IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐ 作:Ghost SAF
今日は高校の入学式。どこの高校でも行われているような式が講堂で行われた後、私は指定された自分のクラス(1年1組)へと向かい、予め割り振られていた座席表に従って自分の席に着き、静かに担任の先生が来るのを待っていた。
ちなみに、私の席は廊下側の列から数えて2つ目、その1番後ろである。すると、程なくして眼鏡を掛けた1人の小柄な女性が教室に入ってきた。最初は彼女が担任だと思ったのだが、実は副担任で、本来の担任は用事があって少し遅れているらしい。
「全員、揃ってますね~。それじゃあ、SHR始めますよ~」
そう言って彼女、副担任の山田真耶先生(先程、自己紹介済み)が若干、間延びしたような口調でHRの開始を宣言する。その姿は、どう贔屓目に見ても教師とは思えず、どちらかと言えば『子供が無理して大人ぶっている』といった印象しか与えない。
しかも、身長はここにいる生徒達と変わらないぐらいの低さで、大きめのだぼっとした服装とも相まって、ますます本人を子供っぽく見せていた。ただし、胸のサイズだけは服の上からでもはっきりと分かる大きさで、ある意味において異彩を放っていた。
「それでは皆さん。1年間、よろしくお願いしますね」
そう言って山田先生が基本的な連絡事項を伝えて挨拶を締め括るものの、妙な緊張感に包まれている為に教室の誰からも反応が無い。そして、それが原因で山田先生も少しうろたえている。
「じゃ、じゃあ、自己紹介をお願いします。えっと……、出席番号順で」
それでも彼女は副担任としての義務感を発揮してか、何とか次の言葉を絞り出す。おかげで自己紹介だけは辛うじて始まった。
「……くん。織斑一夏くんっ」
「は、はいっ!?」
順調に自己紹介が進む中、ある男子生徒の番になる。ところが、彼は考え事でもしていたのか、最初は自分の番になっている事にすら気付いていないようだった。そして、副担任に何度か名前を呼ばれた後、ようやく反応した。
ただ、本人からしてみれば、いきなり大声で名前を呼ばれたものだから返事が裏返ってしまい、それがクラスメイトからの失笑を買う。ちなみに、彼の席は真ん中の最前列で、俗に言う教卓の直近という非常に目立つ場所だ。
「えー……、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
多少、山田先生との間に漫才じみたやり取りがあったものの、彼は私達の方を向いて名前を言い、軽く頭を下げて挨拶をした。こうして離れた場所から見ている限りは、ごく普通の爽やかな少年だ。しかし、その後に続く言葉がなかなか出てこないようで、明らかに焦っているのが遠目にも分かる。
ところが、現実は残酷なもので、クラス内は『もっと話して欲しい』という感じの空気に満ちている。こうして私を含むクラス中の女子(29名)からの無言のプレッシャーを一身に浴びて困惑する織斑君と、その背後で半泣きになってオロオロしている山田先生という面白い構図が出来上がった。
なお、このクラスに男子は1人、織斑君しか居ない。それどころか、この学園中の全校生徒の中で彼が唯一の男子生徒である。なぜなら、この学園はISの操縦者を専門に育成する教育機関であり、ISを扱えるのは女性だけという関係から事実上の女子校だったからだ。
つまり、彼は世界で唯一、男のIS操縦者という事にもなる。その為、事実が発覚した時には世界中が大騒ぎになったものだ。
「以上です」
暫しの沈黙の後、ようやく彼が言葉を発する。しかし、それは皆の期待を見事に裏切るものだった。そして、それを証明するかのように数人の女子が派手な仕草でずっこける。ところが、ここで思いもよらない事態が起き、私は心の中で声を上げた。
『あっ』
なんと、別の女性が教室に入ってきて彼の背後に立ったのだ。しかも、その存在に私が気付いた時には、既に彼女は腕を大きく振り上げていた。そして、流れるような動きで織斑君の頭を思い切り叩く。その瞬間、気持ちの良いくらいの音が教室中に響いた。
「げえっ、関羽!?」
頭を叩かれた織斑君がおそるおそる振り向き、自分を叩いた女性を見上げて叫んだ。その途端、もう1度、頭を盛大に叩かれる。心なしか、最初に叩かれた時よりも大きな音がした気がする。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
頭を叩くのと同時にツッコミを入れた後、彼女が山田先生の方を向くと、互いに事務的な会話を始める。どうやら、このインパクトのある登場の仕方をした女性が担任らしい。
ちなみに、遅れて教室に入って来た女性は黒のスーツにタイトスカートという格好で、すらりとした長身と狼を思わせる鋭い吊り目が印象的だった。
「諸君。私が織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15才を16才までに鍛え抜く事だ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」
