OFF   作:ヘビーなしっぽ

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第二話

 

階段を下った先にあったのはゾーン1の床の色と全くの遜色一つない部屋だった。

壁には、左上に1、左下に2、右上に3、右下に4と文字が刻まれており、まるでその数字と対応するかのように部屋の四つ角に四つのブロックがふわふわと浮いている。

 

バッターの前方には、ジャッジと階段が見える。その階段は、三方向全てをブロックで囲まれており、通り抜けることが不可能なのは明確だった。

階段を下りてきたバッターを舐めるように見てから、ジャッジは少々馬鹿にした態度で言った。

 

「ああ、そうとも。ここを通り抜けるためには、君の知的器官を用いる必要がある」

 

ジャッジが言うには、この部屋は頭を使わなければ突破できない。ということだった。ジャッジは、これまた小馬鹿にでもするように、自分の頭を前足でちょんちょんと叩きながら、その意地悪い笑みを崩さず言う。

 

「分かるだろう? 君の陳腐な頭蓋の中で、だらしなく液体に浸かっている物体だよ」

 

つまり脳みそ、である。

 

「ここに浮かんだブロック達と壁に描かれた記号達は、何らかの形で対応するのではないかな」

 

ジャッジはそう言うと、バッターから視線を外した。

バッターは、ジャッジに言われた通りに、壁に描かれた数字の順にブロックに触った。

すると、ブロックは少しだけ色を褪せさせ、ふわふわに加え、くるくると回転しだした。

普通の人間ならこれに驚き当惑するのだろうが、バッターは無視して次のブロック、次のブロックへと足と手を進めた。

 

ブロックをすべて押し終えると、階段を塞いでいた、ふわふわとしていないブロックが虚空に溶けるように消えてなくなり、階段を通れるようになった。

それを見たジャッジは、これくらいできて当然だろう? と言いたげに鼻を鳴らしてからバッターよりもいち早く階段を下った。

 

これ以降のなぞ解きに感じては、少々省略させていただきたい。

何故。と訳を聞かれてしまうと、私の技量不足に違いない。この先をうまく書ける自身がないのだ。

読者の皆には、大変煩わしい思いをさせてしまうことを、ここで謝罪しておこう。

 

次の部屋は、壁に、1,2,6、窓を挟んで、8,2、3と書かれた部屋で、中央に合計8つのブロックが、上から見て、縦が2マス、横が4マスの長方形になるように並んでいた。

バッターはジャッジから助言を受け、並ぶブロックに触れ、階段を覆い隠していたふわふわじゃないブロックを撤去し、一階へと進んだ。もちろん、ジャッジはバッターよりも一足先に。

 

一回の部屋に入ったジャッジは、「ははは、これで最後だ! この骨折りがすべて終われば、はやる思いで待ち望んでいたもの手に入るぞ!」と笑ってから、何故か置いてあった、皿に盛りつけられたキャットフードの山に顔を突っ込んだ。バッターが何度か話しかけようとしても、ジャッジはバッターの声が届いていないらしく、先ほどまでの衒学的な雰囲気も口調もくずして、「バリバリ モグ モグ バリバリ」と荒っぽくキャットフードを食らっていた。

バッターは仕方なく、ジャッジの助言なしで部屋を突破し、部屋の右上にあった、ブロックが通せんぼしていた扉から外へと出た。

 

部屋から出ると、一直線の道の向こうに正方形に近い四角形の場所が存在していた。

その場所の中央には、今まで一度も目にしなかった赤いブロックが置かれている。

バッターが足を進めると、ジャッジが追い付いてきてバッターに話しかけた。

 

「さて、これからする補足は、君の浄化の旅でも特に役に立つことになるだろう。理解ある生徒にして、身のこなし軽やかな友よ」

 

先ほどの暴食っぷりを包み隠すようにジャッジは言ったが、その口の端にはキャットフードの欠片が付いていた。

ジャッジはそれをぺろりと舐め取ってから、話を続けた。

 

「君の目の前にあるあの物体。あれこそがキューブだ。君も気づいているだろうが、宙に浮いている。他にも似たようなキューブはあるが、このキューブと見分けることは可能だ」

 

