IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐   作:Ghost SAF

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今回より原作3巻の内容になります。


第10話 騒がしくも穏やかな日常

 その特殊性ゆえに常識を疑うような出来事さえ頻繁に発生するIS学園だが、この日の朝は別の意味で普段とは少し違っていた。

 それは早朝から寮の一夏君の部屋で彼を巡ってラウラさんと箒さんが軽くバトルを演じた(噂によると、ISの部分展開vs日本刀だったらしい)事では無く、いつも真面目で優等生の代表みたいなシャルロットさんが遅刻をした事の方だ。

 しかも、その時の彼女は相当に急いでいたらしく、校内でISを部分展開させて飛行するというオマケ付きだった。だが、たまたま規則を破った日に限って本鈴前の教室で『鬼軍曹』とも呼ばれる織斑先生が待ち構えていた。

 その為、シャルロットさんは今までに見た事が無いような青ざめ方をして震えている。ちなみに、一夏君も連れて校内をISで飛行したので彼も同罪になるらしい。

 

「本学園はISの操縦者育成の為に設立された教育機関だ。その為、どこの国にも属さず、故に、あらゆる外的権力の影響を受けない。が、しかし――」

 

 そして、普段より僅かに早く教室に来た事で違反者を発見した織斑先生は、よく通る声で学園の規則を述べつつ2人の頭に破壊力抜群の出席簿アタックをお見舞いする。

 

「敷地内でも許可されていないIS展開は禁止されている。意味は分かるな?」

「は、はい……。すみません……」

 

 どうやら、滅多に怒られる事のない優等生のシャルロットさんの貴重な姿にクラスメイト達も一様に驚いているらしく、明らかに他の誰かが怒られている時とは教室内の雰囲気が違った。

 なお、今朝は彼らの他に箒さんとラウラさんもタイミング的には遅刻だったのだが、彼女達は一夏君とシャルロットさんを囮にして教室の後ろから自分の席へと秘かに向かい、この危機を上手く回避している。

 

「では、デュノアと織斑は罰として放課後に教室を掃除しておけ。当然、2回目は反省文提出と特別教育室での生活をさせるので、そのつもりでな」

「はい……」

 

 織斑先生から厳しい警告と今朝の違反に対するペナルティを言い渡され、すっかり意気消沈した様子の2人を見たクリストファーが笑いながら呟く。なので、私は無駄と知りつつも彼に調子に乗らないよう忠告をしたのだが、案の定、根拠の無い自信に満ちた言葉が返ってきただけだった。

 

<クククッ……。本当にバカな奴らだぜ>

<じゃあ訊くけど、もしもあんたが彼らと同じ立場に置かれたとしても、そうやって笑っていられる?>

<そんな心配はいらねえよ。なにせ、俺はアイツらみたいなドジは踏まないからな>

 

 そうこうしている間にチャイムが鳴り、恒例の朝のSHRが始まる。

 

「さて、今日は通常授業の日だったな。普段から何かと特例の多いIS学園生とは言え、お前達も扱いは一般の高校生と同じだ。だから、今度の期末テストでは赤点など取ってくれるなよ」

 

 それまでは一夏君とシャルロットさんが叱られる姿を楽しむようなところも見受けられたのだが、この織斑先生の一言によってクラスの雰囲気は一瞬にして変わる。

 ちなみに、かなり特殊なカリキュラムが組まれているIS学園ではあるが、一応は標準的な教育機関の1つに位置付けられているのでハイスクール相当の一般科目を扱う講義も存在するし、習熟度を測る為の『期末テスト』なるものも実施されるのだ。

 だが、皆の雰囲気が瞬時に変わった最大の理由は、赤点を取れば連日の補講で折角の夏休みが潰される事だろう。なので、そういった皆の反応を見ていると、夏休みを潰されたくないと思う気持ちは学生達の間では万国共通のように感じる。

 

<それこそ一般教科なんてISについての勉強に比べれば、ほとんどカスみたいなもんだろう? だったら、そこで赤点を取る奴が学園に居るとは思えないんだが……>

<確かに、そんな事はIS学園の生徒ならあり得ないわね。でも、あそこで早くも頭を抱えて俯いている彼はどうかしら?>

 

 流石に今回ばかりはクリストファーの意見にも素直に同意したものの、私は最前列の真ん中の席に座る一夏君の背中へと視線を向けて新たな疑問を口にする。

 なぜなら彼は入学以来、ISに関する勉強だけで手一杯になっていた筈で、それ以外の一般教科への対策が万全とは到底思えなかったからだ。ただし、これは監視を続けてきた私が手持ちの情報から推測した事なので明確な根拠は無い。

 

<まあ、あいつの事だ。本当にやばかったら俺達にも泣きついてくるだろうし、それ以前に他の取り巻き連中がほっとかないだろうぜ>

<あんたの言い方はともかく、そうなるのは間違い無いわね>

<ぶっちゃけ俺としては面倒事さえ起きなければ、それで良いんだけどな。つうか、いま気付いたんだが、もし一夏の補講が確定したら学園で拘束される時間も増えて俺達の計画も立て易くなるんじゃ……>

 

 そうやってクリストファーが自分勝手な意見を長々と呟いている中、再びクラスの雰囲気が変わった気がしたので私は彼の話を聞くのを止め、教室内で起きている出来事に注意を向ける。

 すると、クラスメイトの間では来週から始まる3日間の校外特別実習期間(臨海学校)の話題が飛び交っていた。ちなみに、この学園の臨海学校は初日が丸ごと自由時間になっている為、既に1年生のテンションは先週から高止まりしたままである。

 

「では、SHRを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」

「あの、織斑先生。今日は山田先生はお休みですか?」

「山田先生は校外実習の現地視察に行っているので今日は不在だ。なので、山田先生の仕事は私が今日1日代わりに担当するから間違えないように」

 

 話の最後に連絡事項を手短に伝えた織斑先生がSHRの終了を告げたのだが、鷹月さんに山田先生が未だに教室に姿を見せていない理由を尋ねられると、どこか言いたくなさそうな態度を見せつつも事務的な口調で説明をする。だが、次の瞬間、一気にクラス中の女子達が騒ぎ出した。

 どうやら、必要以上にテンションの上がっている今の生徒達にとっては、この程度の話題でも特大の火種になるらしい。おそらく、そんな状態が毎年のように繰り返されていたので、先程の織斑先生も言いたくなさそうな態度を取ったのだろう。

 

<それにしても、ただ海に行って面倒な事をやらされるだけなのに、どうしてコイツらは此処までの大騒ぎが出来るんだ?>

<ま、あんたには一生分からないでしょうね。でも、そういうものよ>

 

 すると、当然のようにクリストファーが皆の騒ぐ理由を尋ねてきた。しかし、こういった事柄に関しては鈍感な上にデリカシーまで無い彼に説明するのは時間の無駄のような気がしたので、私は適当に言葉を濁して話を終わらせに掛かる。

 もっとも、発端となったクラスメイトの大騒ぎもあからさまに不機嫌なオーラを発する織斑先生の声によって瞬時に収まり、それによって私達の会話も自動的に終了となる。

 

「あー、いちいち騒ぐな。毎年毎年、鬱陶しい。山田先生は仕事で行っているんだ。これは実習を円滑に進める為であり、断じて遊びなどでは無い」

「はーい!」

 

