【完結】APPEARANCE of TRUTH 作:土地_0000
第六話【N.G.ライトは神様なのか? ~最終鬼畜全部炎~】by リネル
指定されたB-C-4地点。
瓦礫の山を越えた先に広がっていたのは、文字通りの『地獄』だった。
す っ ご い 物 騒 な 感 じ な ん で す け ど ー ー ー ー ー ! ! ! !
……という魂の絶叫を、心の奥深くへ叩きつけたのは、約五分前のこと。
落ち着くのよ、リネル。
パニックになるのは新兵の証拠。今は冷静に、この惨状をトゥルースとしての『目』で分析しなければならないわ。
状況は最悪。
私が接触する予定だった旧エデンの残兵たちは、無謀にも近隣のラヴド支部へ攻撃を仕掛けたらしい。でも、綿密な侵攻計画もなかったせいであっさりと返り討ちに遭い、今は数倍ものラヴド軍に包囲されて、袋のネズミ状態ってわけ。
まったく、とんだ二度手間を増やしてくれるわね。
……それにしても。
ラヴド……。
その名が頭を過った瞬間、私の中が氷のように静まり返った。
さっきまでのパニックが嘘みたいに消えていく。代わりに、腹の底から重く淀んだ熱が込み上げてきた。
そう。
私はいつだって、この『怒り』にだけは驚くほど誠実でいられるの。
本来の任務は、旧エデン兵との接触と状況確認。
けれど、今はまず彼らをこの包囲から救い出さなければならない。
目の前のラヴド軍が邪魔ね。
力押しで殲滅するのは効率が悪いわ。
まずは敵の喉元――ラヴド支部の機能そのものを麻痺させて、追加の増援が来る前に全てを終わらせるべき。
私が集めた情報では、旧エデン兵の抵抗は意外にもしぶとい。
ラヴド側がこれだけ時間をかけても落とせていないのは、それだけ現場が混乱している証拠よ。
そろそろ他支部から精鋭部隊が送り込まれてくるはず。
まずはそれを絶たせてもらうわ。
……ふふっ。
新人の初仕事にしてはハードルが高いけれど、さすがはエリート集団トゥルース。
一筋縄じゃいかない汚れ仕事こそ、私の『復讐』には相応しいわ。
私は気配を殺し、ラヴドの支部へ侵入した。
案の定、兵士たちの大半は外の包囲網に気を取られていて、内部の警備はスカスカ。私は悠々と廊下を進み、この拠点の中枢であろう支部長室を発見した。
エデン本部のあの迷宮に比べれば、こんな安普請の支部、子供部屋も同然だわ。
扉の隙間から、二つの低い声が漏れてくる。
L兵:『支部長……奴ら、中々粘りますよ』
支部長:『うむ……。なんとかM班とだけは連絡が取れたが、それ以外が繋がらん』
L兵:『M班……それなら、奴らの背後を突くには十分な戦力ですね』
会話の内容からして、室内にいるのは支部長とその側近、わずか二体。
追加の増援計画を練っているようだけど……。
残念。
その計画、ここで『未定』に書き換えてあげるわ。
扉を音もなく開き、私は部屋の中へ滑り込んだ。
予想通り。二機とも、背後から忍び寄る私に気づく様子さえない。支部長は壁の地図を睨みつけ、側近は背中を丸めて端末を叩いている。
……なんて好都合。
私に背中を見せたことが、あんたたちの最大のミスよ。
「……デストロイ」
自分の声が、悪魔の囁きみたいに冷たく響いた。
瞬時に、私の両腕から放たれた衝撃が二機の装甲を貫く。
鈍い破砕音と共に、ラヴド兵二体は床へ崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
私のパーツは、頭部も右腕も左腕も、その全てが『デストロイ』の特性を持つ。
一度狙いを定め、背中を向けた
機能停止した二機を見下ろす。
胸の奥に溜め込んでいた復讐心が熱を帯び、かつて見た光景を鮮烈に呼び覚ましていく。
決して忘れない。
忘れてたまるもんですか。
あの七年前の、全てを焼き尽くす紅蓮の夜――。
平和に暮らしていた私の村。
そこに泥足で踏み込んできたのは、あんたたちラヴドだった。
逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ親友。
