APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

39 / 39
最終話【罪】

最終話【罪】byビート

 

 

 

 ――パリンッ、……。

 

 静まり返った荒野に、あまりにも小さく、乾いた金属音が響いた。

 リネルという一機の少女を、この世界につなぎ留めていた魂の核――メダルが、俺たちの手で粉々に砕け散った音だった。

 

 風の音さえも死に絶えた、耐え難いほどの静寂。

 それを塗り潰したのは、これまで数え切れないほど耳にしてきた言葉。だが、それがこれほど暗く、重く響いたことは一度もなかった。

 

セルヴォ:「さて、……任務…………完了だ」

 

 セルヴォは、たった今命を奪ったばかりの、裏切り者リネルの屍を抱きかかえ、地を這うような声で呟いた。

 目はひどく濁り、機体からは過負荷による熱気が陽炎となって揺らめている。

 

セルヴォ:「さて、……今の、……最後の一撃は俺のハンマーだった。……そうだろ?」

 

「……いや。俺のライフルだった。俺が先にメダルを撃ち抜いている」

 

 俺は感情を殺し、努めて平坦に答えた。

 だが、セルヴォは機体を激しく震わせ、俺を睨みつけた。

 

セルヴォ:「いいや、俺だ。俺の打撃が、間違いなくトドメだった」

 

「俺だ」

 

セルヴォ:「俺だっつってんだろうがッ!!」

 

 咆哮。

 セルヴォの瞳が、剥き出しの怒気を孕んだ紅き燐光を放つ。

 

「……俺だッ!!!」

 

 気づけば、俺もまた、柄にもなく喉を裂くような怒号を上げていた。

 

 どちらが殺したのか。

 そんなことは、今の俺たちにとって何の意味も持たないはずだった。誰がトドメを刺そうと、任務は完遂され、リネルはもう戻ってこない。

 

 分かっている。分かっているんだ。

 あいつがムキになって「俺だ」と言い張る理由は。

 そして、俺が意地になってそれを否定する理由も。

 

 俺たちはただ、これ以上、相棒に『後輩を殺した』という消えない傷を刻ませたくなかった。その罪を、すべて自分が背負い込んでしまいたかった。

 そのあまりに傲慢で、あまりに身勝手な慈愛が、最悪の口論となって荒野に響き渡った。

 

セルヴォ:「さて、……もう、どーでもいいや。先に帰るわ」

 

 セルヴォは突然、憑き物が落ちたように肩の力を抜くと、動かなくなったリネルを乱暴に、けれどどこか愛おしむように背負い直した。

 彼は一度もこちらを振り返らず、エデン本部のある方向へと歩き出す。

 

セルヴォ:「お前は、少し遅れて来い。……報告書やら、そういう反吐が出るほどメンドクセー後始末は……。全部、俺がやっておいてやるよ」

 

「…………。あぁ、分かった」

 

 俺は、去りゆく背中を追うことはしなかった。

 相棒もまた、独りになりたかったのだろう。いや、俺が独りになりたいことを、あいつは見抜いていたのかもしれない。

 

 月光に照らされた相棒の背中は、いつもより一回りも、二回りも小さく、孤独に見えた。

 

 

 相棒の足音が遠ざかり、荒野には再び、静寂が戻ってきた。

 一人残された俺の脳裏には、先ほどまで目の前にあった、リネルの最期の顔が焼き付いて離れない。

 

 これまで俺たちがその機能を停止させてきた、数多のメダロット。死を悟った連中の顔は、例外なく恐怖に歪み、絶望という名のノイズを撒き散らしていた。

 だが、リネルは違った。

 彼女の目は安らかに閉じられ、口元には微かな、けれど確かな微笑さえ浮かんでいた。それは、自らの「真実」を最後まで貫き通し、憎しみから解き放たれた者だけが浮かべられる、穏やかな表情だった。

 

 あの瞬間。彼女の精神は、俺たちが一生かかっても届かない、遥かな高みにあったのだろう。

 「裏切り者」としてではなく、「一機の生命」として。

 俺は、彼女を尊敬する。

 

 ……だが。

 俺は決して、彼女のようにはならない。

 

 俺たちはこれからも、闇の中でこの手を汚し続ける。真実を葬り、歴史を改竄し、悪であり続ける。

 感謝の言葉も名誉もいらない。美しいものは泥と一緒に吐き捨てる。

 それが、俺たちという『存在』なのだから。

 

 

 これが、俺たちトゥルースの姿であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの仕事であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの希望であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの絶望であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの幸せであり、

 

 これが、俺たちトゥルースの不幸であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの喜びであり、

 

 これが、俺たちトゥルースの悲しみであり、

 

 これが、俺たちトゥルースの怒りであり、

 

 これが、俺たちトゥルースの楽しみであり、

 

 これが、俺たちトゥルースの情熱であり、

 

 これが、俺たちトゥルースの誇りである。

 

 

 そして。

 

 

 

 これが、俺たちトゥルースの「罪」である。

 

 

 

 永久に許されることもなく、ただ、砕けたメダルの重みと共に、背負い続けなくてはいけない『真実』なのだ。

 

 

~THE END~

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。