APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

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第三十五話【ラミエル3】

第三十五話【ラミエル3】byデュオ

 

 

 長かった「十二使徒任務」が、ひとまずの終焉を迎えた。

 エデン本部の深奥に位置する「トゥルースのお部屋」には今、耳鳴りがするほどの静寂が横たわっている。

 無機質な演算サーバーの駆動音と、端末が放つ淡い青光だけが、私の輪郭を暗闇に浮かび上がらせていた。

 

 一人きり。

 嵐のように騒がしく、それでいて頼もしい部下たちはここにはいない。

 

「結局……私は、駄目な上司のままだったのね」

 

 ぽつりとこぼれた独り言は、誰に届くこともなく情報の闇へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 ― ―十三年前。

 人間とメダロット。この星の支配権を巡る凄惨な戦争は、メダロット側の圧倒的な勝利を目前に控えていた。

 N・G・ライトが説いた通り、人類を凌駕する知能と、メダルを砕かぬ限り不滅の生命力を兼ね備えた「神」にとって、脆弱な肉体を持つ人間との戦争は、まさしく赤子の手をひねるような蹂躙に過ぎなかったわ。

 

 私とラミエルさんの部隊は、敗北を悟った人類側の要人たちが乗り込んだ避難戦艦へと突入していた。

 エリートである私たちにとって、防衛網を突破し戦艦へ乗り移ること自体は造作もないこと。あとは、艦内に潜む要人たちを一人残らず「処理」するだけ。

 

ラミエル:「さあ! これで仕上げだ、デュオカイザー君♪」

 

「油断しないでください、ラミエルさん。まだ戦いは終わっていません」

 

ラミエル:「う~ん……その通りだねぇ♪」

 

 ラミエルさんはいつだって軽口を叩き、私はそれにあきれてツッコミを入れる。それが私たちの日常だった。

 けれど、今なら分かる。ラミエルさんは、あえて私にツッコませていたのだわ。

 部下に直接「油断するな」と高圧的に命じるのではなく、自ら道化を演じ、隙を見せることで、私に常に周囲を警戒する「指揮官の目」を養わせていた。

 その深謀遠慮に気づき始めた当時の私は、少しずつ、けれど確実にこの男への尊敬を深めていた。

 

「おそらく、この扉の奥に目標が潜伏しているはずです。……ですが、内側から厳重に施錠されていますね」

 

 戦艦の守衛たちを蹴散らし、私たちは最深部の隔壁の前に辿り着いた。

 扉は奇妙なほどに磨き上げられ、周囲の景色を歪みなく映し出す鏡のように光り輝いていた。扉の表面に、自分たちの姿が鮮明に映る。

 

ラミエル:「……さて、どうしようか?♪」

 

「……物理的な破壊を試みます。とりあえず、レーザーでも撃ち込んでみましょうか」

 

ラミエル:「う~ん。撃ち込んだら、そのまま跳ね返って来たりしないかなぁ?」

 

「……聞かれましても。やってみなければ分かりません」

 

ラミエル:「ちょっと僕が実験してみようか♪」

 

 そう言うと、ラミエルさんは右腕を掲げ、不気味に輝く扉へと最低出力のレーザーを放った。

 ラミエルさんは、光学系攻撃のスペシャリスト。私よりも遥かに光学兵器の特性に精通していた。

 

 放たれた熱線が扉に接触した瞬間、物理法則を裏切るような軌道で、光は真後ろへと跳ね返ってきたわ。

 

ラミエル:「うわぉ!!?」

 

 ラミエルさんは咄嗟に横へと跳び、反射された自らのレーザーを紙一重で回避した。

 ……もし、彼に超常的な反応速度がなければ、直撃を受けて機能停止していたでしょうね。

 

ラミエル:「いやぁ、危ないところだったよ……ハハハ」

 

 震える音声で笑う彼を見て、私は戦慄した。

 もし、何も考えずに私がレーザーを放っていれば。反射された光は、確実に無防備な私の心臓部(メダル)を貫いていた。

 この男は、わざと自分が危険を冒すことで、私を――部下を救ったのだわ。

 

 ラミエルさんはいつだってそうだった。私が行動を起こす前に、自ら不確定なリスクを背負い、背中で「正解」を示してくれていた。

 

ラミエル:「どうやらこの光沢には、メダロットでいう反射のような特殊なコーティングが施されているらしいね」

 

「では、力押しでの突破は困難ですね」

 