それらを背に、あんたたちの隊長は平然とした顔で言い放ったわよね。
『隊長、多少の犠牲はありましたが、無事任務完了であります!』
『うむ、反乱分子の粛清のためならば致し方ない。それでは、生き残った村人たちへの尋問を開始しようか』
自分たちこそが絶対正義だと信じて疑わない、その傲慢な瞳。
反逆者を探すためなら、罪のない子供の村を焼き払っても構わないという狂信。
私は、あんたたちを絶対に許さない。
平和を盾にして、私から全てを奪ったあの蛮族どもに、相応の報いを与えてあげる。
――あ、いけない。
ついつい過去に浸りすぎてしまったわ。
今は任務中。
冷静にならなきゃ、私。
床に転がる二機へ、さらにえげつない追撃を加えてやりたい衝動を、トゥルースとしての自制心で押さえ込む。
私は部屋にある通信設備を徹底的に破壊した。
これで増援のタイミングは致命的に遅れる。
さて……。
次は、外で震えている同胞たちを迎えに行ってあげるとしましょうか。
―
ラヴド支部での工作を終えた私は、休む間もなく戦場へ急行した。
灰色の煙が立ち込める荒野。
その中心部、ラヴドの分厚い包囲網に抗うように、一際大きな、けれどどこか空回りしている叫びが響いてくる。
?:『来いよぉぉぉぉぁぁぁぁーーー!! ラヴド共ぉぉぉぉーーー!! まだまだオレは負けてないゼ!!』
……良かった。
まだ、やかましいのが生きているわね。
でも、状況は一刻を争うわ。
一小隊規模の残兵が、ラヴドの正規軍を相手にどれだけ持ち堪えられるか。
包囲網をどうやって抉じ開けようかと、私が遮蔽物の陰で思案していた、その時――。
??:『戦い……ウォー、彼らは何故、斯くも愚かに戦うのか……』
――ッ!?
背筋に冷たいものが走る。
誰にも気づかれずに背後を取られた!?
咄嗟に飛び退いて振り返ると、そこには春風のように穏やかな笑みを浮かべた、パーティクル――大天使型の機体が佇んでいた。
「あ、貴方は……?」
??:『フフフ……平和主義者さ』
……はぁ?
答えになってないわよ。
私がツッコミを入れようと口を開きかけたけれど、そのパーティクルは私の反応を待たず、陶酔したような独白を再開した。
??:『真の平和……ピースとは果たして何なのか。皆が望む理想とは、決して掴めぬ蜃気楼なのか……。全てを破壊する悲しき輪廻を断ち、世界に光を解き放つ……僕はそれを目指し、旅を続けているのさ。フフフ……』
……なに、この人。
話すスピードはゆったりしているのに、独特の
もしこの電波な長台詞に的確なツッコミを入れられるメダロットがいたら、是非お目にかかりたいものだわ。
「……何で、私にそんなことを話すのよ?」
??:『ラヴドの兵士……ソルジャーでもない君が、恐怖に屈せず、この戦場を真っ直ぐに見つめていたからさ。フフフ……では、失礼するよ。運命……デスティニーの導きがあれば、また会おう』
彼は優雅に一礼すると、そのままどこかへ去っていった。
……自分の世界が完結しすぎているわね。
でも、呆れている暇はないわ!
早く彼らを救出しないと!
『おい、嬢ちゃん。こんな所にいると危ないぃ~…ぞッ』
――また!?
今日二度目の、背後からの急な声。
冷や汗を流しながら振り返った私の目に、禍々しい悪魔の意匠を持つ漆黒のメダロットが飛び込んできた。
ブラックメイル……!
ラヴド軍の中でも抜きん出た武勇を誇る、あの『最凶』の格闘機が、何故こんな辺境の支部にいるのよ!?
「……っ」
ブラックメイル:「聞いてんのぉ~…かッ? ここはあぶねーから、さっさとあっちへ行ってぇ~…なッ」
どうしよう。
完全に怪しまれている。
何か適当な言い訳を……と、私が必死に考えていた、その時だった。
L兵:「ブラックメイル様、どうやら今回の件は旧エデンの兵士の中でも飛びぬけて戦闘力が高かったジーヴァスという男が…」
ブラックメイル:「あぁ? 誰だって? もう一回言ってくぅ~…れッ」
しめた!
