IS<インフィニット・ストラトス>‐虚構と闇の交差する空‐ 作:Ghost SAF
私が篠ノ之さんを探してアリーナの中を歩き回り、戦闘が行われているアリーナ中心部を見下ろす事が出来る場所に辿り着いた途端、その探し求めていた彼女の声がアリーナのスピーカーから大音量で響いてきた。
「一夏ぁっ!」
まるでアリーナ全体に響き渡るような大声。何らかの装置で増幅されているのは明らかだったが、そんな事が可能な機械が置いてあるのは中継室ぐらいだろう。
<おいおい、どうやって中に入ったんだ?>
そんな風に考えていると、私と同じ結論に達したと思われるクリストファーが呆れ半分、感心半分といった雰囲気の口調で呟いた。
とりあえず、それを受けて私は周囲を素早く見回して誰もいない事を確認してからISを頭部だけ部分展開し、ハイパーセンサーの望遠機能を使って此処からアリーナの中心部を挟んで対角線上の位置にある中継室の中の様子を窺う。
すると、窓越しに篠ノ之さんの姿が見え、彼女の背後では審判とナレーターが昏倒させられているのも確認できた。
<どうやら、力ずくで制圧したようね>
<そこまでするか……>
まさか、こんな強攻策で来るとは思っていなかっただけに、そんな感想が乾いた笑いと共に自然と零れていた。そして、あそこに彼女の姿があるという事は、私達はずっと見当違いの場所ばかりを探していた事になる。
<で、どうする? 今から中継室に向かうか?>
<多分、今から行っても――>
私がクリストファーからの質問に答えようとした矢先、またしてもスピーカーから篠ノ之さんの声が聞こえてきた。
「男なら……、男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
結局、その言葉だけでは彼女が何を言いたいのかまでは分からなかったが、とりあえずアリーナで戦う者達の注意を惹く事だけは出来たらしい。その証拠に、乱入してきた正体不明のISと織斑君に新たな動きがあった事をハイパーセンサーが教えてくれる。
<どうして自分から射線上に?>
<アイツらは一体、何を考えてるんだ?>
次の瞬間、私とクリストファーは同時に疑問を口にする。なぜなら、射撃体勢に入った『甲龍』の衝撃砲の射線上に躊躇いもなく織斑君が自ら飛び込んだからだった。
◆
最早、俺には迷っている暇など無かった。
「鈴。やれ!」
「わ、分かったわよ!」
俺の合図と共に鈴が衝撃砲を最大出力で撃つ為の体勢に入る。そして、それを見た俺は何の躊躇いもなく、その射線上に躍り出た。
「ちょっ、ちょっと、馬鹿! 何してんのよ!? どきなさいよ!」
「いいから撃て!」
とにかく、今は時間が無かった。なので俺は一切の説明を省き、より強い口調で射撃を命じる。
「ああ、もうっ! どうなっても知らないわよ!」
俺の口調の強さに観念したのか、鈴は半ばヤケクソ気味に叫ぶと、言われた通りに最大出力で衝撃砲を発射した。それに合わせて俺はイグニッション・ブーストを作動させる。すると、直後に巨大なエネルギーの塊が背中にぶつかるのを感じた。
同時に、体のあちこちから悲鳴にも似た軋むような音が聞こえてきたが、それに必死で耐えながら加速する。ちなみに、イグニッション・ブーストの使用に必要なエネルギーは自前でなくても構わない。
つまり、外部から取り込んだエネルギーでも問題なく作動するという訳だ。そして、イグニッション・ブーストの加速は使用するエネルギー量に比例する。
「オオオッ!」
残されたシールドエネルギーを右手に握る『雪片弐型』へと集束させていく。すると、集まってくるエネルギーに呼応するかのように『雪片弐型』が強い光を放ち、中央の溝から発生したエネルギーの塊が一回り大きな刃を形成する。
