APPEARANCE of TRUTH   作:土地_0000

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第五話【『パ』】

第五話【『パ』】by ビート

 

 

 タインという男。思考の単純さに反して、その機体出力は俺の想定を大きく逸脱していた。

 たしかに俺たち『トゥルース』は、今回のような縛りの多い公式戦は不得手だ。だが、それにしてもセルヴォの追い詰められ方は異常と言える。一撃ごとにリングの床板が悲鳴を上げ、セルヴォの装甲が火花を散らして削られていく。

 判定は出た。タインの個体能力は『十二使徒』の座に据えるに相応しい。

 あとは、この男を屈服させ、エデンの駒として処理するだけだ。

 あの不器用なほど真っ直ぐな佇まいを見る限り、タインは自ら提示した「敗北すれば何でも言うことを聞く」という誓約を違えることはないだろう。……自分を縛るような美学を持つ個体は、俺たちにとって非常に扱いやすい。

 今回の任務は、案外楽に終わるかもしれないな。

 

 セルヴォが大きく右腕を振り、派手な挙動でタインの視線を誘導する。

 その刹那、俺は光学迷彩の揺らめきの中に身を潜めながら、並行移動を開始した。銃口を向ける先は、タインの脚部駆動系。関節の隙間を縫うように、ライフルの弾丸を静かに撃ち込む。

 タインは「鋼の肉体」を誇るが、頭脳までは鍛えられていないようだ。俺の狙撃とセルヴォの攪乱。この反復作業によって、最強の格闘家は着実にその機動力を奪われていく。

 

 リング上の審判は、目の前で起きている「不自然な現象」に気づく様子もなく、棒立ちで試合を注視し続けている。

 ……計画通りだ。

 あらかじめ制御室の回路に仕込んでおいたプログラムが、正常に機能している証拠だ。今頃あの小部屋では、審判たちが介入用大砲を動かそうと必死にコンソールを叩いていることだろう。だが、彼らが何を出力しようと、リングには「異常なし」の信号が虚しく送られるだけだ。三回以上の発射命令を下せば電源が落ち、物理的なロックがかかる。大会が終わるまで、あの連中がここへ口を挟むことは不可能だ。

 

 二対一。いかなる不条理もプロの技術で塗り潰す、トゥルースの勝利方程式。

 セルヴォは俺の『隠蔽パーツ』の波長を索敵で捉えており、俺たちの連携には一分の澱みもない。

 だが、完璧と思われた流れが、突如として断絶した。

 

タイン:「だらぁ!」

 

 タインが地鳴りのような咆哮と共に、真後ろへと振り向いた。

 俺が放った不可視の弾丸。それを、奴は剥き出しの拳で真っ向から殴り返したのだ。

 逸れた弾丸は、本来の射手である俺の眉間数センチを掠めていった。咄嗟に回避したが……どうなっている? 隠蔽状態の俺の挙動を、なぜ捉えられる。

 

タイン:「さり気にミスっちまった! ルールを破ってはいけねえという条件をつけ忘れたぜ!」

 

 タインは不敵に笑うと、セルヴォを一瞥し、そして確信を持って、何もないはずの俺の立ち位置へと視線を固定した。

 観客や審判の目には、虚空に向かって独り言を吐く狂人の姿に映っただろう。だが、俺とセルヴォの背筋には、確かな悪寒が走っていた。

 奴は、見えているのか。

 

セルヴォ:「さて、何の事かな?」

 

 普段通り、軽薄な声でとぼけてみせるセルヴォ。だが、その関節の僅かな軋みが、相棒の動揺を伝えてくる。

 

タイン:「へへッ。そうくるか。でもな、見えねぇと思って油断すんな! さり気に強者のオーラは感じてるんだぜ!」

 

 オーラ……だと?

 光学迷彩の干渉波でも、駆動音の反響でもない。俺の頭では到底定義し得ない、あまりに非科学的な理由。

 愕然とした。だが、すぐに納得もした。成程。やはりこいつは賢くない。知性の限界を超えた先で、本能的な第六感が異常発達した結果のイレギュラーか。

 

タイン:「いくぞ……ウルトラスーパーデラックスロギアパラミシアゾオンシュージンサイコーファイナルドラゴン拳!!」

 

 ……!?

 長い技名を叫んでいる間に、仕留める。

 俺はライフルの出力を最大まで励起させ、タインの右肩へ狙いを定めて引き金を絞った。

 

よし……ライフルは正確にタインの右肩を射抜いた。

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 手応えは、空虚だった。

 弾丸が貫いたのは、タインの残像に過ぎない。次の瞬間、俺の視界を覆ったのは、聴覚を焼き切らんばかりの暴力的な破壊音だった。

 気が付けば、セルヴォの身体が砲弾のように吹き飛ばされ、コンクリートの壁面へと埋まっていた。

 

タイン:「さ、さり気にヤバかったが……今のを喰らったら、もう立てねぇだろ」

 

 ……馬鹿な。

 機体性能の差は計算に入れていた。だが、逆境でこれほどまでの出力を叩き出すとは。

 任務に致命的な欠陥が生じた。俺たちは、この舞台で勝たなければならなかった。それが奴を落とすための最短ルートだったからだ。

 うつ伏せに倒れたセルヴォは動かない。審判が困惑しながらも、タインの勝利を宣言しようと前へ出た。

 

 ……だが。

 

『さ……て、』

 

 ノイズまみれの、掠れた電子音。

 

『勝負は……』

 

 ――まさか。

 

セルヴォ:「まだ……ついてねー……つー……のッ……」

 

