IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐   作:Ghost SAF

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第9話 アーセナルの咆哮②

 試合開始の合図と同時に俺は、両手に持った武装と両腕に固定された武装を正面に陣取る敵に対して何の躊躇も無く一斉に発射した。

 その途端、両腕のガトリングガン『XM234E2』の1500発/分を筆頭に猛烈な勢いの弾幕が機体正面に展開され、それに伴う発射時の反動も全身へと伝わってくるのを実感する。

 勿論、これが生身で行う通常の射撃とかであれば多数の強力な武装を一斉に発射したが最後、その際の猛烈な反動だけで腕の感覚が麻痺するか負傷した挙句に体が後方へ吹き飛ばされて終わりだが、ISの持つ便利な反動抑制機能が効果的に働いて俺の身体への影響は最小限に抑えられていた。

 なお、この段階では対戦相手の2人も積極的な反撃を試みようとはしたみたいだが、序盤に『リヴァイヴ』がアサルトライフルで散発的に銃撃してきただけで分が悪いと判断したのか、直ぐに反撃は諦めて2機とも防御に徹してしまう。

 なので、俺達の方は2人とも序盤からシールドエネルギーを大きく削られるような致命的な被弾はせず、そこそこ上々の滑り出しとなった。

 

「よし、今がチャンスだ。この隙に連中の上空を押さえろ」

「うん。任せて!」

 

 俺が弾幕射撃で対戦相手の2人を地上に釘付けにしている間に上空へと上がり、いち早く制空権を確保するようプライベート・チャネルを通じて玲奈に命じる。

 ちなみに、戦闘時にはクリスティーナの口調や態度を真似る余裕が無いので今は完全に普段の俺と同じ口調で指示を出しているが、それについては事前に彼女の口から『子供の頃に近所の男の子と遊ぶ機会が多かった所為か、ISの操縦みたいに極端に集中している時は男口調になる』と言って誤魔化しており、少々強引ではあるものの対策はしておいた。

 すると、そういった下準備が早くも効果を発揮したらしく、俺の指示を受けた玲奈は躊躇ったり何かを尋ねてきたりする事も無くスラスターの推力を一気に上げて急角度で空中へと上昇していく。

 ところが、彼女に続いて空へ上がろうとした俺は対戦相手の2人に先に仕掛けられ、そのタイミングを逸してしまう。

 

「牽制射撃でアイツらの動きを封じろ」

 

 一応、それに気付いた俺は咄嗟の判断で敵への攻撃を玲奈に命じるが、相手の2機は多少の被弾には構わず強引に移動を続けている。しかも、その際の敵機の機動や進行方向から推測すると、どうやら別々の方角から2機による挟撃か連続攻撃でも実行する算段なのだろう。

 確かに、この『アーセナル』が装備する多数の重火器は相手を正面に捉えた時にこそ集中砲火によって最大の攻撃力を発揮できるが、標準的なISよりも多くの武装を搭載した代償として機体そのものが大型化して小回りが利かず、さらに機体重量の関係から加速性能も悪いので、このように機動力で翻弄するのは有効な戦術の1つだった。そこで俺は、この戦術に対抗すべく玲奈に新たな命令を与える。

 

「そのままアルファに火力を集中させるんだ」

「はい」

 

 当然、こうして戦況の変化に応じて彼女に指示を出している間も弾幕射撃は1秒たりとも中断させず、俺は戦闘開始時と全く同じ連射速度で両手と両腕の武装による攻撃を続けていた。

 つまり、俺から見て右へと高速移動した目標アルファにはライトマシンガン『Mk146B』とガトリングガン『XM234E2』で、実体シールドを上手く使って防御しつつ左へ移動した目標ブラヴォーには『XM125GM』と『XM234E2』でFCS(火器管制装置)による照準補正も受けつつ射撃を浴びせるが、全く異なる動きをする2機相手に同時に左右それぞれの腕だけで比較的大型の武装を振り回して強引に攻撃を加えているものだから命中率が一向に上がらない。

 しかも、荷電粒子砲の連射速度の低さとグレネード弾の弾速の遅さの関係もあってグレネードマシンガン付荷電粒子砲『XM125GM』による射撃は高速移動目標に対しては特に命中率が低く、現状では爆煙と砂埃で視界を悪化させているだけとしか思えないほど酷い有様だ。

 そして、そんな頭を抱えたくなるような状況下での明るい要素を挙げるとすれば、パートナーに目標アルファへの攻撃に集中するよう命じたおかげで目標アルファからの射撃がほとんど停止した事と、目標ブラヴォーに射撃武装が搭載されていない事ぐらいだった。

 

<くそっ! やっぱり、こうなりやがったか!>

 

 ただ、それでも決定打に欠ける上に接近されると厄介な事態になるのは確実だったので、そんな状態にイラついた俺は頭の中で条件反射のように悪態をつくと、直ちに使い勝手の悪い『XM125GM』を収納し、より有効と思われる別の武装を展開させようとした。

 しかし、俺はシャルロットと違って『ラピッド・スイッチ』のような便利な能力は持ち合わせていない。その為、一時的な武装の減少と集中の乱れに伴う弾幕の弱体化は避けられず、その隙を衝かれて『打鉄』の突撃を簡単に許してしまった。

 

<ほら、左から突っ込んで来るわよ!>

<それぐらい分かってるから少し黙ってろ!>

 

 クリスティーナから敵接近の警告が入るが、わざわざ彼女に指摘されなくても危険が迫っている事には気付いているので手短な荒っぽい返事で済ませ、それと同時に『アーセナル』には急速後退を命じる。

 その結果、俺は軽い牽制程度の効果はありそうな弾幕射撃だけは辛うじて継続できた上に圧倒的に不利な接近戦に持ち込まれるのも阻止したが、この武装交換と回避機動に伴う大幅な射撃の乱れは攻撃の主導権を俺から奪い取るには充分なものだった。

 

「クリスちゃん!」

 

 だが、その時、玲奈が彼女自身の独断で援護に入ってくれたお陰で俺は防戦一方になる事だけは免れたが、今度は逆に彼女の方が対戦相手2人からの挟撃を受ける形になってしまう。

 そこで奇跡的にも無傷で態勢を立て直した俺としては、一刻も早く窮地に陥っている彼女の救援に向かうべきだったのだが、相手も『アーセナル』の武装の特徴に気付いたのか接近戦を主体にした攻撃へと既に切り替わっていた。

 つまり、『打鉄』の近接ブレードによる斬撃と『リヴァイヴ』のサブマシンガンによる近距離射撃である。おそらく、射撃武装ばかりの俺に誤射を警戒させる事で攻撃を躊躇わせる狙いがあったのだろう。