そして、バリアー無効化攻撃である『零落白夜』が使用可能になった事を本能的に理解した。その瞬間、五感の全てが極限まで研ぎ澄まされたような奇妙な感覚を憶え、続いて初めてISに触れた時にも感じた一体感が全身を包み込む。
さらに、集中力の高まりに合わせて意識もクリアーになり、決して楽観視できる状況でもないのに全身から力が漲ってくる。
『俺は……、千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人すべてを守る!』
自らが抱く想いの全てを刃に乗せ、渾身の一撃を敵ISへと叩き込んだ。そして、この必殺の一撃は見事に敵ISの右腕を真ん中から切り落とす事に成功した。
しかし、その代償として俺は敵の左拳をまともに正面から叩き込まれる事となった。それどころか、未だに機能を完全には停止していない敵はゼロ距離からビーム砲を発射する追撃で焼き払おうとさえしてくる。
「一夏っ!」
次の瞬間、箒と鈴の悲痛な叫び声が同時に周囲に木霊する。だが、敵が反撃を試みる事など予想の範囲内だった。だから俺は、微塵も慌てる事なく次の言葉を発する。
「狙いは?」
「完璧ですわ!」
聞き慣れた、よく通る声。かつてはうるさく感じていた声だが、今は何よりも頼もしく聞こえる。そして、直後に観客席から『ブルー・ティアーズ』のレーザーによる一斉狙撃がシールドバリアーを失った敵に降り注いだ。
当然、それだけの攻撃を浴びて無事でいられる筈が無く、敵ISは爆発と共に地上へと落下していく。この“敵ISのシールドバリアーを無効化すると同時に遮断シールドを破壊し、外部からの狙撃を可能にする”という策、これこそが俺の考えた人間ならではの作戦だった。
「ギリギリのタイミングでしたわ」
「セシリアなら、やれると思っていたさ」
「そ、そうですの……。とっ、当然ですわね! なにせ、わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生なのですから!」
1度戦ったから分かる。彼女なら、きっと俺の期待に応えてくれる筈だ。そう確信していたからこその言葉だったのだが、どういう訳か彼女は急にうろたえ始めた。
「ふう。なんにしても、これで終わ――」
『敵ISの再起動を確認。警告。ロックされています』
ようやく全てが終わったと気を抜いた一瞬、その僅かな隙を突いて敵が最後の攻撃を仕掛けてきた。耳障りな警告音と共に、『白式』のシステムから自分自身が狙われている事を告げられる。
俺が反射的に撃破したと思っていた敵の方を振り向くと、そこには残された左腕を俺の方へと突き出し、最大出力でビームを撃とうとしている敵ISの不気味な姿があった。そして、次の瞬間、敵はビームを発射する。しかも、俺の背後には鈴が居るので下手に避ければ彼女に直撃してしまう。
それに気付いた俺は何の躊躇いもなく敵の放ったビームへと正面から突撃し、視界が真っ白な光で満たされる中、最後に刃が装甲を切り裂く手応えを感じながら意識を失った。
◆
いつの間に連絡を取り合っていたのかは知らないが、絶妙なタイミングで現れたセシリアさんが敵ISに一斉射撃を浴びせて撃墜する。
<まったく……。どいつもこいつも、随分と好き勝手に動き回りやがって……。こっちの身にもなれってんだ……>
<私達だって人のこと言えないでしょう>
結局、戦いの結末を遠くから見守る事しかできなかった私達が話していると、アリーナ上空に飛行物体らしき微かな反応があるのをハイパーセンサーが探知した。
なので、私は反射的に反応のあった付近を目視で確認すると共に、素早くレーダーの捜索範囲を切り替えて当該空域の詳細なレーダー走査を行う。しかし、そこには何も無かった。
<突然、どうしたんだ?>
<一瞬だったけど、ちょっと気になる反応があったのよ>
<気になる反応?>
<ええ。ちょうど、アリーナの真上――>
