【完結】APPEARANCE of TRUTH 作:土地_0000
???話【王】by ビーストマスター
カヲスにより復活したエデンと我らラヴド、二大勢力が激突した戦争から、もう七年の月日が流れた。
私はラヴドの王として、世界の統治に全力を注いでいる。
そんな時、過去のある出来事を思い出した。
あれは、まだ復活したエデンとの戦争が始まるよりも前のこと。
今から十年ほど前のことだっただろうか。
まだ我が『ラヴド』が国家としての体を成しておらず、ただ戦争に勝利しただけの武装集団に過ぎなかった頃の記憶。エデンがN・G・ライトという絶対的な太陽を失い、その形を崩壊させたと思われていた時代の物語だ。
当時、N班の班長を務めていた私は、自ら志願してある小さな集落の視察へと赴いていた。
N・G・ライトへの憎しみのみを燃料にして戦い、勝利を掴み取ったラヴドは、体制を破壊する力こそ強大だったが、その後の「統治」に関してはあまりにも無力だった。倒すべき巨悪を失った組織は、皮肉なことに勝利と同時にその統率力を失い始めていたのだ。
結果として、各地の管理を任された兵士たちは規律を忘れ、堕落し、腐敗した。守るべき弱者から不当な取り立てを行い、自らを新たな「神」と勘違いする輩が後を絶たなかった。
かつての支配者である人類が滅亡した後、世界を覆ったのはエデンの恐怖ではなく、ラヴドの腐敗という名の暗い影だった。
今思えば、後に再興されたエデンに多くの者が参加したのも、この時期のラヴドが招いた必然だったのかもしれない。
そんな中、私はある報告を耳にした。
腐敗したラヴドの守備隊を、返り討ちにして追い払った集落がある。
表向きは「反抗勢力の鎮圧」という任務であったが、私個人の目的は別にあった。
何故、彼らは銃を取ったのか。そして、腐敗したとはいえ訓練を受けた兵士たちを、いかにして無名の民衆が退けたのか――その『真実』を確かめたかったのだ。
―
集落の入り口付近にベースキャンプを張り、私は班員たちをそこに留めると、単独で村へと足を踏み入れた。
だが、待っていたのは対話ではなかった。
到着するなり、私は殺気立った無数の民衆に取り囲まれた。彼らの瞳に宿るのは、ラヴドという看板を背負う私への、隠しきれない深い憎悪。話し合いを求める私の言葉は、彼らの突きつける銃口の前に虚しく散っていった。
このまま彼らが引き金を引けば、私は生存のために反撃せざるを得ない。
膠着した緊張が臨界点に達しようとした、その時だった。
民衆の包囲を割り、一人の女性が凛とした足取りでこちらへ歩み寄ってきた。
『ラヴド軍一級兵士、N班班長ビーストマスター。……一体、何をしにここへ来たの?』
一目見て、違和感を覚えた。
『Truth-Type-Medarot』。
従来の規格をすべて無視し、流れるような曲線と洗練された機動性を持った特殊な機体。エデンの暗部にそのタイプが多いことで知られるが、当時の彼女からは、組織に属する者の冷徹さは感じられなかった。
「先日、我が軍の兵士たちがこの集落から攻撃を受けたとの報告がありました。私はその事実関係を……『真実』を確認しに来ました」
私が答えると、背後に控えていた民衆から一斉に罵声が飛んだ。
『お前たちが悪いんだろ!』『正義は俺たちにある!』――。
その罵声に込められた熱量は、私に一つの確信を抱かせた。やはり、ラヴド側にも何か重大な問題がある。
歩み寄ってきた女性は、スッと手を挙げて民衆の怒りを制した。
『私はリネル。各地を放浪している、ただの平和主義者よ。この集落には二週間前から滞在しているわ。……先日の暴動を鎮圧したのは私。ラヴドの兵士たちが、いかに略奪者として振る舞っていたか……それを貴方に知ってほしい』
リネルは静かに、けれど逃れようのない鋭さで語った。
統治者として派遣されたラヴド兵たちは、酒場に入り浸っては整備器具や嗜好品を不当に徴収し、逆らう者には容赦なく暴力を振るっていたという。賊そのものの蛮行。
たまたまこの村に身を寄せていたリネルが、バラバラだった村民たちの結束を高め、自らの力でラヴド軍を撤退させたのが、事の真相だった。
やはり、ラヴドは腐っていたのか。私はメダルの芯が冷えるような、暗い感情に包まれた。
戦いに勝つことだけを求めた烏合の衆。その末路がこれほどまでに醜いものだったとは。