 もっとも、これが学園主催の試合なんかでなければ3人纏めて攻撃して吹き飛ばせるので非常に簡単なのだが、今後の事もあるので味方ごと攻撃するという案は論外だ。

 そこで俺は戦闘の様子を丁寧に観察して特徴が無いか分析してみると、相手は常に2機による攻撃を1人に集中させて動く傾向にあるのを発見した。

 どうやら“戦力を集中させる”という戦術の基本に従っているだけでなく、どちらか一方を先に戦闘不能に追い込み、それによって早々に2対1の有利な状況を作り出して戦いの主導権を握るつもりらしい。

 実際、それに近い戦術で一夏とシャルロットのペアがボーデヴィッヒと箒のペアに勝利したのだから、その時の戦術を彼女達が参考にしたとしても不思議ではない。

 

「玲奈。悪いが、少しだけ1人で攻撃を支えててくれ」

「こっちは任せてくれて大丈夫だから、クリスちゃんは自分の事に集中して」

 

 そう結論付けた俺は彼女に時間を稼がせるのと同時に、それによって得られた貴重な時間を利用して今の状況に対応した武装への切り替えを直ちに実行に移す。

 

<『Mk146B』をクローズ、代わって『XM182A1』と『XAA-112』をオープン>

 

 瞬間的に強く意識を集中させて右手に持っていた武装を収納すると新たに2種類の武装、右手には特殊スナイパーライフル(実弾用とレーザー用それぞれに対応した2本の大口径バレルを上下に備えるタイプのスナイパーライフル)『XM182A1』、左手には接近戦用の頑丈な大型バヨネット(銃剣)付ショットガン(発射方式フルオート)『XAA-112』を展開させた。

 そして、新たに展開した武装の射撃準備が整うのと同時に最初は目標アルファに狙いを定め、実弾とレーザーの同時発射モードにした『XM182A1』のトリガーを連続して引く。

 だが、狙われた方も『アーセナル』からの射撃レーダーの照射をセンサーで検知したのか、こちらが初弾発射のトリガーを引くよりも一瞬早く回避行動に移っていた。もっとも、その程度の動きなど最初から想定済みだったので慌てる必要は何処にも無く、俺は落ち着いて対処する。

 

「このまま俺はアルファを攻撃するから、そっちはブラヴォーの撃破に集中してくれ」

「うん、分かった」

 

 これまでと同様にプライベート・チャネルで玲奈に指示を送ると、そのまま俺は特殊スナイパーライフルによる射撃を継続する。

 なお、このスナイパーライフルの発射方式はセミオートで初めから連射性能も重視した特異な設計(実弾・レーザーを問わず、2本のバレルとも30発/分を実現)になっており、余計な操作をせずに単純にトリガーを引くだけで断続的な射撃の実施が可能だった。

 しかも、『アーセナル』での運用を考慮して片手で扱っても一定レベルの精密射撃が実行できるように様々な調整(ロングバレルの採用や重心位置の変更など)や装備の追加(改良型マズルブレーキや新型給弾システムなど)を施されていたのだ。

 ただし、そういった特殊な構造と射撃方法の所為で対策を施していても純粋な命中精度だけを見れば一般的なセミオート式スナイパーライフルより劣っていたのだが、その問題については『アーセナル』に搭載されている新規開発の射撃戦専用高性能FCSや射撃レーダーとリンクさせて補助を受ける事で辛うじて許容範囲内に収めていた。

 ちなみに、『アーセナル』に搭載されている武装の多くは構造が複雑で耐久性や維持・運用コストにも問題を抱えていたが、各パーツのモジュール化による交換の容易さと既存製品との部品の共有化によるコストダウンで何とか帳尻を合わせている。

 

『ほう。今度は、そうくるか……』

 

 流石に、これを狙撃と呼ぶには少々語弊があるのかもしれないが、とりあえず俺が狙撃を開始した事で状況には変化が生まれ、お互いに1対1の個人戦に近い状態となる。

 すると、それによって玲奈の操る『リヴァイヴ』から引き離された目標アルファは今まで使っていた武装を収納し、代わりにアサルトライフルを展開させて俺の方へと反撃してきた。

 おそらく、偏った機体特性の『アーセナル』に対しては機動力と攻撃力のバランスを重視した装備と戦術で対抗した方が良いとでも思ったのだろう。

 だが、そういった手堅い戦術で攻められる事も想定済みだった俺は、右手に持つ武装の発射方式がセミオートでバレルも2本備えている事を最大限に活用し、スナイパーライフルらしからぬ連射速度で射撃を続けて火力で相手を圧倒する戦術を採用する。

 

『それに、こっちはまだまだ火力を上げられるんだぜ』

 

 軽い興奮状態になっていた俺は、思う存分銃が撃てる楽しさから笑ってしまいそうになるのを堪えつつも心の中では相手をからかうように呟き、両肩のアンロック・ユニットに1基ずつ搭載されているハイブリッド方式(弾の初期加速に従来の銃火器と同様の火薬を使い、それを電磁力で更に加速させる発射方式。機構が複雑になる反面、本体の小型・軽量化と開発期間の短縮に貢献した)のレールガン『M1360』での射撃も追加する。

 ちなみに、この『M1360』はドイツのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』が搭載する同種の大型レールカノンと比較すると1発当たりの攻撃力は低いが、その代わりに武装のサイズが少しだけ小型になっている為に軽量で扱い易く、それに伴って命中率や連射速度もレールガンとしては高めの水準で纏まっていた。

 そして、俺が新たに射撃を行う武装に『M1360』を選んだのにも理由があり、このレールガンが『アーセナル』の武装の中ではスナイパーライフルに次いで狙撃に適していたからだ。

 

<分かってるとは思うけど、あまり目立ち過ぎないよう注意して動きなさい>

<ああ、はいはい。そのくらい、ちゃんと心得てるよ>

<なら、良いんだけど……>

 

 こうして俺が新たに追加した武装も駆使して気分良く攻撃を行っていると、お決まりのようにクリスティーナから自分達の立場をわきまえて戦うよう忠告が入った。確かに、彼女の言う事にも一理あるが、力を抑え過ぎて訓練機相手に後れを取っては本末転倒である。

 なので、とりあえずは彼女の忠告にも最低限の返事を返しておくが、俺は直ぐに自分が主導権を握る戦闘行為に意識を集中させてスナイパーライフルとレールガンによる連続射撃を継続する。