私達の方に向き直った織斑先生は、とんでもない事を平然と言い放った。しかも、彼女の物言いや態度には何処か有無を言わせぬ迫力がある。ところが、クラス中の至る所から予想を裏切る声が上がる。
「キャ――――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
まるで、大物アイドルかハリウッド・スターにでも出会ったかのような騒ぎである。正直、この反応には私も引いた。しかし、言われた当の本人は心底うっとうしそうな顔をして生徒達を見下ろしている。
「毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも、何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
織斑先生が皮肉を込めて呟く。しかし、それすらもクラスメイトには至福の囁きだったらしく、新たなラブ・コールが沸き起こる。
「きゃああああっ、お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも、時には優しくして!」
「そして、つけあがらないように躾をして~!」
どうやら、今の発言は火に油を注いだだけらしい。しかし、そんなクラス中の反応を軽く受け流した織斑先生は、未だ立ったままの織斑君に辛辣な言葉を投げ掛ける。
「で、挨拶も満足にできんのか? お前は」
「いや、千冬姉。俺は……」
「織斑先生と呼べ」
そう言って織斑君の頭を叩く。これで既に3度目だ。すると、彼は『織斑先生』と声に出して訂正した。当然、そんな事をすれば2人が身内だという事が速攻で皆にバレる。
「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟?」
「ああっ、いいなぁっ。代わって欲しいなぁっ」
新事実の発覚に、またしてもクラス中が騒がしくなる。そして、数分後、ようやく落ち着きを取り戻したところで中断していた自己紹介が再開され、何人か間に挟んだあと私の番になった。
ここでは自己紹介をする時は立って行うのが普通らしいので、それに倣って立ち上がると、周囲に座っている数人が羨ましそうな表情で見上げてきた。
やや目付きがシャープで整った顔立ちではあるものの、くすんだ感じの金髪(髪形は先端の方が緩く外向きにカールしたセミロング)とブラウンの瞳という私の平凡な容姿に強い憧れを抱くとは考え難い。
なので多分、同世代平均より高い170cmを少しだけ上回る身長と、立ち上がった弾みで大きく揺れた年不相応な大きさの胸(山田先生よりは僅かに劣る)が注目を集める主な原因だろう。
「私はクリスティーナ・キャンベル。アメリカ出身で趣味はゲームとバスケかな。そして、ハンバーガーとコーラとハードロックをこよなく愛する15才でもあります。それから向こうでは『クリス』って愛称で呼ばれてたから、こっちでも同じように呼んでくれると嬉しいな。そんな訳で、これから1年間、仲良くしようね」
こうして多少なりともクラスメイト達が注目する中、私は明るい口調になるよう意識しながら当たり障りのない簡潔な挨拶を行ってから椅子に座り、自己紹介を早々に終える。すると、それを受けて次の女生徒が立ち上がって自己紹介に入る。
<相変わらず、見事な演技だな。アカデミー賞でも狙うつもりか?>
その時、何の前触れもなく頭の中に軽い調子の男子の声が響いた。勿論、それは通信とかの類では無く、文字通り、私の意識に直接話し掛けてきているのだ。しかも、この声は私にしか聞こえない。
そんな不可思議極まりない状況だが、この声は幻聴や妄想といった代物では無く、ましてや私は自分だけの独自世界に浸る電波キャラでもない事を最初に断っておく。実は、私の意識の中にはもう1人、クリストファーと呼ばれる別の人格が宿っているのだ。
そして、この別人格とは知識・経験・感覚といったものを任意で共有でき、必要に応じて幅広いサポートを受けられる状態にある。早い話が、2人分の知識と経験を好きな時に使えると思ってもらって構わない。
なので、お互いの得意分野によって表に出る主人格を切り替え、もう1人がバックアップに回る事で常に優れた結果を残してきた。当然、この能力が桁違いの競争率と難易度で有名なIS学園の入試でも存分に発揮されたのは言うまでもない。
<全然、面白くない冗談ね。この程度の演技力でアカデミー賞が獲れるなら誰も苦労しないわよ。それで、今回は随分と大人しかったみたいだけど、何か用?>
<ま、そうだよな。勿論、用件は今回の監視対象についてだ。お前の意見を聞きたい>
もう1人のクリスに尋ねられ、私は少しの間だけ考えてから話し始める。
<そう言われても、今のところは特に無いわね。どこにでも居る普通の姉弟といった感じ。でも、お姉さんの方は何かと油断ならない相手だから、慎重に対応しないと計画を危険に曝すのは確かよ。それから、篠ノ之さんについても同様。どこにでも居そうな普通の女子高生。とりあえず、今のところは、だけど>
<やっぱり、そうか>
