IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐   作:Ghost SAF

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第8話 Mind of the white sword①

 6月も最終週に入り、ここIS学園は学年別トーナメント一色へと変わっていた。しかも、その慌ただしさは想像を遥かに超えており、本当に開催ギリギリの時刻まで全校生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導などに忙殺されていた。

 そして、それらの作業が終わった途端、私を含めたトーナメント参加者は大急ぎで更衣室へと走って行き、息つく暇も無く着替える事になっている。だが、今回は更衣室の1つが学園に2人しかいない男子生徒専用となってしまった為、こちら側の更衣室の人口密度がかなり上昇していた。

 

「あ~、なんか緊張してきたかも……」

「そんなに構えなくても、いつも通りにやれば大丈夫だよ。それに、いざという時は私がフォローするから安心して」

 

 更衣室に設置されたモニターで観客席の様子を見た玲奈さんが不安げな表情で私を見上げるようにして声を掛けてきたので、彼女の頭を優しく撫でながら落ち着くよう言い聞かせた。そして、少し時間が経って彼女が落ち着いたのを見計らい、私も彼女が見ているのと同じモニターに視線を向ける。

 すると、そこには各国の政府関係者を筆頭に、様々な研究機関の人間やIS関連企業のエージェントが勢揃いしている光景が映し出されていた。

 ただし、こうして集まっている人達の目当てが2~3年生で1年生の私達には関係なく(代表候補生などは別)とも、今後の将来を決める上では決して無視できない存在なのも事実だったので、玲奈さんが緊張する気持ちも充分に理解できる。

 

<おいおい、あんな調子で本当に大丈夫なのか? せめて、こっちの足だけは引っ張らないようにして欲しいもんだぜ>

<彼女なら心配いらないわ。きっと、私達の期待通りの働きをしてくれるから。それよりも、あんたの方こそ調子に乗って衆目に晒せない装備を披露したり、必要以上に派手に暴れたりしないよう注意しておきなさい。あまり目立ち過ぎると、今後の任務にも支障が出るんだからね>

<まったく……、お前は小姑か何かか? そんなに口うるさく言われなくても分かってるんだから、たまには俺を信用しろよな>

<だったら、普段の行いを正して問題が無い事を態度で示す事ね。いい加減、あんたの当てにならない口約束は聞き飽きたわ>

<けっ、よく言うぜ>

 

 一応、私が玲奈さんと話している間ぐらいは遠慮していたのだろうが、こうして口を開けば愚痴と悪態しか出てこないようなクリストファーの相手をした所為か、早くも私の精神的な疲労度が大きく上昇したように感じる。

 その証拠に、思わず溜息を零してしまいそうになったからだ。勿論、今の状態で溜息を吐けば確実に彼女にも聞こえるので、余計な事を詮索されない為にも自制心を働かせて衝動を抑え込んだ。

 

<いっその事、邪魔になったら対戦相手もろとも吹き飛ばしてやるか。いや、それよりも適当なところで誤射を装って排除した方が――>

 

 ところが、そんな私の気持ちを無視して未だに彼は非常識な事を呟き続けていた。だが、いちいち相手をしていたら更に疲れるだけなので、ここは無視を決め込むに限る。そう私が自分に強く言い聞かせた頃、ようやくトーナメントの対戦表が発表され始めた。

 

<ほら、さっさと意識を切り替えなさい。そろそろ、対戦表が発表されるみたいよ>

<とりあえず、出来るだけ楽な対戦カードになってる事を祈るよ。これ以上、面倒事が増えるのはゴメンだからな>

<あんたがどう祈ろうとも抽選なんだから、なるようにしかならないわよ>

 

 こんな性格のクリストファーだが、戦闘時の意識の主導権は彼にあるので最低限、対戦表に目を通す事ぐらいはしておくように促す。

 ちなみに、本来のトーナメント進行スケジュールでは、この対戦表は前日には発表されている筈だったのだが、いきなりペア同士による対戦へと変更した所為かシステムに不具合が起きて延期されていた。

 なので、今朝から手作りの抽選クジを使った対戦表の作成が大急ぎで行われたのだが、結局は大幅に遅れてトーナメント開始直前での発表になってしまったのだ。

 

<ほら、対戦相手が決まっ――。ちょっと、冗談でしょう!?>

<おいおい、何をそんなに慌てて――>

 

 珍しく慌てた反応を私が示したのに続き、クリストファーも直ぐに声を失う。勿論、そんな反応を2人揃ってしたのには大きな理由がある。なぜなら、一夏君&シャルル君ペアとボーデヴィッヒさん&箒さんペアの直接対決になっていたからだ。

 それも、Aブロック1回戦1組目という開幕直後の初戦での激突である。その上、私達は彼らの間にある因縁まで知っているのだから、いろんな意味で驚かずにはいられない。

 

<それにしても、こうして少し落ち着いてから考えてみると、この対戦の組み合わせには流石の私でも作為的なものがあるとしか思えないわね。なにせ、あの2人をペアにした上に初戦で対戦させるんだから>

<ああ、そうだな。おまけに、俺達とはブロックそのものが違うから、あいつらとは正真正銘ラストの決勝まで当たる事が無いときてる。しかも、今回は都合良く直前になってシステムトラブルまで発生してるんだ。どう考えたって、これは出来すぎだろう>

 

 なんとか冷静さを取り戻した私達は、ほとんど癖みたいになってる状況分析を直ぐに実施する。ところが、こうして分析を進めれば進める程、この対戦カードも決して悪いものでは無いという事が分かってきた。