 すると、攻撃に使用する武装が増えた事で先程よりは弾の命中数も与えたダメージ量も上昇するようになったが、それだけでは緩急を付けた不規則な動きによる回避機動を繰り返し、時折、思い出したように反撃の射撃まで浴びせてくる相手を撃破するには至らない。

 だが、これまでは常に2対1という数の上での優勢を保ち、基本戦術に則った形で戦っていた対戦相手の2人を完全に分断する事には成功した。

 

『どうやら、この辺りが頃合だな』

 

 再び心の中で呟いた俺はハイパーセンサーの全周視界を使い、パートナーとの位置関係も含めた全体の状況を素早く確認する。そして、一種の奇襲攻撃みたいなものを仕掛ける条件が揃っている事にも気付いた。

 そこで俺は、その奇襲を実行するのに最適だと思われるタイミングを慎重に見計らいつつ玲奈にプライベート・チャネル経由で簡単な指示を与えると、両腕のガトリングガン『XM234E2』による弾幕射撃も追加した猛烈な攻撃を目標アルファに対して浴びせるのだった。

 

「今から反転して突撃するから、それに離脱のタイミングを合わせろ」

「オッケー。こっちは何時でも大丈夫だよ」

「よし――、3・2・1、今だ!」

 

 俺の合図と同時に玲奈の操縦する『リヴァイヴ』が目標ブラヴォーとの接近戦を止め、そのまま後方へと離脱するような動きを見せる。しかも、それは牽制射撃などを組み合わせたセオリー通りの離脱機動では無く、何故か簡単に追跡できそうなレベルの控えめな離脱行動だった。

 もっとも、その中途半端な離脱機動こそが事前に彼女に伝えていた俺の作戦の第1段階で、それに見事に引っ掛かり、いきなり逃走を始めた目の前の相手を警戒せずに追跡しようとして無防備な姿を晒した目標ブラヴォーへの奇襲攻撃を直ちに実行に移す。

 まず俺は、目標ブラヴォーが狙い通りの位置に達した瞬間に目標アルファに対してロケット弾ポッド『M1261』から多数のロケット弾を一斉に発射し、先程までの弾幕射撃と合わせて攻勢を強めて一気に畳み掛けようとしてると相手に錯覚させた。

 勿論、この追加攻撃の最大の目的は俺が弾幕射撃を止めた場合、かなりの高確率で相手が高速機動からの反撃に転じると想定しての牽制だった。

 なので、そういった反応を少しでも遅らせる為に敢えて命中率などは完全に無視し、着弾時の爆発も派手で視界を遮る効果も期待できるロケット弾を盛大にばら撒いたのだ。

 こうして大掛かりな牽制攻撃を完了させると、俺は直ぐに全ての攻撃を止めて最小旋回半径での180度水平旋回を行い、それによって素早く目標ブラヴォーを正面に捉えるとスラスター推力を一気に100%にまで引き上げて全力で加速しながら高速で接近していく。

 その時、念の為に背後にいる目標アルファをハイパーセンサーで確認してみたが、俺の目論見通りに操縦者の女生徒は防御態勢へと入っており、明らかに初動の対応に遅れが生じていた。

 

「うそっ! なんで!?」

 

 しかも、こちらの突発的な反転離脱に完全に虚を衝かれたのか、目標アルファを操縦する女生徒がオープン・チャネルのままで焦ったような声を漏らしてしまい、その声質から本気で慌てている事が俺にも簡単にばれてしまう。

 

「気を付けて! 『アーセナル』がそっちに行ったわ!」

「えっ!」

 

 さらに彼女は時間が勿体無いと判断したらしく、こちらに通信が筒抜けなのにも一切構わずにオープン・チャネルを開いたまま大声でパートナーに警告を発する。

 ところが、いきなり発せられたパートナーからの警告が逆に災いしたのか、その直後に混乱したように目標ブラヴォーの動きが鈍くなってしまった。

 だが、そんな状態でも目標アルファを操縦する彼女は慌てて武装を構え直すと俺と同じようにスラスターの推力を上げて一気に加速し、セオリー通りの追撃態勢へと移行したところでアサルトライフルによる連続射撃を背後から容赦なく浴びせてきた。

 

「チッ……! やっぱり、そう簡単にはいかねえか」

 

 ややイラついたような感じで俺は舌打ちをしながら呟くと、目標アルファによる後方からの射撃をコンパクトで鋭い高速バレルロールを2回連続で行う事によって自身の射線のズレを最小限に止めつつ僅かなダメージを受けただけで凌ぎ切り、再び水平飛行に戻ったところで2基の『XM234E2』による弾幕射撃を目標ブラヴォーに浴びせた。

 当然、その程度で俺の攻撃が終わる筈も無く、さらに相手に接近して『XAA-112』の射程に入ったところで左手に持つショットガンによるフルオートでの連射(350発/分)も追加して確実にダメージを与えておく。

 そして、速度を維持したまま高速で目標ブラヴォーの右側面を通過して後方に抜けようとしたのだが、被弾による衝撃から素早く体勢を立て直した相手も俺の動きにタイミングを合わせ、手にした近接ブレードで垂直に振り下ろすような斬撃を気合の入った掛け声と共に繰り出してきた。

 

「このっ!」

「チッ!」

 

 攻撃対象からの思いもよらない反撃に辛うじて反応できた俺は忌々しげに舌打ちをすると、こういった場合に備えて『XAA-112』に装着してあった大型バヨネットで繰り出された斬撃を受け止めながらも強引に飛行コースを想定よりも大きく右方向へと修正するように各部スラスターの角度を調整し、それによって一刻も早い現状からの離脱を試みる。

 もっとも、今回は『アーセナル』の方が激突時の速度・機体重量・パワーの全てにおいて『打鉄』を大きく上回っていたらしく、完全に停止させられて『アーセナル』に不向きなブレード系武装同士の鍔迫り合いになる前に突撃の勢いを上乗せした薙ぎ払いの一撃だけで相手のブレードを容易く弾き飛ばせた。

 その結果、こちらは僅かに減速させられただけで相手機体の横を無事に通過し、厄介な接近戦の間合いからも直ぐに離脱できた。なので、ここは当初の予定に従い、そのまま高速飛行を続けて対戦相手である2機のISとの距離を充分に取った所で玲奈の『リヴァイヴ』と合流する。

 こうして試合開始時に近い状態に戻った後は、こちらへと引き寄せた有利な流れを最大限に活用した上で次の攻撃に繋げるべく、俺は改めて対戦相手の2人を正面に捉えて鋭い視線で睨みつけるのだった。

 

   ◆

 

