バッターは、目が痛くなるほどに緑とピンクの海が煌めく地面に足を付けるなり、再び歩きだした。
途中に赤いキューブがバッターの目に留まったが、バッターはそれを無視して、線路が見える道へと進んだ。
線路には、一両編成の小さな電車がぽつんと置かれているのと、ジャッジとはまた違った知的生命体が居座っていた。
バッターは、その知的生命体に話しかけた。すると、その生命体は振り返り、ハイライトの宿っていないブラックホールのごとき目をバッターへと向け、言葉を発した。
「ゾーン1を移動するのに、一番線はとても便利なんです」
ふぅうううん…。という弱弱しく聞こえる吐息を発しながら、生命体はそう話した。
生命体はそれだけ言うと、再び電車の方に向き直った。
なんとも不気味な生き物だ。発する言葉や吐息だけでなく、その外見も。
じゃがいも頭の人間。と評するのが、恐らく最適なのかもしれない。高さが左右非対称で、ハイライトの一切含まれていない真っ黒の目玉に、人間と比べても異様なほどに下に配置された耳。そのくせ、Yシャツとネクタイだけはきっちりと決めているその姿を、エイリアンと考える人がいてもおかしくはないのだろう。
さて、これでバッターの目の前にあった電車が何番線か判明したわけだ。まあその電車が何番線か分かったところでどうということではないのだが。
バッターは、迷う仕草すらせずあなたに従い、一番線に乗り込んだ。
行き先に書いてあるのは、ダミアンただ一つ。バッターがダミアンを選ぶと、電車は滑るようにレールの上を走り出した。
窓から外の景色が見える。ピンクの海。桃色の空。そして、不釣り合いに白い雲。
電車は景色を吹き飛ばして進み、そしてダミアンへとたどり着いた。
ダミアンの駅にも
バッターが足を進め、曲がり角を曲がると、そこには一軒の小さな小屋と、ブラックでふさがれた通路が目に入った。
バッターがさらに足を動かすと、ちょうど小屋から
ヘルメットをかぶっている。というところ以外は、いままでに出会った者となんら変哲はない。
「ええと…あー…訪問者の方ですか?」
者はバッターを確認すると、戸惑いつつもそう聞いた。
しかし、バッターは何も言わずに者を見ていた。
者は、「あ…ええと…」と言葉を濁してから、再び話し始めた。
「”
バッターを監査官だと勘違いしたらしい
「違う。俺は”バッター”だ。穢れた魂を滅ぼすために来た」
バッターは毅然として言い張った。
監査官ではない。という事実に、
「バ…”バッター”…け…穢れた魂、ですか? するとあなたは、あの…預言者か何かですか? それとも何か、宗教関係の方?」
その問いにバッターは、「ああ。そんなところだ」とだけ答えた。
「ええと…誰かの指示でここへ?」
その質問にも、バッターは相変わらずな口調と態度で答えた。
「誰からも指示はされていない。俺は███に導かれている」
「あーその人は知らないですね。きっと上層部の誰かなんでしょうけど…」
そこまで言ってから、彼は突然ほっとしたような表情になって言った。
「なんにせよ、よかったです。僕らの要求が受理されたってことですよね…」
彼らは、事前に上層部とやらに何かを要求していたらしい。
彼は、バッターを見つめながら再び口を開いた。
「じゃあ、あなたの仕事について説明しますね」
彼は、それからバッターに対してここがどのような場所なのかの説明を始めた。
「あー…ここはゾーン1の南側、ダミアンの“煙鉱山”です。僕らは坑道を通して鉱山の奥に作業員を送り、地下深くからメタルを採掘して、中に閉じ込められた煙を取り出しています」
彼は、ポケットからビンを取り出して、バッターに見せた。
ビンの中には、彼が話した煙が閉じ込められている。
「様々な道具を使うことで、取り出した煙はビンに詰めることもできるんです。ビン詰めにした煙は、クイーンによって別のゾーンに送り出されています。ビン詰めしなかった煙は外へ流れて、僕らが吸ったり吐いたりする空気になります」
先ほど取り出したビンの蓋を、彼は開けて見せた。
すると、煙がするりと外へ流れ出て、空気と同化するように消えていった。
「ええと…そのおかげで僕らは生きていけるんです。4つのエレメントのうち、最初のひとつ…とても重要なエレメントです」
彼はそこで一息ついた。その後に、だって、と付け加えて、再び口を開いた。
「煙がなければ、僕らは呼吸することができませんから」
話が終わったらしい。彼は、空になったビンを再びポケットに入れなおした。
「えー…こんなところです。それから…。あとは…ええと…なんでしたっけ」
バッターは、言葉を濁す彼にすぐさま問いかけた。
「穢れた者たちはどこだ?」
「ああ…そう、そうでしたね。亡霊たちは鉱山の中にうじゃうじゃ居て、みんな日に日に狂暴になってるんです。でもその、ほんとは、あなたを鉱山に入れない方がいいのかも…だって…」
彼は突然不安そうに言った。
「だって規則では、外部の人を鉱山に近づけるのは禁じられてるんです」
不安そうだった彼は、再びバッターを見て、言った。
「それで、その、仕事についてですけど、メインのとは違う、別の坑道があって、普段は誰も入らないんです。でもしばらく前に、一人、中に入った鉱夫がいまして…。彼が言うには、坑道の中でヘンなものを見たって。今までには見たこともないものだったそうです」
彼は、バッターの右手側にある地下へ続く階段を指さしながら言った。
「それで、ちょっと思ったんですけど…もしかするとそれって、亡霊の親玉なんじゃないかと思うんです。あー…それであなたの仕事ですけど、もしよければその坑道に行って亡霊の親玉を殺してきてほしいんです。そうすれば亡霊たちはいなくなって、僕らはまたちゃんと働けます」
彼は最後に、「じゃあ始めましょう。それで、ええと…ほかに質問は?」と尋ねた。
「ない」
バッターはいつも通り、淡白な返しをした。
「あー。素晴らしい。完璧です」
彼は力なくそう言った。それから、「坑道はそこを降りてすぐです」と先ほど指さした階段の方を見た。
「僕はここで待ってますね」
バッターは彼の言葉が終わるや否や歩き出し、メインではない坑道の階段を下って行った。