IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐   作:Ghost SAF

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第7話 Raging the black rain②

 それは、本当に単なる偶然だった。たまたま私が中庭に面した廊下を早足で移動していると、その中庭の方から聞き覚えのある声がしたので、思わず気配を消しながら物陰に身を潜めて会話の内容に耳を傾けてしまったのだ。

 

「なぜ、こんな所で教師など!」

「やれやれ……。何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

 声の主は織斑先生とボーデヴィッヒさんだ。それも話の内容から察するに、どうやらボーデヴィッヒさんには織斑先生がIS学園で教師をしている事が納得できないらしい。なので、その理由を執拗に問い詰めているのだろうが、どこまで行っても双方の意見は平行線を辿っているようだ。

 

<どうやら、俺達以外にも隠れて聞き耳を立ててる奴が居るみたいだぜ。あそこ、2時の方角だ>

<あれは……、まさか一夏君? それにしても、ここまで見事に偶然が重なると何か因縁めいたものさえ感じるわね>

 

 私がクリストファーの言う通りに2時の方角へ僅かに視線を向けると、そこには同じように物陰に身を潜める一夏君の姿があった。

 だが、彼は目の前で交わされている会話を聞く事に集中しているのか、私の存在には全く気付いていない。もっとも、こちらの存在に気付かれても面倒なので、この状況の方が好都合なのは言うまでも無い。

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

「何故だ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど――」

「そこまでにしておけよ。小娘」

 

 途中までは面倒くさそうに聞き流すような雰囲気があったものの、一応はボーデヴィッヒさんの話にも正面から向き合っていた織斑先生だったが、彼女が感情の赴くままに話し出した瞬間、私達では決して真似の出来ないような覇気を纏った低い声で彼女を威圧した。

 流石に、この織斑先生の放つ覇気は別格で、離れた場所にいる私でさえ軽く冷や汗が流れるような錯覚を覚えた程だ。当然、そんな彼女の間近に居たボーデヴィッヒさんは完全に気圧され、一瞬にして何も喋れなくなってしまっていた。

 

「少し見ない間に随分と偉くなったものだな。たかだか15歳になったぐらいで、もう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は……」

 

 こうなると最早、完全に会話は織斑先生のペースだ。おそらく、下手に何かを言ったところで、逆に一分の隙も無い理論で完膚なきまでに打ち負かされるのが関の山だろう。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

 自身の完勝を確信したのか、織斑先生は普段通りの雰囲気に戻すと教室に戻るよう促した。そして、ボーデヴィッヒさんも自らの敗北を受け入れたらしく、この場は黙って立ち去る事を選んだ。

 

<どうやら、あっちは終わったみたいだな。なら、長居は――>

 

 そうクリストファーが言いかけたところ、彼の言葉を遮るようにして織斑先生が私と一夏君の方を順繰りに向いて呼び掛けた。

 

「そこの男子と女子。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

<畜生。俺達に気付いてやがったのか>

「へ? 男子と女子? て言うか、何でそうなるんだよ! 千冬ね――」

 

 クリストファーと一夏君が彼女の呼び掛けに同時に反応するが、未だに呼び方の癖が直っていない一夏君だけは手の届く距離まで近付いた所で恒例の出席簿アタックを脳天にお見舞いされている。

 

「学校では織斑先生と呼べ」

「は、はい……」

 

 とりあえず、そうやって一通りの用事を片付けたらしい織斑先生は表情を僅かに軟らかくすると、学園の指導者としての言葉を投げ掛けてきた。

 

「さて、織斑。このままじゃ、お前は月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。勤勉さを忘れるなよ」

「わかってるって……」

「そうか。ならいい。それと、キャンベル。ISに関しては、お前は今のまま努力を怠るな。そうすれば、もっと上も狙えるようになるし将来の選択肢の幅も広がるぞ」

「はい、精進します」

 

 織斑先生の言葉は正論だったので私達は素直に返事をしたのだが、彼女が私に対して言った『ISに関しては』の部分だけが妙に引っ掛かっていた。もしかすると、彼女は私の正体や活動について真相に迫る何らかの情報を得ているかもしれないと疑ったからだ。

 さらに、これは単に私の思い過ごしかもしれないが、私の方を振り向いた時に彼女の表情が微かに険しくなったようにも感じられ、それが彼女に対する疑念を大きくしていた。

 ただ、それらの事柄を確認する手段を持ち合わせていなかったのも事実で、この場では大人しく偽装時の演技を続けるしかなかった。そんな中、一夏君が代表して教室に戻る事を告げると、彼女は最後に珍しく不敵な笑みを浮かべて冗談らしき言葉を口にする。

 

「じゃあ、俺達は教室に戻ります」

「おう、急げよ。ああ、それから2人とも。『廊下を走るな』……、とは言わん。バレないように走れ」

「了解」

「分かりました」

 

 もっとも、それが本当に彼女なりの冗談だったのかは定かではないが、私達も釣られるように笑顔で答えると、そのまま2人揃って駆け足で教室へと戻った。

 そして、この直後の授業中には早くも私とクリストファーは先程のボーデヴィッヒさんの発した言葉について意見を交わし、私達の任務に影響を及ぼさないかも含めて検討を始めていた。

