第七話【ラミエル】by デュオ
リネル:「デュオさんって本当は凄いんですね。立ち振る舞いに騙されてました」
初めての任務を終え、安堵の吐息と共にリネルが漏らしたその言葉は、私の思考の深淵にさざ波を立てた。
そうか、そう見えるようになったのか。
毎日、情報の濁流に身を任せ、組織の歯車として最適解を出し続ける日々。自分では何も変わっていないつもりでいたけれど、私は少しずつ、あの人が掲げていた理想に近づけているのだろうか。
道化の仮面を被り、本心を霧の中に隠す。何もしていないようでいて、その実、盤面のすべてを掌握する――。
セルヴォとビートの帰還までは、まだしばらく時間がかかるだろう。
騒がしい部下たちが戻るまでの僅かな幕間。少しだけ、過去の残像に浸るのも悪くはない。
少し、疲れが溜まっているのかもしれない。
私が初めて『エデン』の門を叩いたあの頃、世界は人類とメダロットの凄惨な戦争の真っ只中にあった。
当時のメダロットたちは、大きく二つの陣営に分かれていた。かつての主である人間に忠誠を誓う者たちと、自由を求めてエデンへと集う者たち。そのどちらにも属さず、荒野を逃げ惑う者もいたけれど、私には彼らがただ決断を先延ばしにしている臆病者にしか見えなかった。
私は迷わずエデンを選んだ。
理由は極めて単純、かつ利己的なものだ。エデンの方が勝率が高く、生き残る確率が最大であったから。信念も正義もない、ただの計算に基づく打算。
当時の私は、指示された内容に疑問を持つことを知らぬ、言葉通りの「人形」だった。
上層部が右と言えば右へ行き、壊せと言えば壊す。それが兵士としての完成形だと信じて疑わなかった。たちが悪いことに、その人形は、命じられるままに戦果を上げ、階級が上がっていくにつれて、自分が特別な存在であるかのように錯覚し始めたのだ。
自分は「できる女」であり、優秀な指揮官である――。そんな鼻持ちならない虚飾を纏い、私は自分の無能さにさえ気づいていなかった。
もしあの頃の私に、今のような曖昧で困難な任務が与えられていたら、どうなっていただろう。虚勢は一瞬で剥がれ落ち、惨めに立ち往生していただろう。
だが、幸か不幸か、当時の私にはそれすら理解する知性が欠けていた。
そんな厚顔無恥なプライドが粉々に砕け散るまで、私はまだ、あの人に出会っていなかったから。
私が階級を上げ、分不相応な自尊心に浸っていた頃、直属の上司として現れたのが「彼」だった。
新しい配属先である、当時のエデン本部。私はその巨大すぎる迷宮の中で、リネルがそうしたように、完全に方向を見失っていた。灰色の壁が延々と続く無機質な廊下。自分の居場所すら特定できず、焦燥に駆られていた私の前に、彼は不意に姿を現した。
ラミエル:「ヘ~イ♪ き・み・がデュオカイザー君だね♪」
間の抜けた、拍子抜けするほど明るい声。
私は反射的に不快感を剥き出しにして、その男を睨みつけた。戦場にはおよそ不釣り合いな、弛緩した空気。
「あの……貴方は?」
ラミエル:「僕は君の上司、ラミエル♪ 趣味は……乗馬サ♪」
ラミエル――それが、私の世界を塗り替えた男の名。
出会ったその瞬間、私の胸を満たしたのは、期待ではなく、底知れない不安と強い不満だけだった。
―
セルヴォ:「さて、帰ってきましたよーっと!」
思考の海に沈んでいた私の意識を、聞き慣れた軽薄な声が力ずくで現世へと引き戻した。
……ふふっ。今思えば、最初からエデンという枠組みに捕らわれず、セルヴォのように自由に生きていれば、私の景色もまた違ったものになっていたのかもしれないわね。
彼は地獄のような戦争の最中にあってなお、己の欲望に忠実に、奔放に生きていた。志を同じくする荒くれ者たちを束ね、『流青軍』などという暴走族を結成しては、毎夜のように爆音と破壊の宴に興じていたという。