 なぜなら、ありがたい事にトーナメント参加者の中で監視しなければならない重要人物が1箇所に固まっているだけでなく、今後の対応を決めるのに必要な情報まで早い段階で入手できるからだ。

 

<でも、これで基本方針は決まったわね。まずは、順当に私達が勝ち上がってブロック代表になるわよ。その後はAブロックで誰が勝ち上がってくるかにもよるけど、とりあえず、一夏君とシャルル君のペア以外には1つ残らず負けてもらうのが確定したわ>

<つまり、あいつらか俺達の優勝が絶対条件。ただし、あいつらとの直接対決では、あいつらに優勝を譲ってやる。そういう方向でいいんだな?>

<ええ、その通りよ。だけど、あまりにもわざとらしいと流石に怪しまれるから、その辺は考えて立ち回りなさい>

<了解>

 

 そうやって対戦表を眺めながら私達が頭の中で今後の試合における大まかな流れについて話し合っていると、同じように対戦表を眺めていた玲奈さんが私の方をゆっくりと振り向き、僅かに複雑そうな表情を浮かべて声を掛けてきた。

 

「やっぱり、友達の事が心配?」

「うん、まあね……」

 

 いくらなんでも詳細は当事者しか知らないだろうが、私達がボーデヴィッヒさんと揉めた件だけは学園中の生徒に広まっている上に否定の出来ない事実なので、この場は多少なりとも深刻そうな表情を浮かべて彼女に話を合わせておく。

 そして、いま話題に挙がった箒さんとボーデヴィッヒさんのペアの方を見てみると、そこだけは他と違う異質な空気が漂っていた。できれば単なる偶然と思いたかったが、こうなってしまっては彼女達がペアになった事は誰の目にも皮肉としか映らないだろう。

 しかも、お互いに完全無視を決め込んでいるらしく、視線すら合わせようとしないので状況は悪化の一途を辿っている。

 その証拠に、これだけの人口密度であれば本来は相当な熱気と喧騒に包まれていても不思議では無いのに、彼女達の間に漂う冷たい緊張感が更衣室全体へと拡散して明らかに雰囲気を悪くし、誰も彼女達に近付かないばかりか周囲の人間にまで無用の緊張を強いていた。

 それどころか、周囲からは私も関係者だという認識になっており、ここへ来た時から背中には常に視線を感じていて微妙に集中力が削がれるし、箒さんへ声を掛ける事も躊躇うような状態になっている。

 

「だけど、こればっかりは私がどうこう出来る問題でもないしね。とりあえず、今は自分達の事に集中しましょう」

「うん、そうだよね。もうちょっとで始まるし、そっちに集中しないとね」

「ふふ。だんだんと分かってきたじゃない」

 

 私が気持ちの切り替えを促すように少し明るい調子の声で玲奈さんに話し掛けると、彼女も私の意図を察したのか、先程とは違って自然な笑顔で答えてくれた。そして、そんな彼女の反応に満足した私も笑顔で返事をした後、これからの事についての話をする。

 

「まあ、そういう訳だから余計な考えは脇に措いておいて、暫くは試合を観ながら勝ち残ってきそうなペアの情報収集と対策よ」

「オッケー」

「だけど、いま直ぐに始まるって訳でもないから、それまでは自由時間みたいなものなんだけどね」

「あ、だったら少し話さない? 私、もっとクリスちゃんの事が知りたいの」

「勿論、いいわよ。ちょうど私も同じ事を考えてたから」

 

 こうして私達は最初の試合が始まるまでの時間、適度な緊張感を保ちつつも他愛無い雑談を交わして過ごし、それなりにリラックスした気持ちでトーナメント開始時刻を迎えるのだった。

 

   ◆

 

 時は流れ、トーナメント開始まで残り1分を切った。なので、私はモニターに視線を向けてアリーナ中央部で対峙する4人、一夏君・シャルル君・箒さん・ボーデヴィッヒさんの姿を静かに見つめていた。

 

<そろそろ始まるわよ。準備はいい?>

<ああ、いつでもいいぜ>

 

 念の為、クリストファーにも確認を取ると威勢の良い返事が返ってきた。もっとも、その声の調子から彼が間違いなく、これから始まる戦いを自分自身の暇潰しの為に楽しもうとしているのは明らかだったのだが、戦闘開始まで時間に余裕も無いので今は何も言わない事にする。

 ちなみに、私の右隣では玲奈さんが同じように真剣な面持ちで食い入るようにモニターを見つめ、試合開始の瞬間を固唾を呑んで見守っていた。

 

「試合開始まで後10秒」

 

 スピーカーから試合開始が目前に迫っている事を報せる声が聞こえ、モニター越しに見ているだけの私でも否応なく緊張感が増していくのを感じる。

 ただ、そんな中でもアリーナ中央で対峙する一夏君とボーデヴィッヒさんは未だに何かしらの言い合いをしているようだったが、彼らは直に話しているらしく、映像だけでは会話の内容まで分からなかった。

 もし、ここで私かクリストファーに読唇術でもあれば会話の内容だって分かったかもしれないが、生憎、そこまで便利なスキルは互いに持っていない。

 

「5・4・3・2・1――開始!」

 

 試合開始の合図と共に一夏君とボーデヴィッヒさんの2人が同時に叫ぶような表情をし、まずは一夏君の方が得意のイグニッション・ブーストで一気に間合いを詰めて先制攻撃を仕掛ける。