ラミエル:「う~ん。どうしたらいいと思う?」

 

「……指揮官は、ラミエルさんですが?」

 

ラミエル:「君の方が、こういうパズルは頭が回るだろ♪」

 

 ラミエルさんは、部下の得意不得意を、その本人以上に理解していた。

 適材適所に駒を配し、自らは極力動かず、部下に手柄と経験を与えて組織全体の底上げを図る。

 それは、まさしく「本物のリーダー」に相応しい能力だった。

 

「……物理ロックの回路を書き換えます。解錠してみましょう」

 

 私は腕から伸びる触手状のケーブルをコンソールへ接続し、情報の海へと潜った。

 複雑に絡み合ったセキュリティ。けれど、時間をかければ解けない謎などない。

 

 数分後、重厚な金属音が響き、反射の扉がゆっくりと開放されたわ。

 

ラミエル:「流石はデュオカイザー君だ♪ 素晴らしい!」

 

「どうも」

 

ラミエル:「素晴らしいついでに、今度二人っきりで乗馬にでもどうだい?」

 

「お断りします」

 

ラミエル:「残念♪」

 

 軽口を叩きながら、ラミエルさんはドアノブへと手をかけた。

 

ラミエル:「……じゃあ、いくよ♪」

 

「準備は、できています」

 

 私たちは武器を構え、光の差す部屋の奥へと踏み込んだ。

 ……けれど、そこに待っていたのは、私たちの予測を嘲笑うような「虚無」の光景だった。

 

 

ラミエル:「っ……?」

 

「なっ……!?」

 

 踏み込んだ室内に、人の気配はなかった。

 豪華な調度品が整えられたその部屋で、私たちの視覚センサーが捉えたのは、開け放たれたまま虚空を晒す脱出用ハッチの残骸だけだった。

 

「誰も……いない!?」

 

ラミエル:「…………。完全に、先を越されたね」

 

 ラミエルさんの声から、いつもの軽薄な響きが消えた。彼は部屋の隅にある、もぬけの殻となった射出架台を指差したわ。

 

ラミエル:「ここにいた連中は、私たちが扉をこじ開けている間に、この戦艦に積まれていた脱出ポッドで逃げ出したらしい。……狡猾なことだ」

 

「……逃げられましたか。すぐに追撃の準備を――」

 

ラミエル:「いや。それだけなら、まだマシだったんだがね」

 

 ―――ドドォォォォォォンッッ!!!!!

 

 突如、戦艦全体を激しい震動が襲った。

 足元の床が波打ち、照明が不規則に明滅を繰り返し、警告アラートが艦内に鳴り響く。

 

ラミエル:「クソッ、……やられたか……!!」

 

 ラミエルさんは即座に通信機を起動し、甲板や外周で待機している一般兵たちとの通信を試みた。けれど、返ってくるのは不快なノイズだけ。

 

ラミエル:「……最初から仕掛けられていたのか。あるいは、脱出した瞬間に遠隔で起爆させたか。……どちらにせよ、この戦艦はもう持たない。まもなく、落ちるよ……」

 

 私は、自らの機能が停止しかねない未曾有の危機に、一瞬だけ演算が停止するのを感じた。

 けれど。それ以上に私を驚かせたのは、隣に立つ男の変貌だった。

 死を目前にして、ようやく現れた「素」のラミエルさん。

 おちゃらけた仮面の奥に隠されていた、鋭利なまでに聡明な指揮官の顔。

 

ラミエル:「デュオカイザー。君は、あそこに残っている最後の一機を使え」

 

 ラミエルさんが指差したのは、部屋の最奥――崩落を免れた一角に残された、予備の脱出ポッドだった。

 一機用の脱出ポッドだ。重量制限を超えれば射出できない。

 

「ラミエルさんはどうするんですか!?」

 

ラミエル:「…………飛び降りるさ」

 

「そんな無茶な!!」

 

 叫ばずにはいられなかった。

 確かにメダロットの身体は人間よりは遥かに頑強よ。けれど、この高度から地表へ叩きつけられれば、どれほど頑丈なメダロットでも機体は原形を留めない。メダルまで無事では済まない。……それは、確実な「死」を意味していた。

 

ラミエル:「だが、ポッドはもう一つしかないんだ」

 

「私のメダルを外して下さい。そしてそのまま一緒にポッドへ……」

 

ラミエル:「残念だが時間が無い。この短時間で君のメダルを傷つけずに摘出する事は不可能だ」

 