 

<さっきの様子だと彼女、随分と物事の価値観が偏ってるわね。まあ、それ以前に自己責任の範囲内でなら自分の意思で自由に行動できる大人の織斑先生に対して何を思ったのか、自身の偏った価値観を一方的に押し付けようとしてたみたいだけど……>

<ま、それも仕方ないんじゃないか? なにせ、生まれてからずっと軍隊に居て戦闘技術ばかり叩き込まれてたんだからな。どうせ、特殊な狭い世界しか知らないし、知らされてもいないんだろう。それどころか、本人にも知る気が無いときてる。なのに、一人前になったと勘違いしてISのような強力な兵器を自在に動かすから、あんな風に増長するんだ>

<ねえ、それって私達が言っても説得力が欠片も無いわよ?>

 

 まるで、彼女よりも遥かに人生経験が豊富であるかのような口調で熱弁を振るうクリストファーだったが、私は呆れ半分で同じように特殊な立場で生きてきた自分達も大して変わらない事を告げる。すると、彼は何とも皮肉めいた言葉を返してきた。

 

<そうか? むしろ俺は、逆に近い存在だからこそ分かると思うんだが……>

<また、偉そうに……。でも、確かに、そうかもしれないわね>

 

 その一言で彼の言う事にも一理あると考えた私は、少し頭の中の情報を整理してから静かに同意を示した。ところが、またしても彼は態度を翻し、今度は急にボーデヴィッヒさんを擁護するような発言をし始める。

 

<だが、アイツが言ってた『学園の生徒達の意識が甘くて危機感に疎い』という部分だけは俺も賛成だな>

<ハァ……。明らかに、さっきまでのあんたの発言と矛盾してるんだけど……、まあ、いいわ。それで、あれだけ彼女の事を手当たり次第に批判してたのに、そんな風に言うからには少しはマシな理由ぐらいあるんでしょう?>

<ああ、その事か。なら、理由は簡単だ。いま現在、どんな理屈を並べようとISが世界最強の兵器なのは周知の事実だよな。だとしたら、それを扱う者には相応の覚悟や信念、あるいは破壊や殺戮の為の道具を使うという自覚が必要だとは思わないか? まあ、だからと言って、あいつの他人を見下したような言い方もどうかと思うが……>

 

 彼が指摘するように、このIS学園が設立された目的は、世界最強の兵器となったISを扱う少女達を育成する為だった筈だ。なのに、ここに満ちている空気に相応の緊張感は無く、それどころか何処にでもある普通の学園に近いもののようだった。

 それが例え、一般的な教育機関としての役割も果たさなければならない学園としての制約や建前から生じた副産物だとしても、そういった側面ばかりを見せられたなら『緊張感や危機感に乏しい』と感じる人が現れるのも何となく頷ける。

 

<でも、ある意味、そういった事を教えるのもIS学園の役目に含まれてるんでしょう。だったら、多少は緩い雰囲気が漂ってても良いと思うけど?>

<まあな>

<人が真面目に考えてるってのに、相変わらず軽い言い方ね>

<別に良いだろう。どうせ、俺達の任務には直接関係が無いんだ。実際、こっちとしては学園全体が今みたいに無警戒でいてくれた方が好都合なんだし、あんま心配ばっかしてるとハゲるぞ>

<あんたに言われるなんて、私も随分とヤキが回ったみたいね>

<おい、それはどういう――>

 

 彼が性懲りも無く余計な事まで言ってきたので、私も皮肉を込めて言い返してやった。その為、直ぐに感情的になって何かを叫ぼうとしたらしいが、それを遮るように私は声のトーンを落として言葉を続ける。

 

<とりあえず、冗談はこれくらいにして、あまり希望的観測は持たない方が良いんじゃない? いくらなんでも全員が全員、そんな風に軽く考えているとは思えないし……>

 

 すると、あれほど饒舌だったクリストファーが突然静かになった。やはり、私に指摘されるまでもなく、彼自身も口で言うほど簡単に片付けられる任務でない事ぐらいは自覚しているのだろう。だからこそ今は、沈黙を続ける事で先程の意見を肯定したのだと私は勝手に解釈した。

 なので、ここから先は目下の優先事項である『シュヴァルツェア・レーゲン』についての情報収集をどうするかという話題に切り替える。

 

<話は変わるけど、今日の放課後にでも一夏君を除く専用機持ちの動向をある程度は把握しておくから、明日以降にボーデヴィッヒさんと戦う事になるよう彼女達を少し誘導してみるわ。それで確認なんだけど、あんたの方から何か要望とかはある?>

<いや、ねえよ。前にも言ったが、俺は“アレ”と戦うのに必要な情報さえ得られれば、それで満足するんでな>

<そう。じゃあ、まずは――>

 

 こうして私達は専用機持ちの皆を自分達の任務遂行に利用する為、最も効果的だと思える策を時間の許す限り考え続け、なんとか放課後までに1つの形に纏め上げた。ところが、この時の私達は事態が動くのはもう少し先で、こんなにも早くそれが現実のものになるとは想像だにしていなかった。