 しかし、その程度の動きは彼女も初めから予想していたらしく、全く慌てる様子も無く右手を前方へと突き出すと、あの厄介なAICを発動させて彼の攻撃が届く前に容易く拘束した。その為、彼は突撃態勢のままで一切の身動きが取れなくなってしまう。

 ただし、このAICによる拘束は不可視のエネルギーによるものなので、こうして傍から見ている分には一夏君だけが一時停止したように映った。さらに、彼女は追撃を仕掛ける為に肩の大型レールカノンの砲口を彼へと向けて発射しようとする。

 

<ま、そんな単純な手が通じるほど甘い相手じゃないよな。だが、今回はペア同士で戦う一種の集団戦だ。だから、敵は一夏だけじゃないんだよ>

<じゃあ早速、連携訓練の成果を実際に見せて貰いましょうか>

 

 カメラが捉えた映像ならではの広い視野で4人全員の動きを大局的な視点から見る事のできた私達が戦闘の模様を冷静に分析する中、早くもペアである事を生かした戦術が繰り出された。

 その戦術とは、ちょうどボーデヴィッヒさんからは死角となる一夏君の背後から彼の頭上を飛び越えるような格好でシャルル君が急上昇しながら姿を現し、射線が確保された瞬間にアサルトカノンによる射撃を浴びせたのだ。

 そして、この的確な射撃によって大型レールカノンの照準は発射の直前に見事に逸らされ、砲口から放たれた砲弾は何も無い空間を突き進んで最後はアリーナの遮断シールドへと着弾して終わった。当然、この絶好のチャンスを彼らが逃す筈は無く、そのままの勢いでシャルル君が攻撃に転じる。

 その為、ボーデヴィッヒさんは急いで後退して距離を取ろうとするが、瞬時に左手にアサルトライフルを呼び出したシャルル君の追撃は阻止し切れなかった。

 

<なる程。あれが噂に聞く『ラピッド・スイッチ』ってやつか。確かに、ほとんどタイムラグは発生しないみたいだな>

<だからこそ、あれだけ多くの武装を搭載していても、その中から最適な物を状況に合わせて器用に使い分ける事が出来る。可能なら戦いたくはない戦闘スタイルね>

<同感だ。面倒くさくて敵わねえ>

 

 勿論、こうして私達がシャルル君の高い能力に感心している間も戦闘は続いている。彼がボーデヴィッヒさんへの追撃を開始した直後、今度は箒さんが2人の間に強引に割って入り、そのまま防御に秀でた『打鉄』を象徴するような実体シールドを展開して銃撃を防ぎつつ彼に斬りかかった。

 しかし、ここでも一夏君とシャルル君は見事な連携技を披露する。それは、背後からイグニッション・ブーストで突っ込んで来た一夏君をシャルル君がぶつかる寸前で宙返りをして回避し、お互いの位置関係を瞬時に入れ替えた事だ。

 いくらISのハイパーセンサーが全周囲の視界を確保しているとは言え、背後から高速で迫って来る物体をギリギリのタイミングで回避するなど簡単に出来る芸当では無い。

 ましてや今は戦闘中なのだから、余計に難易度は上がっている筈だ。おそらく、この短期間でマスターする為に相当の訓練を彼らは重ねてきたのだろう。

 

<それにしても、本当に大したものね。あの2人のコンビネーションは……>

<ああ、まったくだ。おそらく、ISの操縦では一夏よりも多くの経験があって視野も広いからシャルルの方で奴の大雑把な動きに合わせてやってるんだろうが、まさか、ここまでの連携技を見せてくれるとは流石の俺も予想できなかったぜ>

<もしかして、今になってシャルル君と組めなかった事を悔やんでるの?>

<当たり前だろう。あの時は『俺の命令に従う娘がいい』と思って即決したが、こうして現実を目の当たりにしながら改めて考えてみると、最も楽が出来るのはシャルルと組む事だったんだからな>

<ハァ……。結局、あんたの判断基準はそこなのね……>

 

 相変わらず自分が楽をする事しか考えないクリストファーの発言を聞き、それに呆れた私が小さな溜息混じりに呟いた直後、アリーナでの戦いにも新たな変化が起きた。

 暫くは一夏君と箒さんによるブレードを使った近接格闘戦が続いていたのだが、ISによる戦闘だと機体の持つスラスター推力の違いから次第に箒さんの方が押され始め、それに焦れた彼女が腕を大きく振り上げて垂直に打ち下ろすように威力の大きな斬撃を繰り出したのだ。

 だが、その渾身の一撃もブレードを水平にして刀身の背に左手を添えた姿勢の一夏君に見事に防がれてしまった。そして、こうして動きの止まった瞬間の彼女をシャルル君が見逃す筈は無く、一夏君の背後から武器を構えた両手だけを前に突き出す。

 しかも、それぞれの手には連装のショットガンが握られており、絶対に外しようが無い必中の至近距離からの射撃で戦況は一気に彼らの方へ傾く筈だった。

 

<直撃だ>

 

 その状況を見たクリストファーが短く言葉を発するが、彼の予測は思いもよらない人物の意外な行動によって大きく外れる。なぜなら、あのボーデヴィッヒさんが箒さんを助けるという行動に出たからだ。

 まあ、厳密には『邪魔だったのでどけた』と表現した方が正しいのかもしれないが、結果的には狙っていたターゲットそのものが消えた事でシャルル君によるショットガンの連射は無駄撃ちに終わった。