<つまり、あんたも同じ意見なのね。だったら、わざわざ聞かないでよ>
私が軽く非難するような口調で文句を言うが、彼は気にする事なく話を続ける。
<そもそも、あの程度で分かるんだったら、こんなリスクを負ってまで俺達を潜入させないだろう。なにせ、世界を敵に回しても平気で笑ってるような篠ノ之束の居所に関する情報を掴むのが最優先目標なんだからな>
<その点については素直に認めるわ。でも、それなら今回は長くなりそうね。世界規模で包囲網が敷かれてるのに、手掛かり1つ掴めてないんだもの>
彼の意見にも充分な説得力があった為、私は素直な感想を口にした。ところが、彼の考えは微妙に違うらしい。
<いや、そうとも限らないぞ>
<どういう事?>
<このクラス分けだよ。担任も含めて、あまりにも都合良く人が集まり過ぎていると思わないか? 俺達の監視対象が1箇所に固まっている上に、同じクラスにされたんだ。それに、俺達以外に専用機持ちがいるのも納得いかない。普通、専用機持ちのような特殊な連中はクラスごとの偏りを無くす為にも均等に分散させる筈だ。だから、俺には何者かが意図的に操作したような気がしてならない>
そのような指摘を受けた私は思考を整理し、改めて現状を確認してみる。確かに、彼の言う通り、あまりにも都合が良すぎる状況だ。
<それだけ、クライアントに力があるっていう証拠じゃない?>
実は、私達が学園に潜入する手筈を整えたのは雇い主の方なのだ。そして、当然の事ながら私達には雇い主の情報は一切与えられていない。いつも通り、仲介人を通じて依頼内容と報酬が提示されただけである。
ただし、より厳密に依頼があった時の状況を説明するなら、今回の件は私達の所属する組織が引き受けた依頼であり、そこに私達の意志は微塵も入っていない。そもそも、こういった特殊な組織に所属している以上、最初から私達には拒否権も選択権も無いのだ。
<その可能性も否定は出来ないが、一応、警戒ぐらいはしておくべきだろう。既に俺達の正体や目的がバレていても不思議じゃないからな>
<逆に監視をし易くして……。いや、それならいっそ、最初から入学させなければ済むだけの話ね。もしかして、私達を餌にクライアントを誘き出そうとしてるの?>
<それもあるが、意図的にクライアントが俺達の情報をリークした可能性だってあるぞ。本命の何かを隠す為のスケープゴートか、俺達自身を餌として使う為にな>
<なら、私達はとんでもない貧乏クジを引かされた事になるわね>
私は思わず溜息が出てしまいそうになるのを我慢して呟く。
<ま、あくまでも可能性の話だ>
どう考えても一筋縄ではいかない状況にある事だけは分かり、彼の言葉を最後に私は黙り込むしかなかった。そうして沈黙が続く中、チャイムの音が鳴り響き、私達の意識は現実に引き戻される。どうやら、考え事をしている間に自己紹介は終わっていたらしい。
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか? いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」
最後に織斑先生が素で理不尽な事を言い、このSHRを締め括った。そして、直ぐに授業へと突入する。ちなみに、このIS学園ではIS関連の授業を限界まで組み込んであるので、普通に入学式当日から授業があった。
もっとも、そういった事情を考慮して入試の段階から既に高校レベルの内容を一部含んだものが実施(入試の難易度が高い一因)されており、それによって一般科目の授業は必要最小限に留められ、ほとんどは生徒個人の自主性に任されている。
ただし、基礎的な学力確認の為の試験は行われるので、あまりにも成績が悪いと長期休暇の大半を補習で潰される事になっていた。
◆
時は流れ、入学式当日の1時限目のIS基礎理論が終わった後の休み時間。本来なら、もう少し和やかな雰囲気になっていてもおかしくはない筈だが、教室内は異様な雰囲気に包まれていた。勿論、その原因は“世界で唯一ISを扱える男=織斑一夏”である。
その為、彼の事を知らない者は学園内におらず、まるで珍獣でも眺めるかのように他クラスの生徒や上級生達までもが廊下に押し寄せていた。しかし、互いに牽制でもしているのか、教室の内外に集まった誰一人として声を掛けるような真似はしない。
ところが、彼の方からなら声を掛けて欲しいというオーラは皆が発しているので、ある種の異様な緊張感のみが増幅されていく。
「ちょっといいか?」
そんな中、1人の女生徒が彼に近付き、声を掛けた。当然、そんな目立つ行動をすれば周囲にざわめきが広がる。
「……、箒?」
彼は女生徒の事をファーストネームで呼び捨てにした。普通、余程の無礼者でもない限りは初対面の相手を呼び捨てにはしないだろう。つまり、2人は初対面でなく、ある程度の顔見知りという事になる。
<やはり、1番手は彼女だったか。で、俺達はいつ声を掛けるんだ?>
<多分、次の休み時間ね。場所を移すみたいだし>
遠巻きに状況を見守っているだけの女生徒たちの1人の振りをしたクリスティーナは、脳内でクリストファーと短い会話を交わしながら様子を窺う。