一瞬だけ捉えられた謎の反応について私がクリストファーに説明し始めた途端、またしてもアリーナに派手な爆発音が轟いた。しかも、その爆発は織斑君達が居る辺りで起きたらしい。正体不明のISが乱入した前例があったばかりなので、私の脳内では先程の上空の反応と合わさって新たな敵の襲来と結びつく。
だが、今回は違った。冷静になって爆発が起きた地点をハイパーセンサーで確認すると、そこには意識を失って倒れているように見える織斑君と黒煙を上げて大破している敵ISがあり、凰さんとセシリアさんが倒れている彼に大慌てで近付こうとしている光景が広がっていた。
<いま何が起こったの?>
<さあ、俺にもさっぱり……>
私は慌ててクリストファーに尋ねるが、視覚を含めた感覚を共有している所為もあり、彼にも状況は掴めていなかった。ただ、前後の状況から判断すると、織斑君と敵ISとの間で新たに交戦があったのは確実だろう。
<とりあえず、場所を移動しましょう。ここに居ても情報は得られそうにないわ>
<そうみたいだな。で、どこへ向かうんだ?>
<可能なら、彼らの所へ向かいましょう。当事者の話は貴重よ>
そう言って私は、未だにアリーナ中央部に留まっている織斑君達を一瞥してから部分展開していたISを解除する。なお、この一件の影響で私もクリストファーも“気になる反応”については完全に忘れてしまっていた。
そんな訳で私は、ここへ来た時のアリーナの通路の状態を思い出しながら目的の場所へと向かう最適なルートを割り出し、それに従って足早に歩いていく。
そうやって通路を暫く進んだ時、背後から騒々しい音が響いてきたので私は通路の端へと身を寄せてから音の正体を確かめるべく振り返った。すると、通路の奥から学園の教員に率いられた生徒以外の人間がほとんどを占める集団が姿を現す。
それを見た私は、彼女達の持っている装備から現場検証と事後処理を担うチームだと即座に判断した。さらに、彼女達の動きに呼応するかのようにシステムクラックが完了したのか電源が回復して非常灯が通常の照明に切り替わり、同時にクリストファーが言葉を発する。
<確か、48時間で自然に分解する特殊な発信機を持って来てたよな?>
<ええ、あるけど……。一体、何に使うの?>
<説明は後だ。今すぐ準備しろ>
彼の突然の発言には僅かに戸惑ったものの、私は言われた通りに特殊な発信機を準備する。すると、彼はさらに意外な言葉を続けた。
<準備が出来たら意識の主導権を俺に寄越すんだ>
<え?>
<時間が無い! 早くしろ!>
ただ、彼の口調は真剣そのものだったので、私は大人しく指示に従う事に決めた。なので、これから何をするのかは相変わらず不明だったが、やたらと焦る彼に急かされるままに慌てて意識の主導権を渡す。
<じゃあ、切り替えるわよ>
そう宣言した直後、一瞬だけ意識に微かなノイズのようなものが走り、主導権の切り替えが行われた事を実感する。ちなみに、こうして意識の切り替えが完了した時には、既に件の事後処理チームは目と鼻の先にまで迫っていた。
その時、私は彼女達がIS用の装備などを運ぶ際に使われる大型のカートを伴って移動している事に気が付いた。
<まさか、あの集団に混じって現場に入るつもり?>
<そんな事をしても速攻でバレるだけだ。そうじゃなくて、あのカートに発信機を付けるんだよ>
ここに来て、ようやく私はクリストファーの突発的な行動の意味を理解した。つまり彼は、この機会を利用して学園内にある立ち入り禁止区域の情報を集めようと考えたのだ。
そして、そうやっている間にも目標の集団は私達の方へと接近し続け、すぐ傍を足早に駆け抜けていく。そんな中、彼は擦れ違いざまの一瞬で見事に目的のカートに発信機を取り付ける事に成功する。
