【完結】APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

36 / 40
第三十五話【ラミエル3】

第三十五話【ラミエル3】by デュオ

 

 

 長かった「十二使徒任務」が、ひとまずの終焉を迎えた。

 エデン本部の奥にある「トゥルースのお部屋」は、今、ひどく静まり返っている。サーバーの駆動音が響き、端末の淡い青い光だけが室内を照らしていた。

 

 一人きり。

 嵐のように騒がしく、それでいて頼もしい部下たちは、ここにはいない。

 

「結局……私は、駄目な上司のままだったのね」

 

 ぽつりとこぼれた独り言に、答える者はいなかった。

 

 

―

 

 

 ― ―十三年前。

 

 人間とメダロット。この星の支配権を巡る凄惨な戦争は、メダロット側の圧倒的な勝利を目前に控えていた。

 N・G・ライトが説いた通り、人類を凌駕する知能と、メダルを砕かぬ限り不滅の生命力を兼ね備えた「神」にとって、脆弱な肉体を持つ人間との戦争は、赤子の手をひねるようなものだった。

 

 私とラミエルさんの部隊は、敗北を悟った人類側の要人たちが乗り込んだ避難戦艦へと突入していた。

 エリートである私たちにとって、防衛網を突破し、戦艦へ乗り移ること自体は造作もないこと。あとは、艦内に潜む要人たちを一人残らず「処理」するだけだった。

 

ラミエル:「さあ! これで仕上げだ、デュオカイザー君♪」

 

「油断しないでください、ラミエルさん。まだ戦いは終わっていません」

 

ラミエル:「う~ん……その通りだねぇ♪」

 

 ラミエルさんはいつだって軽口を叩き、私はそれにあきれてツッコミを入れる。それが私たちの日常だった。

 けれど、今なら分かる。ラミエルさんは、あえて私にツッコませていたのだと思う。自ら隙を見せ、私に周囲を警戒させることで、指揮官として必要な目を養わせてくれていたのだわ。

 当時の私は、そんな彼の振る舞いに少しずつ気づき、この男への尊敬を深めていた。

 

「おそらく、この扉の奥に目標が潜伏しているはずです。……ですが、内側から厳重に施錠されていますね」

 

 戦艦の守衛たちを蹴散らし、私たちは最深部の隔壁の前に辿り着いた。

 扉は奇妙なほど磨き上げられ、まるで鏡のように、私たちの姿を鮮明に映し出していた。

 

ラミエル:「……さて、どうしようか?♪」

 

「……物理的な破壊を試みます。とりあえず、レーザーでも撃ち込んでみましょうか」

 

ラミエル:「う~ん。撃ち込んだら、そのまま跳ね返って来たりしないかなぁ?」

 

「……聞かれましても。やってみなければ分かりません」

 

ラミエル:「ちょっと僕が実験してみようか♪」

 

 そう言うと、ラミエルさんは右腕を掲げ、扉へと最低出力のレーザーを放った。

 ラミエルさんは光学系攻撃のスペシャリスト。私よりも遥かに光学兵器の特性に精通していた。

 

 放たれたレーザーが扉に触れた瞬間、光は真後ろへと跳ね返ってきたわ。

 

ラミエル:「うわぉ!!?」

 

 ラミエルさんは咄嗟に横へ跳び、反射された自らのレーザーを紙一重で回避した。

 ……もし、あの反応が少しでも遅れていれば、直撃を受けて機能停止していたでしょうね。

 

ラミエル:「いやぁ、危ないところだったよ……ハハハ」

 

 彼は笑っていたけれど、その声は震えていた。

 もし、何も考えずに私がレーザーを放っていれば、反射された光で無防備な私のメダルまで撃ち抜かれていたかもしれない。

 この男は、自分が危険を冒すことで、私を――部下を守ってくれたのだわ。

 

 ラミエルさんはいつだってそうだった。私が行動を起こす前に、自ら不確かな危険を引き受け、背中で正解を示してくれていた。

 

ラミエル:「どうやらこの光沢には、メダロットでいう反射のような特殊なコーティングが施されているらしいね」

 

「では、力押しでの突破は困難ですね」

 

ラミエル:「う~ん。どうしたらいいと思う?」

 

「……指揮官は、ラミエルさんですが?」

 