 

   ◆

 

 苦労して纏め上げた計画に従って行動を開始した私は早速、『セシリアさんと鈴さんがそれぞれ第3アリーナの方に向かった』という話を聞き、結果的には手駒として利用する事になる人物に対する情報収集の一環という形で観客席の目立たない場所に陣取った。

 

<なあ、本当に2人は此処に来てるのか? さっきから探してるんだが、それらしい人物は何処にも見当たらないぞ>

<余計な心配はしなくていいから、あんたは周囲の警戒に意識を集中させてなさい。変な噂を立てられでもしたら、今後の活動に影響が出る事ぐらい理解できるでしょう>

<こんな辺鄙な場所で見ている事がバレた時点でアウトだと思うんだが……>

 

 そんな事をクリストファーと言い合っていると、ようやく目当ての2人がISを纏った状態でアリーナ中央部に姿を現した。ただし、こうして遠目に見ている限りでは、お互いに来ている事をいま初めて知ったような態度を示している。

 そして、なにやら睨み合うような格好で会話を交わしているらしいのだが、当然、観客席にいる私の所にまでは2人の声は届かないから真相は不明だ。しかし、その会話のような行為も短時間で終わり、直ぐに両者とも武装を構えて戦闘態勢へ移行しようとする。

 

<ハァ……、あの2人が戦ってもメリットは少ないんだがな……>

 

 クリストファーが軽く溜息をつきながら呟いた時、突然、2人の居た場所が爆発と共に土煙に覆われた。しかし、彼女達は素早い反応で咄嗟に緊急回避を行ったらしく、何の被害も受けていない。

 そして、2人が反射的に爆発を引き起こした元凶へと同時に視線を向けたので、それを追いかけるように私も視線を彼女達が見ているものへと移動させる。すると、そこには漆黒のISが逃げも隠れもせず、まるで自身の存在を強く印象付けるかのように堂々と佇んで2人を見下ろしていた。

 

<まさか、こんなにも都合よく向こうから攻撃を仕掛けてきてくれたのか? だが、折角のチャンスなんだ。みすみす見逃す手は無いよな>

<ええ、そうね。このまま記録させてもらいましょう>

 

 多少、当初の計画とは異なる経緯を辿ったみたいだが、こういった展開になるのを私達が望んでいたのも事実だ。

 なので、私は戦闘の模様を記録するべく大急ぎで前にも使用した事のある小型カメラを制服のポケットから数個ほど取り出し、周囲を警戒しながらアリーナ全域を捉えられるような位置にある柱に設置した。

 そして、設置した小型カメラで映像を録画し始めた途端、オープン・チャネルで会話する彼女達3人の声が録画に合わせてシステムの一部を稼動させた私の専用機『アーセナル』を経由して聞こえてくる。

 

「どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて、いい度胸してるじゃない」

 

 問答無用で攻撃された事で襲撃者に対してあからさまに敵意を向けると、鈴さんは武装を構えながら問い掛ける。だが、ボーデヴィッヒさんは挑発するように軽く鼻で笑うと、さらに2人の神経を逆撫でするような発言をする。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か……。ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

<よし、いいぞ……。どうせなら、そのままの調子で挑発を続けて戦闘にまで持ち込んでしまえ。怒りの沸点が低いあいつらなら、簡単に乗ってくる筈だ>

<あんたが煽ったって声は届かないんだから、そんな事を言っても無駄よ>

 

 先程よりも明らかに興奮した様子で呟くクリストファーに、私は冷めた口調で事実を端的に述べて遠回しに静かにするよう告げる。

 ところが、そんな彼の煽るような台詞が本当に彼女達へと届いたのか、睨み合う3人の言い争いは徐々にエスカレートしていった。そして、ついに我慢の限界というものが訪れる。

 

「ああ、ああ、分かった。分かったわよ。スクラップがお望みな訳ね。セシリア、どっちが先やるかジャンケンしよ」

「ええ、そうですわね。わたくしとしては、どちらでもいいのですが――」

「はっ! 2人がかりで来たらどうだ? 1足す1は所詮、2にしかならん。下らん種馬を取り合うようなメスに、この私が負けるものか」

<どうやら、あの3人、最初から引く気なんて微塵も無かったみたいね。だったら、ちょっと予定とは違ったけど、こっちも行動に移るわよ。準備はいい?>

 

 手にした武装をボーデヴィッヒさんに向けて戦闘態勢に移行するセシリアさんと鈴さんを目にした私は念の為、未だに興奮気味で本来の目的を忘れているかもしれないクリストファーに声を掛け、このままの流れで情報収集と分析をリアルタイムで行う事を報せる。

 すると、普段は不真面目で理解に苦しむ言動の多い彼も今回は素早く気持ちを切り替えたのか、ほんの一瞬だけ間を空けてから直ぐに落ち着いた口調で短い返事を返してきた。

 

<ああ、いつでも良いぜ>

「とっとと来い」

「上等ですわ!」

「ハッ! 上等!」

 

