第八話【APPEARANCE of BERSERGA】byセルヴォ
さて…………。
納 得 い か ね え え ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ え ぇ え え ぇ ぇ ぇ ぇ ー ー ー ! ! ! ! ! !
何度考えても腹の虫が収まらねえ。なんでだ? なんで俺が……このトゥルースのセルヴォ様が、生意気なクソガキの守りなんかさせられなきゃならねえんだ。クソが。
こんなの、教育係とかいう言葉が死ぬほど似合うビートの役割だろ。あいつなら、こういう面倒ごとも「了解」の一言で平然とこなしやがるんだからよ。
さて、デュオさんの言い分じゃ、俺はこの後輩と同じ格闘タイプだから指導しやすい……ってことらしい。だがな、理屈と感情は別物なんだわ。俺が初めて『トゥルース』に引き抜かれたときの相棒を思い出してみろ。あいつは罠の専門家だった。戦い方も思想もまるで噛み合わなかったが……まあ、そいつはもうとっくに死んじまったけどな。
あぁ、もういい。考えるだけ時間の無駄だ。
とにかく、指定されたポイントには到着した。
「さて、後輩」
リネル:「はい?」
さて、今の返答、僅かに殺気が混じって聞こえたのは俺の気のせいかね?
そういえば、道中の機内でもこいつはずっと無愛想だったな。俺、何か嫌われるようなこと言ったか? ……いや、初対面で「色気がない」とは言ったが、あれはただの事実だしな。
まあいい。
「さて、ここからは別行動だ。お前は適当に、盗賊団の目撃情報でも洗ってこい」
リネル:「……はい」
後輩は、それまで隠そうともしていなかったダルそうな態度を瞬時に消すと、キビキビとした足取りで街の奥へと消えていった。仕事だけは真面目にやるってか。
さて、じゃあ俺は、一番「真実」が集まる場所へ行かせてもらおう。
―
「さて、店主。ここで一番キツいやつを出しな」
さて、酒場。情報収集という名目でサボるには最高の場所だ。
俺が上機嫌でカウンターに腰を下ろすと、店主はおずおずと濁った安酒の瓶を差し出してきた。
俺が不満げに眉をひそめると、店主は申し訳なさそうに頭を下げて、掠れた声で弁解する。
:「……すんません。良い酒は、例の盗賊団に全部強奪されちまったもんで」
セルヴォ:「さて、その盗賊団様は、この酒場にまで顔を出すのかい?」
:「ええ……。略奪自体は他の村で行うんですが、騒ぎたくなるとこの村へやって来て、酒場でバカ騒ぎをするのが奴らの習慣になっていまして……」
さて、なるほどな。実に都合がいいじゃねえか。
つまり、俺はこのまま座って待っていれば、ターゲットが向こうから転がり込んでくるってわけだ。
そうと決まれば、プロフェッショナルとして、まずは環境に馴染む努力をしなきゃな。
――飲むぜ。
リネル:「何やってるんですか!? 信じられない!!」
さて、最高の気分に冷や水をぶっかける奴が現れた。
聞き込みを終えたらしいリネルが、鬼の形相で入り口に立っている。俺は動じず、コップを傾けたまま指示を飛ばした。
「さて、後輩。ターゲットはここによく来るらしい。お前も腰を据えて待機してろ」
リネル:「酒を飲みながら待つっていうんですか!?」
さて、このクソ後輩。マジでぶん殴ってやろうかと思ったが、プロの自制心で踏み止まった。俺は溢れ出しそうな感情を飲み込み、努めて冷徹に言い聞かせる。
「……さて、奴が現れるまでは自由に過ごせばいい。それが俺のやり方だ」
リネル:「だからって、任務中に飲酒だなんて! 見損ないました! もう少し真面目に仕事をしてはどうなんですか!?」
――さ て、 こ い つ 、 殺 そ う。
酒よりも先に、ドロドロとした殺意が全身の回路を駆け巡った。
俺は怒りを込めて、グラスをカウンターへ叩きつけた。このクソ後輩をバラバラに解体して、ゴミ捨て場へ放り込んでやろうと席を立ちかけた――その時だった。
『ヒャッハッハッハ! 今日からここは、ベルゼルガ盗賊団の貸し切りだぁ!!』
タイミングがいいのか悪いのか。
怒号と共に乱入してきた山賊どものおかげで、このクソ後輩は首の皮一枚で繋がったらしい。
山賊共が土足で店内に踏み込んできた瞬間、村の連中は一目散に逃げ出した。まあ、日常茶飯事なんだろうな。逃げ足だけはプロ並みだぜ。
俺がそんな光景を冷めた目で眺めていると、案の定、隣の正義の味方(仮)が吠えた。
リネル:「先輩、敵です! 戦いましょう!」
「さて、落ち着け後輩。真の敵さんはまだ登場してねえぜ」
さて、見れば分かる通り、入ってきたのはただの下っ端共だ。本命のベルゼルガの姿はどこにもねえ。ここで無駄に体力を消費して、肝心のターゲットが現れた時にガス欠じゃ話にならねえだろ。
俺は「わざわざ説明してやるまでもねえプロの常識」だと思って口を噤んだが、このクソ真面目なガキには通じなかったらしい。
リネル:「何言ってるんですか……村の人達が困っているのに黙って見ているんですか!? 最低、職務怠慢もいいところだわ!」
――さて、このバカ、何も分かってねえな。
『トゥルース』の仕事ってのは、困ってる奴に手を貸すような人助けじゃねえんだよ。むしろ、組織の利益のためなら無関係な一般人を平気で泥沼に突き落とす、真っ黒な『悪』の仕事なんだわ。
おまけに、俺たちにとっての『職務怠慢』ってのはな、私情に流されて任務の成功率を下げる行為を指すんだよ……。まあ、こいつに今更教えてやる義理もねえが。
リネルは腕をぶん回しながら、完全に油断していた盗賊団のど真ん中へ突っ込んでいきやがった。
さて、せっかちな奴だ。だが、予想通り下っ端共はボッコボコにされ始めてる。新人とはいえ、流石はトゥルースに選ばれた個体だ、雑魚相手なら無双だな。
さて、それにしても肝心のベルゼルガはどうした?