 そして、いきなりワイヤーブレードで足を絡め取られて後方へ盛大に投げ飛ばされた挙句、何のフォローも無しに地面へと叩きつけられた箒さんの抗議にも一切動じず、ボーデヴィッヒさんは早々に一夏君たちへの攻撃に移行している。

 やはり、彼女にとってパートナーは参加条件を満たす為の数合わせ程度の存在に過ぎず、最初からトーナメントを1人で戦い抜くつもりだったのだろう。

 

<どうやら、あいつはリアルに“1人だけの軍隊”を演じるつもりでいるらしいな。まあ、こっちとしては、その方がありがたいが……>

<でも、彼女には数的不利を補えるくらいの実力は普通にあるんでしょう。だったら、この程度の事で私達が有利になるとは思えないんだけど?>

<それ位、お前に言われなくても分かってるよ。だが、俺達の手で連携を崩す手間が省けるんだぜ。とりあえず、それだけでも随分マシになると思わないか?>

<それもそうね。確かに、それなら作戦も多少は立て易いわ>

 

 一応、この意見に関しては私もクリストファーに賛成なので、ここは素直に彼の言い分を認め、今後の為にも戦いの行方に意識を集中させる。

 すると、アリーナでは両手にプラズマ手刀を展開させたボーデヴィッヒさんが突撃と斬撃を組み合わせたような複雑な連続攻撃を苦も無く実行してみせ、純粋な近接戦闘においても完全に一夏君を圧倒していた。

 しかも、それと同時にワイヤーブレードの射出と回収を絶妙のタイミングで行う事によってシャルル君の動きを牽制し続け、先程のように2人が連携して攻撃や防御を行うのを完璧に阻止している。

 

<まったく……、嫌になる位、あいつの戦闘行動には隙が無いな。個人の操縦技術の高さと機体特性による相性もあるとは言え、すかさず連携を封じて戦いの主導権を取り戻しやがった>

<残念だけど、こうなると素直にボーデヴィッヒさんの実力を認めるしかないわね。でも、一夏君たちにも何か作戦があるみたいよ>

<ほう。そいつは興味深いな>

 

 私が状況の変化をクリストファーに伝えると直ぐに彼も興味を示したらしく、また静かに戦闘の行方を見守り始めた。ちなみに、今は完全に1対1の個人戦の様相を呈している。つまり、一夏君がボーデヴィッヒさんと戦い、そこから離れた場所でシャルル君が箒さんと戦っているのだ。

 そして、お互いに充分に距離を離している所為で援護に向かうのは難いが、代わりに相手のパートナーに戦いを邪魔をされる事も無い状況となっている。しかも、こうなるよう仕向けたのは一夏君たちだったので、これが彼らの考えた作戦の第1段階なのだろう。

 それだけでなく、一夏君との1対1での直接対決をボーデヴィッヒさん自身も前から望んでいた筈だから、今のところは箒さんを除いた全員が特に不満を募らせた様子もなく全力で戦っているように見えた。

 

<それにしても、こうして見ているとシャルル君の実力も相当に高いわね。近接格闘戦と射撃戦を高次元で両立させてるのもあるけど、なにより彼の流れる水のような変幻自在の戦闘スタイルには驚かされるばかりだわ。だって、一朝一夕でマスター出来る芸当じゃないもの>

<ああ、まったくだ。お陰で何らかの事情で戦う羽目になった場合の事を考えると、今から頭が痛いぜ。なにせ、多用する特徴的なパターンみたいなものが少ない分、俺にとっては最も相性の悪い戦闘スタイルの1つだからな。だからと言って、それを嘆いていても始まらないから見付かるかどうかは別として、さっきから癖の1つでもないかと探してるんだけどな……>

<まあ、他に適当な対処法も無さそうだし、それに関しては頼んだわよ>

 

 私の意見に今回はクリストファーも素直に同意し、お得意の“あらゆる状況”という名の悲観論を早くも口にし始める。なぜなら、いま現在、シャルル君は右手に近接ブレードを持ち、左手にショットガンを構えて箒さんと戦っているからだ。

 そして、相手が接近してくれば自ら距離を取って牽制も兼ねた射撃を行い、逆に相手が距離を取れば自ら高速で接近して近接攻撃を行う。それは、瞬時に手持ちの武装を切り替えられるラピッド・スイッチと組み合わせる事で最大限の効果を発揮できる戦術でもあった。

 故に、その掴みどころの無い変幻自在な動きで相手のリズムを徹底的に乱し、常に自分が戦いの主導権を握り続けているような状態での戦闘になっていた。ついでに付け加えるなら、いま相手にしている箒さんに対しては専用機持ちとしてのアドバンテージもある。

 

<次は射撃――、いや、近接攻撃か>

 

 そんな中、映像を見ながらクリストファーがシャルル君の次の動きを予測しようとするものの、そういった事が得意な彼でさえ未だに動きを読み切る事が困難だった。その為、現状での的中率は辛うじて50%代を維持する程度に留まっている。

 

<この距離だと意図的に速度を落として相手の接近を誘い、充分に引き付けてからの近接攻撃ね>

<確かに本命は近接攻撃で決まりだが、その前に牽制射撃を挟んで接近させたくないと思わせて相手の思考を誘導する筈だ>

 