ラミエル:「君の方が、こういうパズルは頭が回るだろ♪」

 

 ラミエルさんは、部下の得意不得意を、その本人以上に理解していた。

 自分ですべてを解決しようとはせず、それぞれの得意分野を活かし、部下に手柄と経験を与える。それによって、部隊全体を成長させていたのだと思う。

 私にとって、まさしく理想のリーダーだった。

 

「……施錠機構の制御を書き換えます。解錠してみましょう」

 

 私は接続用のケーブルをコンソールにつなぎ、施錠機構へのアクセスを試みた。

 複雑に絡み合ったセキュリティ。けれど、時間をかければ解けない謎などない。

 

 数分後、重厚な金属音が響き、反射の扉がゆっくりと開いたわ。

 

ラミエル:「流石はデュオカイザー君だ♪ 素晴らしい!」

 

「どうも」

 

ラミエル:「素晴らしいついでに、今度二人っきりで乗馬にでもどうだい?」

 

「お断りします」

 

ラミエル:「残念♪」

 

 軽口を叩きながら、ラミエルさんはドアノブへと手をかけた。

 

ラミエル:「……じゃあ、いくよ♪」

 

「準備は、できています」

 

 私たちは武器を構え、部屋の奥へと踏み込んだ。

 けれど、そこで待っていたのは、予想もしていなかった光景だった。

 

ラミエル:「っ……?」

 

「なっ……!?」

 

 室内に、人の気配はなかった。

 豪華な調度品が整えられたその部屋で、私たちが目にしたのは、開け放たれた脱出用ハッチの残骸だけだった。

 

「誰も……いない!?」

 

ラミエル:「…………。完全に、先を越されたね」

 

 ラミエルさんの声から、いつもの軽薄な響きが消えた。彼は部屋の隅にある、もぬけの殻となった射出架台を指差したわ。

 

ラミエル:「ここにいた連中は、私たちが扉をこじ開けている間に、この戦艦に積まれていた脱出ポッドで逃げ出したらしい。……狡猾なことだ」

 

「……逃げられましたか。すぐに追撃の準備を――」

 

ラミエル:「いや。それだけなら、まだマシだったんだがね」

 

 ―――ドドォォォォォォンッッ!!!!!

 

 突如、戦艦全体を激しい振動が襲った。

 足元の床が揺れ、照明が不規則に明滅し、警告音が艦内に鳴り響く。

 

ラミエル:「クソッ、……やられたか……!!」

 

 ラミエルさんは即座に通信機を起動し、甲板や外周で待機している一般兵たちとの通信を試みた。けれど、返ってくるのは不快なノイズだけだった。

 

ラミエル:「……最初から仕掛けられていたのか。あるいは、脱出した瞬間に遠隔で起爆させたか。……どちらにせよ、この戦艦はもう持たない。まもなく、落ちるよ……」

 

 私は突然の事態に、言葉を失った。

 けれど、それ以上に驚いたのは、隣に立つ男の変貌だった。

 

 死を目前にして、ようやく現れた「素」のラミエルさん。

 おちゃらけた仮面の奥に隠されていた、聡明な指揮官としての顔だった。

 

ラミエル:「デュオカイザー。君は、あそこに残っている最後の一機を使え」

 

 ラミエルさんが指差したのは、部屋の最奥――崩落を免れた一角に残された、予備の脱出ポッドだった。

 一機用の脱出ポッドだ。重量制限を超えれば射出できない。

 

「ラミエルさんはどうするんですか!?」

 

ラミエル:「…………飛び降りるさ」

 

「そんな無茶な!!」

 

 叫ばずにはいられなかった。

 確かにメダロットの身体は、人間よりも遥かに頑強よ。けれど、この高度から地表へ叩きつけられれば、どれほど頑丈なメダロットでも原形を留めない。メダルまで無事では済まない。

 ……それは、確実な「死」を意味していた。

 

ラミエル:「だが、ポッドはもう一つしかないんだ」

 

「私のメダルを外して下さい。そしてそのまま一緒にポッドへ……」

 

ラミエル:「残念だが時間が無い。この短時間で君のメダルを傷つけずに摘出する事は不可能だ」

 

 ……ラミエルさんは冷静だ。

 

