IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐ 作:Ghost SAF
なお、この作品は某サイトの閉鎖に伴って移転してきたものなので僅かに修正した箇所はありますが、ほとんど変わっていない事をお断りしておきます。
その日、人類の歴史が大きく変わった。後に『白騎士事件』と呼ばれる出来事が起きたからだ。ただ、それを“事件”という短い単語で片付けるには、あまりにも言葉不足である。
なぜなら、それまでの世界の常識を根底から覆した異常事態として記録にも記憶にも残されているからだ。ちなみに、事件の概要を簡単に纏めると次のようになる。
突如、ハッキングを受けて制御不能になった2341発の様々なタイプのミサイルが一斉に日本に向けて発射されたのだが、その半分を白銀のIS(インフィニット・ストラトス:宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ)を纏った1人の女性が剣としか言いようのない物で斬り捨てて撃墜。
そして、残りのミサイルを当時は試作段階に過ぎなかった大型荷電粒子砲を粒子状態から再構成して実体化させ、瞬く間に撃墜した。
当然、そんな光景を堂々と見せ付けられては世界各国も黙っていられる筈がなく、直ちに『目標の分析。可能であれば捕獲。最悪、撃破』という任務内容で国際法を無視してまで軍を派遣する。しかし、ISの圧倒的な戦闘力の前に為す術も無く敗退する結果となってしまう。
それも、“誰一人として殺さずに無力化する”というオマケ付きで。結局、ミサイル2341発・戦闘機207機・巡洋艦7隻・空母5隻・監視衛星8基を撃破、あるいは無力化するという前代未聞の戦果と共にISは忽然と姿を消した。
勿論、レーダー・赤外線・光学のどれにも捕捉されない完全なステルス能力まで発揮した上での鮮やかな撤退である。それ故、この“1機で国軍に匹敵する戦力”という事実に世界は驚愕と恐怖を憶え、ISの運用制限条約締結と開発普及に国を挙げて全力を注ぐ事となる。
具体的にはIS開発企業への政府補助金の支給と減税、パイロットの選出と育成への税金投入、法整備などが驚くべきスピードで実施されたのだ。そして、その変化は世界が事実上の無条件降伏とも言える形で開発者『篠ノ之束』の言葉とISの持つ力を認めた証でもあった。
ただし、ISの登場は多くの人々の人生にも大きな影響を与え、それは必ずしも良いものばかりでは無かった事を忘れてはならない。
「許さんっ、許さんぞっ! わしは必ず……、必ず貴様らに復讐してやる!」
薄暗い部屋で1人、大型スクリーンに映し出される『白騎士』の映像を見つめながら、その中年男性は右手を力任せに握り締め、手の中にあった火の点いていない葉巻を握り潰した。
奇しくも5年前の今日は彼がCEO(最高経営責任者)に就任した日だったが、今では全世界がたった1人の人間とただ1機のISに完全敗北を認めた日にもなっていた。
それは同時に、あらゆるものを犠牲にしながら彼が心血を注いで急成長させた会社の株価が大暴落し、破産に追い込まれて消滅した日でもある事を意味している。
その為、業界のトップとしてマーケットに君臨して富を集め続け、その名を世界に轟かせるという彼の長年の野望は脆くも崩れ去ったのだ。
「だから、それまで待っていろ! この手で復讐を成し遂げ、貴様らがわしと同じ絶望を味わう日を!」
そう言って彼は怒りに満ちた瞳でスクリーンを睨みつけると、左腕で机の上に置いてあった物を勢いよく薙ぎ払った。その所為で書類の束が宙を舞い、他の様々な物が派手な音を立てて床に落下し、一部は落下の衝撃でバラバラに壊れる。
しかし、それでも彼の怒りは一向に収まらなかったらしく、机の引き出しから小型のオートマチック・ハンドガンを取り出して床に投げ捨てた葉巻の代わりに右手に握り締めると、『白騎士』の映像を流し続けているスクリーンに向けて全弾を発射する。
そして、弾を撃ち尽くした銃を無造作に机の上に置くと椅子から立ち上がり、そのまま脇目もふらずに足早に部屋から出て行った。こうして彼は自らが築き上げた『帝国』とも呼べる会社の消滅と共に姿を消し、2度と表舞台に戻って来る事は無かったのだ。
もっとも、急激な変化を続ける世界は、そんな出来事や個人的な感情などは一瞬にして置き去りにしてしまい、ほんの数年で彼の名前や会社の事などは単なる過去の遺物の1つとして歴史の中に埋もれてしまった。
やがて時は流れ、あの世界を震撼させた『白騎士事件』から約10年の歳月を経て物語は静かに動き出すのだった。
物語が始まる前の前日譚のようなもので、特筆すべき点は無いですね。とりあえず、こんな感じで始まったばかりですが、応援していただけると、とても嬉しいです。
それから気を付けてはいるんですが、文字数の関係から読みにくくなってしまう事をご容赦ください。
なお、次回から本格的に物語がスタートします。