 その途端、まるで事前に示し合わせていたかのように完璧なタイミングで声を揃えたクラスメイトの女子達が元気一杯の返事をする。そして、そんな様子を教室の後ろから眺めていた私は彼女達の持つ底無しのエネルギーと結束力に感心を覚え、ごく自然に笑みを浮かべてから授業に意識を集中させるのだった。

 

   ◆

 

 臨海学校を目前に控えた週末の日曜日。私は前日の夜にクリストファーから『どうしても買いたい物がある』と言われていた事もあり、この地域では最大級の規模を誇るショッピングモールへ向かおうとしていたのだが、学園の敷地を出て直ぐに一夏君とシャルロットさんが私服姿で一緒に歩いているのを発見した。

 しかも、シャルロットさんの方は遠目でもお洒落をしているのが簡単に分かり、これは絶対に何かあると直感で判断して急遽予定を変更し、このまま彼らを追跡する事に決めた。

 すると、2人は私がショッピングモールに行く為に乗ろうとしていたのと同じモノレールに乗り込んだ(モノレールの終点がIS学園の最寄り駅なので、モノレールを使う際は必然的に同じになる)ので、今は隣の車両からガラス越しに監視している状態だ。

 

<それで、なんで俺達は休日の朝からスパイの真似事みたいな行為をしてるんだ? まあ、スパイなのは事実だから、これが普通なんだが……>

<だって仕方が無いでしょう。単なる偶然とは言え、2人が私服で一緒に出掛けるのを目撃しちゃったんだから、ここは任務遂行に務めるのが私達にとっては正しい行動だと思わないの?>

<確かに、そいつが正しい行動だってのは大人しく認めるが、こいつは完全に貧乏クジってやつだぜ。なにせ、今日の予定が全部パーになっちまったんだからな。まあ、それ以前に俺としては休日になった途端に美少女とデートをする一夏の根性が気に入らねえ。それに、アイツは普段から――>

 

 なおも文句をブツブツと呟き続けるクリストファーを無視し、私は隣の車両で並んで座っている一夏君とシャルロットさんの後ろ姿を静かに見つめ続ける。当然、私とは乗っている車両そのものが違うので声は聞こえないし、此処からは彼らの後ろ姿しか見えないので表情から何かを探る事も出来ない。

 ただし、それは同時に私が監視しているのを彼らに気付かれる可能性も低いという事なので、その点に関しては非常に助かっている。もっとも、こうして離れた場所から見ているだけでは暇らしく、やたらと愚痴を零すクリストファーがうるさい事については流石に辟易してきた。

 

<それはそうと、いい加減、無駄口を叩くのは止めて静かにしてくれない? こっちが監視に集中できないでしょう>

<監視って言っても、ただ後ろ姿を眺めてるだけじゃねえか。それの何処に集中力を要するんだよ?>

<例えそうだとしても、これから起こる事なんて誰にも分からないんだし、何があっても直ぐに対応できるようにしておきたいのよ。だから、あんたは下らない事ばかり言ってないで周囲の様子を探ってなさい>

<お前にいちいち指図されなくても、それぐらいの警戒は常にしてるんだよ! だが、さっきからずっと異常なしのままだ。なら、これ以上、何をやれってんだ?>

 

 案の定、私が何を言ってもクリストファーは執拗に突っかかってきた。それに、私自身も頻繁に周囲を警戒しているから分かるのだが、学園を出てから何かしらの異常を感じた事は1度も無い。

 つまり、私達が認識できる範囲に限定されてはいるが、現状では警戒を要する事態など何処にも存在していないのだ。なので、この件に関しては彼の言い分も多少は理解できるが、それと愚痴を聞かされ続ける事とは別問題である。

 

<とにかく、これは命令よ。あんたは事態に変化があるまで黙ってなさい>

<チッ……、了解>

 

 自分でも少し強引だとは思ったが、私は『命令』という単語を使ってクリストファーを黙らせる。すると彼は、わざとらしく舌打ちをして不服だという事を露骨にアピールしてきたが、それでも私の命令には従って静かにしてくれた。

 そして、そのまま暫くは何事も起こらない平穏な時間となり、それから10分程で目的地に着いたらしく彼らがモノレールを降りる。なので、私も見付からないように注意しながら車両から降りたのだが、そこは意外にも私達の当初の目的地でもあった大型ショッピングモール『レゾナンス』の最寄り駅だった。

 ちなみに、一夏君とシャルロットさんは駅のホームに降り立ってからは仲良く手を繋いで歩いているので、傍目にはデート中の恋人同士に見えなくもない。

 

<なんだ。結局、俺達と同じ目的地だったのかよ>

 

 モノレールを降り、徒歩での追跡が始まった途端にクリストファーが静かに呟く。まあ、彼の事だから自分の用事も一緒に済ませられると考えただけかもしれないが、目的地が同じだと分かった事で機嫌も直ったらしく、いつも通りの口調に戻っていた。

 

<でも、ここってIS学園から手軽に行ける距離の商業施設の中では最も施設が充実してるから、それを踏まえれば彼らが来ても一向に不思議じゃないわね>

<だが、それでもアメリカ本土にある巨大ショッピングモールには遠く及ばねえな。それに、こっちだと車が使えないっていうのも不便で仕方が無い>

<ハァ……、そんなの当たり前でしょう。確かに此処も立派だけど、それは『この近辺では』という意味であって、別にあんたの基準で測ってる訳じゃないんだから。大体、アメリカとは国土の面積や文化も大きく違うんだし、こうして色々と違いがある事の方が自然なのよ>

 

 私が『レゾナンス』についての意見を述べた直後にクリストファーが無意味な批判をした為、軽く溜息を吐きつつも彼が何かの拍子で口を滑らせたりしないよう今の内に注意しておく。

 ちなみに、日本を含む一般的な国の法律だと大抵、私の設定した年齢では車を公道で走らせる事は禁止か厳しい条件付きとなってしまうが、所属組織の方針で高い運転技術(プロレーサーと同等)と最低限の交通ルールだけは既にマスターしている。

 それに、その程度の偽造ライセンスなら組織に頼めば直ぐに用意してくれるだろうし、現在の専用機持ちという立場であれば正規のライセンスも取得できる可能性は充分にあった。だが、そんな事で目立ってもメリットが無いので今回は運転できない設定にしたのだ。

 

<おっと、ここへ来て状況に変化ありだ。一夏達の後方を見てみろよ>

 

 その時、何かに気付いた彼が楽しそうな口調で対象に注目するよう言ってきた。なので、それに倣って私も意識だけを視界の中にある対象へ向けると、そこでは実に興味深い現象が起きていた。

 

<あれは……、セシリアさんに鈴さんにラウラさん?>

<ああ、どういう経緯で集まったかは知らんが、あいつらも此処に居たみたいだぜ>

 

 こうして彼に促される形で私が視線を向けた先では、かつて命懸けの壮絶な激闘を繰り広げた3人が奇妙な連帯感を発揮し、一夏君とシャルロットさんが向かったのと同じ方向に彼らとは一定の距離を保ちつつ移動していたのだ。

 もっとも、彼女達3人は全員がIS学園の制服を着ていたので街中では逆に目立っており、尾行を続ける私達にとっても考えようによっては何かと好都合だった。しかも、そこそこの距離があるとは言え、そんな目立つ恰好の3人に一夏君たちが気付いた様子は今のところ確認できない。

