OFF   作:ヘビーなしっぽ

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ZONE0
第一話


 

――警告――

この小説中には、警告なしにショッキングなシーンが登場する可能性があります。

ショックを受けるかどうかは、あなた次第ですが…

 

 

ようこそ読者の皆様。

あなたは”バッター”と呼ばれる存在の監視、及び操作を任されました。

”バッター”は、必ず果たさなければならない、重要な任務を帯びています。

私たちはこれより、”ゾーン0”にあなたを送り出します。

では、幸運を祈ります。

 

他に知りたいことがあれば、”ジャッジ”を見つけて聞いてください。

 

 

 

 

 

「俺の体を動かすには、スマートフォンをスワイプするか、キーボードの下キーを使ってくれ」

 

バッターは、目が痛くなるほどに黄色い地面に足を付けるなり、あなたにそう囁いた。

黒い野球帽に、上下とも真っ白なユニフォーム。同じく、上下とも真っ黒なアンダーシャツとストッキング。それがバッターの格好だった。手には、バットが握られている。もちろん、野球で使うあれだ。

バッターの立っている正方形の地面の少し奥の方に、一直線の道が続いている。彼は、あなたが画面を下にスワイプするのに合わせて、道の奥に淡々と足を進めた。

 

道を進んでいくと同時に、ゾーン0の全容が拝めるようになってきた。

上へと向かって進んでいく、段々のゾーンらしい。

 

あなたとバッターが上を見つめていると、前の方に白い物体を確認したらしいバッターがバットを構えて見せた。

が、その警戒は無用の長物の様で、近づいてきた白い物体は、一匹の小さな猫だった。

猫は、バッターと一定の距離を離して立ち止まると、にゃあ、と一鳴きしてから言葉を口にした。

 

「ゾーン0にはどんな生物も存在しているはずがない」

 

実に流暢で、それでいて文学的な口調だった。

バッターの顔を一瞥してから、猫は鼻をすんっと言わせながら続けた。

 

「ゆえに君は私の空想が生み出した、単なる虚構に過ぎないはずだ。そうに違いあるまい」

 

猫はバッターに対して吐き捨てるように言ってから、そうであろうと、と更に続けて口を開いた。

 

「そうであろうと名乗ることはしておこう。私の名はジャッジという」

 

猫は、自らをジャッジと名乗った。ジャッジといえば、数度上へスワイプすれば、第一に名前が登場したところを、再度見ることができるであろう。

それでもスワイプが面倒だという贅沢な読者のために、ここで説明を入れておこう。

簡略化して言うのならば、我々専属の案内役、である。

 

「親愛なる君の名に好奇の念が湧いて仕方がないな、曖昧模糊(あいまいもこ)たる対談者殿?」

「俺は”バッター”。神聖な任務を任されている」

 

バッターが猫に対して毅然として言うが、猫は釈然としない顔でバッターを睨みつけた。

 

「それは重畳。しかしながら君にかけた言葉ではないのだ、操り人形よ。話し掛けたのは、人形の操り手。君の名はなんというのだね、人形師殿?」

 

ジャッジはバッターの背後や、横など、周囲をきょろきょろと見回してから、そう言葉を吐いた。

彼の様に言葉を吐けないあなたの代わりに、バッターが静かに口を開く。

 

「人形師の名は███。俺たちと会話することはできない。だが███は起きるすべてを見ている。起きるすべてを聞いている」

 

バッターが業務連絡でもするかのように言った。ジャッジは面白くなさそうにもう一度鼻をひくつかせてから、変わらない文学的な言葉で声帯を揺らした。

 

「君たち2人が、我が眼の中の存在しえぬ幻影であったとしても、私もまたこの邂逅を喜ばしく思っていると言わせて頂くよ、親愛なる███」

 

そこで一度会話が途切れる。

沈黙が辺りを満たしかけるが、ジャッジの言葉が画面から消えてしまわないうちにバッターが言った。

 

「俺たちにはどうしてもお前の助けが必要なんだ」

 

バッターの言葉に、ジャッジは悪戯を思いついた子供のように口角を吊り上げながら返した。

 