その視線の先には、廊下に向かってスタスタと歩く箒と、それを慌てて追いかける一夏の姿があった。そして、2人が視界から消えたところで意識を自分自身の周囲へと向け、不審な動きが無いかを探る。
<そういや、なんで最初に声を掛けなかったんだ? 他の連中が遠巻きに見ているだけだったんだから、こっちとしてはチャンスじゃなかったのか?>
<ハァ、あんたねぇ……>
ほとんどの生徒が廊下に居る2人に意識を向けている中、クリストファーが深く考えもせずに疑問を口にし、それに対してクリスティーナは盛大に溜息をついた。
<ああやって牽制し合っている状況で何の接点も無いのに真っ先に動けば、否が応でも注目されるでしょう。そうなったら、これから先が面倒なのよ。いずれは注目を集める事になるだろうけど、まだ早いわ。それに、確たる証拠が手に入るまでは人畜無害で目立たない人間を演じるのが鉄則って事ぐらい、あんただって分かってるわよね?>
<確かに、お前の言う通りだな。だったら、後は全て任せるよ>
半ば無責任とも取れる言葉を残し、あっさりとクリストファーは引き下がった。
<そういえば、もう1つの任務はどうするの?>
今度はクリスティーナの方が質問をする。ちなみに、もう1つの任務とは専用機持ちを対象とした情報収集である。そして、この専用機持ちは大抵、国家代表やその候補生なので、機体だけでなく操縦者自身も調査対象となっていた。
<まずは、このクラスの代表候補生から始めるか。どういった思惑があって同じクラスにしたかは知らないが、この状況を利用しない手は無いだろう。後は、余裕が出来しだい他のクラスや上級生にも探りを入れていく。とりあえずは、こんなところだ>
<優先順位を考えれば、妥当な判断ね>
そこまで話したところでチャイムが鳴り、2時限目が開始される。そして、この2時限目もISに関する授業だったのだが、またしても一夏が教室中を騒がせるような事をしでかした。
「織斑君。何か分からないところがありますか?」
授業中、どこか挙動不審だった彼の様子に気付いた山田先生が尋ねる。そして、その言葉に対する彼の返事はこうである。
「ほとんど全部、分かりません」
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
そう呟き、山田先生が困りきった様子で固まる。しかし、それでも彼女は何とか気を取り直し、彼と同じように分からない生徒がいないか確認した。ところが、そんな生徒は1人もおらず、さらに状況をややこしくしただけだった。
「織斑。入学前の参考書は読んだか?」
そんな状況を見かねたのか、教室の端に控えて様子を見守っていた織斑先生が一夏の傍へと近付いて尋ねた。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
「必読と書いてあっただろうが、馬鹿者」
織斑先生の怒声と共に一夏が頭を叩かれた。これで彼は、この日の午前中だけでも随分な回数を叩かれた事になる。
「後で再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや……。1週間であの分厚さはちょっと……」
無理難題を押し付けられた一夏が当然のようにうろたえて抗議の声を上げるが、織斑先生は全く聞く耳を持たない。
「やれと言っている」
「……、はい。やります」
当然、彼女の命令に逆らえる訳も無く、彼は渋々ながらも了承した。ところが、そんな彼の態度が気に入らなかったのか、彼女は更に正論を並べ立てて反論を見事なまでに封殺する。すると、流石に見かねたのか、今度は山田先生の方が助け舟を出した。
「え、えっと、織斑君。分からないところは授業が終わってから放課後、教えてあげますから頑張って? ね? ねっ?」
「はい、それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」
放課後に臨時の補習を受ける事で一夏が納得した為、一応、この場は丸く収まった。ただし、妄想力のたくましい山田先生が自分の世界に入り込み、織斑先生からのツッコミを受けて慌てた拍子にこけるというオチがあったのを忘れてはならない。
<ハハハッ! こいつはケッサクだ!>
<ちょっと! 『いきなり、人の頭の中で大声出すな』って前から言ってるでしょう。毎回毎回、あんたの下品な笑い声を聞かされていい加減、うんざりしてるんだから>
相変わらず、コントのようなやり取りを続ける一夏たちをクリスティーナの視覚と聴覚を通して見ていたクリストファーが大声で笑った。当然、その大声は感覚を共有していた彼女の脳内にも盛大に響き渡り、その事に強い不快感を示す。
<おっと、そいつは悪かったな>
言葉とは裏腹に、クリストファーの態度に反省の色は全く無い。もっとも、クリスティーナの方も彼の性格を熟知しているので、いちいち咎めるような事はしなかった。
<それにしても、よくあれで入学できたな。一応、ここはエリート専用なんだろ?>