 さらに、この場所で遭遇した3人が私達の存在に気付いた様子も無い。なお、この時点で私は彼女達の目的が一夏君たちの尾行だという事を確信していた。

 

<おいおい、こんな目前になるまで臨海学校の準備をしてなかったのか? だとしたら、なんとも悠長な連中だぜ。もし、欲しい物が売り切れてたらどうするんだ?>

 

 真っ直ぐに水着売り場があるフロアへと向かった一夏君たちに対し、からかうような口調でクリストファーがツッコミを入れる。確かに、ここまで直前になってから水着を購入するというのは、かなり遅い部類に入るだろう。

 だが、それもIS学園の授業時間の多さや特殊性を考えれば、やむを得ないスケジュールだったのかもしれない。そして、私が様々な推測を巡らせながら2人の監視を続けていると、ここまで一緒だった彼らが別行動を取り始めた。

 

<それで、あいつらは二手に別れちまったが、俺達はどうするんだ?>

<勿論、一夏君の方を追跡するに決まってるでしょう。一応、あそこに居るメンバーの中で監視の優先度が最も高いのは彼なんだから>

<だよなぁ……>

 

 こうしてクリストファーとの短いやり取りを交わした私は、自分で宣言した通りに一夏君の追跡を素早く実施する。ところが、ここで思いもよらない問題が発生した。

 なぜなら、彼の向かった先は男性用水着の売り場がある区画だったのだが、その場所の性質上、単独で行動している私では近付き過ぎると逆に注目を集めて動き難くなってしまうからだ。

 しかも、この国では私の明らかに日本人離れした(と言うか、設定も見た目も欧米系な上に本来の私には国籍そのものが存在しない)容姿は大いに目立つ事も自覚しており、今のような状況では不用意に近付くという行為は避けるしかなかった。

 その所為で随分と遠い位置からの監視活動となってしまい、これでは彼が誰かと会っていたとしても全く分からない状態だった。

 

<それにしても、こういう場合は近付く事さえままならないから逆に不便よね>

<まあな。だが、俺としては見たくもない野郎の裸なんかを見ずに済むから結構、助かってるんだぜ>

<ああ、はいはい。それは良かったわね>

 

 そんな中、私が軽く自嘲気味に呟くとクリストファーが面白半分に茶化してくる。相変わらず、彼には緊張感の欠片も無いみたいだが、あまりする事が無いのも事実なので今回は適当に相槌を打って話を合わせておく。すると、それを自分に都合の良い形で解釈したのか、調子に乗った彼が更に無駄話を続けてきた。

 

<ふと思ったんだが、もしシャルロットが女だって事をバラさなかったら、今回の臨海学校はどうしてたんだろうな? あいつの立場上、この臨海学校に不参加ってのは、まず有り得ないだろうし……>

<とりあえず、今までも上手く誤魔化してたんだから多分、その場合も自力でなんとかしたんじゃない? それに、どういう訳か一夏君は既に知ってたみたいだし、あの彼の性格なら絶対に協力してたでしょうね>

<ふ~ん……、やっぱそうか>

 

 しかし、こうして私の話を聞いても何処か面白くなさそうに呟くクリストファーに嫌な予感を覚え、半ば答えを予想しつつも一応は尋ねてみる。

 

<もしかして、また下らない妄想でもしてるんじゃないでしょうね?>

<おいおい、下らない妄想とは失礼だな。もし、『俺がシャルロットのルームメイトだったら、もっと上手くやれてただろうなあ』って思っただけだぜ? なのに、それを妄想の一言で片付けるのは――>

<はいはい。どうせ、『脅して言う事を聞かせる』の間違いなんでしょう?>

<さあ、何の事だか俺にはサッパリ……>

 

 あれで本人は誤魔化せているつもりらしいが、彼の口調から察するに私の指摘した事は図星で間違い無いようだ。なので、あまりに短絡的で下らない彼の思考に心の底から呆れ果てた私は、そのまま何かを言う気力も完全に失せ、深々と溜息を吐くだけで返事とした。

 すると、流石の彼も今回は調子に乗り過ぎた事に自分で気付いたのか、そのまま黙り込んで静かになる。そして、その後は特に変わった出来事などは何も起こらず、最終的に一夏君は20分程で店を出ると来た道を普通に戻り始めた。どうやら、本当に買い物をする為だけに立ち寄ったらしい。

 

<なあ、シャルロットに買い物をした形跡が無いのは俺の気のせいか?>

<心配しなくても、あんたの気のせいじゃないわ。多分、あの様子だと別れてからずっと何もしないで待ってたんじゃないかしら>

 

 先程、2人が別れた場所でシャルロットさんが手ぶらで待っていた事を疑問に思ったらしく、クリストファーが訝しげに尋ねてくる。

 その時、合流した彼らが軽く言葉を交わしてから連れ立って店内に入っていったのを確認できたので、私は直ぐに彼女が何を考えていたのかを察してクリストファーの推測を肯定する。ところが、そんな簡単な事にさえ気付いていない彼は具体的に説明するよう求めてきた。

 

<じゃあ、なんでシャルロットは、そんな無駄を受け入れたんだ? そもそも、あそこで別行動にしたのは、お互いに効率良く買い物を済ませて時間を有効活用する為だったんだろう?>

<ハァ……。おそらく、あんたの事だから本気で言ってるんでしょうね……>

 

 本当に分かっていない事が容易に窺える言葉を聞いた瞬間、こういう状況における乙女心を全く理解できていない彼の鈍感さに軽い頭痛すら覚えた私は盛大に溜息を吐き、脱力しながらも彼女が何もしないで待っていた理由を告げた。

 

<デート同然の状態で一緒に買い物に来たって事は、自分が着る水着を一夏君に選んで欲しかったからに決まってるでしょう>

<だとしたら、シャルロットは随分と思い切った賭けに出たんだな。どう考えても、一夏に同世代女子の水着を選ぶセンスなんて無いだろう>

 

 案の定、クリストファーは偏見を持った上で私の発した言葉をそのままの意味として捉える。その為、私は彼にも分かるよう丁寧に説明する羽目になった。

 

<そうじゃなくて、この場合は好きな人に選んでもらうって事に大きな意味があるのよ。それ以前に、こうやって好意を寄せてる相手とのショッピングは何も買わなくても心踊るイベントなんだから。つまり、恋する乙女としては少しでも長く好きな人と一緒に過ごしたいし、一種の勝負服でもある水着を彼の好みに合わせる事は良いアピールになるから色々と頑張ってるの>

<ふ~ん……、そういうもんなのか? でも、俺だったら、そんな面倒な女とは絶対に付き合いたくないな。やっぱり、自分が全ての主導権を握らないと気が済まねえ>

<まあ、あんたならそうでしょうね>

 

 見事なまでに予想通りの反応ではあったが、どこまでも自己中心的なクリストファーの意見を改めて聞かされた私は最後に呆れたように一言だけ呟いた。

 しかし、私も本心では『あんたは結局、他人を支配する事で快感を得るタイプなのよ』と付け加えてやりたかったのだが、そんな事を言えばケンカになるのは火を見るより明らかだった。なので、この場は余計な手間を省く為にも本音は声に出さず、そのまま私の心の中へとしまっておく。