 ただ、その声は偶然にもボーデヴィッヒさん・セシリアさん・鈴さんの3人と見事に重なった。そして、そのままの勢いで代表候補生同士による戦いが始まる。なお、先制攻撃を仕掛けたのは例によってセシリアさんと鈴さんの方だった。

 まず、それぞれがレーザーライフルと衝撃砲で攻撃して相手に回避行動を取らせ、その隙にセシリアさんはビットを展開しての射撃戦、鈴さんは青竜刀を使った接近戦を仕掛ける作戦だったらしい。

 

<ま、開始直後の一撃としては悪くない戦術だな>

 

 早速、クリストファーが戦闘の分析を開始する。確かに、私も彼の言う通り、これは初撃としてはセオリー通りの的確な攻撃だと思った。

 そして、こうして先手を取られてしまった時点でボーデヴィッヒさんは回避行動に専念せざるを得なくなり、それが相手に追撃を許す結果を招いて早々に防戦一方に追い込まれていく。

 そんなシナリオが脳裏を過ぎった瞬間、この私でさえ全く予想もしていなかった現象が起きた。なんと、明らかに理想的な射撃位置からは程遠い場所だったにも関わらず、まるで透明な壁にでもぶつかったみたいに『ブルー・ティアーズ』の4基のビット全てが静止したのだ。

 最初に断わっておくが、どう考えても先制攻撃に成功して主導権を握っているのはセシリアさんの方なので、こんな中途半端な状態でビットを止めて不完全な射撃を実施する理由は無い。

 

<自分の意思で止めた――、なんて事、この状況だと考えられないわね。なら、外部からの力で強制的に止められたんだわ>

<お前にも不自然に止まったビットが見えてるんなら、どうやら俺の錯覚でも無いらしいな。だとすると、あれが噂の『AIC』ってヤツか。まあ、当初の予定よりも早く実物を拝めた事はありがたいんだが……>

<そもそも私達は感覚を共有してるんだから、どちらか一方にだけ錯覚が起こるなんてあり得ないわよ。だから、AICの仕業と見て間違い無いわね。でも今なら、あんたが前に言ってた『いきなり俺達が戦うべきじゃない』って意見にも納得だわ>

 

 こうして私達が初めて自分の目でAICの威力の一端を垣間見た事に口々に感想を述べている間も戦闘は継続中であり、いきなり眼前でビットを強制停止させられた事に驚いたのか、いつもより動きの鈍くなった鈴さんに対して間髪入れずに2本のワイヤーブレードが繰り出される。

 ただし、このワイヤーブレードによる攻撃は被弾する直前で我に返った鈴さんによって2本とも際どいタイミングで回避されるが、AICを含めた『シュヴァルツェア・レーゲン』の機体性能とボーデヴィッヒさんの高い戦闘能力は到底無視できず、戦いは早々に仕切り直しを余儀なくされていた。

 ちなみに、こうして本格的な戦闘が始まって以来、アリーナで戦っている彼女達はプライベート・チャネルを使用するか直に話しているらしく、部分展開した『アーセナル』のハイパーセンサーのお陰で動きは詳細に把握できても一切の会話が私達には聞こえなくなっていた。

 

<それにしても、こいつは想像以上に厄介な代物だな。一応、事前に得ていた情報から多少は警戒してたんだが、こうして実際に目の当たりにすると否が応でも敵に回すと面倒だって事を痛感させられるぜ。まさか、ここまでの効果を戦闘で発揮できるとは思ってもいなかったからな>

<そうやって感心してるところ悪いんだけど、あれに対抗できる妙案は浮かんだの?>

<いくらなんでも、そう簡単に対抗策が思い付くかよ。そもそも、弾幕射撃による力任せの制圧攻撃を基本戦術とする『アーセナル』とAICじゃ相性が悪くて当然だからな。それに、ボーデヴィッヒ自身の操縦技術も踏まえたら生半可な小細工が通用する相手でもないし、はっきり言って今は逃げるが勝ちさ>

 

 早くも諦めたような口調で語るクリストファーだったが、私達の任務の性質上、今のままでは彼女との戦闘は避けられそうにないので何としてでも突破口を見付ける必要があった。

 なので、私もアリーナで繰り広げられている戦闘を仔細に観察して突破口を探ろうとする。だが、それについては先程も彼が指摘した通り、そう簡単に見付けられるような代物では無かった。

 

<とりあえず、もう少し彼女達には頑張ってもらって、より多くの情報を引き出してくれるよう期待するしかないわね>

 

 私達が多用する戦術を根本から覆すIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を現状の装備で確実に撃破する方法を探るには、さらなる情報の入手と分析が必要不可欠だと直感的に判断した私が小さく呟いた途端、鈴さんが高速で水平移動しながら衝撃砲を連射する。

 しかし、ボーデヴィッヒさんは不可視の弾丸を避けようともせず、右手を自身の前へと突き出すだけで衝撃砲による攻撃を軽々と無力化した。もっとも、こうなる事は鈴さんにとっても想定の範囲内だったらしく、先程のように動揺して動きが鈍る事は無かった。