 そうやって何度も外しながらも決して諦めず、引き続き私達は彼の動きを予測してみたのだが、またしても結果は2人とも外れだった。

 なぜなら、彼は距離を取ると見せかけた上で逆に自分から相手に向かって一気に接近すると、そのまま速度を落とさずに高速で箒さんの脇を掠めながら近接攻撃を繰り出し、一撃を加えるだけで直ぐに離脱して改めて距離を取ったのだ。

 それどころか、ダメージを受けながらも果敢に反撃に転じようとした彼女に完璧なタイミングで牽制射撃を浴びせ、ほとんど彼女に何もさせないまま反撃行動まで阻止してしまう。

 

<なら、今度こそバースト射撃で追い回して身動きを取れなくする筈だ>

<そう思わせておいて、さっきと同じ攻撃を繰り出すんじゃない?>

<いくらなんでも、同じ攻撃を連続して出す事は無いだろう。相手に対応策を考えるのに必要な情報を与えてやるだけだからな>

 

 そうやって私達は再び彼の行動を予測し、今度はクリストファーの方が正解を引き当てる。その理由は、アサルトライフルを呼び出したシャルル君が常に一定の距離を保ちながら断続的な射撃を実施し、箒さんをアリーナの壁際へと追い込んでいったからだ。

 

<ほぼ正解だったんだから俺の勝ちだよな?>

<どうせ、今のは単なる偶然なんでしょう。大体、ここで私達が勝ち負けを競ったところで何の解決にもならないわよ>

<チッ……、お見通しかよ……>

 

 勿論、そんな内容の事を私達が話している間も2人の攻防戦は続いており、今度は箒さんが連続で斬撃を繰り出していた。もっとも、その斬撃も大半が防がれるか回避されるかしてしまい、傍から見ていても有効な攻撃になっているとは言い難かった。

 

<それにしても、本当に大したものだな。シャルルの奴は……>

 

 その時、攻撃に転じるつもりなのか、敢えて自分から距離を取ったシャルル君に対して箒さんは先程までの連続攻撃の流れに身を任せ、間髪入れずに追撃を仕掛けようと加速して突っ込んでいった。

 しかし、その動きにさえも直ぐに反応した彼は的確な射撃を浴びせ、いとも簡単に突撃を迎撃してしまう。そして、それを見たクリストファーが半ば感心したように呟いたのだ。

 確かに、シャルル君の行動が効果的な迎撃射撃だった事に疑いの余地は無いが、それよりも私は基本的に人を褒める事の少ないクリストファーの発した言葉に興味を惹かれ、思わず理由を尋ねてしまった。

 

<さっきのシャルル君の動き、そんなに凄いの?>

<当たり前だろう。なにせ、目の前で戦ってる敵だけじゃなく、他の連中の動きまで把握した上での行動だったんだからな>

<それって一夏君たちの動きも把握してるって事?>

 

 彼が最初に述べた言葉だけでは、シャルル君の行動の何処を評価するべきか見当がつかなかったので、もう少し分かり易い表現で具体的に説明してくれるよう要求する。

 

<ああ。俺もついさっき気付いたんだが、あいつはボーデヴィッヒからの攻撃を受けないよう闇雲に距離を取るんじゃなく、いざという時には、いつでも一夏の援護に向かえるよう絶妙な距離をキープしてたんだ。もしかすると、それを意識してたから戦闘スタイルにも癖が無かったのかもな>

<でも、そこまで考えて行動してるんだとしたら、彼は相当に戦い慣れてるって事になるわね。だって、そこまでの視野の広さを戦闘中に保ち続けるなんて、そう簡単に出来る技術じゃないもの>

<ま、どちらかと言えば一夏も箒も思考は単純な方だし、今みたいな完全フリーの個人戦状態なら誰だってコントロールぐらい出来るだろうがな>

<また直ぐに、そういう事を言う……。前から言ってる事だけど、思った事をそのまま口に出す癖を早い内に直しておかないと、いつか本当に痛い目に遭うわよ。そうなったら私まで被害を受けるんだから、もう少し考えた上で行動に移して欲しいわね>

 

 こうして真面目に話していたかと思えば直ぐに調子に乗って軽口を叩き始めたクリストファーに対して私は、本当に分かっているのかどうか疑わしい部分もあったが、とりあえず形だけでも釘を刺しておく。すると、彼は当然のように言い返してきた。

 

<相変わらず、小姑みたいに口うるさい女だぜ。今のは冗談で言ったに決まってんだろう。大体、お前とは長い付き合いなんだから、それぐらい分かれよな>

<長い付き合いだからこその忠告よ。あんたにとっては冗談かもしれないけど、そんな言い方だとケンカを売ってるようにしか聞こえないから、トラブルになる前に『少しは物事を考えてから発言しなさい』って言ってんの>

<チッ、くそったれが……!>

 

 この機会を利用して彼に口と性格の悪さを少しでも自覚させようと思った私は、いつもより厳しい口調で問題点を指摘する。だが、彼は舌打ちをして悪態を吐いただけで黙り込んでしまった。

 ただ、本音を言わせてもらえば、この子供みたいに都合が悪くなると不機嫌になって黙り込む癖も直して欲しいところだが、問題点ばかりを1度に言い過ぎるのも逆効果のような気がしたので、もう1つの癖については黙認する事にした。

 それに、今はアリーナで繰り広げられている戦いを見届ける方が遥かに重要なので、個人的な問題への言及は後回しにして再びモニターに映し出される映像に集中する。すると、ちょうどシャルル君がマシンガンによる制圧射撃を箒さんに浴びせている場面がアップで映し出されていた。