「知っての通り、私の助けを必要とする人間は多い。誰もがみな、猫が大好きだ。我々は人々の足元へ身をこすりつけ、もっとも執拗なやり方でゴロゴロ喉を鳴らしてやる。みな、そうして欲しくて仕方ないのさ」

 

ジャッジが猫について偉そうに議論を始めて見せたが、バッターは呆れたような顔一つせず、ジャッジに言った。

 

「そんな手助けについて話してるんじゃない」

「なるほど…しかし、茫洋とした霊的存在について、私はどういった種類の奉仕を申し出ればいいのだね?」

 

衒学的なジャッジは上から目線に言った。

 

「俺は必ず成し遂げなければならない、神聖な任務を任されている。俺は世界を浄化せねばならない」

 

バッターの淡々とした説明に、ジャッジが大仰に肩をすくめて見せてから口を開け放た。

 

「賞賛に値する、比類なき志だな。いいだろう、それが君の助けになるというのなら、このエリアを通り抜けるガイドとして君に仕えようではないか」

「感謝する」

 

2人の一連の会話が終わったかと思えば、ジャッジは素早い身のこなしで壁に向かって走って行き、オレンジ色の壁に掛けられた空虚な梯子を伝って2段目の道へと移動した。

バッターの正面には、奇妙な数字が幾らか書かれた小部屋が見える。小部屋の外の左側には、空中にフワフワと鎮座するブロックが道を塞いでいた。ジャッジが昇った梯子は、ブロックの逆側、小部屋の右側にある。

貴方の指示に従いバッターもまた同じように、梯子に手をかけ足をかけジャッジを追う。

2段目に着いたバッターの目の前を陣取って、図々しく通せんぼしながらジャッジは言った。

 

「正直に打ち明けると、私は君のことを、触れられるほどにはっきりとした奇妙な幻想だと判断していたのだ。実際は、君は血と肉からなる生き物であると考えて構わないのだろうか?」

「ああ、そのはずだ」

 

ああ。で留まればいいものをバッターはなぜか、そのはずだ。とも口にした。

だが、そんなことには気すらかけずにジャッジは言葉を返した。

 

「ということは、今に至るまで私は誤解していたのだな。私が自らの思い違いに騙されている間、君は一度として私の邪魔をしなかった…。これは奇妙であると言える。というのも君は、私がここで会う機会を得た、本当に最初の生ある存在だからだ」

 

ジャッジは呼吸を2度3度してから、バッターの顔を再度確認し、もう一度続けた。

 

「実のところ、私はゾーン0を空虚な地であると結論づけていたのだ。無論、誤解していたわけだが。とはいえ、この世界には他のゾーンも存在する。そういった領域では敵意を持った個人により、これ以上なく暴力的な攻撃を受けるリスクが非常に高い」

 

ジャッジの言い草では、少々不十分で、それでいて分かりずらいであろう。私から補足をするのならば、ゾーン0以外のゾーンでは、暴力を受ける、ひいては、殺される可能性が十分にある。ということだ。

 

「君が担う神聖な任務は、君を幾つかのそういったゾーンへと導くだろう。そのような暴力的な対立について、きちんと念頭に置いて行動したほうがいいと助言しておこう。操り人形とその繰り手殿よ。君たちがこのことについて深い理解を極めれば、その輝かしい任務の達成を阻むあらゆる不浄な障害を打ち砕けるようになろう」

 

ジャッジは長々と言うと、一呼吸置いからもう一度声を発する。

 

「それはともかく、君のトレーニングはまだ終わっていない。君がまだ、私にガイドを求めると言うのなら着いてきたまえ」

 

長いセリフを2つも言い終えたジャッジは、軽く息を切らしながらも先ほどと同じように全速力で梯子を昇り切り、3段目へと到達した。

バッターとあなたも、ジャッジと同じ様に梯子を昇り切った。

3段目にジャッジの姿はなかった。どうやら、3段目にあった下り階段から、段々の”中”に入り込んだらしかった。

 

バッターもジャッジを追うようにして階段を下って行った。

 

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