 そして、ボーデヴィッヒさんが鈴さんの攻撃に対処している隙を利用し、セシリアさんがビットを理想的な射撃位置へと配置しようとする。どうやら、今度こそビットによる多方向からの同時攻撃を成功させて効果的なダメージを与えるつもりらしい。

 

<あれでもダメか……。その先まで読んでやがる>

 

 ところが、この展開を見たクリストファーの予想は私と少し違っていたようだ。そして、直ぐに彼の意見が正しかった事が証明される。その証拠にビットが包囲網を完成させる前にボーデヴィッヒさんは素早く攻撃圏内から離脱し、肩に装備した大型レールカノンで鈴さんを攻撃する。

 ちなみに、攻撃を受けた鈴さんは致命的な一撃になる事だけは辛うじて避けたものの、装甲に見た目にも分かるダメージを負っていた。

 

<でも今の、どうして鈴さんを攻撃したの? どう見ても彼女は牽制役で、セシリアさんが本命じゃなかったの?>

<いや、そうじゃない。そう相手に誤認させる事こそがあいつらの狙いで、本命はレーザー回避後の隙を衝いて接近戦を仕掛けるつもりだった鈴だ。おそらく単純な作戦だと通じないと思ったんだろうが、ボーデヴィッヒの方が1枚上手だったようだな>

 

 あの状況下で先に鈴さんを攻撃した理由の分からなかった私が尋ねると、やや面倒くさそうにしながらもクリストファーが一通り説明してくれた。

 勿論、こうして私達が会話を交わしている間も戦闘は依然として継続中であり、攻撃を受けて体勢を崩した鈴さんを援護するようにセシリアさんが射撃を加えている。

 だが、彼女の攻撃は全て回避されてしまい、一向にボーデヴィッヒさんを捉える事が出来ない。それどころか、自身の進路を邪魔するビットをAICで制止させながら逆に接近し、ワイヤーブレードを駆使した変則的な攻撃で接近戦を苦手とするセシリアさんに確実にダメージを与えていた。

 

<それにしても、こいつは本当に想像以上だな。まさか、ボーデヴィッヒまで数の不利を全く感じさせない戦いを演じるとは……>

<ええ、そうね。流石に、ここまで一方的な戦いになるとは思ってなかったけど……>

 

 距離を問わずに安定して戦う事の出来る彼女に私達は感嘆の声を漏らす。確かに、搭載している武装の相性も無視できない要素だが、こうまで同じ第3世代型ISを操る2人を圧倒する姿を見せられれば、ボーデヴィッヒさんの戦闘技術や戦術の方も素直に認めるしかないだろう。

 すると、今までは主にカウンター攻撃に徹し、セシリアさんと鈴さんに先制を許していた彼女が初めて自分から攻撃に出た。

 

<どうやら、さっきまでのカウンター攻撃主体の消極的な動きは相手の実力を測る為のもので、あいつにとっては単なる様子見かウォーミングアップだったようだな>

 

 そう静かに呟いたクリストファーの声に反応するかのように、今度はボーデヴィッヒさんが積極的に攻撃を繰り出していく。

 まずは威力の大きい大型レールカノンの一撃で相手に防御よりも回避行動を優先するよう仕向け、そのまま間髪入れずに高速で鈴さんに接近してAICを発動させて彼女本人を一時的に拘束すると、動きのリズムが乱れた隙に両手に展開させたプラズマ手刀の連撃で切り刻んだ。

 さらに、そこから攻撃を受けた鈴さんを援護しようとして挙動が単調で読み易くなったセシリアさんに狙いを切り替え、接近してきたビットをAICで制止させてからワイヤーブレードで絡め取りつつ1基を破壊すると、すかさずセシリアさん本人に対して大型レールカノンを発射する。

 当然、動きを完全に読まれていた彼女には大型レールカノンから発射された砲弾が直撃し、見た目にも分かるほど大きなダメージを負う事となった。

 だが、この間に辛うじて体勢を立て直した鈴さんが『双天牙月』を連結してブーメランのように投擲するが、不安定な姿勢だった為にボーデヴィッヒさんの右側を僅かに掠めただけに終わる。

 しかし、この瞬間にAICが解除されたらしく、拘束していたビットの内の1基が再び自由に飛び回り始めた。

 なので、彼女は僅かに後退して崩れた均衡の立て直しを図るが、それを阻止するかのようにビットと衝撃砲が2方向から同時に追撃を仕掛けていく。もっとも、その追撃もAICとワイヤーブレードを駆使する彼女の前では効果に乏しく、2人掛かりの攻撃さえも彼女に直撃する事は稀だった。

 そんな中で唯一、それなりの攻撃だと私が判断できたものは、たまたま素早く側面へと回り込む事に成功したビットの1基が衝撃砲の着弾の寸前に射撃を行って両方とも命中した時だけだ。

 ただし、その一撃が与えたダメージも致命傷とはならず、一応は目に見える程度のダメージを負わせたものの、そんな攻撃では『シュヴァルツェア・レーゲン』の継戦能力には全く影響が無かった。

 