 興味本位で試合を観戦しに来ていた数多の生徒達の間には、戦いが始まった直後から驚嘆や畏怖にも似た衝撃が駆け巡っていた。勿論、そういった感じの独特な雰囲気に観客席が包まれた最大の原因は、試合開始早々に件のIS『アーセナル』が見せた凄まじいまでの弾幕射撃の連続にある。

 そして、そんな中で自身が『アーセナル』からの攻撃を受けた状況でも想像したのか、一夏があからさまに表情を歪めて苦々しげに呟いた。

 

「げ、マジかよ……。あんな攻撃、絶対よけらんねえ……」

「あんたねぇ……、こんなんでいちいち驚いてたら、それこそキリがないわよ」

「え……、じゃあ、まだまだ凄いのがあるって事なのか?」

 

 ほとんど独り言に近い一夏の呟きだったが、それに反応した鈴が呆れたように首を横に振りながら言葉を発する。だが、彼の方は単なる独り言を誰かに聞かれるとは思っていなかったのか、少し驚いたような表情と共に彼女の方を振り向き、発せられた言葉の意味を尋ねようとした。

 ところが、話の続きは直後に沸き起こった観客席からの盛大な歓声によって中断されてしまう。その為、彼らは反射的に意識と顔をアリーナのステージ・エリアの方へと向け、いきなり大歓声が沸き起こった原因を慌てて探ろうとした。

 すると、そこには今まで防戦一方だった3組のペアが攻勢に転じ、2機掛かりで接近戦を仕掛けている光景が広がっていた。

 

「あれって、もしかしてクリス達の方が押されてるのか?」

 

 先程まで盛んに行われていた『アーセナル』の弾幕射撃がすっかり鳴りを潜め、その上、クリスティーナのパートナーである玲奈が対戦相手の2人から同時に攻撃を受けているのを見た一夏が頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。

 なお、この彼が抱いた疑問に関しては、説明の上手なシャルロットが戦況の大まかな推移も含めた解説をする事によって補完する。

 

「多分、一時的にそう見えるだけだと思うよ。弾幕が弱まった隙を衝いて『打鉄』が突撃してきたから高月さんが素早く援護に入ったんだけど、対戦相手の反応が意外と速かったから逆に彼女が集中攻撃を浴びているのが今の状況なんだ。でも、クリスさんなら直ぐになんとかするんじゃないかな」

「そうなのか?」

「うん。あ、ほら、クリスさんが反撃に移るみたいだよ」

「お、本当だ」

 

 そんな彼女の言葉に促されるままに一夏が視線を向けた先では、新たな武装を構えたクリスティーナが3組の生徒の操縦する『リヴァイヴ』に対して反撃の狼煙となる射撃を早くも開始していた。

 しかも、それは今までのように派手に弾をばら撒くタイプの弾幕射撃などでは無く、相手を正確に狙って撃つ狙撃タイプに近い射撃だった。

 ただし、それは狙撃タイプに近いとは言ってもセシリアが得意とするような本格的な精密射撃とは大きく異なり、どこか異常とも思えるペースでエネルギー弾や実体弾が際限なく連射される光景を目撃した為、ますます彼は驚きを隠せなくなっていた。

 さらに、今回の射撃戦では『アーセナル』の両肩の大型アンロック・ユニットに1基ずつ装備された計2基のレールガンによる連射まで加わり、ついには彼の口から感嘆の溜息まで零れる。

 

「それにしても、あそこまで大胆な撃ち方でも意外と通用するものなんだなぁ……」

「それは違うと思うよ。だって、あの射撃方法だと高い命中率は期待できないし、無駄弾も多くなるから普通はしない――、と言うより出来ないからね。だから多分、クリスさんと『アーセナル』ならではの特別なやり方なんじゃないかな」

 

 こうして戦いの合間を見計らっては適宜、シャルロットが簡単な解説を挟む。

 

「確かに、言われてみればクリスの他には誰もしてなかったな……」

「そもそも、あんな大型の武器を片手だけで軽々と振り回す方がどうかしてんのよ!」

「いや、その台詞、お前にだけは言われたくないと思うぞ?」

「なんですって~!」

 

 その時、巨大な青竜刀を自由自在に振り回してパワフルな戦い方をする鈴が自分の事を棚に上げて2人の会話に割り込むようにして叫んだのだが、そこは幼馴染みならではの気軽さで一夏が反射的にツッコミを入れてしまい、またしても彼女からジト目で睨まれる状況になっていた。

 ところが、そうやって話が脱線しかけた途端にステージ・エリアの方でも新たな動きがあり、観客席に居る全員の視線が一斉に対象となったISへと注がれる。

 ちなみに、観客達の視線の先ではロケット弾を乱射して攻勢に出るかと思われた『アーセナル』が突如として反転し、そのまま離脱するついでに両腕の2連装ガトリングガンと左手のショットガンを派手に撃ちながら『打鉄』に向かって突撃した挙句、交差時の一瞬の攻防では『打鉄』の近接ブレードによる斬撃をバヨネットで弾き飛ばして防ぐという今までとは全く違う戦闘スタイルを披露していた。

 

「クリスが本気で戦うところを初めて見たけど、あそこまで相手を圧倒できるって事は相当な実力がある証拠だよな。あ、そうか! これが前に言ってた『専用機持ちの実力』ってやつなのか!」

「あんな風に攻撃を続けると見せかけて離脱するなんて戦術はISに限らず、全ての戦いの基本よ、キ・ホ・ン! それに、最後の一撃だって力任せに弾き飛ばしただけなんだから、条件さえ揃えば誰にだって出来るわよ。まあ、交差時の際どいタイミングだったにも関わらず、咄嗟に相手の攻撃を銃剣で受け止めたのだけは褒めてあげても良いわね。だけど、その程度の事だったらアタシの方がよっぽど上手く――」

「やっぱ、そうだよなあ……。俺だったら絶対、あんな戦術は思いつかないもん」

「人が折角、説明してやってんのにアンタって奴は……!」

 

 お決まりのように一夏へのアピールを狙った鈴の発言だったのだが、ここでも鈍感な彼に見事なまでに話を聞き流されてしまい、怒りに震える拳を胸の前に掲げつつ低い声で唸る。

 ちなみに、そんな一夏の隣で未だに自分の失態に気付いてもいない彼の姿を目にしたシャルロットは深い溜息をつくと、誰にも聞こえないぐらいの本当に小さな声で一言だけ囁くのだった。

 

「ハァ……、一夏のバカ……」

 

 勿論、ここで行われている彼らの個人的な分析や感想に試合の行方が左右される筈もなく、アリーナで繰り広げられるIS同士の戦いは着実に次の段階へ進もうとしていた。

 