腹でも壊して欠席か? 盗賊団の集合写真でベルゼルガだけ隅っこの四角い枠に入ってる姿を想像して、俺は思わず吹き出しそうになった。
そんなくだらねえ妄想をしていた時だ。背後から聞き覚えのある、調子のいい声が掛かった。
『アレ? あんたセルヴォさんじゃないかい? オレっすよ! オレ! 流青軍の!』
さて、随分と懐かしい名前が出てきたな。
『流青軍』――人類が滅ぶより前、俺が頭を張っていた暴走族の名前だ。あの頃はエデン兵のなり損ないみたいな連中を片っ端から引き連れて、毎夜バカ騒ぎをしていたもんだ。俺がトゥルースに引き抜かれたせいで解散したはずだが……。
「さて、お前か……」
悪いが、ツラは見覚えがあるが名前はとっくに忘れた。
『覚えてますかい!? 実は今、妙な女が俺たちの仲間に攻撃を仕掛けてまして、ちっと協力を……』
「さて、断る」
その妙な女ってのは百パーセントあのクソ後輩だ。協力なんて死んでも御免だね。
そもそも。
「さて、お前はもう俺の舎弟でもなんでもねえ。いつまでも義理人情ごっこに付き合う必要はねえな」
『……相変わらずっすね、セルヴォさん。じゃ、オレは新しいボスに助けてもらうっすよ』
さて、強い奴に寄生して楽に生きようとするのは、こいつの変わらぬ本性か。かつては俺、そして今は……。
「さて、その新しいボスってのは、まさか」
『盗賊団棟梁のベルゼルガさんっすよ。あの人、強者がどうとか弱者がこうとか言って、戦いの時しか出てこないんっすよ』
――ビンゴだぜ。
思わぬところで、あの暴走後輩が役に立ったらしい。絶対に褒めてはやらねえがな。
そいつがベルゼルガを呼びに店を飛び出していった頃には、リネルは下っ端共の掃討をほぼ終えていた。
この盗賊団、マジで棟梁に頼り切りなんだな。揃いも揃ってクソ弱え……。
だが。その余裕は、店の入り口から現れた『影』によって一瞬で消え失せた。
銀色の重厚な装甲。周囲の熱を奪うような冷徹な風格。
ベルゼルガ。間違いねえ、こいつが本物だ。
ベルゼルガ:「フン……なにやら騒がしいと思って来てみれば、何者だ」
「何事だ」ではなく「何者だ」。
周囲の惨状には目もくれず、下っ端をなぎ倒したリネルという『個』の武力にのみ興味を示してやがる。十二使徒候補に相応しい、鼻持ちならない強者の感性だ。
リネル:「あんたが……ベルゼルガね」
ベルゼルガ:「フン……いかにも」
リネル:「村の人達のため……あなたを倒す!!」
――おい。目的が変わってんじゃねえか、このバカ後輩。
ツッコミを入れる間もなかった。リネルは猪突猛進にベルゼルガへ躍りかかる。
止めようにも遅すぎる。相手は十二使徒に選ばれるような化け物だぞ。おまけに今のお前は下っ端相手に暴れて、体力を消費してるはずだ。勝負になるわけねえだろ。
ベルゼルガ:「フン……奴らを倒して調子に乗ったか? 強者の驕りは醜いぞ」
ベルゼルガの右腕が不気味に発光した。
刹那。空気が張り詰め、俺の感覚が最大級の警報を叩き出す。
―――ッ、ド、オォォォォォン!!
強烈な閃光と爆鳴。ベルゼルガの放った『サクリファイス』が、リネルの華奢な機体を真正面から飲み込んだ。
自身の右腕パーツを爆薬として使い捨て、その反動で絶対的な破壊エネルギーを放つ自壊攻撃。
リネルの身体は木の葉のように吹き飛び、酒場の壁に不格好な音を立てて激突、そのまま地面に転がって沈黙した。
ベルゼルガ:「フン……我が高みへの導き手となると思ったが、残念だ。強者になり損ねた弱者よ」
ベルゼルガは、自身の失われた右腕を頭パーツ『ヘルメット』で平然と再生させながら、動かなくなったリネルを冷ややかに見下ろした。
面倒なことになっちまったが……。
後輩の死体を見るのも後味が悪いしな。
――さて、任務開始といこうかね♪
第八話【APPEARANCE of BERSERGA】終わり