 ところが、そういう時に限って視界の隅で一夏君がシャルロットさんに引っ張られるような格好で試着室のカーテンの奥に消えるのを目撃してしまう。そうなると、その出来事を視覚の共有で目にしたクリストファーが異常なハイテンションで騒ぎ出す。

 

<おい、コラ、ちょっと待て! なんで、男と女が水着売り場の試着室に一緒に入る必要があるんだよ! まさか一夏の奴、どさくさに紛れてシャルロットを襲うつもりじゃないだろうな!>

<もう、少しは落ち着いたらどうなの? あんたじゃないんだから、そんな訳ないでしょう。それに、今のはシャルロットさんが一夏君を引っ張って中に入れたのよ>

<だったら、なおさら大問題じゃねえか! それって、つまり、シャルロットまでラウラの真似をしようとしてるって事だろう!? クソッ……、なんで一夏ばっかり、こんなにもモテまくるんだよ!>

 

 大声で騒ぎ続ける彼の言葉を聞いた私の脳裏では、ラウラさんが強引に一夏君の唇を奪った時の出来事や彼の部屋に本人の許可無く侵入する行為などが次々に思い浮かんでいた。

 だが、それと同時に感情的になったクリストファーが冷静さを欠いて肝心な事を見落としている場合も考慮し、シャルロットさんが何らかの異変に勘付いた可能性についても訊いてみる。

 

<まさかとは思うけど、彼女、私達が尾行してるのに気付いたんじゃ……>

<はあ、シャルロットが俺達の尾行に気付いた!? 確かに、その可能性はゼロじゃないが、いくらなんでも考え過ぎだろう。なにせ俺が知る限り、お前の追跡テクニックはトップクラスで、組織内でも――>

 

 そこまで言いかけたところで急に彼の言葉が止まり、まるで何かを思い出したみたいに大声で叫ぶ。

 

<そうか、あいつらだ! 俺達と同様に一夏達を追跡してたセシリア・鈴・ラウラの3人だよ! おそらく、あいつらがドジを踏んで気付かれたんだ!>

<でも、向こうには現役の軍人でもあるラウラさんも加わっているのよ。なのに、そんなに簡単に気付かれたりするものなの?>

<さあな……。大体、俺がそこまで知るかよ。だが、あいつらは所詮、即席の追跡チームだ。まともな連携が出来ないんなら、何が起こったって不思議じゃないさ>

<確かに、それも一理あるわね>

 

 そうなると、このまま私達も尾行を継続するべきかどうか判断に迷うところでもあった。なぜなら、私は見付かっていなくても監視対象が尾行を意識するようになれば自動的に警戒心も強くなり、こちらの追跡の難易度も必然的に上がってしまうからだ。

 しかし、気付かれた3人を上手く囮として利用できたなら、逆に他の追跡者に対する警戒心は緩むので私の尾行は容易になる。そして、そんな風に私が今後の行動について悩んでいると、さっきよりも緊張した声でクリストファーが報告を入れてきた。

 

<何を迷っているかは知らないが、またしても状況に変化があったぞ。このタイミングで織斑千冬と山田真耶の教師コンビが登場だ>

 

 彼からの報告に反応した私が慎重に向こうの様子を窺うと、そこには確かに私達1年1組の担任と副担任である教師の姿があった。しかも、彼女達は2人とも真っ直ぐに一夏君たちの居る店、それも彼らが一緒に潜伏している試着室のある方へと向かっている。

 

<どうやら、この辺りが潮時のようね。ここは大人しく引き上げた方が――>

<いや、その逆だ。このまま監視対象を一夏から織斑千冬に変更する>

 

 状況の度重なる変化を受けて私が尾行の中止を宣言しようとするが、ここでクリストファーが思いもよらない事を提案してきた。もっとも、どう贔屓目に見ても彼の提案は賢明な判断とは言い難く、ただリスクが大きいだけの無謀な賭けにしか思えなかった。

 なので、その提案を聞かされた私は直ちに反論をしようとしたのだが、それを見越していたかのような発言で彼が揺さ振りを掛けてくる。

 

<勿論、この方針変更に伴うリスクが大きいのは俺も認めてるさ。だが、考えてもみろよ。あの隙が無い織斑千冬の学園外での行動を直に観察できるチャンスなんて滅多に無いんだぜ?>

<それはそうだけど……>

 

 かなり危険な賭けにも思えたが、クリストファーの意見にも一定の説得力はあったので私は的確な反論をする事が出来なかった。すると、それをチャンスと捉えたのか彼は急かすように言葉を続け、こちらに考える暇さえ与えずに一気に畳み掛けてくる。

 

<幸い、ここは学園の敷地内じゃないから必ずしも向こうに地の利がある訳じゃない。つまり、いざという時の逃走だって多少はやり易くなっているし、ある程度の範囲までなら見咎められても言い逃れは充分に可能な筈だ。さあ、あまり迷ってる時間は無いぞ。今すぐにでも決断してもらおうか>

 

 そうこうしている間に狭い試着室の中で一緒に居た一夏君とシャルロットさんが織斑先生達に発見されてしまい、当然のように不謹慎な行動について叱られているのが視界に入った。

 さらに、そんな彼らの近くで様子を窺っていたらしいセシリアさんと鈴さんも教師陣に見付かり、どこかバツの悪そうな表情を浮かべつつも大人しく姿を晒していた。

 その為、これ以上の監視や追跡は流石にリスクが大きいだけだと判断し、その事をクリストファーにも進言しようとしたのだが、彼らの次の行動を目撃した私は思わず自分の目を疑ってしまう。

 なんと、一夏君と織斑先生の2人だけを残し、山田先生が残りの3人を引き連れて何処かへ移動し始めたからだ。そして、この瞬間に私の意思も固まった。

 

<どうやら、あんたの提案に乗った方が良さそうね>

<賢明な判断だ>

 

 やや突発的な展開ではあったが、私は組織から監視を命じられた対象者2名の行動を離れた場所にある物陰から観察し始める。すると、ほんの少し前にクリストファーが指摘した通り、ある人物の貴重な姿を目撃する事となった。

 

<チッ! 何かあると多少は期待してたんだが、こいつは思ってた以上につまらんな。あれじゃあ本当に、ただ姉弟が一緒に買い物してるだけじゃねえか。わざわざ2人きりになったんだから、もっとこう別の何かがあっても良いのに……>

<そんな事を言ったって、あの2人は本当の姉弟なんだから仕方ないでしょう。でも、学園で教師をしている時とは違って、家族の前だと織斑先生でもあんな表情をするのね。これは、ちょっと意外だったわ>

<あんな表情? 俺には全く同じに見えるんだが……>

 

 この距離では流石に2人の声までは聞こえないが、私の視線の先には苦笑を浮かべた後に微笑む織斑先生の姿があった。なので、その滅多に見せない仕草に注目するよう指摘したのだが、案の定、他人の心情を推し量ったり表情を読んだりするのが極端に苦手なクリストファーには違いが理解できなかったらしい。

 しかも、そんな彼の個人的な欠点が原因で私と同じ出来事を目撃していても退屈な光景としか映らず、時間の経過と共に機嫌まで悪くなってきている。だが、今回の件は元を辿れば彼からの提案なので、少しくらい予定と違っても我慢して欲しいところだ。

 

