第二十八話【KBT VS KBT】by ビート
目標を視界に捉えた。
デュオさんのもたらした情報の通り、広場に佇むあのメタル・ビートルこそが、今回のターゲット――リーブに相違ない。
遠目から見る限り、歪んだ殺気や傲慢な自尊心は見当たらない。まずはその点に安堵した。あの探偵の時のような、泥沼の知略戦はもう御免だからな。
こいつが『十二使徒』の椅子に座るに相応しい器か、試させてもらうか。
「リネル」
リネル:「はい!」
「俺は少し、仕込みをしてくる。お前はリーブを人目のない、静かな場所へと誘い出してくれ」
目立つ立ち回りは本意ではないが、機体性能の本質を暴くには実戦に勝る回答はない。平和を愛するこの男を「戦場」へ引きずり出すための工夫が必要だった。
リネル:「直接接触して、誘い出す……ということでいいんですか?」
「あぁ、頼んだぞ」
リネル:「分かりました。任せてください!」
リネルは元気よく返事をし、迷いのない足取りでリーブの元へと向かっていった。
俺も、仕事を始めるとしよう。
準備といっても、やることは至ってシンプルだ。かつてのタイン戦と同様、左腕を「隠蔽パーツ」へと換装し、光学的に姿を消す。
リーブの戦闘データを精細に記録し、かつ俺自身の顔を悟られないためには、これが最適解だ。
駆動音を殺し、リネルが首尾よくリーブを誘導する様を、死角から尾行する。
リネルの工作は見事なものだった。
「大切な物を落として困っている」という、リーブの善意を真っ向から突く筋書き。この短時間で相手の性格的特徴を捉え、最適な嘘を構築する。彼女の『トゥルース』としての未来は、案外明るいのかもしれないな。……まぁ、この闇の世界に身を置いている時点で、未来が明るいなどという言葉は矛盾でしかないが。
しばらく背後をつけていると、二機は建物の影、人気のない路地裏へと差し掛かった。
リネル、よくやった。あとは、俺が引き継ぐ。
まずは、挨拶代わりのライフルだ。
光学的な歪みを維持したまま、俺は銃口をリーブの肩口――機動を殺し、かつメダルを傷つけない一点へと固定し、引き金を絞った。
――ッ、ガギィィィン!!
リーブ:「伏せてください!」
驚異的な反応だった。
リーブは、リネルを自身の背後へと庇い、あろうことか俺が放った不可視の弾丸を、自らのライフル射撃で空中で真っ向から撃ち落としてみせたのだ。
……この時点で、実力は計り知れた。
見えない位置から飛来する、一弾。それを知覚し、正確な狙いで迎撃するなど、通常のKBT型にできる芸当ではない。少なくとも、俺には真似できない。
リーブ:「……誰かいはりますね。何が目的ですか?」
答える義理はない。
俺は返答の代わりに、探知を避けるべく、横方向へ移動した。
リーブ:「大人しくしてください!」
直後、俺の足元に正確なガトリングの連射が突き刺さった。アスファルトが弾け、火花が装甲を掠める。
俺の居場所を特定したのか?
タインのような非科学的な「第六感」か。それとも。
リネル: 「ど、どうして誰かがいるって分かるんですか!?」
リネル、いい質問だ。
俺が攻撃の手を緩めずリーブを追い詰め、リネルが「か弱い被害者」を演じながらリーブから情報を引き出す。事前の打ち合わせもなく、彼女は俺の意図を汲んで役割分担を遂行していた。
リーブ: 「音、砂埃、地面に残る微かな凹み、それに銃の発射音……。よう分からんのですけど、何者かに狙われてるんは確かですわ。危ないから、下がっといてください」
リーブが冷静に告げる。
驚いたな。タインのような野生の勘ではない。奴は周囲の環境情報を極めて高い精度で処理し、論理的に俺の座標を特定してみせたのだ。
分析能力、そして正確な射撃。リーブという男、カタログスペック以上に器用だ。
ならば、次は「手数」への対応を見せてもらおうか。
俺はライフルの銃身を収め、頭部のハッチを開放した。装甲の隙間から、熱を帯びた弾頭が姿を現す。
――誘導弾、射出。
リーブへ向けて、ミサイルが白煙を引いて飛び出した。
だが、リーブは眉一つ動かさなかった。彼は最短の予備動作で銃口を跳ね上げると、飛来するミサイルの信管を正確に撃ち抜いた。
―――ズ、ドォォォォォォンッ!!
空中で爆ぜる熱波。
リーブはその爆風を背に、戸惑うリネルの手を引いて後方へと全力で走り出した。
リーブ: 「ここにおったら巻き込まれますわ! 逃げますよ!」
なるほど……。反撃するよりも、同行している一般人――リネルの安全を最優先したわけか。
それにしても、あの射撃の威力、そして一人を抱えながらの離脱速度。各機能がこれほど高い水準で纏まっている機体は稀だ。。
現在の『十二使徒』の面々は、破壊力や防御力、あるいは知略といった一点に極振りされた「怪物」が多い。だが、すべてのパラメータにおいて理想的な数値を叩き出すリーブのようなバランス機こそが、ある意味では戦場において最も恐ろしい『完機』なのかもしれない。
爆発によって舞い上がった粉塵が静かに地に落ちる頃には、既に二機の反応は路地裏から消えていた。
無益な殺生を嫌ったのか、あるいは守るべきもののために撤退を選んだのか。
いずれにせよ、リーブの実力が「本物」であることは、俺の記憶に刻まれた戦闘データが雄弁に語っている。
デュオさんへの報告の前に、まずはリネルを回収しなければな。
俺は隠蔽パーツの出力を下げ、光学迷彩を解除しながら村の入り口へと向かった。
―
しばらく歩いていると、装甲の汚れを払いながらリネルが戻ってきた。
適当な嘘で話を切り上げ、リーブを撒いてきたらしい。
「大丈夫だったか」
リネル: 「はい。というか……なんだか、すごく丁寧に扱われてしまって」
リネルが複雑な表情でそう漏らす。
心の底からの善人、か。
本来、俺たちのような「不純」を煮詰めたような組織にとって、リーブのような「純粋」は最も相容れない存在だ。
だが、その裏表のなさと規律を重んじる性質は、トゥルースの手にかかれば、非常に扱いやすい『駒』へと成り下がる。
「そうか。……とりあえず、デュオさんに報告を上げる。一度村を出るぞ」
俺は腕の通信端末を起動し、エデン本部へと暗号回線を開いた。
リーブについて得られたデータは、今回の十二使徒スカウト任務において、決定的な「収穫」となるだろう。
俺たちは平和を絵に描いたようなその村を後にし、夕闇の荒野へと足を踏み出した。
第二十八話【KBT VS KBT】終わり