<今の攻撃、どうして当たったんだ……?>

<何か言った?>

<いや、ちょっと気になる事があったんだが、単なる思い過ごしかもしれない。だから、お前は気にしなくてもいいぞ>

<そうなの? でも、今は何が重要なのか分からないんだから、得られた情報は可能な限り共有するべきだと思うけど?>

<多分、俺の勘違いだろう。それよりも、今は戦闘の行方に注目しようぜ>

 

 その時、クリストファーが小声で短く呟いたのだが、アリーナで繰り広げられている戦闘に意識を集中していた私は彼の発言を聞きそびれたような感覚に襲われた。

 なので、もし重要な事を聞き逃していたら不味いので反射的に訊き返したのだが、彼は自分で『勘違いだ』と言って自己完結してしまい、それ以上の追究が出来なくなってしまった。

 実際、あまり彼の相手ばかりしている訳にもいかず、私は視線の先で展開される戦闘の模様を観察する事に改めて意識を戻す。

 すると、アリーナでは丁度ボーデヴィッヒさんの発射した大型レールカノンの砲弾を鈴さんが衝撃砲、セシリアさんがレーザーライフルを連射して迎撃するところで、お互いに巨大な爆煙に呑み込まれて一瞬だが3人の姿が完全に見えなくなってしまう。

 しかし、直ぐに視界を遮る砂埃と黒煙の中から脱出して私からも見える位置に姿を現し、少し距離を空けて自分達の出てきた方を向いて警戒態勢を取ったのは鈴さんとセシリアさんの2人だけで、ボーデヴィッヒさんは爆煙が薄れて視界が晴れるまで煙の中に悠然と佇んでいた。

 なお、そんな態度を戦闘中に取る事は本来なら自殺行為に等しいのだが、そこまでの差が両者の間にはあるのだろう。

 

<どうやら、本当に万策尽きたらしいな>

<ええ、そのようね>

 

 再び発射される衝撃砲、それも最大出力での攻撃を容易くAICで無効化する光景を目撃した私達は2人揃って落胆に近い声を漏らす。勿論、それは勝負の行方を気にして出た言葉では無い。ただ単に、これ以上は私達にとって有益な情報が得られそうに無いと判断したからである。

 

<それはそうと、一夏君たちも騒ぎに気付いたみたいね。見に来てるわよ>

<本当か? 何処だ?>

<10時の方向よ>

 

 私が一夏君たちの存在に最初に気付き、一応はクリストファーにも報告しておく。もっとも、私の居る場所からは距離があるので意識して捜さない限り向こうが私に気付く可能性は低いだろうし、こちらから会いに行くつもりも初めから無いので今は頭の片隅に留めておく程度で充分だった。

 そして、再びアリーナ内で行われている戦闘の観察に意識を集中させると、反撃へと転じたボーデヴィッヒさんが2本のワイヤーブレードを射出したところだった。

 しかも、それは鈴さんの衝撃砲による迎撃射撃を複雑な攻撃軌道を描く事によって見事に避け、彼女の右足を捉えて絡め取るのに成功する。

 当然、それ以上の攻撃を阻止しようとセシリアさんがレーザーライフルで狙撃しつつビットを向かわせる。ところが、ボーデヴィッヒさんは狙撃とビットからの視界外射撃を鮮やかに回避してみせ、交差させた腕でAICを発動させて自身の左右に展開していたビットを逆に制止させた。

 

<でも、まだ想定の範囲内よね?>

<ああ。勿論、ボーデヴィッヒにとってはな……>

 

 まるで私達の声に反応するかのようにセシリアさんが動きの止まったボーデヴィッヒさんを狙撃するが、その攻撃を既に予測していた彼女は大型レールカノンによる砲撃で難なく相殺してしまう。

 しかし、この武装が連続射撃には不向きなのに気付いていたセシリアさんは直ちにレーザーライフルの発射モードを切り替えて対応しようとしたみたいだが、それを今度は先程の攻防戦で捕まえていた鈴さんを直接ぶつける事で阻止した。

 さらに、2人が空中で衝突して体勢を崩した一瞬の隙を衝いてイグニッション・ブーストを使って一気に接近し、両手に展開したプラズマ手刀の連撃へと繋げていく。

 ただし、この近接攻撃に対しては鈴さんが分離させて両手に持った『双天牙月』で受け止めるが、ボーデヴィッヒさんの突撃力は相当なものだったらしく、接近戦とパワー勝負に強い鈴さんであっても後退を余儀なくされていた。

 すると、それを追撃を仕掛ける絶好のチャンスと見たのか、さらに攻撃を激しくするボーデヴィッヒさんに鈴さんは致命傷を受けないようにするのが精一杯となってしまった。

 

<ほらほら、早く何か仕掛けないと、これ以上は凌ぎきれないぞ>

 