   ◆

 

 これは一時的なものに過ぎないが、試合が仕切り直しに近い形となった事を受け、俺は今後の展開も踏まえて『アーセナル』の状態を素早く確認する。

 すると、数回の被弾に伴う若干のシールドエネルギーの減少こそ見られたものの、まだ充分に余裕を残していたし、実体ダメージに至っては掠り傷程度のものしか見当たらなかった。

 なので当然、使用不能に陥った武装は1つも無く、武装用のエネルギーや弾薬も充分な量が残っていたので暫くは何も気にせず自由に攻撃を続けられる程に良好な状態だった。そうなると、残る気懸かりは玲奈の操る『リヴァイヴ』の状態だけとなる。

 

「そっちの機体の状態はどう?」

 

 俺がプライベート・チャネルを通じて彼女に尋ねると、ほんの少しの間が空き、その質問に対する答えが返ってきた。

 

「こっちは大丈夫。シールドエネルギーも弾薬も70%近くは残ってるし、実体ダメージも戦闘に支障の無いレベルに止まってるよ」

「それだけ残っていれば充分ね。流石だわ」

 

 いくら事前に偽の情報を与えて疑われないようにしてあるとは言っても多少はクリスティーナを演じなければならないので、この瞬間だけは口調や仕草を彼女らしくした上で玲奈の方を振り向き、いかにも気を遣っているといった感じが出るよう小さく頷いてから声を掛けた。

 そして、これから行おうとしている事について報告する為、俺は頭の中でクリスティーナにも声を掛けておく。なぜなら、こまめに報告を入れるよう前に彼女に言われたからだ。

 

<今から例の攻撃を仕掛けて一気に片を付ける。異存はないな?>

<どうせ、あっても実行するんでしょう。だったら、私が反対する事に意味は無いわ。あんたの好きにやりなさい。それに、あまり出し惜しみしても疑われそうだしね>

<じゃあ、決まりだ。予定通り、例の作戦でいく>

 

 こうして彼女との話し合いはテンポ良く進み、結果として俺の理想通りの形に纏まったところで今度は玲奈の方にプライベート・チャネル経由の通信を入れる。

 

「さて、わざわざ長引かせるのも時間の無駄だからな。当初の予定より少し早い気もするが、ここは『ミッションプラン:D』で一気に終わらせる」

「プランDね。分かったわ。こっちは任せて」

「よし、いい返事だ。なら、さっさと始めるぞ。ああ、それと仕掛けるタイミングは間違えるなよ」

「ばっちり合わせてみせるから、クリスちゃんは安心して指示を出してね」

 

 最後に彼女の自信に満ちた言葉を聞いて覚悟を決めた俺は、軽く息を吐いて呼吸を整えるのと同時に気持ちも落ち着けると、左手に意識を集中させて握っている武装をショットガンの『XAA-112』からライトマシンガン『Mk146B』に切り替える。

 当然、こちらの動きを察知した対戦相手の2人が反射的に身構えるが、今度は後れを取る訳にはいかなかったので俺は一瞬も躊躇う事なく指示を下す。

 

「今だ、やれ!」

 

 そう大声で叫んだ直後には、俺は両腕のガトリングガン『XM234E2』と左手の『Mk146B』を一斉に発射し、試合開始直後に見せた濃密な弾幕を再び形成していた。それと同時に玲奈も手にしたマシンガンで弾幕を張り、『アーセナル』の射線から対戦相手の2人が大きく外れないよう牽制し続けている。

 さらに、そんな彼女の動きに合わせるようにして俺も移動しながらの弾幕射撃へと移行し、それによって圧力を掛けつつ対戦相手を徐々に壁際へと追い込むようにしていった。

 しかし、このままでは訓練機である『リヴァイヴ』との根本的な火力の違いから彼女の担当する空域の弾幕が薄くなって強行突破される危険性もあったので、僅かに射線をずらして右腕の『XM234E2』と右手のスナイパーライフル『XM182A1』は彼女の張る弾幕を補うような形で撃つ。

 だが、そうなると今度は俺の担当する空域の弾幕が薄くなって隙を作る事になってしまうので、腰のアーマー部分に装備された荷電粒子砲『XM125L』とパルスレーザー・マシンガン『Mk143C』を追加して火力を増強し、こちらの弾幕が薄くなるのを防いだ。

 そして、時折りレールガン『M1360』による射撃も挟み、威力重視の高速弾という心理的効果も有効活用して弾幕を維持した。

 すると、この猛烈な弾幕射撃に対しては流石に防御態勢を維持したまま回避機動を続けるしかないと判断したのか、対戦相手の2人は見事なまでに俺の目論見通りの動きをしてくれる。

 

『そうそう、こっちは何の意味も無い面倒事にわざわざ協力してやってんだ。だから、せめてもの償いに俺を楽しませてくれよ』

 

 微かな愉悦を感じつつ心の中で呟いた俺は標的の2機だけでなく、全体の動きも常に把握しながら最適と思われる箇所に弾幕射撃を浴びせ、そのまま戦いの主導権を自分が握り続ける。

 さらに、こうした動きに代表される断続的な射撃で単純に相手の動きを封じるだけでなく、意図的に最低限の回避可能空域だけは残るように射撃ゾーンを形成する。

 そうして後は追い立てるような射撃を加えて少しずつ距離を詰め、相手が無意識の内に俺が予め用意しておいた安全空域へと後退していく状況を築き上げたのだ。

 だが、あまり同じパターンの攻撃ばかり繰り返していては相手に作戦を見破られる危険性もあったので、たまには実際に攻撃を命中させて一定量のダメージを与え、こちらの本当の目的を悟られないよう意識を別の所へ向けさせておく。

 

『そこだっ!』

 

 そんな状況下、俺の放ったレールガンの弾が見事に対戦相手の『リヴァイヴ』の脚部に命中し、その衝撃で相手のISは大きく体勢を崩す。

 なので、いかにも追撃を仕掛けるように見せかけてギリギリ回避できそうな射撃を行い、弾幕射撃と組み合わせて『リヴァイヴ』を俺の狙い通りの方向へと下がらせた。

 そして、そんな事を幾度か繰り返していると、ある1つの特徴みたいなものに俺は気付いた。それは、今回の試合が始まったばかりの頃に1度だけ反撃に成功したのが逆に彼女達の柔軟な思考を奪ったのか、このように劣勢に立たされている状態でも賭けに出ず、未だに回避と防御以外の動きを全く見せていない事だ。