<それなら作業を終えるのを待って、あそこで破壊された敵ISの本体か回収チームの誰かに付けた方が確実だったんじゃないの?>
<帰りも此処を通るとは限らないし、IS本体に取り付けたら後で調べられた時に見付かる可能性が高いんだよ。それに、いつまでも回収チームの周囲をうろついていたら不審に思われるだろう。なにより、発信機を付けた人間が目的のエリアに入るかどうかも分からないからな>
<確かに、そういった問題もあるわね>
彼女達の後ろ姿を見つめながら話をし、私達の視界から消えるのを待ってから再び歩き始める。しかし、ほとんど進まない内に彼は意識の主導権を返す事を一方的に告げてきた。
<ああ、そうだ。もう用件は済んだから意識を戻すぞ>
<ちょっと、こっちにも心の準備が……>
そんな私の抗議の声も空しく再び意識に微かなノイズが走り、気が付くと意識の切り替えは終了していた。ただし、歩いている最中にいきなり切り替えられたものだから少しバランスを崩してしまい、立ち止まらざるを得なかった。
<いきなり意識を切り替えるなんて、何を考えているの?>
改めて歩き出した私が抗議するように語気を強めて尋ねると、クリストファーは淡々とした口調で理由を述べ始める。
<誰かに話しかけられた時、お前の方が上手く対応できるだろう? だから、早めに切り替えておきたかったんだよ。それに、また前みたいに何の前触れも無く織斑先生に声を掛けられたら、俺だと誤魔化せる自信が無いからな>
<だとしても、今のは強引よ>
<そうかもな……。とりあえず、次からは気をつけるよ>
私は声のトーンを落とすと、やや非難めいた口調で彼に注意するが、ほとんど効果は無かったらしい。彼は適当な返事を寄越すと、そのまま黙り込んでしまった。ただ、こういう態度を彼が取るのは大抵、何か重要な事に気が付いて考えを纏めている時だ。
なので、もしかすると先程の襲撃について気になる事があったのかもしれない。そう良いように解釈した私は、実際に戦闘を行った3人から何らかの情報が得られる可能性を考慮し、まずは彼らの所へ行って話をしてみる事に決めた。
『普通に考えれば、医務室に行くのが妥当よね。いきなり正体不明の敵と交戦したんだし、特に織斑君は気を失っていたみたいだから』
そうやって彼らの行き先に心当たりをつけた私は早速、医務室のある方へと歩き出すのだった。しかし、その途中で思わぬ人物に呼び止められる。
「おい、キャンベル」
「あ、織斑先生。どうかしたんですか?」
「話がある。付いて来い」
別の通路を歩いてきた織斑先生と出会い頭に遭遇した私は、いきなり彼女に一緒に来るよう言われた。その瞬間、嫌な予感が脳内を駆け巡る。
勝手にピットを抜け出した事に対する話なら特に問題は無いが、もし、情報収集活動や発信機の事に対しての話だったとすれば大問題だ。たとえ今回は誤魔化せたとしても、今後の活動に多大な支障を来たすのは目に見えている。
そんな風に話の内容を色々と推測して対応策を考えている内に目的の場所に着いたらしく、彼女は扉のロックを解除して中に入っていった。そして、続いて中に入った私の視線の先には予想外の光景が広がっており、思わず足を止めてしまった。
「何をしている。早く来い」
すると、立ち止まった事に気付いた織斑先生から声を掛けられ、私は慌てて指示に従って移動する。そうやって私がセシリアさん、凰さん、篠ノ之さんの横に並んだところで織斑先生は手を叩いて皆の注目を集めてから話を始めた。
ちなみに、ここへ来た瞬間に私が驚いたのは勿論、話を聞こうと考えていたメンバーがほぼ揃っていたからである。
「さてと、時間が無いから早速本題に入るぞ。お前達が見た事については、公式発表が行われるまでは何も話すな。勿論、その後も余計な事は喋るなよ。もし、このルールを破れば2年間は当局による監視下に置かれるものと思え」