 しかも、ここでは彼の特技であるラピッド・スイッチが如何なく発揮され、見事としか言いようの無い連続射撃が続いている。一応、箒さんも必死に防御と回避を駆使する事で攻撃を凌ごうとしているものの、時間の経過と共に被弾する割合は確実に増加していた。

 そして、それによって生じたダメージは防御重視の『打鉄』でさえも許容できないものになりつつあり、彼女の敗北が時間の問題なのは誰の目にも明らかだった。

 

<ねえ、このまま何事もなく終わると思う?>

 

 その後、私は少し間を置いてクリストファーも冷静さを取り戻したと思われる頃合を見計らって声を掛けてみたが、彼からは何の反応も返ってこなかった。どうやら、未だに機嫌は直っていないらしい。ちなみに、そんな態度を取られた事に少しだけ違和感を覚えた。

 なぜなら彼は、ああいった感じの子供みたいな性格をしていても最低限、自分が遂行すべき任務だけは絶対に忘れたり放棄したりしないからだ。しかし、そんな私の思考はアリーナで起きた新たな動きによって中断される。

 

<残念。外れたみたいね>

 

 今の状態でクリストファーが私の言葉に反応するかどうかは気にしないで呟く。そして、そんな私の視線の先にあるモニターには、最後の賭けに出たと思われる箒さんが被弾しながらも強引にシャルル君の方へと突撃する映像が流れていた。

 なお、このタイミングでの彼女の突撃は予想外だったのか、今回は僅かにシャルル君の反応が遅れて焦ったようにも見える表情を浮かべていた。

 

<いや、これで終わりだよ>

<どうして、そう言い切れるの?>

<まあ、黙って見ていろ>

 

 そんな中、ようやくクリストファーが言葉を発する。だが、彼が発した台詞は一言だけで、明らかに私を敵視しているような無愛想なものだった。ところが、その直後、まるで彼の言葉が真実だったみたいに2人の戦いに決着が付く。

 なぜなら、反応が遅れて今度こそ直撃を受けるかと思われたシャルル君が瞬時に近接ブレードを呼び出して箒さんの渾身の一撃を鮮やかに受け止め、逆に動揺して動きの鈍った彼女に向かって至近距離からマシンガンの一斉射撃を胴体中央に浴びせて止めを刺したからだ。

 

<まさか、わざと反応が遅れた振りをしたの?>

<生憎、その『まさか』だよ。相手の攻撃を誘う分、こちらも多少のリスクは伴うが、一夏が1人でボーデヴィッヒを抑えてる以上、あまり長引かせる訳にもいかないだろうからな>

<そういった戦術を使う可能性は私も考慮してたけど、さっきのがそうだったなんて、よく見抜けたわね>

<箒や一夏みたいなタイプは追い詰められると、ダメージとか気にせず突撃して斬りかかろうとする傾向が特に強いからな。だとしたら、このタイミングで誘ってやれば簡単に飛びついてくるのは、むしろ普通だと思うぜ。そして、それを予測できない程、シャルルの奴はバカじゃないのさ>

 

 相変わらず、クリストファーの物言いには相手を見下したような部分も多少は見受けられるが、その分析能力と判断力だけは確かなものだった。なので私は早速、今後の戦いの行方について彼の意見を訊いてみた。

 

<どうやら、ここまでは一夏君たちの作戦通りに進んだみたいだけど、この後の展開について何か分かってる事はあるの?>

<まあ、あいつらも作戦通りに2対1の状況にしたからといって、それだけで有利になったとは考えないだろうな。こうしてモニター越しに見ても一夏の消耗は明らかだし、あの厄介なAICも健在なんだから、ようやく互角になったというところか。そうなると今度は、どちらが主導権を握れるかがポイントだな>

<やっぱり、そうなるわよね。じゃあ、この後、彼らが使おうとしてる作戦や戦術についてはどうなの?>

<いくらなんでも、そこまで分かるかよ>

 

 とりあえず、今後の展開についての大まかな予測は私と同じだったので、より具体的な事柄まで分かっているのかどうかも尋ねてみる。しかし、彼から返ってきた返事は実に素っ気ないものだった。

 

<だが、あの器用で勘の鋭いシャルルの事だ。きっと、俺でさえ想像できないような隠し玉を用意してるんだろうぜ>

 

 すると、最後に何か含みのある口調でクリストファーが呟き、そのまま黙り込んでしまった。しかも、そんな彼の言葉に呼応するかのようにモニターの中の一夏君とシャルル君は、2人掛かりでボーデヴィッヒさんへと突撃していくのだった。

 

   ◆

 

 思いもよらない方法で箒を助けた(厳密には違う)ラウラの行動に思考が止まりかけたが、彼女が直ぐに攻撃に転じてきた事で俺の意識も瞬時に戦闘モードへと切り替わった。

 なにせ、両手にプラズマ手刀を展開して突撃と斬撃を織り交ぜた変幻自在で猛烈な攻撃を繰り出してくるものだから、今の俺程度の実力では瞬く間に防戦一方となる。

 

「数の差で私が有利だな」

「たかが2倍じゃねえか!」

 