 どうやら彼女達は、前回と同様に俺の猛攻に耐えていれば反撃のチャンスが必ず訪れると本気で信じているらしい。もっとも、そう相手に思い込ませて回避機動をいつまでも続けさせる事が真の狙いだったので、まさに今の状況は俺の思惑通りに事態が進行していると断言しても良いだろう。

 だが、それでも俺は万が一にも作戦に気付かれた場合に備えて最低限の警戒だけはしておき、残る意識の大半は弾幕射撃の継続へと振り向ける。

 

『よし、あと少しだ。あと少し……』

 

 それから更に数分の時間が過ぎ、対戦相手や玲奈との位置関係などにも気を配りつつ心の中で次の行動に移るタイミングを慎重に計っていた俺は、あと少しという段階になっても決して焦らないよう自分自身に強く言い聞かせながら確実に対象を目標空域へと追い込んでいった。

 そして、そんな風に自制を強いられる事を頻繁に自覚するようになってから数秒後、ついに待ちに待った瞬間が訪れる。当然、そこから先の俺の行動は今まで以上に素早く、精密機械のように正確だった。

 

「玲奈!」

「オッケー!」

 

 対戦相手の操る2機のISが予定ポイントに到達したのを確認した俺がプライベート・チャネルでパートナーの名前を叫ぶと、こちらからの激しい弾幕射撃に気を取られている隙に新たな攻撃ポジションへと移動していた彼女が高度を活かして対戦相手2人の頭上を押さえ込むような一斉射撃をお見舞いする。

 さらに、そのまま2人で連携した射撃を続けた俺達は相手を地上近くまで一気に追い込むと射線を微妙に変え、今度は1歩も動けないよう釘付けにして完全に動きを封じ込める。そして、それを受けて俺は『最後の仕上げ』とも言える行動に取り掛かった。

 

<『Mk146B』をクローズ、『XM125GM』をオープン。FCSをモードAMGに切り替え、キルボックスを設定。同時に冷却システム、フル稼動>

 

 俺は可能な限り迅速に手持ち武装の変更や火器管制システムのモード切り替え、機体制御システムの設定変更といった今から行う攻撃に際して必要不可欠となる作業を実施していく。

 すると、それに伴ってハイパーセンサー中央には直径の大きな照準用レティクルが新たに追加される形で表示され、その中心に対戦相手の2人を標的として捉えてロックオンすると、今度はレティクルの下方に“SHOOT”の文字が出現した。

 そこで俺は、半ば条件反射のようにハイパーセンサーに表示されている各種情報に素早く視線を走らせて最終確認を行い、あらゆる準備が完了している事を確かめてから全武装の同時連続射撃による殲滅攻撃の開始を心の中で高らかに宣言する。

 

『All weapons attack,fire!』

 

 次の瞬間、『アーセナル』の各部に装備された多数の武装が轟音を上げて両手の武装と共に一斉に攻撃を開始し、ハイパーセンサーの中央に表示されているレティクルの範囲内へ今までの攻撃とは比較にならないほど大量の実体弾やミサイル、エネルギー弾といったものが集中豪雨のように降り注いでいく。

 ちなみに、この攻撃には今までは使っていなかったアンロック・ユニットに搭載された2基のプラズマキャノン『XM1291』、俺の身体と背部スラスターの間にあるバックパックのミサイルVLS(垂直発射システム)『Mk441』、両脚に装備されたEKEM(発展型運動エネルギーミサイル)ランチャー『M661』なども投入している。

 その結果、瞬く間に広がった巨大な爆煙と炎と砂埃によって着弾地点を中心とした周囲一帯の視界が極端に悪化し、光学センサーや目視によるターゲットの観測は不可能になる。

 だが、そういった現象については俺は何も気にせず、電子系のセンサーから送られてくる情報だけを頼りにターゲットが居ると思われるポイントを正面に捉える格好で一定の距離を保ちつつ空中をゆっくりと水平方向に円を描くように移動し、まるで『AC-130Uスプーキー』ガンシップが地上の攻撃目標を掃射するみたいに使用可能な全ての武装を対戦相手2人の頭上へと狂ったように撃ち続けるのだった。

 

   ◆

 

 特殊実験機『アーセナル』が搭載する大量の武装による一斉射撃は誰にとっても想像していた以上に衝撃的なものだったらしく、アリーナの観客席から試合の様子を見守っていた生徒達のほとんどは凍りついたように固まり、声を上げる事さえ忘れてしまう程だった。

 そして、それは無自覚で観客席に多くの生徒を集めた張本人、織斑一夏も同様である。だが、それでも彼は喉の奥から声を搾り出すような感じで辛うじて反応を示す。

 

「まさか、あんなにも激しい攻撃を見る事になるとは……」

 

 もっとも、そんな彼が何とか発する事の出来た言葉は、どちらかと言えば諦めや絶望の入り混じった呟きに近かった。

 そもそも、ほんの3~4ヶ月前までISとは無縁だった彼より遥かに知識が豊富な学園の女子達ですら絶句する程なのだから、ある意味、こうして何らかの反応を示せただけでも奇跡みたいなものだろう。ところが、そんな空気にアリーナ全体が包まれる状況下でも代表候補生たちの反応は流石に他の面々とは違った。

 

「やはり、こうなってしまいましたわね」

「ま、仕方ないんじゃない」

「でも、いかにも『アーセナル』らしい戦い方だと思うよ」

 

 セシリア・鈴・シャルロットの3人が半ば『想像していた通りだ』とでも言いたげな雰囲気で口々に感想を述べる。すると、その呟きを耳にした一夏が当然のように彼女達に言葉の意味を尋ねた。

 

「なあ、それってどういう意味なんだ?」

「それなら、いたって簡単なお話ですわ。もし、一夏さんが命中率・攻撃力ともに低い武器で戦うとしたら、どのような戦術を使います?」

 

 しかし、彼の質問に対してはセシリアが何故か質問を投げ掛ける事で応じる。その為、彼は『訊いたのは俺なのに?』とでも言いたげな表情を最初は浮かべたが、少しだけ考え込むような仕草をした後で一応は彼なりの答えを導き出す。

 

「う~ん、そうだなあ……。やっぱり、必中の距離まで一気に近付いて連続攻撃を浴びせるしかないんじゃないか?」

「確かに、それも1つの答えですわね。ですが、もう1つ『単純に手数の多さで攻める』という発想もありますわよ。具体的に説明しますと、たとえ命中率10%・攻撃力5の武器でも毎分10000発以上の連射をすれば――」

「えっと……、それって『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる』ってやつだよな?」

 