<別にエリート専用じゃないわよ。ただ、結果としてエリート集団みたいになっただけ。これは私の想像だけど、この学園は色々と特殊で外部からの干渉を受け難いから保護目的か何かで強引に入学させたんだと思うわ。そもそも、“世界で唯一の男性IS操縦者で、あの織斑千冬の弟”なんて稀有な存在を世界が放っておく筈がないもの>
<なる程。確かに、そういう風に考えた方が自然か……>
そんな話をしていると突然、何の前触れもなく得体の知れない緊張感に襲われ、反射的に警戒態勢に入ってしまった。しかし、それは本当に一瞬の出来事で、2人がクラスメイト達に気付かれないよう周囲を観察した時には既に消えていた。
<なぁ、今のって……>
<どうやら、私の気のせいでもなさそうね。ほんの一瞬だけど、これまでとは全く異なるプレッシャーだったわ。警告のつもりかしら?>
<さあな。だが、この教室内でそんな芸当が出来るのは……>
クリストファーが指摘する通り、このような人間離れした事が出来るのは1人しか居ないだろう。その為、クリスティーナは目線を教室の端で座って授業の様子を眺めている織斑先生に向けるが、そこに居る彼女に目立った変化は無かった。
先程までと変わらない雰囲気で山田先生の行う授業を静かに見つめているだけで、クリスティーナ達が見ている事にさえ気付いていないように思える。だが、それが逆に不気味でもあった。
<前途多難ね>
<そのようだな……>
そう呟いたのを最後に、2人は真面目に授業を受けている生徒を演じるのに徹した。
◆
2時限目が終わり、再び休み時間になる。最初は、この時間を利用して織斑君に声を掛けるつもりだったけど、ある人物が先に動いたので、もう暫く様子を窺う事に決めた。
「ちょっと、よろしくて?」
その人物とは、このクラスに居るもう1人の専用機持ちで、イギリスの代表候補生でもあるセシリア・オルコットさんだ。
縦方向に僅かにロールがかった明るい金髪に碧眼といういかにもな容姿で、腰に手を当てて相手を見下ろすような態度が実に様になっている。それに、話し方にも少し特徴があり、それが彼女の持つ高貴なオーラを上手い具合に増幅させていた。
<意外だな。まさか、彼女が声を掛けるとは……>
<でも、友好的な態度じゃなさそうよ>
私がクリストファーの感想に対して意見を述べていると、オルコットさんはわざと周囲に聞こえるような声を出した。
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「悪いな。俺、君が誰か知らないし」
ところが、またしても織斑君が火に油を注ぐような発言をする。
<俺の記憶が確かなら彼女、自己紹介で長々と自慢話をしてたよな? それなのに、全く記憶に無いのか、あいつは?>
<どうでもいい自慢話を聞き流すのは分かるけど、あそこまで覚えてないのも一種の才能よね。普通、あれだけ目立つ事をすれば多少は記憶に残ると思うけど……>
お互いに織斑君の返答に呆れたような感想を述べる。当然のことながら、オルコットさんの方は怒り心頭でキレる寸前のような雰囲気になりつつある。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
「代表候補生って、何?」
その瞬間、派手な音がして数名のクラスメイトがずっこけた。そのこけかたは、まるでコントでも見ているかのような見事なものだったが、それが彼女に対しては完全に止めとなってしまう。
「あなたっ! 本気で仰ってますの!?」
ついに、オルコットさんがキレた。力任せに織斑君の机を叩くと、怒りで頬を紅潮させて怒鳴る。その姿からは最早、先程までの高貴さや優雅さは微塵も感じられない。もし、これがマンガとかだったら確実に“怒りの血管マーク”が複数くっついている事だろう。
<あ~あ、やっちまったな……>
クリストファーが溜息をつきながら呟く。ところが、当の織斑君は平然と恐ろしい事を言ってのけた。
「おう、知らん」
流石に、こうまで堂々と言い切るとは私も予想できなかった。そして、それはオルコットさんにとっても同様らしく、こめかみを人差し指で押さえながら嘆いている。
「信じられない。信じられませんわ」
その後、彼女は代表候補生がエリートである事を自慢げに説明していたが、どうも織斑君の反応がお気に召さないらしく、かなりイライラしているようだった。
<なあ、このまま放っておいていいのか? あまり引っ掻き回されると、こっちの計画にまで支障が出てきそうだ>
<そうね。確かに、あまり良い状況とは言えないわ。でも、いま下手に介入しても余計に混乱を増幅させそうだから、仕掛けるなら次の休み時間よ。幸い、3時限目が間にあるから、その時間を使って対策を考えましょう>
<了解>
そうやって私がクリストファーと相談をしている間もオルコットさんの自慢話は続いていたのだが、なおも彼女の神経を逆撫でするような発言が織斑君から飛び出した。
「何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は……?」