<忘れてるみたいだけど、これはあんたから言い出した事なんだからね。なのに、ちょっと予想と違うからって文句を言うつもり?>

 

 そこで私が少し咎めるような口調で彼の無責任な発言について苦言を呈すると、そこそこの冷静さを維持できる程度の自制心は残っていたらしく、今回は大人しく指示に従って黙ってくれた。だが、それも一瞬で終わり、またしても余計な事を喋り始める。

 

<いま思ったんだが、あの織斑千冬の笑顔は反則だな。はっきり言って、あっちの方が普段の仏頂面より100倍は不気味で恐ろしいぜ>

<ハァ……、あんたの目って本当に節穴なのね。あれの何処に恐怖を感じるのよ?>

 

 このクリストファーの的外れな指摘には私も心底呆れ、本日、何度目かの大きな溜息を吐いてから静かに呟いた。なぜなら、私の目には仲の良い姉弟が楽しく会話をしているようにしか見えなかったからだ。

 もっとも、当の織斑先生は一夏君に水着を選んでもらったものの、それを購入すると彼を残して何処かへ移動しようとしている。

 

<ねえ、この後はどうするの? まだ織斑先生の尾行を続ける?>

<流石に、その必要は無いだろう。どう考えても、これ以上は時間の無駄だからな>

<じゃあ、一夏君?>

<いや、そっちも時間の無駄だ。それよりも、ここまで足を運んだ事だし、ついでに上へ行って俺の用事を済まそうぜ>

<なんとなく、そう言うと思ったわ……>

 

 ここまでのパターンから半ば予想できた事でもあったが、ごく一部を除いて年相応の学生としての行動をしている彼らの監視を続けたところで、こちらに得るものは何も無いというのが私達の共通の結論だった。

 なので、この時点で彼らに対する監視活動の終了を決断し、私は当初の予定通りにクリストファーから頼まれた用事を片付ける為に彼の指示に従って歩き出すのだった。

 

   ◆

 

 やたらと拘っていたクリストファーの用事というのは、幾つかある彼の趣味の1つでもあり、今度の臨海学校や寮での時間潰しに使うゲームソフトを買う事だった。

 ちなみに、私は彼ほどビデオゲームに興味がある訳でも無かったが、そうやって彼がゲームに没頭している間は相手をしなくても済むので、その時間を自分の為に使う事が出来た。なので、これに関しては任務遂行に支障の無い限り、私は無条件で容認している。

 そして、当初の目的地であるビデオゲーム専門店(据え置き機・携帯機・PC用と一通り揃っている店)に到着した段階で意識の主導権を彼に明け渡し、その後は買い物が終わるまで自由に行動させる。

 

「お買い上げ、ありがとうございました~」

<それで、この後の予定は?>

 

 こうして何事も無く買い物を終えて店員の決まりきった挨拶を耳にしながら早足で歩き出すと、いつも以上に浮かれた様子で店を出るクリストファーに私は事務的な口調で今後の予定を尋ねる。

 なお、彼が買ったのは携帯ゲーム機用が2本とPCゲームが1本なのだが、全てIS出現前の現代戦をテーマにした戦争モノで、日本では『洋ゲー』と呼ばれている作品という共通点があった。まあ、これについては完全に彼の好みの問題なので私は何も言わない。

 

<ここへ来るまでの間にゲーセンがあったのは覚えてるか? 当然、そこへ行く>

<やっぱりね……>

<なんか文句でもあるのか?>

<いいえ、別に無いわ。ただ、あまりにも私の予想通りの答えが返ってきたものだから、ちょっとした脱力感を覚えただけよ。まあ、それ以外に特に深い意味も無いし、あんたは気にしなくてもいいわ>

 

 勿論、そんな風に私が予想通りだと感じたのには大きな理由がある。その1つは今の行動からも分かるように彼が無類のゲーム好きだという事だが、もう1つの理由は先程までの尾行で相当にストレスを溜めている筈なので、その憂さ晴らしにゲームをするのが彼の習慣になっていたからだ。

 だから、ここで私が下手に行くのを止めると後から文句を言われ続けるのは必至だったので、ガス抜きも兼ねて暫くは彼の好きなように行動させる事にした。ただし、ゲームに熱中し過ぎて大事な事まで忘れられても困るので最低限の忠告はしておく。

 

<多分、あんたも知ってるとは思うけど、寮には門限があるのを忘れないでね。なにせ、私達の寮長は織斑先生だから規則を破ると何かと面倒な事になるわよ>

<だったら、心配いらないぞ。いくら俺でも、そこまでゲーセンに長居するつもりはないぜ。折角、新しいゲームも買った事だし、部屋に戻ったら最低でも3時間はやる予定だからな>

<あんたの性格を忘れてたわ……。まあ、私としては時間までに学園に戻ってくれるのなら、それで構わないから後は好きにしなさい>

 

 もっとも、彼は些細な事で熱くなり易い性格なので本当に状況を理解しているのかどうかは微妙に怪しかったが、とりあえずは彼の相手をする必要が無くなったので、私は尾行の際の精神的な疲れを癒す為にも余計な考えは頭から追い出した。

 そして、手に持っていた荷物をゲームセンター近くのコインロッカーに預けると、クリストファーがゲームに興じる様子を視覚の共有を通じて静かに眺める。ところが、それから数十分後、思いもよらない事態が発生した。

 

<おおっ、今日はツイてるぜ! 前に俺が出したベストタイムを更新できた上に、ここのコースレコードごと塗り替えられたんだからな!>

 

 すっかりレースゲームに夢中になっていたクリストファーが興奮し、私が何度となく注意してきた事も完全に忘れて頭の中で大声で叫んだ途端、いきなり背後から声を掛けられたのだ。

 しかも、こんなにも絶妙なタイミングで現実の方に居る人物から声を掛けられるとは思っていなかったので、今回ばかりは私でさえも少し驚かされる。

 

「へぇ~、ゲーム好きって言ってただけあって本当に上手いんだな」

「しかも、コースレコードまで塗り替えたんだね。あ、そうだ。もし良かったら今度、僕にも速く走るコツとかを教えてくれる?」

 

 あまりにも聞き慣れた声にクリストファーが慌てたように振り返ると、そこには笑顔を浮かべる一夏君とシャルロットさんの姿があった。さらに、僅かに遅れてセシリアさん・鈴さん・ラウラさんも合流して彼らと同じように声を掛けてきた。

 

「あら、クリスさんもいらしてたんですの?」

「あんた、このゲーム、相当やり込んでるでしょう」

「ほう、これが『レースゲーム』と言うやつか」

 

 確かに、ゲームセンターは10代の若者が手軽に遊べて時間を潰すには最適な場所だと日頃から思っていたが、まさか彼ら全員が揃って訪れるとは流石の私も想像していなかった。

 なので、先程の彼らの行為は完全に不意討ちみたいなものである。しかも、今はクリストファーの方が意識の主導権を握っているので、この緊急事態にも的確に対処できるのかどうか不安になってくる。

 

「まあね。それで、今日はどうしたの? その様子だと、皆で遊びに来たって訳でも無さそうだけど?」

 

 だが、そんな私の心配は杞憂に終わり、クリストファーは私の口調や雰囲気を上手く真似て無難な受け答えをしていた。しかも、その再現度は私から見ても相当に高かった。ところが、この彼の質問に対してはラウラさんを除く他の4人が苦笑を浮かべて互いに顔を見合わせるだけで、なかなか事情を話そうとはしない。