いいタイミングでブラックメイルの部下が来たわ。
今の内に……と思った、その刹那。
――ズ、ガ、アァァァァァァァァァァンッ!!
目の前の風景が、爆鳴と共に「朱」へ塗り潰された。
凄まじい衝撃。
耳に届くのは重火器の音でも、金属の激突音でもない。
全てを呑み込み、焼き尽くす、暴力的なまでの『熱』の咆哮。
視界の端から端までが、一瞬にして猛烈な炎の壁へ変貌していた。
ブラックメイル:「お、おい!! 待て!!」
ブラックメイルの怒号も、熱風にかき消される。
私は反射的に炎の中へ走り出した。
恐怖よりも、この異常事態の正体を突き止めなければならないという、トゥルースとしての意識が勝った。
火の粉が舞い、装甲が熱で軋む。
その炎のカーテンを抜けた先で、私は一機のメダロットを目撃した。
オレンジ色の、雅な装甲を纏った見たこともない機体。
彼女は、ラヴドの包囲を一人で耐え抜いていたらしいアンビギュアス2――多分こいつがさっきから戦っていた男、ジーヴァス……かな?
オレンジ色のメダロットは、そのジーヴァスの手を掴み、静かに微笑んでいた。
ジーヴァス:「助かったゼ! お前、ナニモンだ?」
???:『クククク……N・G・ライト様をどう思う?』
ジーヴァスはニッと笑うと、怪しいメダロットに言う。
ジーヴァス:「N・G・ライト様は……神だゼ!!」
???:『クククク……最高の答えだ!!』
刹那、オレンジ色のメダロットは、ジーヴァスを抱えたまま爆発的な勢いで上昇を始めた。
大気を引き裂き、一条の火柱となって大空へ消えていく。
「……逃げられた」
呆然と天を仰ぐ。
けれど、私はすぐに視線を地上へ戻した。
周囲に転がっているのは、炎に焼かれ、あるいは先ほどの乱戦で機能停止した旧エデン兵たち。
私はブラックメイルたちが煙と混乱に惑わされている隙を突き、瓦礫の間を縫うように駆け回った。
接触対象を連れ帰ることはできなかった。
けれど、せめてこの『魂』だけは。
私は転がっているティンペットからメダルを一つ一つ強引に抜き取り、袋へ収めていった。
これが、トゥルースとしての私の、初めての成果。
―
――――エデン本部『トゥルースのお部屋』
デュオ:「ぃゃん! 簡単な任務ぁげたつもりだったのに、エラィ目にあったゎねぃ。ぉっかれ~♪」
デュオさんは相変わらずの軽い調子で迎えてくれた。
……こっちは死ぬかと思ったんですけどね。
そう言いたいのをぐっと堪え、私は収穫物をデスクの上へ置いた。
「接触対象だった、旧エデン兵たちのメダルです。……全員分ではありませんが、可能な限り回収してきました」
デュオ:「……ぉ~♪ 手ぶらで帰って来なぃあたり、流石ねぃ。ばっちグ~♪」
デュオさんの目が、ほんの僅かに鋭くなった。
……やっぱり。
私がただメダルを拾って帰ってきただけじゃないことまで、察しているみたい。
あの鋭い目線はちょっぴり暴れすぎた私への小さな注意なのかも。
「……デュオさん。あの、一つだけいいですか?」
デュオ:「どぅしたのかしらん? リネルちゃん♪」
「デュオさんって、本当は凄く……なんでも分かってるんですね。立ち振る舞いに、少し騙されていました」
私がそう告げると、デュオさんの軽い笑みが一瞬だけ薄れた。
その奥から、主任としての鋭い眼差しが覗く。
デュオ:「ふふん、その気付き……リネルちゃんの成長の証ょ♪ じゃぁ、残りの二人が帰ってきたら次の任務を言い渡すから、それまでテキトーに休んでてちょーだぃ♪」
……主任。
仕事が早いわ。
でも、私は負けない。
この組織で生き残って、いつか……いつか、ビート先輩の隣へ。
私は拳を小さく握りしめ、次の戦場を想った。
第六話【N.G.ライトは神様なのか? ~最終鬼畜全部炎~】終わり