第二話【The Mission About Twelve Apostles】by デュオ
『というわけだ……任せたぞ、デュオカイザー』
私はちょうど今、新たなる任務を拝受したところだ。
薄暗い司令室、正面のデスクに鎮座するその男――現エデンリーダー『カヲス』を見上げる。
この男が人類滅亡の元凶であるN・G・ライトの唯一の親友であり、沈黙していたエデンを再興させた者であることは事実だ。だが、その実態は、復讐を誓った旧エデンの残兵たちがカヲスを神輿として担ぎ上げ、強引に指導者の席へ座らせたに過ぎない。
科学者としての側面を強く持つカヲスにとって、エデンという組織は自らの研究施設を確保するための手段でしかないのだろう。彼の黒い瞳の奥に宿っているのは、迫りくる戦争への高揚ではなく、人知れず進めている「研究」への静かな執着だ。
しかし、その出自がどうあれ、N・G・ライトの威光を背負った彼の名は絶大だった。私達『トゥルース』の諜報活動と、ラヴドへの恨みを燻らせた一般兵たちの熱量。その両輪によって、エデンは瞬く間に強大な軍勢へと膨れ上がった。
そして今、組織は「数」から「質」への転換を求めている。
旧エデンの将軍クラスに匹敵する個を揃え、盤石の戦力を構築せよ――。私はこの野暮ったい要求に対し、思考の深淵で最適解を検討しながら、
「つまり……十二人の強~ぃゃつをスカウトすればぃぃのねぃ♪」
私は肩部から伸びる触手を優雅にくねらせ、いつものように語尾を跳ねさせた。知性を隠し、軽薄な部下を演じることこそが、組織の潤滑油となる。
カヲス:「いや……十一人で……かまわない…………」
十一人。その数字の欠落が何を意味するか、答えは考えるまでもなかった。既に一枠は、カヲスの意志によって埋められているということだ。
だとすれば、あの女しかありえない。
ハードネステン。
エデン復活の当初からカヲスの傍らに侍り、彼の「お気に入り」として特別待遇を享受しているダイヤモンド型メダロット。彼女のまとう、あの鼻につくほどお高くとまった空気。何事にも動じないふりをした冷徹な佇まい。
あのような「お人形さん」に、私の部下たちが集めた猛者どもを統率できるとは思えない。
私の予想は的中していた。ハードネステンは私の不快感などどこ吹く風と、無機質な音声で淡々と補足してきた。
ハードネステン:「十二使徒全体の統率と、カヲス様とのパイプ役を任されました。トゥルースの皆様は、私以外の十一人を探してください」
……やはり、気に食わない女だ。
その融通の利かない態度。他者を寄せ付けぬ潔癖なプライド。それがかつての自分を見ているようで、同族嫌悪に近い苛立ちが私の回路を逆流する。
「ゎかったゎ」
私は、心中で煮え滾る毒をプロの自制心で押し殺し、艶やかな投げキッスを空間に放った。
カヲスとハードネステン。不自然なほどに密接な二機に背を向け、私は軽やかに、けれど迅速に司令室を後にした。
―
司令室を離れ、自分の領分である『トゥルースのお部屋』へと戻る。
ふと、今日が新人隊員の配属日であったことを思い出した。
リネル。前回の戦争でラヴドに故郷を焼かれ、放浪の末に親友を失った個体。その怨嗟を糧に工作活動で成果を上げ、ここへ辿り着いた。……だが、感情に突き動かされて動くタイプは、この『トゥルース』では長くは保たない。
セルヴォのように自分の情動を殺し、正気を保てる者は稀だ。あるいはビートのように、最初から自己が希薄な者でなければ、この深淵の闇には適応できない。
執務室の椅子に深く腰掛け、数分。重厚な扉が開き、ビートが新人のリネルを連れて戻ってきた。
一目見て、私の危惧は深まった。どこにでもいる、平凡な娘ではないか。こんなメダロットが、これから始まる泥沼の暗闘に身を投じる。……嫌な時代になったものだ。
とはいえ、私に彼女を保護する権限などない。一度この部屋の敷居を跨いだ以上、彼女もまた非情な諜報員として扱うのが、私に課せられた義務だ。