 一応、ここまでの彼女達の反応から推測すると、おそらくは先程までの奇妙な追跡劇が深く関わっていると考えて間違い無い。しかし、それを遠くから見ていただけの私には詳細を知る術が無かった。

 そもそも、こちらは立場上、何があったかを全て把握していても自分から話すという選択肢は最初から存在しない。そして、そんな風に様々な事を私が頭の中で真剣に考えていると、お決まりの言い訳じみた言葉が一夏君の口から発せられる。

 

「まあ、それについては色々とあってだな……。ただ、それを話してると長くなると言うか、ちょっと難しいと言うか……。それより、このあと何も予定が無いんだったら、クリスも一緒に遊ばないか?」

「そういう言い方をされると逆に気になるんだけど、なんか訳ありみたいだし今回は詮索しないであげるわ。勿論、もう用事は終わってるから一緒に遊びましょう」

 

 この場合、どう考えても返答に困った一夏君が強引に話題を逸らそうとしたのは明らかなのだが、思いの外あっさりとクリストファーが彼の提案に同意してしまった。なので、それを珍しく思った私は単純な好奇心から彼に真意を尋ねる。

 

<あんただって一夏君が話題を変えようとしたのには気付いたと思うけど、あっさりと他人の意見に同意するなんて随分と珍しいわね。一体、どういう風の吹き回し?>

<あの雰囲気だと何で集まったのかを強引に聞き出そうとすれば、他の連中まで騒ぎ出して面倒な事になりそうだったからな。それに一般論で考えると、こうして休日の昼間からゲーセンに居るような奴が忙しい訳がないだろう。つまり、ここで誘いを断る方が怪しまれるんだよ>

<確かに、その可能性は充分にあり得るわね。だとしたら、賢明な判断だったわ>

 

 もっともな理由を聞かされた私は、意外と冷静に物事を見極めて判断したクリストファーの対応を評価した上で納得する。

 

<じゃあ、今の内に意識の主導権も私に切り替えておく? このまま彼らと一緒に行動するんだったら、そっちの方が何かと好都合でしょう?>

<いや、ゲーセンに居る間は迂闊に切り替えない方が良いだろう。おそらく、幾つかのゲームで対戦する事になるからな>

 

 それに続いて私が意識の主導権の扱いについても彼に尋ねてみると、こちらも納得のいく理由付きで即座に却下された。

 なので、ここは先程と同様にクリストファーの判断を尊重して私はバックアップに徹する事を決め、彼らとの会話に耳を澄ませると共に意識も集中させる。こうして私達は偶然の成り行きとは言え、この後の時間を一夏君たちと一緒に過ごす事となった。

 

   ◆

 

 いきなり後ろから声を掛けられた時には本当に驚かされたが、とりあえず人格が交代している事だけは誰にも気付かれずに済んだらしい。

 ただし、その代償として一夏達と一緒に行動する羽目になったが、それも俺が組織から命じられた監視任務の一部だと考えれば辛うじて納得は出来た。だが、これで当分の間はクリスティーナの振りをし続けなければならないので、それだけが頭痛の種だった。

 

「折角だし、このゲームをみんなでやろうぜ。いいだろう?」

 

 そんな中、俺の抱えてる苦労なんて微塵も気付いてない様子の一夏が軽い調子で全員に呼び掛ける。まあ、今の段階で俺の存在に勘付かれても困るので、ここは奴の鈍感さに感謝しておこう。

 

「勿論、私は全然かまわないけど、このゲームの経験者は何人?」

「とりあえず、俺と鈴は何回もあるけど……」

 

 俺がクリスティーナを演じて尋ねると代表して一夏が答え、それに続いてシャルロット達に視線を向けたのだが、当然のように残りの3人は首を横に振ってゲームが未経験な事を態度で表す。

 だが、車の運転席を模したゲームの筐体を見ただけで複雑な操作は必要ないと分かったのか、ゲーム未経験の3人を代表してシャルロットが俺に伝えてくる。

 

「僕達も構わないよ」

「じゃあ、走るコースは無難に1番オーソドックスなのにしておくね」

 

 そう言いながら俺は今まで使っていた筐体のシートに改めて座り直したのだが、こっちを無視して女子4人が一夏の周りに集まって何やら騒いでいる。当然の事ながら、ただゲームをするだけなのにわざわざ全員で集まって騒ぐ理由が俺には全く思い当たらず、その事を唯一の理解者であるクリスティーナに尋ねた。

 

<それはそうと、あいつらは何をやってるんだ?>

<多分、このゲームの経験者でもある一夏君からアドバイスを貰ってるか、成績上位者に対する内輪の景品でも決めてるんじゃない?>

 

 そう彼女に説明されたものの、俺と違って重度のゲーマーでも無さそうなアイツらが必死になる動機については最後まで見当が付かなかった。

 なので、少々むかついてクリスティーナに対して『俺にも分かるように説明しやがれ!』と叫びそうになったのだが、その前に詳細不明の集会は終わったらしく、全員がそれぞれの筐体に向かったので大人しくゲームを始める事にした。

 まず、最初にレースの舞台となるコースを難易度別に分けられた幾つかの候補の中から選び、続いて使用するマシンとトランスミッションの選択へと移る。

 ちなみに、コースは未経験者も居るので最初に俺が提案したように最もシンプルなものを選択し、俺が使用するマシンも今回はプレイヤー同士の対戦プレイという事でエンジン・パワー重視だが癖の無いAT(オートマチック)車にした。

 余談だが、この手のストリートレース系のゲームではコースやマシンにも開発会社のお国柄というものが強く出ており、最初の頃は日本仕様のコース&マシン(コースは全て日本国内の何処かをモデルにしたもので、マシンも全車が日本車)に随分と戸惑ったものだ。

 その後、他のメンバーがゲームの参加に必要な準備を一通り整えている時間やロード画面を挟み、ようやく目的であるレースが開始される。

 

<こうなった以上はコイツらのゲームの腕前がどの程度のものなのか、俺が直に確かめてやるぜ!>

 

 そうやって俺が脳内で叫んだ直後にAIの操る先頭のマシンがスタートラインを越え、マシンがプレイヤーの操作を受け付けるようになってローリングスタートによるレース(周回数:3)が始まった。

 なお、こういった類のレースゲームの特徴に漏れず、このゲームでも俺の操るマシンは集団の最後尾からのスタートとなっている。そして、その前方に一夏たちが操る5台のマシンが1つの集団のように固まり、さらに前方をAIの操る4台のマシンが互いに車体を接触させながら疾走していく。

 

<で、これは一体、何の冗談だ?>

<そんなの私に聞かないでよ>

 

 ところが、いざレースが始まると予想外の出来事が起き、俺は思わずクリスティーナに対して疑問をぶつけてしまった。だが、彼女からの返答は当然のように素っ気ないものだった。

 ちなみに、その予想外の出来事というのは、シャルロット・セシリア・鈴・ラウラの4人が“順位を競うレース”という根本的な部分を完全に無視して互いに潰し合いを始めてしまった事だ。

 その為、俺と一夏の2人だけでAI連中とのレースをする羽目になってしまったのだが、お互いにAIよりは確実に速く走れるので事実上、俺達2人の一騎打ちみたいなレースになってしまう。