彼の発言が相当に意外だったのか、まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情をして彼女が固まった。しかし、それでも短時間で気を取り直して言葉を発する。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
その瞬間、今度は教室内の空気そのものが凍りついたようになる。
<また余計な事を……>
<どうやら、違った意味で彼は難敵のようね>
私達がそれぞれに呆れたように呟く中、再びオルコットさんの怒号が響き渡る。
「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」
「うん。まあ、多分」
「多分!? 多分ってどういう意味かしら!?」
最早、完全に売り言葉に買い言葉である。冷静さを失って取り乱したままのオルコットさんは織斑君が何を言っても聞く耳を持たず、ことごとく彼の言葉に絡んでいる。そして、そんな状態が永遠に続くかと思われた時、3時限目の開始を告げるチャイムが2人の間に割って入った。
「また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」
そんな捨て台詞を残し、彼女は自分の席へと戻っていった。それを受け、クリストファーが話しかけてくる。
<あれの前に割って入るのか? 正直、気が滅入るな>
<別にあんたが心配する必要は無いでしょう。どうせ、話すのは私なんだし>
<その通りなんだが、なんとなく精神衛生上よくないと思って……>
<任務の都合で感覚の共有は強制だから諦めなさい>
<くそっ。やっぱり貧乏クジだ>
そんな会話を繰り広げていると、これまでの授業の時とは違って教壇の上に立っている織斑先生が何か大事な事を思い出したように言ってきた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
彼女いわく、このクラス代表者は対抗戦への参加以外に普通のクラス委員長としての役割もあるらしい。そして、対抗戦は入学時点での各クラスの実力水準を測ると共に、競争による向上心の育成も狙っているそうだ。
当然、1度代表として決まれば1年間は変更されない。なので、クラス内がざわめく。
「はいっ。織斑君を推薦します!」
最初に候補に挙がったのは、当然のごとく織斑君であった。そして、直ぐに賛同する声が教室内の至る所から上がる。
<ちょうど良いわ。これを利用するわよ>
<どういう事だ?>
私の考えを理解できていないクリストファーが尋ねてくるが、細かい説明は省いて何をするかだけを端的に伝える。
<私がオルコットさんを推薦する>
<は……? 何で?>
<時間が無いから黙って! 詳しい事は後で説明する>
状況から判断して時間が無いと思い、彼に反論する機会を与えずに黙らせた。
「では、候補者は織斑一夏。他には居ないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
案の定、驚いて立ち上がった織斑君にクラス中の視線が集中する。しかし、織斑先生は立ち上がった彼をうっとうしそうに扱いながら他に候補者が居ないか尋ねた。
「織斑、席に着け。邪魔だ。さて、他には居ないのか? 居ないなら無投票当選だぞ」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟をしろ」
織斑君の抗議の声を一蹴する織斑先生。そして、そんな状況を見た私は、ここがチャンスとばかりに手を上げて“彼女”を推薦する。
「私はオルコットさんを推薦します」
その途端、教室内が水を打ったかのように静まり返った。そして、当然のように今度は私に視線が集中する。
<ホントに言ったよ……。もう、どうなっても知らねーからな>
なにやら頭の中でクリストファーがブツブツと呟いているが、それを私は無視する。
「ま、当然ですわね。大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですもの。なにより、このわたくしに、そのような屈辱を1年間味わえと仰るのですか?」
すると、推薦された当のオルコットさんは味方を得た事が嬉しいのか、織斑君と同じように立ち上がり、お決まりの腰に手を当てたポーズで雄弁に語り始めた。
「そもそも、実力からいけばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべきであり、それはわたくしをおいて他に居ません!」
とりあえず、ここまでは私の予想通りに進んでいるので、もう暫くは黙って成り行きを見守る事にした。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
「なっ……!?」
ところが、ここで織斑君が珍しく反撃に出た。そして、こうなると後は先程の休み時間の時と同じ展開である。
「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!? 決闘ですわ!」
怒りで顔を真っ赤にしたオルコットさんが思い切り机を叩いて叫ぶ。
