最終話【罪】byビート
――パリンッ、……。
静まり返った荒野に、あまりにも小さく、乾いた金属音が響いた。
リネルという一機の少女を、この世界につなぎ留めていた魂の核――メダルが、俺たちの手で粉々に砕け散った音だった。
風の音さえも死に絶えた、耐え難いほどの静寂。
それを塗り潰したのは、これまで数え切れないほど耳にしてきた言葉。だが、それがこれほど暗く、重く響いたことは一度もなかった。
セルヴォ:「さて、……任務…………完了だ」
セルヴォは、たった今命を奪ったばかりの、裏切り者リネルの屍を抱きかかえ、地を這うような声で呟いた。
目はひどく濁り、機体からは過負荷による熱気が陽炎となって揺らめている。
セルヴォ:「さて、……今の、……最後の一撃は俺のハンマーだった。……そうだろ?」
「……いや。俺のライフルだった。俺が先にメダルを撃ち抜いている」
俺は感情を殺し、努めて平坦に答えた。
だが、セルヴォは機体を激しく震わせ、俺を睨みつけた。
セルヴォ:「いいや、俺だ。俺の打撃が、間違いなくトドメだった」
「俺だ」
セルヴォ:「俺だっつってんだろうがッ!!」
咆哮。
セルヴォの瞳が、剥き出しの怒気を孕んだ紅き燐光を放つ。
「……俺だッ!!!」
気づけば、俺もまた、柄にもなく喉を裂くような怒号を上げていた。
どちらが殺したのか。
そんなことは、今の俺たちにとって何の意味も持たないはずだった。誰がトドメを刺そうと、任務は完遂され、リネルはもう戻ってこない。
分かっている。分かっているんだ。
あいつがムキになって「俺だ」と言い張る理由は。
そして、俺が意地になってそれを否定する理由も。
俺たちはただ、これ以上、相棒に『後輩を殺した』という消えない傷を刻ませたくなかった。その罪を、すべて自分が背負い込んでしまいたかった。
そのあまりに傲慢で、あまりに身勝手な慈愛が、最悪の口論となって荒野に響き渡った。
セルヴォ:「さて、……もう、どーでもいいや。先に帰るわ」
セルヴォは突然、憑き物が落ちたように肩の力を抜くと、動かなくなったリネルを乱暴に、けれどどこか愛おしむように背負い直した。
彼は一度もこちらを振り返らず、エデン本部のある方向へと歩き出す。
セルヴォ:「お前は、少し遅れて来い。……報告書やら、そういう反吐が出るほどメンドクセー後始末は……。全部、俺がやっておいてやるよ」
「…………。あぁ、分かった」
俺は、去りゆく背中を追うことはしなかった。
相棒もまた、独りになりたかったのだろう。いや、俺が独りになりたいことを、あいつは見抜いていたのかもしれない。
月光に照らされた相棒の背中は、いつもより一回りも、二回りも小さく、孤独に見えた。
相棒の足音が遠ざかり、荒野には再び、静寂が戻ってきた。
一人残された俺の脳裏には、先ほどまで目の前にあった、リネルの最期の顔が焼き付いて離れない。
これまで俺たちがその機能を停止させてきた、数多のメダロット。死を悟った連中の顔は、例外なく恐怖に歪み、絶望という名のノイズを撒き散らしていた。
だが、リネルは違った。
彼女の目は安らかに閉じられ、口元には微かな、けれど確かな微笑さえ浮かんでいた。それは、自らの「真実」を最後まで貫き通し、憎しみから解き放たれた者だけが浮かべられる、穏やかな表情だった。
あの瞬間。彼女の精神は、俺たちが一生かかっても届かない、遥かな高みにあったのだろう。
「裏切り者」としてではなく、「一機の生命」として。
俺は、彼女を尊敬する。
……だが。
俺は決して、彼女のようにはならない。
俺たちはこれからも、闇の中でこの手を汚し続ける。真実を葬り、歴史を改竄し、悪であり続ける。
感謝の言葉も名誉もいらない。美しいものは泥と一緒に吐き捨てる。
それが、俺たちという『存在』なのだから。
これが、俺たちトゥルースの姿であり、
これが、俺たちトゥルースの仕事であり、
これが、俺たちトゥルースの希望であり、
これが、俺たちトゥルースの絶望であり、
これが、俺たちトゥルースの幸せであり、
これが、俺たちトゥルースの不幸であり、
これが、俺たちトゥルースの喜びであり、
これが、俺たちトゥルースの悲しみであり、
これが、俺たちトゥルースの怒りであり、
これが、俺たちトゥルースの楽しみであり、
これが、俺たちトゥルースの情熱であり、
これが、俺たちトゥルースの誇りである。
そして。
これが、俺たちトゥルースの「罪」である。
永久に許されることもなく、ただ、砕けたメダルの重みと共に、背負い続けなくてはいけない『真実』なのだ。
~THE END~