 

「つうか、マジに速いな。全然、差が縮まらねえ」

 

 俺にも聞こえる位の大きさの声で一夏が驚嘆にも似た感想を漏らす。とりあえず、彼が操るマシンの挙動やコーナーでのライン取りなどから判断すると、多少なりともゲームをやり込んでいる事ぐらいは直ぐに想像がついた。

 ところが、そんな彼を相手に周回を重ねるごとに俺の方が着実に引き離している訳だから、そういった意味では先程の発言は当然の反応だと思っても良いかもしれない。

 まあ、そんな訳で結局は俺がスタート直後の一時期を除いて終始トップをキープしたままチェッカーフラッグを受け、それから少し遅れて一夏が2位でチェッカーを受けた。

 なお、レースの趣旨を無視して自分達だけで潰し合いを行っていた4人は制限時間内での完走すら出来ずにノータイムとなり、最終的にはリタイア扱いで順位さえ付かなかった。

 

「そこそこ頑張ったみたいだけど、最後は私の圧勝だったわね」

「俺もちょっとは自信あったんだけどなぁ~。よし、もう1回、勝負だ!」

 

 一応はクリスティーナの振りをしつつ俺が勝ち誇ったように勝利宣言をすると、一夏が本当に残念そうな表情で呟いた。しかし、それも一瞬の事で早々にリベンジを申し込んでくる。だが、その提案は他の4人によって速攻で却下された。

 

「ハァ!? なに言ってんのよ!」

「これでは勝負がつきませんわ」

「やっぱり、次は別のゲームにしない?」

「なら、今度は私が気になっていたやつにしよう」

 

 ついさっきまではゲームの趣旨を無視してまで猛烈に争っていた4人だが、この時だけは見事な連携プレーで全員の意見が一致していた。なので、そんな風になった理由に心当たりが無いと思われる一夏は俺の方を向いて仕草だけで尋ねてきたが、俺だって理由は分からないのだから答えようが無い。

 そんな訳で、こちらも肩をすくめる仕草をして『分からない』という事をアピールしておいた。ただし、俺は念の為に脳内で声を発してクリスティーナの意見も聞いておく。

 

<一応、お前にも訊いておくが、あいつらは何を考えているんだ?>

<最初に少し言ったけど、おそらくは彼女達だけで一夏君を賞品にした賭けでもしてたんでしょう。当然、本人の意思など関係なしにね。でも、さっきのゲームだと決着が付かなかったから、それが気に入らなかったんじゃない?>

<チッ! 下らねえ!>

「ちょっと、早くしなさいよね!」

 

 彼女の話を聞いた途端、あまりの下らなさに無性にムカついた俺は思わず吐き捨てるように叫んだ。もっとも、一夏やクリスティーナとのやり取りに気を取られている間に向こうでは勝手に話が進んでいたらしく、違うゲームの筐体の前に陣取った4人を代表して鈴から大声で呼ばれてしまう。

 どうやら、この時点で既に俺や一夏には選択権も拒否権も無くなっているようだ。その為、あっさりと抵抗を諦めた俺達は大人しく命令に従い、駆け足で彼女達の傍へと移動する。

 

<ほう、次はガンシューティングか。まあ、ある意味でラウラらしい選択だよな。とりあえず、コイツも俺の得意なゲームだから余程の事が無い限りは負けないだろうし、普段なら心置きなく楽しめるんだが……>

「でも、これだと2人ずつしか出来ないぞ?」

 

 俺は頭の中、一夏は実際に声に出して次に遊ぶゲームに対する第一印象を呟く。すると、またしても他の4人は見事なまでに声を揃えて似たような事を言ってきた。

 

「そんなの、あたしとアンタでやるに決まってるでしょう」

「夫婦が一緒にやるのは当然だ」

「もちろん、わたくしと一夏さんがするのですわ」

「トーナメントでの前例もあるし、ここは僕を選んでくれるよね?」

 

 しかし、あまりにも見事に全員から同時に協力プレイのパートナーに名指しされた為、一夏は傍から見ていても簡単に分かる位の困り顔でうろたえていた。

 

「ちょっ、なんでそうなるんだよ!」

 

 その上、一夏を名指しした4人全員が『自分を選ばないと許さない』といった雰囲気で殺気にも似た何かを放っているので、かなり強烈なプレッシャーに晒されている事だろう。だが、こうやって彼が追い詰められた場合は大抵、お決まりの展開が待っているので俺の脳裏には別の意味で嫌な予感が浮かんでくる。

 

<ああ、クソ! この展開は絶対、ロクでもない事にしか――!>

 

 そして、嫌な予感を覚えた俺が頭の中で反射的に叫んだ瞬間、その台詞を最後まで言い切る前に脳裏に浮かんでいたものが見事に現実となって身に降りかかる。

 

「い、いや、俺はクリスと一緒にやるから……、悪いっ!」

「え、ちょっと待ってよ! 私の意思は!?」

 

 そうやって一方的に宣言した一夏は、見るからに殺気立った雰囲気で迫ってくる彼女達から逃げるようにして俺の手を引っ張り、俺の意思などお構いなしに自分の都合だけで勝手にパートナーを決めてしまった。

 しかも、こちらが頼んでもいないのに俺の分まで速攻で料金を払ってしまったので、今さら断るのもクリスティーナを演じる上で矛盾が生じそうな気がして躊躇われる。

 

「もう、しょうがないなあ……」

 

 なので、表面上は『ゲーム代を奢って貰った以上は一夏の提案を受け入れる』というような態度を示して取り繕ったのだが、その程度では今の状況を好転させるには至らなかったようだ。その証拠に、俺は背後に立つ4人の女子から突き刺さるような鋭い視線を浴びせられている。

 しかし、こうなってしまった以上は一夏との協力プレイを断ったり誰かに代わってもらったりする訳にもいかず、俺は妙な緊張感と共に『G36C』に近い面影があるアサルトライフル型のコントローラーを手にゲーム画面と向き合うのだった。

 

<クソッタレが! 単に巻き込まれただけなのに悪者扱いとは、この俺をコケにしてやがるのか!?>

<いきなり何を言い出すかと思えば、結果的には皆の大好きな一夏君を奪っちゃったんだから恨まれても仕方ないでしょう>

<ハァ!? そいつは一体、何の冗談だ!? 俺はIS学園を俺様専用のハーレムにしたいとは思っても、そっちの趣味は微塵も無いんだよ!>

<どうやら、あんたは自分の外見と現在の立場を完全に忘れているようね。私達が2重人格だって事を秘密にしている以上、彼女達にはクリスティーナとしての認識しかないんだから諦めなさい>

<つまり、俺は何処まで行っても存在しない“ゴースト”って事かよ……>

 

 俺はゲームが開始されるまでの短い時間を利用し、自分の特殊な存在ゆえの理不尽さを声高に嘆いた。ところが、唯一の理解者であった筈のクリスティーナからの返答は予想と違って見放すようなものだった。

 その為、ゲームが始まってからは行き場の無い怒りをぶつけるみたいに画面に次から次へと現れる兵士・戦闘車両・武装ヘリといった定番の敵だけでなく、ステージの所々に配置してあるドラム缶や建造物などの破壊可能なオブジェクトにも片っ端から猛烈な銃撃を浴びせて排除し、必要に応じて素早いリロードと的確な回避行動も駆使して驚異的なペースでステージを突き進んでいく。