そう言って織斑先生は私達の顔を順番に見ていき、無言の圧力を掛けながら話の内容を納得させようとする。その口調は、いつもより厳しいものであり、冗談でも何でもない事を如実に物語っていた。その為、非常に張り詰めた空気が辺りを支配する。
「では、この誓約書にサインしろ」
私達が事の重大さを理解したと判断したのか、傍らの机の上にあった書類を手渡してきた。ところが、私と篠ノ之さんは他の2人とは違う内容の誓約書らしく、明らかに枚数が少なかった。
だが、それでも上から下まで様々な規約が細かい文字でびっしりと明記されており、普通なら読むだけでも嫌になっていただろう。
もっとも、こういった類の煩雑な書類に目を通す事には慣れていたのと、内容を隅々まで把握していないと困るのは自分自身なので真面目に読んでいく。そして、それは3人とも同じらしく、真剣な眼差しで書類に目を通していた。
『後はサインをするだけね』
そうやって最後まで読んで内容を把握した私は心の中で呟き、誓約書と一緒に渡されたボールペンでサインをしてから織斑先生に提出する。すると、篠ノ之さんも私に続くように提出し、やや遅れてからセシリアさんと凰さんも提出した。
「この後、個別に事情聴取を行うので、それまで教室で待機しておくように。話は以上だ。行っていいぞ」
提出された誓約書を一瞥した織斑先生は、いつものように簡潔に用件だけを述べると、さっさと部屋から出て行ってしまった。なので、残された私達は困惑した表情を浮かべて互いに顔を見合わせるしかない。
「えーと、とりあえず、教室に移動しない?」
このまま黙っていても仕方が無いので、この後の事も踏まえて無難な提案をしてみる。
「そうですわね」
「いいんじゃない」
「ああ、そうだな」
セシリアさん・凰さん・篠ノ之さんと三者三様の答えが立て続けに返ってくる。しかし、どうにも彼女達は“心ここにあらず”といった感じで、どこか上の空である。
それでも彼女達は私が歩き出すと一応は後に続いて歩き始めたので、どのタイミングで先程の戦闘についての話を切り出すかを考えようとした。すると、その矢先にセシリアさんの方から話を振ってきた。
「そう言えば、クリスさん。途中から姿が見えませんでしたが、どこに行ってらしたんですの? わたくし、クリスさんにも声を掛けようと思いましたのに」
「実は、少しでも情報を集めようと思ってあちこち走り回ってたの。ま、そんな事をしてる間に終わっちゃったけどね」
それらしい口調で無難な理由を言い、軽く肩をすくめてみせる。勿論、本当の事を言う訳にはいかないので事実を混ぜた嘘だ。
「でしたら一言、声を掛けて欲しかったですわ」
「それは……、なんとなく声を掛けづらい雰囲気だったから……。でも、今度からは気を付けるね」
彼女が軽く溜息をつきながら話すので、私は申し訳なさそうに聞こえるよう意識して謝罪の言葉を述べた。すると、やや明るくなった口調で短い返事が返ってくる。
「ええ、ぜひ」
その返事を聞き、この問題については一段落ついたと判断する。そこで私は本当に訊きたかった事へと話題を切り替える為、この中では最も長く戦っていた凰さんの方に視線を向けて話し掛けた。
「ねえ、凰さん。さっきの襲撃なんだけど、どう思う?」
「随分とストレートな質問ね。て言うか、なんであたしに聞くわけ?」
彼女の場合は下手に回りくどい言い方で質問をするよりはストレートに尋ねた方が良いと考えての事なのだが、当然のように質問で返されてしまう。もっとも、この程度の事は想定済みなので私は直ぐに次の言葉を発する。
「だって、この4人の中だと1番長く戦ってたんでしょう? だったら、その分、気付いた事とかも多いのかなーと……」
「それもそっか」
すると、あっさりと彼女は納得してくれた。
「でも、あたしだってよく分かんないんだよねー。いきなり乱入されて、そのまま戦闘になっちゃったからさ……」
