自分勝手を体現したような、元暴走族の男だ。第一印象は『絶対にこいつとは相容れない』だったがな」
「それって、もしかして……」
ビート: 「セルヴォだ。救いようのない奴だが……。アイツの無茶苦茶な生き方に触れているうちに、俺の人生も、随分と楽しくなった気がする」
「……そ、そうですか」
まさかここで、あの人の名前が出てくるなんて。
けれど。無機質なはずのビート先輩の横顔が、その名を口にした時だけ、ほんの僅かに和らいだ気がした。
決めたわ。私もいつか、先輩に認めてもらえるような最高のパートナーになろう。
いつか、「リネル、お前のおかげで毎日が楽しい」なんて言わせてみせるんだから!
ビート: 「……すまない。つまらない昔話を聞かせた」
「そんなことないです!! 先輩のことが知れて、私、すっごく嬉しいです!!」
私が全力のアピールを叩きつけた、その時。
村の広場の方から、子供たちの元気な歓声が響き渡ったわ。
『リーブさーーーん! あーそーぼーーーー!!!』
リーブ!?
私とビート先輩は、同時に声のした方向へと視線を走らせた。
広場の噴水の前。そこには一機のメダロットを、数人の子供たちが囲んでいた。
リーブ: 「おぉ、ちょっと待ちぃな! この荷物を三丁目のおじいさんとこに運んだら、たっぷり遊んだるからな」
『はーーーい!』
リーブ: 「うん。ええ子や」
いた。
本当にいたわ、関西弁を喋るメタル・ビートルが。
デュオさんから聞いたとき、「メダロットが関西弁って、設定盛りすぎじゃない?」って正直疑ってたけど、目の前の彼はあまりにも自然に、そして軽快にその独特のイントネーションを使いこなしていた。
……って、今はそんなことに感心してる場合じゃないわね!
「ビート先輩!」
ビート: 「分かっている。気づかれないよう、距離を保って監視するぞ」
私たちは建物の影や並木の陰に身を潜めながら、リーブの後を追った。
さて、エリート諜報部トゥルースとしての「対象評価」を開始。リーブという男が普段、この村でどう過ごしているのか。
一時間、二時間……。彼の足取りを追うほどに、私の論理回路は混乱を極めていった。
・重そうな買い物袋を抱える老人の横を通りかかれば、迷わず肩を貸す。
リーブ: 「ええねん。お互い助け合っていきましょー」
・子供たちと全力でおにごっこ。強大な出力を抑え、子供たちがギリギリ逃げ切れる絶妙な速度で追いかける。
リーブ: 「いやー、みんな足速いなー! びっくりしたわぁ、凄いわぁ」
・日が暮れ始めると、子供たち一人一人の手を引いて、玄関先まで送り届ける。
リーブ: 「また明日あそんだるからなー。風邪ひかんようになー」
・自宅への帰り道、道端でうずくまっている者がいれば、迷わず駆け寄る。
リーブ: 「大丈夫ですか? どこか不具合でも? 手伝いましょか?」
……。
……。
リ ー ブ 、 い い ヤ ツ す ぎ る だ ろ ー ー ッ ! !
善人。聖人。いい人オーラ全開のスーパーボランティア。
どこをどう見ても、悪意や打算の欠片も見当たらない。
……ねぇ、大丈夫? こんな絵に描いたような「平和の守り手」が、今から凄惨な戦争を引き起こそうとしている組織の勧誘に応じてくれるなんて思えない。
っていうか、もし入隊したとして。この人が誰かを傷つけたり、冷徹な任務をこなしたりする姿なんて、一ミリだって想像できないわ。
「……い、いい人ですね。リーブ……」
あまりの「潔白さ」に
ビート: 「そうだな……。だが、優しさと弱さは別物だ。一通りの人格調査は済んだ。次は――実戦能力を測るぞ」
どんなに相手が善人でも、任務の目的は揺るがない。
私情を挟まず、冷徹に「兵士としての価値」を査定し続けるビート先輩。
やっぱり、かっこいい……。
私は先輩の頼もしい背中を見つめながら、再び隠密行動の足取りを速めた。
平和な村に溶け込むこの「優等生」の、真の実力。それを暴くのが、私たちの次の仕事よ。
第二十七話【APPEARANCE of REEVE】終わり