「おう、いいぜ。四の五の言うより分かり易い」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……。いえ、奴隷にしますわよ」
なにやら、だんだんと子供の喧嘩みたいになってきたが、当人達は全く気付いていない。それどころか、唖然とする周囲を置き去りにして勝手に話を進め始めた。
<改めて聞くが、これがお前の計画なのか?>
<ゴメン。ここまで効果があるとは正直、思わなかったわ>
クリストファーが若干、非難のこもった口調で尋ねてきたので、私は素直に今の心情を吐露する。その時、突然、クラス中が爆笑の渦に包まれた。
「お、織斑君。それ、本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
一瞬、何が面白くて皆が笑っているのか分からなかったが、どうやら織斑君が決闘に際してハンデを付けようと提案したらしい。この、『男が圧倒的に弱くなってしまった』と言われる時代にである。
なにせ、男女間で戦争をすれば3日で男陣営が敗北するとまで揶揄される程、双方の力の均衡が大幅に崩れている状況にも関わらず、彼は堂々と言ってのけたようだ。
「じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ」
ついさっきまでの激昂はどこへやら、オルコットさんは既に勝った気でいるらしく、その表情には嘲笑が浮かんでいた。しかも、織斑君の方も自分の言った事を撤回するのが気に入らないらしく、周囲の忠告に耳を貸そうともしない。
「さて、話は纏まったな。それでは、勝負は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは、授業を始める」
最早、このクラスの支配者と言っても過言ではない織斑先生が軽く手を打って話を締め括り、3時限目の授業が始まった。
◆
IS学園に入学した初日の放課後、私は学園内を見て回ろうと思って手早く荷物を纏めていた。最初は寮に荷物を置いてから行こうとしていたのだが、わざわざ置きに帰る程の荷物の量でもなかったので、このまま行く事にしたのだ。
なお、このIS学園は全寮制なので、全ての生徒が寮で生活する事を義務付けられている。このようなシステムになっているのは、世界中から生徒を受け入れている為でもあるが、将来有望なIS操縦者達を保護する意味合いの方が強い。
実際、ある種の治外法権である学園に在籍していなければ、一部の生徒は早くも様々な国家や組織からの勧誘に忙殺される事態になっていただろう。
「ちょっと、よろしいかしら?」
まるで、荷物を纏め終えたのを見計らったかのようなタイミングで声を掛けられたので、当然のように私は声を掛けてきた相手の顔を見る。勿論、顔を確認するまでもなく声だけで相手の正体は分かっていたが、念の為に声の主が予想通りの人物である事を確かめてから言葉を返す。
「うん、大丈夫よ。オルコットさん」
「今日はこのまま帰りますわよね。でしたら、寮まで一緒に歩きませんこと?」
どうやら、彼女の方から一緒に帰ろうと誘ってくれたみたいだ。本音を言えば、出来るだけ早い段階で学園の全容や施設の配置状況などを把握しておきたかったのだが、咄嗟に誘いを断る適当な理由が思い浮かばなかった。それに、一応は彼女も監視対象者の1人である。なので、私は直ぐに了承した。
「オッケー」
「では、参りましょうか」
私は彼女に促されるままに並んで教室を出た。すると、廊下に足を踏み出した所でクリストファーが尋ねてくる。
<それにしても、どういう風の吹き回しだ? 彼女の方から接触してくるとは……。まさか、俺達を監視するつもりなのか?>
<特に深い意味は無いわよ。多分、今日のクラス代表選出の時に真っ先に彼女の味方をしたから好感度が上がったんでしょう>
<だったら良いが……>
クリストファーは、まだ何か言いたそうな雰囲気だったが、オルコットさんが話しかけてきた為に私は彼女の方に意識を集中させる。
「どうかなさいましたの? なにやら、難しい顔をしていますわよ?」
「え、そう? そんなつもりは無かったんだけど、もしかすると、初日だから少し緊張していて疲れが出たのかも。心配してくれてありがとうね。オルコットさん」
思いのほか鋭い彼女の指摘に対し、私は自然な笑顔になるよう意識しつつ同年代の女子として答えた。流石に、国家代表候補生ともなれば油断は出来ないようだ。もっとも、こういう時こそ2人分の人格を使い分けられる能力が大いに役立つ。
<クリストファー>
<オーケー。こっちは俺に任せろ>
頭の中で彼に素早く呼び掛ける。すると、彼は直ぐに私の意図を理解して返事をした。つまり、私は普通の生徒を演じるのに集中し、彼が周囲の監視活動を行うという訳だ。
「そうでしたの。では、今晩はゆっくりと休んで疲れを癒して下さいな」
「ま、それがベストよね」
そう言って親しみやすそうな笑顔を向けてくる彼女に、私は軽く腰の骨を伸ばすような仕草をしながら答える。