 ……ラミエルさんは冷静だ。

 通常のメダロットは機能停止時に、ティンペットからメダルが射出され、再セットするまでスラフシステムは起動しない。

 しかし、エデンのメダロットはその射出機能を廃止し、機能停止後、即座にスラフシステムが起動するように作られている。

 

 その為、メダルを摘出するためには、メダルに傷がつくことを覚悟してメダロットの腹に穴を開けるしかない。

 しかし、失敗すれば即死。

 最低限の傷でメダルを摘出しようとすれば時間がかかり、結局ラミエルさんも私も双方助からない。

 

「……ならば、指揮官であるラミエルさんが乗ってください!!」

 

ラミエル:「いいや。君に乗ってほしいんだ」

 

「どうして!? 私より、ラミエルさんの方が組織にとって価値があるはずだわ!!」

 

ラミエル:「――君は、私の部下だッ!!!」

 

 鼓膜が震えた。

 ラミエルさんは、これまでの人生で一度も聞いたことのないような、険しく、烈火のごとき大声で私の言葉を遮った。

 そして。しばしの沈黙の後。今度は、壊れ物に触れるような、切ないほどに優しい声で囁いた。

 

ラミエル:「君は、私の自慢の部下だ。……そんな部下と長く一緒にいると、どうにも情が移ってしまってね。……まるで、家族のように愛してしまうんだよ。……部下を守ってこその、上官。次世代の希望を守ってこその、指揮官だ。そして……」

 

 ラミエルさんは、私の顔をじっと見つめて微笑んだ。

 

ラミエル:「……家族を守ってこその、私。ラミエルなのだよ」

 

 刹那。

 ラミエルさんの右腕が、目にも留まらぬ速さで持ち上げられた。

 

 ――ッ、シ、ィィィィィィン!!

 

 放たれた一筋のレーザー。

 それは寸分の狂いもなく、私の頭部パーツの脆弱な接合部を撃ち抜いたわ。

 視界がホワイトアウトし、機体の電源が強制的に落とされていく。抗う暇さえ与えられず、意識が深い闇へと沈みゆく中で。

 私は、見た。

 いつもの、あの不真面目で、無邪気で。

 けれど、誰よりも深い慈愛を湛えた彼の、最期の笑顔を。

 

ラミエル:「それにしても、残念だ! 一度でいいから、君と乗馬に行きたかったよ♪」

 

 

 ポッドの中で意識を取り戻した私が最初に目にしたのは、夜空の向こうで真っ赤な火球となって散りゆく戦艦の残骸だった。

 後に、エデンの別動隊によってラミエルさんの「死亡」が確認された。

 

 その時、私は誓った。

 私が、ラミエルさんになると。

 部下のためにすべてを懸けられる、真の指揮官になると。

 「家族」を守り抜くための、デュオカイザーになると。

 与えられるだけだった優秀な部下の座を卒業し、彼のような、孤独さえも背負えるリーダーになるのだと。

 

 ほどなくしてエデンに「トゥルース」が設立され、私はその主任の座に就いた。

 今日まで、がむしゃらにやってきたわ。ラミエルさんの背中を追い、あの理想を形にするために。

 人間たちへの勝利。ラヴドとの果てなき暗闘。そして、十二使徒の結成。

 すべては、あの日彼から受け取った「バトン」を、守り抜くためだった。

 

 やってきた。……やってきたのだけれど。

 

 

 ――「トゥルースのお部屋」

 

デュオ:「ラミエルさん……」

 

 誰もいない、冷え切った執務室で、私はひとり呟く。

 

デュオ:「申し訳ありません。……私は、貴方にはまだ、遠く及びませんでした」

 

 上層部が下した決定を、私に覆す権限はない。

 あの子――リネルを、守れなかった。

 ……違う。

 守れなかっただけではない。

 私自身が、あの子をあそこまで追い込んだ。

 復讐心に身を焦がし、戦乱の中に自らの魂を投げ込もうとしているあの子を。

 かつての私自身のように、傲慢で青かったあの子の手を、私はラミエルさんのように引いてやることができなかった。

 

デュオ:「私は……私の部下を。……守りきれなかった……」

 

 モニターの青光が、私の頬を伝う一筋のオイルを照らし出していた。

 静寂。

 「真実」を司る部屋には、あまりにも孤独な影だけが残されていた。

 

 

 

第三十五話【ラミエル3】終わり

 

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