そう言って凰さんは肩をすくめ、“お手上げ”といった感じの仕草をする。それでも私は少しでも多くの情報を聞き出そうと考え、怪しまれない程度に彼女に食い下がってみた。
「じゃあさ、何か変わった事とか無い? どんな小さな事でも良いんだけど……」
「はあ!? だから、いま言ったじゃん! いきなりの事で――」
同じ事を繰り返して話すのが面倒だったのか、彼女は語気を荒げて言い返そうとしてきたが、途中で何かを思い出したようで急に言葉が止まる。そして、やや落ち着いた口調で“ある事”について話してくれた。
「そう言えば、あの乱入してきたISって無人機だったらしいわよ」
「え? 確か、ISって人が乗らないと動かないんじゃ……」
「普通はね。だから、あたしだって最初は驚いたわよ。でも、そう考えると妙にしっくりくる部分があんのよねー。それに、実際、誰も操縦者の姿は見てない訳だし……」
流石に、この情報には私も驚きを隠せず、思わず素の表情を晒してしまった。幸い、ここに居る3人には失態は気付かれなかったらしく、今のところ私に疑いの目は向けられていない。
それよりも重要なのは、この情報が真実なら10年前の『白騎士事件』に続き、またしてもオーバーテクノロジーが出現したという事の方だ。
「ま、確証は無いけどね」
そう最後に付け加えると、彼女は何事も無かったかのように話を終えてしまった。そして、それから1分も経たない内に私達は教室へと到着し、今は事情聴取の為に呼ばれるのを大人しく待っている。ちなみに、あれから全員が黙り込んだままで一言も発していない。
<ねえ? さっきの凰さんの話、どう思う?>
ちょうど良い機会だと思ったので、私はクリストファーの意見を聞いてみる事にした。すると、僅かに遅れて久し振りに彼が口を開く。
<それが事実なら、また世界が根底からひっくり返るだろうな。もっとも、『この学園に襲撃があった』という話は既に世界中に流れてるだろうから、今頃は世界各国が情報収集で大慌てだろうよ>
<その割りには、まるで他人事みたいに話すのね>
<凰が最後に言ってただろ? 『確証が無い』と。まさに、その言葉通り、現状では未確認情報ばかりで何も断定できないからだよ>
それでも何処か冷めたような口調の彼に私は不信感を抱き、さらなる追求を試みる。
<ねえ、何か隠してない?>
<別に何も隠してないさ。さっきも言ったように、確証が無い以上、ここで何を言ったとしても無意味だろう。まあ、でも、強いて挙げるなら……>
<挙げるなら?>
<あれだけの攻撃を実行に移せる連中は世界中を捜しても、そうそう居ないって事だろうぜ。なにせ、一定規模以上の組織力と資金力に加え、高い技術力も必要となるからな。それに、絶対に尻尾を掴まれない自信もあったんだろうよ>
そう語るクリストファーの様子には、どこか諦めに近いものがあった。なぜなら、彼の推測が正しければ末端の私達には真偽を確かめる術が何も無いからだ。
<ま、自信過剰な奴の計画が偶然、成功しただけかもしれないが……>
彼が半ば自嘲気味に呟いた直後、教室に山田先生が現れて私の名前を呼ぶ。
「キャンベルさん。私と一緒に来て下さい」
「はい。分かりました」
この一瞬で表向きの生徒としての姿に戻った私は事情聴取を受ける為、彼女の指示に従って静かに教室を後にする。ちなみに、その後の事情聴取自体は形式的なものだったので、大きな問題や焦るような事態には最後までならなかった。
ようやく、原作1巻の内容が全て終わりました。こうして見ると、まだまだ始まったばかりで地味な回が多かったような気がします。まあ、だからと言って、次から急に変わる訳でもありませんが……。
勿論、次回からは原作2巻のエピソードに突入するので、どうぞよろしくお願いします。