 通常のメダロットは機能停止時に、ティンペットからメダルが射出され、再セットするまでスラフシステムは起動しない。

 しかし、エデンのメダロットはその射出機能を廃止し、機能停止後、即座にスラフシステムが起動するように作られている。

 

 そのため、メダルを摘出するには、傷がつくことを覚悟して腹に穴を開けるしかない。

 けれど、失敗すれば即死。メダルを傷つけず、慎重に取り出そうとすれば時間がかかり、結局ラミエルさんも私も助からない。

 

「……ならば、指揮官であるラミエルさんが乗ってください!!」

 

ラミエル:「いいや。君に乗ってほしいんだ」

 

「どうして!? 私より、ラミエルさんの方が組織にとって価値があるはずだわ!!」

 

ラミエル:「――君は、私の部下だッ!!!」

 

 ラミエルさんの大声が、私の言葉を遮った。

 これまで聞いたこともないような、激しい声だった。

 

 そして、しばしの沈黙の後。

 今度は、壊れ物に触れるような、優しい声で囁いた。

 

ラミエル:「君は、私の自慢の部下だ。……そんな部下と長く一緒にいると、どうにも情が移ってしまってね。……まるで、家族のように愛してしまうんだよ。……部下を守ってこその、上官。次世代の希望を守ってこその、指揮官だ。そして……」

 

 ラミエルさんは、私の顔をじっと見つめて微笑んだ。

 

ラミエル:「……家族を守ってこその、私。ラミエルなのだよ」

 

 刹那。

 ラミエルさんの右腕が、目にも留まらぬ速さで持ち上げられた。

 

 ――ッ、シ、ィィィィィィン!!

 

 放たれた一筋のレーザー。

 それは寸分の狂いもなく、私の頭部パーツの脆弱な接合部を撃ち抜いたわ。

 

 視界が真っ白になり、意識が遠のいていく。抗う暇さえ与えられず、私はその場で機能を停止した。

 

 けれど、意識が途絶える直前に、私は見た。

 いつもの、あの不真面目で、無邪気で。

 それでいて、誰よりも深い慈愛に満ちた彼の、最期の笑顔を。

 

ラミエル:「それにしても、残念だ! 一度でいいから、君と乗馬に行きたかったよ♪」

 

 

―

 

 

 ポッドの中で意識を取り戻した私が最初に目にしたのは、夜空の向こうで真っ赤な火球となって散りゆく戦艦の残骸だった。

 後に、エデンの別動隊によってラミエルさんの「死亡」が確認された。

 

 その時、私は誓った。

 

 私が、ラミエルさんになると。

 部下のためにすべてを懸けられる、真の指揮官になると。

 「家族」を守り抜くための、デュオカイザーになると。

 

 与えられるだけだった優秀な部下の座を卒業し、彼のような、孤独さえも背負えるリーダーになるのだと。

 

 ほどなくしてエデンに「トゥルース」が設立され、私はその主任の座に就いた。

 今日まで、がむしゃらにやってきたわ。ラミエルさんの背中を追い、あの理想を形にするために。

 

 人間たちへの勝利。ラヴドとの果てなき暗闘。そして、十二使徒の結成。

 すべては、あの日彼から受け取った「バトン」を、守り抜くためだった。

 

 やってきた。……やってきたのだけれど。

 

 

―

 

 

 ――「トゥルースのお部屋」

 

デュオ:「ラミエルさん……」

 

 誰もいない、冷え切った執務室で、私はひとり呟く。

 

デュオ:「申し訳ありません。……私は、貴方にはまだ、遠く及びませんでした」

 

 上層部が下した決定を、私に覆す権限はない。

 あの子――リネルを、守れなかった。

 

 ……違う。

 守れなかっただけではない。

 

 私自身が、あの子をあそこまで追い込んだ。

 復讐心に身を焦がし、戦乱の中に自らの魂を投げ込もうとしているあの子を。

 かつての私自身のように、傲慢で青かったあの子の手を、私はラミエルさんのように引いてやることができなかった。

 

デュオ:「私は……私の部下を。……守りきれなかった……」

 

 モニターの青い光が、私の頬を伝う一筋のオイルを照らしていた。

 静寂の中、「真実」を司る部屋には、孤独な影だけが残されていた。

 

 

第三十五話【ラミエル3】終わり

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。