 両手に武器を装備しているラウラが見下したような口調で言ってきたので、それが癪に障った俺は反射的に言い返すが、ただの強がりでしかない事は誰の目にも明らかだった。

 実際、彼女は俺と接近戦を繰り広げながらもワイヤーブレードをシャルルへの牽制として器用に使いこなし、俺達が居る方へ容易には近付けないようにしていたのだ。

 もっとも、この状況では流石にワイヤーブレードを6本同時には操れないようだが、射出と回収のタイミングを上手く調整する事で攻撃が途切れないようにしていた。なので、この程度の牽制攻撃ぐらいならシャルルは絶対に大丈夫だと信じつつも、一応はプライベート・チャネル経由で声を掛けておく。

 

「シャルル、無事か?」

「一夏こそ。直ぐにサポートに入るからね」

 

 すると、間髪入れずに頼もしい返事が返ってきた。当然、それを聞いた俺は下手な小細工はしない事を即座に決断し、彼女に予め決めておいた作戦の実行を告げる。

 

「いや、いい。このまま例の作戦でいこう」

「……、分かった」

 

 俺の決断を聞いた彼女は僅かな時間だけ考え込むように黙ったものの、直ぐに了承の意を示してくれた。ちなみに、俺達の作戦とは、俺がラウラを抑えている間にシャルルが速攻で箒を撃破して2対1の状況を作る事だった。

 そういう作戦にしたのは、目の前のラウラの性格からして1人で戦おうとするのは最初から予測できた事なので、たとえ箒がピンチに陥ったとしても援護には向かわないという確信があったからだ。もっとも、その程度の数の差は彼女の実力からすれば無いも同然なのかもしれないが、俺とシャルルは違う。

 つまり、数字の上では1足す1は2にしかならないが、それが2人組みなら必ずしも答えが2になるとは限らない。そう考えたからこそ、この作戦に俺達は賭ける事にした。

 

「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

 

 ところが、ラウラは俺達の作戦を知ってもなお、顔色1つ変えずに自分から1人で戦うつもりでいる事を堂々と宣言してきた。

 まあ、ある程度は予測していた反応だが、これで作戦の第1段階は成功である。そうなると、次はシャルルが箒を撃破するまでの間、俺が撃破されずにラウラの攻撃を凌ぎきれるかどうかに懸かってくる。

 

「無意味かどうかは直ぐに分かるさ!」

 

 そこで俺は、敢えて彼女を挑発するように強気な口調で今の気持ちを言葉にしてぶつけ、その勢いのまま一気に突撃する。しかし、その突撃は彼女が繰り出すプラズマ手刀とワイヤーブレードの波状攻撃によって簡単に阻まれてしまい、右手に持つ『雪片弐型』の刃は一向に届かない。

 それどころか、俺の方が一瞬にして守勢に回ってしまい、彼女が容赦なく繰り出してくる波状攻撃を捌き切るだけで手一杯となってしまった。その為、幾度となく後退して距離を取ろうとする誘惑に駆られるが、その想いを理性で必死に抑え込んで接近戦を続ける。

 

「貴様の武器は、そのブレードのみ。近接戦でなければダメージを与えられないからな」

 

 またしてもラウラが余裕の表情を浮かべ、こちらを見下したような口調で話す。もっとも、俺の武器が『雪片弐型』1本しか無く、接近戦でしかダメージを与えられない事については当たっている。だが、それだけが後退しない理由では無い。

 なにせ、迂闊に距離を取れば、あの大口径レールカノンの格好の標的だ。それに、彼女のISには6本のワイヤーブレードがあるので下手に距離を空けると、それを取り戻すのにエネルギーと時間を余分に浪費してしまう。だから俺は、どれだけ苦しくても必死に食らい付き、今の距離を保ち続けるしかないのだ。

 

「うおおおおっ!」

 

 俺は『雪片弐型』を右手1本で振り回してラウラの攻撃を弾き、左手はプラズマ手刀を展開させた彼女の手自体を払うのに使う。その上、両足は姿勢制御に加えて複雑な軌道を描いて繰り出されるワイヤーブレードを蹴り飛ばすのに大忙しだ。

 しかも、このワイヤーブレードは刃の側面を蹴らなければ逆に爪先が切り裂かれるので、その事にも意識を集中させなければならない。つまり、現状は両手両足をフル稼働させた零距離での超接近戦である。

 はっきり言って、このままの状況が続けば間違いなく何処かで集中力が途切れ、その瞬間に俺の敗北も決まってしまうだろう。だが、そうなる前に必ずシャルルが援護に駆け付けてくれると信じ、俺はラウラの猛攻に歯を食いしばりながら必死で耐えていた。

 

「さっきまでの威勢はどうした?」

 

 ところが、そんな俺とは対照的に彼女には余裕があるらしく、またしても不敵な笑みを浮かべて声を掛けてきた。勿論、猛攻を凌ぐのに必死な俺には彼女の問いかけに答える余裕など微塵も無い。

 実際、今もワイヤーブレードを回避しつつ『雪片弐型』でプラズマ手刀を受け止め、その直後に別のワイヤーブレードを左足で蹴り飛ばしている。さらに、続けて繰り出されるプラズマ手刀の連続攻撃を回避と防御で凌ごうとするが、手数の多い攻撃の全てを防ぎきれる筈も無く、確実にダメージは蓄積されていった。

 それどころか、プラズマ手刀への対応だけでも手一杯で限界に達しているのに、再びワイヤーブレードが次々に飛来して『白式』のシールドエネルギーを大きく削り取っていく。

 しかし、それでも俺は決して勝負を諦めず、左手でプラズマ手刀を展開するラウラの手を弾き、その勢いを利用してワイヤーブレードも回避する。

 そして、今度は『雪片弐型』を素早く体の正面へと構え、新たに襲い掛かってきたワイヤーブレードとプラズマ手刀の連続攻撃を立て続けに弾くようにして防ぐ。だが、その瞬間に俺の視界には僅かだが死角が生まれ、同時に体勢まで崩して相手の次の動きに対する反応が遅れてしまう。