 まるで弱い者イジメを楽しむかのような口調でクリストファーまでもが呟いた途端、ボーデヴィッヒさんが再びワイヤーブレードを射出した。

 しかも、今度は同時に6本ものワイヤーブレードが複雑な軌道を描いて襲ってくるものだから、いくら接近戦に慣れている鈴さんでも全てを捌くのは不可能だった。

 その為、辛うじて均衡を保っていた状況から一気に劣勢へと追い込まれ、それに比例して攻撃を受けた『甲龍』の至る所から火花が飛び散る。

 なので、当然のように彼女は衝撃砲を発射する事によって事態の打開を図ろうとするのだが、そういう行動に出る事は承知だったようでエネルギーを集束している最中に大型レールカノンによる攻撃を受け、肩のアーマーごと衝撃砲本体の片方を破壊されてしまう。

 さらに、その衝撃で体勢を崩したところへボーデヴィッヒさんの突撃まで許してしまった。だが、この連続攻撃の最後の一撃は寸前のところで強引に割り込んできたセシリアさんが自分の武装であるレーザーライフルを盾代わりに使い、なんとか攻撃の軌道を逸らす事に成功させる。

 それだけでなく、彼女はクラス代表を決める際に一夏君相手に使った奇策のような戦術、腰の部分にあるアーマーのように見えるビットからのミサイル発射を実行したのだ。

 

<普通、この至近距離でミサイルを発射する……?>

<あれだけを見れば、ただの自殺行為とも採れなくはないが、ここまで追い詰められたら戦術としても“あり”だと思うぜ。もっとも、それが状況を打破するのに有効かどうかは、また別の話みたいだが……>

 

 セシリアさんの突拍子もない行動に軽く呆れたように呟いた私だったが、もう正攻法でどうにか出来る状況ではなくなっているのだから、ここはクリストファーの意見が正しいのかもしれない。

 だが、結果まで彼の言う通りになった事については、当事者である彼女達からすれば悪夢としか言いようが無いだろう。

 なにせ、至近距離でのミサイルの爆発によってセシリアさんと鈴さんは地面へ叩きつけられたにも関わらず、肝心のボーデヴィッヒさんの方は無傷だったのだから。そして、この瞬間に2人の命運は尽きた。

 再びボーデヴィッヒさんはイグニッション・ブーストで一気に間合いを詰めると、その勢いを利用して鈴さんには蹴り、セシリアさんには砲撃をお見舞いして派手に吹き飛ばす。

 さらに、そうして飛ばされた彼女達をワイヤーブレードを器用に使って捕獲すると手元に引き寄せ、回避も防御もままならないのを良い事に一方的に殴る蹴るの暴行を加え始めた。

 

<それにしても、アイツは何でこんな面倒な方法を選んだんだ? あのまま一気に畳み掛けてれば、速攻で終わってたのに……>

<それは多分、一夏君を戦いの舞台に引っ張り出すのが本当の目的だからじゃない? これは私の推測だけど、彼は自分自身よりも他人が傷付けられるのを許せないタイプだと思うわ。だから、こうして彼の身近な人間を痛めつけた方が効果的だと考えてるのよ>

<なる程な。確かに、それなら納得だ。だが、あの表情を見てみろ。僅かだが、相手を痛めつける事そのものに悦びを感じ始めてるんじゃないか?>

 

 珍しくクリストファーから相手の抱いている感情についての指摘を受け、私が訝りながらも改めて彼女の様子を窺うと、僅かに愉悦を感じているような表情を浮かべて暴力の嵐を浴びせていた。もっとも、それは極めて小さな変化だったので私でさえ見逃す程だった。

 なので最初は、どうして彼が私より先に気付けたのか疑問に思ったのだが、直ぐに彼自身の攻撃的で歪んだ性格に何処か通じるものがあったんだと結論づけて意識を3人が居る場所へと集中させる。

 すると、そこではボーデヴィッヒさんの深層心理に呼応するかのようにセシリアさんと鈴さんのダメージが少しずつ増大し、ついには彼女達の状態が目に見えて危険(生命の危機)だと判断できる領域にまで達する。そこで私は、この状況に介入するかどうかを彼に尋ねてみた。

 

<いくらなんでも、これ以上の暴力行為は命にも関わってきそうだから、私達が行って止めた方が良いと思う?>

<いや、その必要ないだろう。どうせ、俺達の力じゃ戦闘に介入したところでボーデヴィッヒを止められそうにないからな。それに、あいつらの戦いを止める事は任務に入ってないんだ。大体、ここからだと今から向かっても間に合いそうにないしな。だったら、わざわざ行く必要があると思うか?>

<あながち間違いでもないから否定はしないわ。でも、セシリアさんと鈴さんの2人は友達でしょう? なのに、随分と冷たい言い方ね>

<所詮、そいつは表向きの話だ。俺の中では、ただの駒にすぎないんだよ。ま、俺の女になるってんなら話は別だがな>

 

 私からの質問に対し、クリストファーが淡々とした口調ながらも冷酷に言い放つ。確かに、最後の台詞を除けば、彼の意見がスパイとして正しいのは理解できる。だが、それが偽りであったとしても『学園での生活も悪くはないかも』と思い始めていた私にとっては、微妙に複雑なものとなった。

 もっとも、だからと言って一時の感情で任務を放棄するつもりは微塵も無いので、彼の意見については沈黙をもって答えとする。そして、その直後、またしてもアリーナでの戦闘に大きな変化が訪れた。