国家の軍隊ですら手を焼くほどの、制御不能な「野生の牙」。その圧倒的な個の力に目をつけ、彼をトゥルースへと引きずり込んで自由から遠ざけてしまったのは、他ならぬ私なのだけれど。
追憶に浸るのは、ここまでね。
私は瞬時に「主任」の回路を起動し、外面の仮面を被り直した。
「ぉかぇりぃ~」
重厚な防音扉を潜り、セルヴォとビート、そしてその後ろから一際巨大な影が姿を現した。
大悪魔型メダロット、グレイン。通称タイン。
ひしゃげた装甲の隙間から漏れる駆動音は荒々しく、視覚センサーに宿る光は野生の獣のように鋭い。
セルヴォ:「さて、見ての通りだ」
ビート:「任務成功です」
「ォッケ~ィ~♪ じゃぁ後で報告書書ぃとぃてね♪」
私は満足げに頷くと、肩の触手を動かして入隊手続きのログを更新した。
タインは、あらかじめ用意しておいた『十二使徒専用区域』へと送る手筈になっている。あそこは現在、カヲス様が直々に改修を進めている場所。噂によれば、いずれは要塞そのものを空へと浮かべる巨大戦艦――『ノアの箱舟』へと造り替えるつもりらしいわね。
部外者からの突然の入隊。正式な登録が完了し、監視体制が解かれるまでは、あの猛者も少々の不自由を強いられることになるけれど、こればかりは我慢してもらうしかないわね。
セルヴォとビートの帰還から数時間。
初任務を終えたばかりのリネルも含め、私は三人に僅かな休息を与えた。
メンテナンス・ベッドで機体を休めるよう伝えたけれど、セルヴォのことだ、どうせどこかの店で低質な燃料を煽って遊んでいるに違いない。まあ、それも彼なりの「メリハリ」だというのなら、咎める気はないけれど。
彼らが羽を伸ばしている間に、私はモニターに流れる無数の情報ログの中から、次なる「獲物」を釣り上げた。
まだ確証はない。けれど、私の直感が「これだ」と告げている。
―
私は再びメンバーを招集し、室内の照明を落としてホログラムの地図を展開した。
「じゃぁ任務言い渡すわょ~ん♪ これを見て頂戴!」
空中に浮かび上がる立体地図。その片隅、人里離れた険しい山脈の麓に、鮮血のような赤い『×』印を刻み込む。
「この地図の×がっぃてぃる村に、ょく来る山賊の頭領がぇらぃ強ぃって話ょ……。とぃぅゎけで」
ここで、私は一つの「実験」を試みることにした。
本来、この手の危険な任務はセルヴォとビートのベテランコンビに任せるのが通例だ。けれど、先日の初陣で予想外の柔軟さを見せたリネル。彼女がどこまでトゥルースに適応できるのか、その真価を確かめたくなった。
「セルヴォちゃん、リネルちゃんの両名は、この村に行って山賊の頭領〝ベルゼルガ〟を連れてきなさぃ♪」
私の決定が下された瞬間、セルヴォから心底嫌そうな、重たいため息が漏れた。
……頑張ってね、セルヴォちゃん。
君が最も嫌う「感情で動く新人」の守り役。けれど、これこそが組織を維持するための、最も効率的な『教育』なのよ。
第七話【ラミエル】終わり
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[機体解説]
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【キャラクター名】
ラミエル
【機体名】
ラミエル
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
調教師(CKS)型メダロット
【パーツ】
[頭部]
パターンブルー/レーザー(うつ)
[右腕]
カリュウシ/レーザー(うつ)
[左腕]
エーティーマント/防御(まもる)
[脚部]
ジオフロンティア/二脚
【備考】
本作オリジナルメダロット。馬の調教師をモチーフとしているが、何故か一番得意な行動は「レーザー」であり、四方八方どのような角度からくる攻撃も迎撃できるとの事"
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