 一夏はセシリアの話を途中で遮るような形で彼女が言おうとしていた結論を先に述べると、改めてステージ・エリアで戦闘を続ける『アーセナル』の方へと視線を移す。

 そこには、まさに彼が言った通りの強引な力技、細かいテクニックなどは完全に無視して多数の射撃兵装を手当たり次第に連射して火力で相手を圧倒している1機のISの姿があった。

 

「て言うか、それ以前に、あれだと単なる無差別爆撃にしか見えないんだけど……」

「まあ、傍目には無差別攻撃に見えるかもしれないけど、あれは厳密に言えば制圧射撃の強化版だから、そういった意味では絨毯砲撃か絨毯爆撃と表現した方がまだ近いかな。一応、ある程度の攻撃範囲を定めた上で、そこへ集弾するように狙って撃ってるみたいだしね」

 

 やや引きつった表情を浮かべて呟く一夏だったが、ここでも真面目なシャルロットが丁寧な説明を付け加えた。すると、そこへ得意顔を浮かべた鈴も加わる。

 

「そもそも、あの『アーセナル』には最初から正確に狙って撃つのに適した武器がロクに積まれてないのよ。だから、あんな力押しで大雑把な戦い方しか出来ないわけ」

「だが、そのようなやり方であっても結果は出せるようだな」

 

 ところが、ここで箒が鈴の発言に対して冷静な指摘をする。事実、そんな彼女の発言に呼応して彼女達が視線を向けた先では、物凄い勢いでシールドエネルギーを削られていく3組のペアの情報が観戦者用の大型スクリーンにリアルタイムで表示されていた。

 だが、それを眺めていた箒の脳裏には1つの疑問が浮かび、その事について隣に座るシャルロットに尋ねる。なお、この時に彼女の感じた疑問は、銃火器を扱う上では避けては通れない現象に関するものだった。

 

「さっきから気になっていたのだが、あのISには弾切れというものが無いのか? あれだけの連続射撃を続けている割には、そんな素振りは微塵も見せないんだが……」

「一応、『アーセナル』にも弾切れはあるよ。だけど、それは滅多に起きないし、リロードも必要ないから無尽蔵に撃てるように見えるんだ。まあ、それこそが『アーセナル』というISの最大の特徴であり、真の武器でもあるんだけどね」

「いまいちシャルロットの言ってる意味が分からないんだが、他の専用機みたいに何か特殊な装備を持ってるって事なのか?」

 

 すると、そんな2人の会話を聞いていたらしい一夏も話に加わる。なので、それを踏まえた上でシャルロットは彼にも聞こえるように少し声を大きくして話を続ける。

 

「じゃあ、その前に僕から1つ質問をするよ。あのISの名前にもなっている英単語『アーセナル』の本来の意味がなんだか2人は知ってる?」

「え、『アーセナル』の本来の意味……?」

「それなら、確か“軍需工場”や“兵器庫”といった類の意味だったと思うが……」

 

 ISの特徴を説明するのに何故か英単語の意味に関する質問から始まった為、最初は『どうして、そんな話になるんだ?』といった感じの表情を浮かべた2人だったが、このシャルロットからの問い掛けに対しては箒が直ぐに答えに辿り着いた。

 

「うん、それで合ってるよ。つまり、大量の武器や弾薬を保管しているような場所を意味する単語がそのまま機体名になってるんだけど、その事と目の前で行われてる攻撃方法から何か関連性みたいなものが思い浮かばない?」

「まさか、あのISは兵器庫のように大量の武器や弾薬を持っていると――」

「その、まさかだよ。流石に、どういう設計で規格外とも言える大型の武器庫を実現させたのかは分からないけど、あの『アーセナル』は量子化した予備の弾薬や武器用のエネルギーを大量に保有する事が可能なんだ。しかも、その保有量は同世代――、この場合は第2世代に当たるISを遥かに凌駕してる。それこそ、師団規模の部隊が駐留する巨大軍事基地の兵器庫みたいにね。そういった意味では、僕の『リヴァイヴ』が他のISよりも多くの武装を積んでいるのと同じ発想で作られていると考えれば分かり易いかな。実際、あの『アーセナル』には『リヴァイヴ』の技術も使われてるしね」

 

 ここでもシャルロットの言いたかった事に先に気付いたのは箒だった。そして、それを受けて彼女は本格的な解説を行う。

 

「だから、その能力を最大限に生かす為にも大半の武装を量子化させずに直接装備し、それらを巨大な弾薬庫や武器用エネルギータンクと直結させる事で弾切れやリロードの心配をしないで自由に使えるようにしたと言われてるんだ。もっとも、射撃武器の宿命としてバレルの寿命によって発射可能弾数が制限されるから、その上限までしか予備の弾薬もエネルギーも搭載はしてないと思うけどね。それ以外だと、武装と弾薬庫を直結させてるから被弾した際に誘爆する確率が高いのもマイナス要因になってるかな」

「それでも、ほとんど反則じゃねえか……」

 

 こうして最後まで彼女の説明を聞き終えた一夏は、がっくりと肩を落とすと、うわ言のように呟いて恨めしげな目で『アーセナル』を眺めるのだった。

 

   ◆

 

 相手が見事なまでに作戦に引っ掛かってくれた事が嬉しく、俺は最高の気分で『アーセナル』に搭載された各種武装を片っ端から撃ちまくっていたのだが、またしてもクリスティーナの全てを見透かしたような冷たい声に水を差される。

 

<ちょっと、いくらなんでも調子に乗りすぎよ。ここまで目立ったらフォローするのも大変になるんだから、少しは後の事も考えなさい>

<チッ! 人が折角、最高にハッピーな気分で攻撃してたってのに……>

<だから『そういう問題じゃない』って、いつも言ってるでしょう。それに、そろそろ向こうのISも2機揃ってシールドエネルギーが尽きるみたいだし、どっちにしても後少しで終了よ>

 

 ややイラつきながらも俺は彼女に言われた通り、試合開始時から常にバイザー状のハイパーセンサーの片隅に表示されていた対戦相手2人の基本的な情報(機体名やシールドエネルギーの残量など)を確認した。

 すると、相変わらず向こうのISは砂埃や黒煙に覆われていて視認は出来ないままだったが、そろそろ戦闘不能になっても良いぐらいにまでシールドエネルギーを削っていたのだ。

 

『だったら、こいつで止めだ! 遠慮せず、全弾喰らいやがれ!』

 