ジャッジは、キャットフードの欠片をカリカリと咀嚼しながら、バッターやあなたにそう言い聞かせた。

 

「君の視界に押し付けられる、プラスチックアートの全常識に反抗した相反する色彩の悪趣味なコントラスト。それを見れば区別することができるだろう」

 

………。

つまり、色を見分けろ。そう言いたいわけだ。

けれども、ジャッジは、だが、と続けた。

 

「だが、外見だけで判断を下すのは早計だ。酷評せざる外観を持ちながら、それでもなお、この赤いキューブは非の打ちどころがないほど便利なのだよ」

 

赤いキューブの赤すぎるコントラストに、ジャッジは一瞬目を背けた。

今度はバッターの顔を見ながら、話を続ける。

 

「このキューブは、君の負った外的負傷及び、体内で巻き起こる様々な異常現象を収めることができるうえに、君を”虚無”へと送ることもできる」

 

ジャッジは言ってから、ああそうか。君に虚無の話はしていなかったな。と言いたげにため息を吐くと、もう一度口を開いて見せた。

 

「虚無とは、世界…もとい、ゾーンの間を移ろい流れる空間だ。その中でなら、君はひとつの地点(ゾーン)からひとつの地点(ゾーン)へと光の速度で旅することができる」

 

急かす様に猫を見つめているバッターに、ジャッジが言った。

 

「さあ。キューブの機能を試してみたまえ。この荒れ果てた世界(ゾーン0)より、もっと人のひしめく土地を見出すんだ。翼を広げろ。我が同朋よ。一刻も早くここを離れて、次のゾーンへと向かうのだ。ためらうな! 唯一の敵は、君を捕えんとする恐怖だけだ」

 

ジャッジの激励めいた言葉に、バッターが久方ぶりに言葉を返した。

 

「分かった」

 

自分の何行にも及ぶセリフに対し、一言で全てを済ませたバッターが不安そうに見えたのかは知らないが、ジャッジがまたも口を開け放った。

 

「心配は無用だ。私は、数えきれないほど様々な世界のゾーンを旅してきた。我々は間違いなく、いずれ再び出会うだろう」

 

ジャッジはそこで、しまった。というように顔を強張らせてから、バッターに近寄った。

 

「ああ! それはそうと、これを持っていきたまえ。この興味深い名のオブジェクトは君をゾーン1へと導く鍵となるだろう」

 

ジャッジは猫の小さな手でカードをバッターに手渡した。

 

「それはしし座のカードと言う。案ずるな。他のゾーンへと向かうためのカードも、君たちの使命である浄化の旅の途中で必ず獲得できるだろう」

 

ジャッジは言い終えると、口を閉じた。もう言いたいことはないらしい。

バッターは、赤いキューブに向かって歩み寄って行った。

キューブに触れると、キューブは淡く発光してからバッターの体を吸い込み、稲妻のような形状に変え、どこかに放った。

 

 

バッターは虚無に戻ってきた。

虚無は、その名からも推測できる通り、真っ暗闇の何もない空間である。そのうえ、何故だか常に、沢山の人物に耳元で意味不明な言葉を囁かれ続けているような音までしている。

だがしかし、一概に何もないとは言い難い。…というか言えない。今、バッターの眼下にはゾーン0が広がっているのだから。とはいうものの、もちろんそれだけではない。ソーン0の近くにはゾーン1にゾーン2。さらに少し離れた場所にはゾーン3。ゾーン3のすぐそばにThe Roomが首を覗かせているのだから。

ゾーンの形は、The Roomを除き、みな一様に同じである。カーペットに零したコーヒーの水滴が広がった。というのが的確に思える、ひどく抽象的な格好をしているのが、ゾーンである。

 

バッターは、ゾーン0のお隣さんでもある、コーヒーの染み(ゾーン1)の中央へと向かった。その場所は、周りの染みが緑色なのにもかかわらず、赤色をしていた。

バッターは、意を決するような顔一つせずに、ゾーン1へと飛び込んでいった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

※先ほどした、コーヒーの染みのような恰好。には、深い意味など全くございません。この情報は決して嘘ではありませんし、あれはただの比喩ですので、ご了承を。

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