 

「そろそろ終わらせるか」

 

すると、この隙を衝いてラウラが短い呟きと共にプラズマ手刀を解除する。

 

『まずい!』

 

 この彼女の行動が示す危険性に直感で気付いた俺は、咄嗟に心の中で叫びながら彼女の手が向けられる範囲から逃れようとしたが、既に手遅れだった。次の瞬間には必死で動こうとする俺の意思に反し、まるで凍り付いたように体が硬直していた。

 そんな俺の眼前では彼女が両手を交差させて前へと突き出し、手の平を俺に向けている。この動きは間違いなく、あの厄介なAICだ。

 

「では、消えろ」

「くそおおっ!」

 

 俺をAICで拘束したラウラは冷たく言い放つと6本のワイヤーブレードを一斉に射出し、こちらの全身を容赦なく切り刻んできた。そして、俺の叫びも空しく『白式』は1/3近い装甲を破壊された上に、シールドエネルギーも一気に半分近くが失われる。

 だが、この程度で彼女の攻撃が終わる筈も無く、続けざまに俺の右手を2本のワイヤーブレードで絡め取ると、ねじ切るように回転を加えながら力任せに地面へと叩きつけてきた。

 

「がはっ!」

 

 そうして地面へと叩きつけられた途端、相殺しきれなかった衝撃が雷のように背中から全身へと一気に突き抜け、強烈な痛みを感じると共に一瞬だが呼吸も止まる。

 しかし、このまま地面に転がっていては格好の目標になってしまう。そう直感で悟った俺は急いで体勢を立て直そうとするが、彼女の反応の方が遥かに速く、既に大型レールカノンが俺の事を狙っていた。

 

「止めだ」

 

 ラウラの言葉通り、必殺の対ISアーマー用特殊徹甲弾が発射される。この砲弾の威力は大きく、当たり所が悪ければ1発で撃破されてしまう程の代物だ。なので、防御しても無意味だし、この距離では回避行動を取っても間に合わない。

 

『それなら……、斬る!』

 

 一か八かの賭けに出た俺は再び心の中で叫ぶと同時に覚悟を決めると、『雪片弐型』を握る右手に力を込めて高く振り上げようとしたが、何かに引っ張られるような感覚と共に酷く中途半端な位置で腕の動きが止まってしまった。

 その為、反射的に自分の右手の状態を目で確認した俺は自らの不運を呪い、今度は心の中で絶望的な叫び声を上げてしまう。

 

『さっきのワイヤー! まだ残ってたのか!』

 

 視線の先では俺を地面へと叩きつけた2本のワイヤーブレードの内の1本が未だに残っており、それが『白式』の手首の部分に見事に絡まっていた。しかも、こうして見る限り、それが直ぐに外れるとは到底思えない。

 

『ああ、畜生!』

「お待たせ!」

 

 流石に今回ばかりは本気でダメだと思った瞬間、絶妙のタイミングでシャルルが現れる。そして、彼女は素早く大型レールカノンの射線へ躍り出ると盾で発射された砲弾を防ぎ、続いて俺の右手に絡まっていたワイヤーも素早く切断し、そのまま俺の腕を引いて交戦地帯から高速で離脱した。

 すると、ほんの数秒前まで俺の居た場所に大型レールカノンの砲弾が雨のように次から次へと断続的に降り注ぎ、激しい衝撃波と共に派手に土煙が舞い上がる。やはり、どうあってもラウラは俺を許せないようだ。

 

「シャルル……、助かったぜ。ありがとよ」

「どういたしまして」

「で、箒は?」

「お休み中」

 

 間一髪のところで助けに来てくれたシャルルに礼を言いながらも箒の事を尋ねると、彼女はアリーナの隅へと視線を向ける。なので、俺も彼女の視線を追うようにして顔を向けると、そこでは悔しそうな表情をした箒がシールドエネルギー残量0、IS各部損傷甚大の状態で膝をついて行動不能に陥っていた。

 

「流石だな」

「その言葉は、この試合に勝ってから、ね」

 

 それを見た俺は、いつも通りの穏やかな表情を浮かべるシャルルに声を掛けるが、彼女は直ぐに表情を引き締めると、ほとんど損傷がなく充分な戦闘能力を残すラウラへと向き直った。そして、両手で構えていたアサルトライフルを地面に投げ捨て、新たにショットガンとマシンガンを呼び出す。

 

「ここからが本番だね」

「ああ、見せてやるとしようぜ。俺達のコンビネーションをな!」

 

 改めて戦う意思を示した彼女に合わせるように俺も『雪片弐型』を握る手に力を込めると、気合を入れる為に今の決意を声に出し、こんな状況でも余裕の表情で佇むラウラを真正面から睨みつけた。

 




大筋で原作と変わってないとは言え、見せ場の1つである学年別トーナメントのエピソードはいかがだったでしょうか? ありきたりな台詞ですが、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして、ここからは個人的な話になるのですが、やはり戦闘シーンだと執筆速度も少しだけ上がりますね。まあ、元が大した事のない速度なんで変化は微々たるものですが……。
そんな訳で、次回も学年別トーナメントのエピソードとなります。
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