 身体の奥底から湧き上がる激情の赴くままに心の中で思い切り叫んだ俺は、更に激しい攻撃を繰り出して一気に試合を終わらせに掛かった。

 つまり、後先など一切考えずに同時射撃が可能な全ての兵装を限界まで酷使する事を決め、オーバーヒート寸前の発射速度(特に『XM234E2』は3000発/分に達する)でひたすら撃ち続けたのだ。その為、俺の通過した後には大小様々な空薬莢が山のように転がっていた。

 そして、この狂気にも似た猛烈な射撃を開始してから僅か5~6秒で対戦相手2人のISのシールドエネルギーが同時にゼロになり、それを受けて試合終了を告げるブザーも高らかに鳴り響き、審判役の教師の声で俺達の勝利が告げられる。

 

「試合終了。勝者、クリスティーナ・キャンベル、高月玲奈ペア」

 

 その合図と同時に俺は全ての攻撃を即座に停止すると、静かに対戦相手の方を見つめて各種センサーによる情報収集を実施する。

 すると、今は黒煙と砂埃に覆われていて直接は姿が見えないにも関わらず、ハイパーセンサーに表示された情報によって2機とも戦闘不能になっている事が自分の目でも確かめられた。

 なので、俺は設計上の限界まで酷使した各種兵装を急いで冷却させる為にFCSを戦闘モードから航法モード(通常モード)に切り替え、さらに通常活動時の基本である巡航形態への移行を優先させる指示をISに出すと共に地上へと降下した。

 

<FCSはNAVモードに変更。同時に機体は巡航形態へと移行し、各種兵装、ならびに機体各部の冷却を最優先で実施>

「やったね、クリスちゃん」

 

 そうやって俺が地上に降りると直ぐに玲奈も隣に並ぶような恰好で地面に降り立ち、見るからに爽やかな笑みを浮かべて直接話し掛けてきた。

 もっとも、この勝利が彼女に何をもたらすのかは知らないし興味も無かったが、変な受け答えをして今後の立場を悪くする訳にもいかないので、ここはクリスティーナの振りをして彼女に話を合わせておく。

 

「そうだね」

「でも、ちょっとだけ悔しいかな。だって、ほとんどクリスちゃん1人の力で勝ったようなものなんだもの……」

「もう、そんなこと気にしなくても良いのに……。それに、私が攻撃された時に玲奈ちゃんが直ぐに援護してくれたから、その後の反撃も上手くいったんだよ。だから、お礼を言うのは私の方だと思うな」

 

 とりあえず、いかにも学園の生徒を演じている時のクリスティーナが言いそうな台詞を脳内で慎重に選び、こちらの人格が交代している事を表に出さないよう注意しながら玲奈との会話を続ける。

 はっきり言って、こっちの方が誰かと戦ってる時よりも神経を使うから面倒な上に遥かに疲れるのだが、今の状況では意識の主導権を切り替えてる暇が無いので俺が対応するしかない。

 そして、そんな俺の苦労など全く知らない様子(まあ、実際には知られたら知られたで大問題になるし、任務にも支障を来たしてしまうから絶対に避けるべきなのだが)の彼女は先程以上の笑顔でウインクをすると、そのまま勝手な解釈で話を進めてしまった。

 

「じゃあ、これは私達2人で掴んだ勝利だね!」

「うん、そうだね」

 

 だが、そんな下らない事に長々と振り回されるのも鬱陶しかったので、俺は適当に相槌を打って彼女の話は軽く聞き流しておいた。すると、ようやく機体の冷却作業が全て完了し、その他の部分のチェックに移る事が出来るようになる。

 

<機体各部の状態、ならびにシステムチェック、スタート>

 

 俺が頭の中で命じると、ハイパーセンサーには様々なデータや数値が高速で表示されては消えていくという現象が繰り返される。そして、ものの15秒程で戦闘終了後に毎回欠かさず行うシステムチェックは終了し、この後の整備と補給で必要となる作業項目のリストが自動的に作成される。

 なので、こうして出来上がったリストに一応は一通り目を通してからISの内蔵HDD(ハードディスク・ドライブ)に保存すると、俺はクリスティーナに話し掛けた。

 

<さてと、これで整備と補給に必要な作業は全て終わったんだし、今すぐ意識の主導権をお前に渡しても何も問題は無いよな?>

<ええ、別に良いけど、そんなに慌てて切り替える必要があるの?>

<お前が面倒な性格をした偽装身分を作るから疲れたんだよ>

<まったく……、少しは慣れなさいよね>

 

 俺が意識の主導権を渡す事を理由と共に述べると、やや呆れたような口調で小言を言われはしたものの、直ぐに彼女の許可が下りたので早々に取り掛かる。

 

<じゃあ、いくぞ――。準備は良いか?>

<いつでも良いわよ>

 

 そうやって半ば恒例行事と化した感じのする最終確認を彼女と交わした俺は、いつものように全身の感覚を極限まで研ぎ澄まして意識を明け渡す事に集中する。すると、軽く意識にノイズが走るような感覚が訪れ、直後に自分の意思では身体を自由に動かせなくなった。

 だが、俺がしていたのと同様にクリスティーナが確認の為に体を動かしている事を感覚の共有で知り、それによって無事に意識の切り替えが完了したのだと認識する。

 

<それじゃあ、後は任せたからな>

 

 こうして面倒な演技から解放された俺は一方的に残りの作業を全て彼女に任せると、今日の試合展開や結果が周囲へ及ぼす影響について自分なりの考察を行い、今後の計画に修正や新たな対策を施す必要があるのかどうかを考える事に没頭していった。

 




久々に戦闘メインのエピソードという事で執筆にも気合が入った結果、このようなエピソードとなりましたが、いかがだったでしょうか?
若干、オリ主&オリISがチート気味で無双しているようにも見えますが、あくまでも対戦相手に恵まれていたからに過ぎません。本来なら、そういった事も含めて本文内で表現できれば良かったんですが、いかんせん力不足で……。
ちなみに、既にお気付きの方も居るかもしれませんが、今回一気に登場した数々のIS用武装の名称には元になった実在の兵器(試作・研究段階・開発中止も含む)があるので、ここで紹介しておきます。しかし、実験機らしさを出す為とは言え、自分でも混乱しそうなほど分かり難い名称ですね。

XM234E2:M134(ミニガン)
Mk146B:Mk46(M249MINIMI)
XM125GM/XM125L:XM25
XM182A1:M82A1
XAA-112:AA-12
M1360:XM360(戦車砲)
M1261:M261(ロケットランチャー)
Mk143C:Mk43(M60E4)
XM1291:XM291(戦車砲)
Mk441:Mk41(ミサイルVLS)
M661:MGM-166A(対戦車ミサイル)

なお、これでオリジナルエピソードは終了し、次回からは原作3巻の内容に突入します。
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