 立ち上がった。

 装甲はひしゃげ、関節からはオイルが噴き出している。腕を力なく垂らし、焦点の合わない目でふらつくその姿は、機能停止寸前のガラクタ同然だ。

 だが、そのメダルの最深部にある「誇り」の残り火が、限界を迎えたフレームを無理やり突き動かしていた。

 

 セルヴォさえ立っていれば、試合は終わらない。

 ならば、俺が仕上げる。俺一人でも、この怪物を屠るまで。

 

 俺はタインが入場してきた選手専用通路の暗がりへと滑り込んだ。

 隠蔽はまだ生きている。今までのような精密射撃では、この男を止めるには足りない。

 俺は頭部の重火器スロットを開放し、最も質量のある一弾――ミサイルを励起させた。

 弾体が大きい分、隠蔽は不完全になる。だが、この通路の奥から撃てば、観客の目には「乱入者によるアクシデント」として処理されるはずだ。

 

 タインがセルヴォへトドメの拳を振り上げる。

 その瞬間。

 

「……落ちろ」

 

 ミサイルが爆音と共に放たれ、タインの頭部へ最短距離で到達する。

 

 勝った。

 

タイン:「うおおおおぉぉぉぉ!! さり気えええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

そう思っていた時期が俺にもありました。……いかん、二度目だ。

 

 タインは突如として背後を振り返ると、あろうことか振り上げた拳をミサイルへと叩きつけた。

 凄まじい爆発。高熱の爆風が会場を呑み込む。

 俺の放った最後の一撃は、正面から相殺された。

 

 だが。

 爆煙の向こう側。タインの背後に立つ、青い影が静かに腕を掲げていた。

 

『たて、……一閃!』

 

 爆音を裂いて放たれたのは、青白きメダフォースの閃光。

 不意を突かれたタインの巨躯が、断末魔のような軋みを上げて崩れ落ちた。

 そこに立っていたのは、虚ろな目を不敵に細めた、俺の相棒だった。

 

セルヴォ:「さて、……最後の一撃は……真の主人公が……決めるのさ」

 

 『縦一閃』を『たて、一閃』と呼ぶあの男の癖は、どうやら死線を超えても治らなかったらしい。

 

:「勝者……セイト!!」

 

 状況が飲み込めず、処理能力の限界を超えた審判が、ヤケクソのような叫びを上げて勝敗を宣告した。

 

 

 

 

 騒乱の閉幕後。

 俺とセルヴォは、人目のつかない路地裏へタインを連れ出した。

 

タイン:「さり気に負けは負けだ! なんでも言うこと聞いてやるぜ!」

 

 タインは、自分が卑怯な手でハメられたことなど一分も気にしていない様子で、爽やかに親指を立てて見せた。……呆れるほどにお人好しな男だ。

 

「いいのか。俺たちは二対一でお前を攻撃したんだぞ」

 

 あまりの物分かりの良さに、思わず確認の問いを発した。

 

タイン:「さり気に良いってことよ! 〝ルールを破ってはいけねえ〟という条件をつけ忘れた俺が悪いのさ。で? 何をしてほしい?」

 

 セルヴォが、いつもの軽薄な貌を取り戻して前に出る。

 

セルヴォ:「さて、――――」

 

 俺たちはエデンの再興、そして『十二使徒』の役割について、すべての事情を説明した。

 理解力の乏しいタインを相手に同じ説明を五回も繰り返す羽目になったが、なんとか交渉のテーブルにつかせることには成功した。

 ここで「No」と言えば、この場が奴の墓場になる。……だが、俺の危惧は無用だった。

 

タイン:「分かった。戦争は好きじゃねえが、さり気に約束だからな!」

 

「……本当にいいのか?」

 

タイン:「ここで約束を破るなんて、さり気に漢らしくないぜ!!」

 

 やはり、そういう男だったか。

 俺のストレージに、タインの性格データが「極めて扱いやすい駒」として保存された。

 

セルヴォ:「さて、決まりだな。じゃあついて来な。エデンに案内する。……それから、これはお前にやるよ」

 

 セルヴォは、大会の優勝賞品として受け取ったあの黄金のケースをタインに差し出した。

 

タイン:「マジでか!? 伝説のチャンバラソードだぞ!!?」

 

 タインのアイセンサーが目玉のように飛び出さんばかりに輝く。

 だがな、タイン。……残念ながら、それはお前が思うような至宝ではない。

 運営側が客寄せのために用意した、精巧な贋作。俺たちトゥルースがそれを看破できないはずもない。

 

セルヴォ:「さて、偽物だ」

 

タイン:「偽物!?」

 

セルヴォ:「さて、チャンバラソードならぬ、チャン『パ』ラソードってとこだな」

 

 セルヴォは、悪戯が成功した子供のような邪悪な笑みを浮かべ、ケースをタインの手に握らせた。

 タインはそれを凝視し、深刻な顔でフリーズしている。流石にショックだったのかと思えば――。

 

タイン:「これ、オークションに出したらさり気に高く売れっかな?」

 

 ……この男の「漢らしさ」の基準が、俺には一生理解できそうにない。

 

セルヴォ:「さて、買うのは相当な馬鹿だな。ちなみに出すならちゃんと偽名を使っとけよ」

 

 セルヴォ。余計な助言をするな。

 

タイン:「偽名か……そうだな……俺の名前がタインだから、〝ヴァレン〟とか、さり気にかっこよくね?」

 

 もう、好きにしろ。

 

 俺は一つ、大きなため息を吐いた。

 不透明な要素はすべて消えた。新たな「駒」を従え、俺たちは拠点へと戻る。

 

 ……何はともあれ。任務完了だ。

 

 

 

第五話【『パ』】終わり

 

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