「ょろしく~♪ ゎたしは主任のデュオカイザーょ~ん」
私は思考を遮断し、軽薄な上司の仮面を被ってリネルを迎えた。
彼女は五分遅刻したことをひどく気にしているようだが、新人の「洗礼」として迷宮のようなこの本部を彷徨う時間は、予定に織り込み済みだ。むしろ、一時間半も遅れたビートの時に比べれば、遥かに優秀と言える。
その後、ビートが連れてきたセルヴォが、開口一番にリネルを侮辱し、室内の空気が一気に凍りついた。セルヴォのデリカシーの無さには呆れるが、これも彼なりの「新入りへの品定め」なのだろう。一触即発の気配を無視し、私は長期任務――『十二使徒任務』の概要を突きつけた。
部下たちの反応は三者三様だ。リネルは任務の重圧に顔を強張らせ、ビートは淡々とそれを受け止め、セルヴォは獲物を狙う獣のような笑みを浮かべている。
やはり、リネルにいきなりこの大役は荷が重い。彼女に必要なのは、まず『トゥルース』としての成功体験だ。
「リネルちゃんはまだ新米だからぁ~、最初は十二使徒任務とは別の任務をぉ願ぃするゎ♪」
私の提案に、リネルが目に見えて安堵した。その隙のない感情の漏洩こそが、彼女の甘さであり、危うさでもある。
「B-C-4地点に行ってちょうだぃ。そこに旧エデンの残兵がいるってぃぅ情報が入ったゎ」
比較的安全、かつ実力が試される調査任務。リネルは喜び勇んで、キビキビとした動作で部屋を後にした。その弾むような背中を、セルヴォが冷ややかな目で見送る。
……あぁ、分かるわよ、セルヴォちゃん。
君は「仕事に感情を持ち込むバカ」が嫌いなのよね。でも、あの子がその青臭さを捨てたとき、彼女は君の最も恐ろしい競争相手になるかもしれないわよ?
リネルが期待と緊張を背負って退室し、執務室には「プロ」だけが残った。
私は思考のギアを切り替える。ここからは遊びではない。情報収集を開始してから一分と経たずに釣り上げた「大物」のデータをコンソールに展開した。肩の触手を使ってキーを叩き、背後の巨大なモニターへ地図を投影する。
「これを見て頂戴♪」
各地の格闘大会を渡り歩き、そのすべてで頂点に君臨している男がいる。目撃情報と自治体の記録を照合し、導き出した次なる予想進路――。
「各地の格闘大会をめぐってことごとく優勝してぃる奴がぃるみたぃなの。で、その男の目撃情報を頼りに予想進路をはじき出したのがこの地図」
セルヴォ:「さて、MーR-4地点……でいいんすよね?」
私が詳細な説明を終える前に、セルヴォが地図上の座標を指し示した。
相変わらず落ち着きのない男だが、状況判断の速さだけは一級品だ。私の意図を先読みし、既に脳内では現場への最短ルートを計算しているのだろう。
「そゅこと♪ そこでその男が十二使徒に足る者か判定した上で、捕獲して頂戴♪」
セルヴォ:「へいへ~い」
セルヴォは軽い返事と共に、踵を返して歩き出した。だが、彼が扉に手をかける直前、鋼の杭を打ち込むような低い声がそれを制した。
ビート:「その男の特徴は?」
相棒のセルヴォを完全に無視し、ビートが私に問う。
これこそが、このコンビが『トゥルース』で生き残ってきた理由だ。直感で突き進むセルヴォが取りこぼした「確実性」を、几帳面なビートが拾い上げ、任務の成功率を極限まで高める。彼らは友情で繋がっているのではない。欠落を埋め合う、完璧な共生関係にあるのだ。
セルヴォ:「あ、忘れてた」
自分の不手際を指摘されても、セルヴォは悪びれる様子もない。いちいち落ち込まれても時間が無駄なだけだが、たまには反省の色くらい見せてもらいたいものね。
一方のビートも、セルヴォの軽率さに憤ることも、優越感に浸ることもない。ただ淡々と、任務遂行に必要なパラメータを要求している。
「機体は大悪魔型メダロット、グレイン。〝さり気に〟とぃう口癖がぁるみたぃね。戦法は――」
第二話【The Mission About Twelve Apostles】終わり