 

<あれじゃあ、何の為にバリアーがあるのか分からないわね>

<バリアーを破壊しての強行突入とは、いかにもアイツらしい豪快な方法だな>

 

 私達が口々に一夏君の強引な突入方法に呆れつつ感想を零していると、彼はバリアーを突破した勢いのままボーデヴィッヒさんの方へと向かい、イグニッション・ブーストでさらに加速しながら右手の『零落白夜』で斬りかかる。

 しかし、その光る刃が彼女に届く事は無く、またしてもAICが発動して彼は1歩も動けなくなってしまった。そして、冷酷な表情を浮かべた彼女は一夏君に対して短く何かを呟くように唇を動かすと、肩に装備した大型レールカノンの砲口を彼の顔面へと向けた。

 次の瞬間、当然のように焦った表情を浮かべる一夏君。ところが、一夏君に続いてアリーナのステージ・エリア内へと飛び込んだシャルル君がアサルトライフルを両手に構え、ボーデヴィッヒさんが攻撃するよりも早く弾幕射撃を開始した。

 その結果、先制攻撃を許した彼女は回避行動を余儀なくされ、それと同時に一夏君を拘束していた見えない力も消失したらしい。

 なので、この隙を逃す事なく彼は直前にボーデヴィッヒさんによる捕縛から解放されていたセシリアさんと鈴さんを両脇に抱えると、イグニッション・ブーストによる急加速で離脱していった。

 その間、シャルル君は武装の素早い切り替えも駆使して猛烈な弾幕射撃をボーデヴィッヒさんに浴びせ続け、たった1人で彼女の牽制と足止めをしていた。

 

<勢いのまま飛び出しただけかと思っていたが、なかなかやるじゃないか。だが、あれじゃあ時間は稼げても状況を打破する事は出来ないぞ>

<そんな悠長な事を言ってる場合じゃないでしょう。流石に、これ以上の戦闘の拡大は私達としても許容できないわよ>

<お前に言われなくても分かってるよ。なら、そろそろ俺達も現場へ向かうとするか。とりあえず、それぐらいの時間の猶予は出来たみたいだからな。それに、これだけの連戦なら力押しでも何とかなるだろう>

 

 私とクリストファーが戦闘になる事も踏まえて手早く対処法を考えながら行動を開始しようとした途端、ちょうど彼らが戦っている付近から金属同士の激しくぶつかり合う音が聞こえてきた。

 それは穴が開いているとは言え、アリーナのステージ・エリアと観客席を隔てるバリアー越しにでも響くほど盛大な音だったので、私は反射的に動きを止めて音の発生源へと目を向けてしまった。

 

<どうやら、その必要は無くなったみたいね>

<ああ、彼女に出られたら誰も逆らえないからな>

 

 そんな風に呆れつつも納得したように呟いた私達の視線の先では、生身でIS用近接ブレードを使ってボーデヴィッヒさんの動きを押さえ込んでいる織斑先生の姿があった。

 

<それにしても、ますます織斑千冬が化け物かサイボーグとしか思えなくなってくるよな。あれを見ていると……>

<『冗談も程々にしなさい』って言いたいところだけど、そうかもね……>

 

 まるで私達の声に反応するかのように、またしても例の誰かに見張られているような感覚を覚え、その所為で不気味な悪寒が全身を駆け抜けた。しかも、それは久々の出来事だったので、ほんの数秒間に過ぎなかったが、私は緊張で全く動けなくなってしまった。

 そして、時間の経過と共に冷静さを取り戻した状態で慎重に周囲を見回しながら気配を探ってみるが、やはり今回も怪しい人物は1人として発見できない。それどころか、周囲には誰も居なかった。

 

<やっぱり、織斑千冬が犯人なんじゃねえのか? 毎回、あの女が居る時だし……>

<可能性は高いけど、まだ決め付けない方が良いと思うわ。それに、こちらに実害は出てないんだから焦って動くと逆に危険よ>

<そう言うが、頭では分かってても気分のいいもんじゃないんだよ! 大体、俺は自分が後手に回るのは大嫌いなんだ!>

<あのねえ……。あんたが大声で叫んだって状況は変わらないんだから、少しは落ち着きなさいよ>

 

 こうして私達が正体不明の気配について言い争いをしていると、アリーナのスピーカーから織斑先生の声が聞こえてきた。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 彼女がいつもの命令口調で宣言をし、最後に強く手を叩いたような音を合図として今回の騒動は急速に収束へと向かっていった。

 それを受け、私達にも1つだけ気になる案件があったものの、こうして何の手掛りも得られていない状況では対処のしようが無く、もう1度だけ周囲の様子を丁寧に探ってから設置していたカメラを全て回収して早々にアリーナを後にした。

 




一応、今回は戦闘シーンもありましたが、いかがだったでしょうか?
大筋では原作と変わらないエピソードなので新鮮味には欠けると思いますが、少しでも『楽しい』『面白い』と感じていただける部分があれば幸いです。
なお、次回は今回のエピソードの事後処理みたいなものになります。
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