「それから、わたくしの事はセシリアと呼んでもらって構いませんわ。折角、お友達になれたんですもの。お互い、遠慮はなしですわ。クリスさん」
「そっか……、そうだよね。じゃあ、改めてよろしくね。セシリアちゃん」
意識を完全に偽装用モードに切り替えた私は、入学早々に友達ができた事を心から喜ぶ学生になりきって話を合わせた。そして、何気ない会話を楽しんでいる内に1年生の学生寮へと到着する。もっとも、校舎から寮までは直線距離で50m程しか離れていないので、普通に歩いていても数分で着く。
「じゃあ、また明日ね。セシリアちゃん」
「ええ、また明日」
彼女の部屋がある階にまで上がった所で別れると、私は別の階にある自分の部屋へと向かった。そして、カードキーを使ってドアの鍵を開けて室内に入ると潜入時の習慣としてまずは気配を探り、自分以外の人間が誰も居ない事を確かめる。
そうやって安全を確認してからドアを閉めて鍵を掛けたところで、ようやく緊張を少しだけ緩める事が出来た。ちなみに、ここの寮のほとんどは相部屋なのだが、何故か私には個室が割り当てられていた。
おかげでルームメイトの目を盗んで情報収集を行う方法を考える事に頭を使わずに済み、結果的には嬉しい誤算となった。ただ、念には念を入れて部屋に盗聴器や監視カメラといった類の物が無い事は予め確認してあるし、これからも定期的に確認するつもりである。
もっとも、慎重派のクリストファーが言うには、『下手に相部屋にしてルームメイトを人質に取られたり、懐柔されたりするのを阻止するつもりなんだろう』との事だ。
<お疲れさん>
<別に疲れてないわよ。それよりも、何か変わった様子はあった?>
<いや、特にないな。彼女に警戒している様子は見られなかったし、俺が把握できた範囲でだが、離れた所から監視してた奴もいない。勿論、尾行だってされてない>
部屋のライトを点け、椅子に腰を下ろしたところで簡単な報告会が行われる。だが、入学初日という事もあってか、記憶に留めておくような出来事は無かったらしい。
<そう。でも、それを素直に喜んでいられないのも現実よね>
<ああ、そうだな。俺達に与えられた任務を効率良く遂行する為には、早い段階で目的の人物全員との接点を持っておきたかったんだが……>
<そのつもりが、今回は見事に裏目に出た。それについては私の判断ミスだわ>
そう呟き、一旦言葉を切ってから話を続ける。
<だけど、こうなった以上は大人しく現状を受け入れるしかないわ。その上で、今後の対策を改めて考えましょう>
<だとしたら、とりあえずはクラス代表を決める勝負の結果次第なんじゃないのか? ま、どっちが勝っても良いように2通りのパターンを考えておくか>
<そうね。それと、どういった勝ち方をするかも分からないから、ある程度は柔軟に対応できるようにしておく方が無難ね>
<なら、さっさと具体案をまとめちまおうぜ>
このクリストファーの言葉を合図に、私達は今後の行動計画を話し合った。そして、数十分後、具体的な行動指針が固まったところで再び彼が尋ねてくる。
<今更なんだが、クラス代表を決める時、なんでセシリアを推薦したんだ? あの時は時間が無いから後で説明すると言われたんだが……>
<ああ、あれ? 単純な話よ。彼女の性格だったら暇を見付け次第、確実に織斑君に絡んでいたでしょう。その時、どんな形であれ自分の味方をしてくれた人物が居れば、その人物に自身の価値観の肯定を求めていた筈だわ>
<つまり、そこで俺達が2人の対立を鎮めて双方と仲良くなる、と?>
<ちょっと違うわね。対立を鎮めるところまでは合ってるけど、正確には私達にとって都合の良いように2人を誘導するつもりだったの。そうしたら、これから先、ずっと私達が主導権を握れるから情報収集が楽になるでしょう>
<なる程。確かに、それなら効率的だな>
私が考えていた当初の計画を細かく聞き、ようやく彼は納得したらしい。なお、こういった部分で彼が微妙に鈍感なのは昔からである。そして私は、やや自嘲気味に呟いた。
<けど、見事に目論みは外れたわ>
<織斑先生の提案した決闘だな>
あれは、完全に私の油断だった。実際、タイミングを見計らって2人を戦わせる事も選択肢の1つとして考えてはいた。しかし、あの子供じみた言い争いに気を取られていた一瞬の隙に、私の言おうとしていた事を先に言われてしまったのだ。
<どうやら、1番警戒しないといけないのは間違いなく彼女のようね。今回の一件で改めて思い知らされたわ。だから、あんたも気を付けなさい>
<ああ、そうするよ>
流石に、この件に関してはクリストファーも真面目な声で答える。そして、その後も私達は色々と今後の行動について話し合い、日付が変わってから眠りについた。
余談であるが、織斑一夏と篠ノ之箒の2人は同じ部屋になったらしい。その上、またしても何かしらの騒ぎを起こしたらしく、早くも寮全体に様々な噂が飛び交っていた。
ようやく物語が本格的にスタートしましたが、いかがだったでしょうか?
まあ、大した内容でもないのに文字数だけが多い状態で感想を求められても困りますよね……。
とりあえず、次回からはクラス代表決定戦に突入します。