 ただ、この手のゲームでは射撃経験の乏しい人間を対象にしている所為で射撃時の反動が想像以上に弱い事が多く、実銃での射撃訓練を積んでいる俺としては違和感を覚えて仕方が無い。

 だが、それでも俺は1発も被弾する事なくラスボスを斃してゲームをクリアしてしまい、今のプレイで俺達の獲得した得点が画面に大きく表示されて終了となる。すると、それを見た一夏がレースゲームの時に続いて再び驚きの声を漏らした。

 

「やっぱスゲーな! こんな高得点、初めて見たよ!」

 

 そう言われ、俺は改めて自分の叩き出した得点を確認する。なお、そうして視線を向けた先の画面には、それぞれのプレイヤーが個人で獲得した得点と2人の合計得点の3種類が表示されていた。

 しかし、このゲームを“協力プレイ”モードで最後までクリアした事の無かった俺は、自分の出した得点がどれほど凄いのかどうかの実感が全く湧かなかった。ただし、その得点の横に『1st』の表示が浮かんでいる事からランキング1位を獲得できたのだけは理解した。

 もっとも、このまま画面を見続けていても時間の無駄なので、なんとなく普段から使っているアルファベット3文字の簡素なゲーム用の名前を手早く入力する。

 その後、今度は歴代の成績上位者の一覧が得点と共に表示されたのだが、明らかに俺の叩き出した個人の得点と今回の協力プレイにおける合計得点だけが他と比べても突出しており、あそこまで一夏が驚いた理由にも直ぐに納得がいった。

 

「どうやら、こっちでも新記録を出しちゃったみたいね」

「はは、そうみたいだな」

 

 こうして自分の出した記録を一通り確認し終えた俺は、とりあえず形だけの短い会話を一夏と交わしてクリスティーナだと思わせておく。ところが、次の瞬間、再び背中に複数の鋭い視線が突き刺さる感覚を覚え、その強烈なプレッシャーから反射的に後ろを振り向いてしまった。

 

「へ~、なる程。つまり、あの得点を超えればいいわけね」

「どうやら、そのようですわね」

「これなら何とかなりそうだし、今度は僕だって負けないよ」

「今ので敵の配置は全て覚えたからな。まあ、見ていろ」

 

 すると、案の定、そこには変なところで無駄に闘志を燃やす鈴・セシリア・シャルロット・ラウラの姿があった。しかも、その言動からは明らかに全員が俺をライバル視している事まで窺える。

 はっきり言って、それは完全に彼女達の誤解から始まったものらしいのだが、何があっても真相を明かす訳にはいかない俺は引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかった。だが、このまま現状を受け入れるのは何となく癪だったので、無意味だとは思いつつも少し悪あがきをしてみる。

 

「え~と……、そんなに勝負がしたいんなら他のゲームでも良いんじゃない? 例えば、格ゲーとかクレーンゲームでも勝負は――」

「勝ち逃げは許さないわよ!」

「いくらクリスさんの頼みでも、それは聞けませんわ」

「折角の私の見せ場だ。邪魔はさせん」

「とりあえず、まだ時間もあるし、これで決着が付かなかったらね」

 

 やはり、その程度の事では状況を打破できる筈も無く、こちらの言葉を途中で遮る形で女子4人に提案を却下されてしまう。そうなると当然、この後の展開も見事なまでに俺の予想通りになり、なにかと理由を付けては4人が勝負をしたり、一夏と一緒にプレイしたがったりで時間は瞬く間に過ぎていった。

 しかも、俺は序盤に目立ってしまった所為か途中で帰る事も許されず、結局は最後まで彼女達に付き合わされてしまい、全員で揃って学園に戻った頃には空は夕焼け色に染まっていた。

 

<ハァ……、なんか今日は最後まであいつらに振り回された1日だった気がするぜ>

<確かに、そうかもしれないわね。でも、そんなに悪くなかったんじゃない?>

<さあ、どうだろうな。まあ、俺としては当初の目的を果たせたから良いが……>

 

 それから寮の入口へと辿り着いた所で彼らと別れ、ようやく1人になれた俺は早速、今日1日で体験した一連の出来事についてクリスティーナと話し始める。

 

<だが、それよりも今は部屋の片付けを先にやっちまわねえとな。なにやら、ラウラが直ぐにでも侵入してきそうな勢いだったし……>

<ええ、そうね。でも、あれには流石の私も少し驚いたわ。まさか、あんな反応を彼女が示すとは思わなかったもの>

 

 こうして彼女と話をしていると、最も印象に残った出来事の1つとして鮮明な形で脳裏に甦ってくる。

 

<ああ、まったくだ。てっきり、お堅いだけの軍人だと思っていたから――>

 

 あの時は数時間に渡って全員でさんざん騒いだ事もあり、俺達はゲーセンを出た後で休憩も兼ねてファーストフード店に立ち寄ったのだが、そこへ行った際にコインロッカーから回収したゲームショップの袋に一夏が反応を示し、どんなゲームを買ったのか尋ねてきた。

 まあ、俺も特に隠すような代物じゃなかったから普通にジャンルとタイトルを答えたのだが、それに何故かラウラが強い興味を示してきたのだ。もしかすると、彼女の中で燻っていた軍人としての何かが反応したのかもしれないが、それだけなら別に慌てるような事でもない。

 そして、その場では俺の持ってるゲームについての話題が暫く続いたのだが、他にも現代戦を扱ったゲームを幾つか持っているという事を聞いた彼女が『ぜひ、見たい』と言い出し、結果として話が面倒な方向へと進んでしまったのである。

 しかも、それが原因で今度の臨海学校が終わった後の休日に皆が俺の部屋に集まる事まで強引に決められてしまい、その対策をする必要に迫られてしまったのだ。

 もっとも、結論から言えば見られて困るような物は普段から隠すようにしてあるし、臨海学校への参加が確定した時点で数日間は寮の部屋を空けるので、どのみち俺達がスパイである事を示唆するような代物を予め片付けておくのに変わりは無い。

 

<とは言え、あいつらが今後も頻繁に来るようなら流石に問題だよな。だとすると、『TAVOR‐21』や任務用のラップトップなんかの置き場所は、もう少し考えた方が良さそうだ>

<その辺は、あんたの判断に任せるわ。でも、あの部屋に誰かが来るのは仕方の無い事なんじゃない? だって、私達が生徒として彼らに関わっていく以上は遅かれ早かれ、こうなったと思うもの>

<とりあえず、そういった事情は俺も頭では分かってるつもりなんだが、どうしても“最悪の事態”ってやつを想定しちまうんだよなぁ……>

 

 この俺の言葉を最後に2人とも無言になる。どうやら今回に限っては、クリスティーナも同じように何かしらの不安を感じているのだろう。しかし、こうなった以上は可能な範囲で対策を施すしか選択肢が無いのも事実だった。

 




今回は原作にもあったエピソードをベースにしているので、内容的には特に目新しい部分は無いですね。まあ、その割には文字数が多いんですが……。
なお、ゲーセンで遊ぶシーンでレースゲームとガンシューティングにした理由は実に単純です。なにせ、その2つぐらいしかゲーセンだとやりませんから。
もう予想は付くと思いますが、次回からは臨海学校のエピソードに突入します。
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