「……貴女の言うことが真実であれば、それは断じて許されることではありません。組織を代表し、謝罪いたします。……謝ったところで、貴女たちの我々への憎しみが癒えないことは重々承知していますが」
頭を下げる私の前に、リネルは一歩踏み込み、その強い瞳で私を射抜いた。
リネル:「いいえ。私が憎んでいるのは『ラヴド』じゃない。……私は、『戦争』そのものを憎んでいるの」
その言葉は、当時の私にとってあまりにも衝撃的だった。
リネル:「だから、できればこれ以上、戦いによって問題を解決したくない。……平和的な方法を、一緒に考えてほしいの。貴方が、ラヴドの兵士としてではなく、一機の生命として誠実であるならば」
リネルと私の目的は合致した。だが、現実は非情だ。
このまま「不祥事でした」と報告すれば、上層部は面子を守るために『もみ消し』を画策するだろう。すなわち、この集落を反逆者として焼き払う命令が下るのがオチだ。
逡巡する私に、リネルは不敵な笑みを浮かべて提案した。
リネル:「……とは言え、あなたたちラヴドの腐敗した体制のことは、私もよく知っている。なら、こうしましょう。……貴方に、この集落を『滅ぼした』ことにしてもらうのよ」
その一言で、すべてが繋がった。
リネルたちは民衆を率いて、夜陰に乗じて別の場所へと秘密裏に移住する。
その後、私が無人となった村を焼き払い、本国には「反逆勢力を鎮圧した」と偽りの報告を上げる。
極めて単純で、極めて効果的な、情報の隠蔽。
私はその『不都合な真実』を飲み込む決意を固めた。
―
その後の三日間、私は信頼できるN班の部下数名だけを使い、集落のメダロットたちの移住を全力でサポートした。
軍の支給品をこっそりと横流しし、彼らが新天地で生活を再建できるだけの物資を揃え、最後に、もぬけの殻となった村を徹底的に破壊した。
表面上、反ラヴド勢力は跡形もなく消え去った。
リネルの手腕は見事なものだった。
それこそ、本当にどこかの組織の諜報員なのではないかと思うほどに。
計画の完遂後。私は新天地へと向かうリネルと、冷たい月光の下で熱い握手を交わした。
別れ際、彼女は私の手を強く握り、最後のお願いを口にした。
リネル:「貴方はラヴドの中でも、それなりに発言力があるメダロットなんでしょう? ……どうか、お願い。いつか、戦争の無い……。誰も復讐なんて考えなくていい、平和な世界を実現して」
その時のリネルの目には、様々な感情が渦巻いていた。
ラヴドへの……否、戦争への憎しみ。平和への渇望。
そして――それらとは別に、何か拭いきれない『罪悪感』のような影。
まるで、彼女自身も、かつて大きな過ちに手を貸したことがあるかのような、重い沈黙。
当時の私は、その影の正体を知る由もなかった。
その後、まもなく復活したエデンの宣戦布告により再度戦争が勃発。
あの時の約束を守る事はできなかった。
リネルとも二度と会う事は無く、未だに謝罪も出来ていない。
――しかし、今。
二度目のエデンとの戦争を経て、私はラヴド国の国王として、この不確かな世界を統治する立場へと押し上げられた。
あの日、名もなき廃墟で交わした握手の温もりが、今も私の掌に残っている。
この温もりなくして、終戦後にエデンを解体せずに共に世界を統治するパートナーとする選択ができただろうか?
『DISAPPEARANCE』を破壊して、歴史を前へと進ませる決断ができただろうか?
女王襲撃事件の後、カヲスに生存の道を示し、エデンとの団結を深める判断ができただろうか?
……おそらく、いつかは同じ答えに辿り着いたのかもしれない。
だが、迷うたびに最後の一歩を踏み出させてくれたものの一つが、あの日の彼女の言葉だったことだけは確かだ。
この強大な権力を、決して暴走させてはならない。
あの時、彼女が見せた「戦争への復讐」という意志。それを継ぎ、形にする者こそが、『王』と呼ばれるべきなのだ。
私は窓の外、地平線の彼方を見据え、静かに身を翻した。
三日後。エデン国女王コスモスとの首脳会談。
会談へは、いつも通り国王専用の機体で向かう。
あの時の『真実』を忘れぬことを固く誓い、私は今日、平和という名の最も困難な戦いへと赴く。
―――To be continued 『THE END OF DISAPPEARANCE』
???話【王】終わり