獅子神皓(いぬやしき)
ここは、地獄。生前に悪い事をした魂が落ちる場所。苦痛と恐怖を代償に、閻魔裁判で判決された年数を過ごす。
その中でも、救いようのない外道を拷問する担当に、新たな新人が就任した。
その新人の名は、優鬼。両親の鬼より、優しい子に育ってほしいという願いから名づけられた鬼である。
彼にとって、亡者も異教の神も関係なく、己の肉体で捻り潰していく。
そんな獄卒として働く鬼の子優鬼は、今日も元気に拷問をしていた。
今日も、地獄は炎で燃え盛る。獄卒の怒鳴り声と逃げ惑う亡者の悲鳴が混ざり合い、不協和音を奏でている。
最初は耳栓をしながら作業していた優鬼も、数か月も経てば慣れたもので、今では鼻唄を歌いながら拷問の準備を始めていた。
「さ~て、今日の拷問は、獅子神皓ね。大人しそうな少年が、大量殺人鬼だなんてねぇ。現世も末だね」
優鬼の目の前で、三角柱の材木盤に正座させられている少年の名は、獅子神皓。
生前は、宇宙人の身体を改造された改造人間である。人智を越えた能力を手に入れた少年は、生への実感を得るために大量殺人を犯し、誹謗中傷した人間から無関係な人間まで惨殺してきた正真正銘の外道だ。
「バン」
獅子神は、何度も優鬼に指鉄砲を構えて、バン!と連呼した。しかし、多くの人を死に至らしめた能力は発動しない。それどころか、声が虚しく自分の耳と目の前にいる鬼の耳に響くだけだった。
彼の心には焦りが生じていた。死にたくないという生への渇望、これから殺されるという恐怖。それは、初めての経験だった。
「なんでだ。なんで、なんで、なんで!」
「もういいかな?初めてされる拷問は緊張するよね?大丈夫だよ、なるべく痛くしないから」
予防接種のお医者さんみたく微笑んだ優鬼は、右手に持っていた金棒でぐちゃり!と、彼を叩き潰す。
獅子神は、打撲による衝撃で、脳漿と共に脳みそが飛び散り、眼玉が地面に零れ落ちた。身体が灼熱のように熱くなり、言葉に出来ないほどの痛みが彼の全身を駆け巡る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
優鬼は、痛みで絶叫する獅子神を余所に、彼の肉体を巨大な擂鉢に投入する。そして、作業台に飛び移り、またもや巨大な擂粉木でゴリゴリと擂り潰す。手足が残っていた粗い肉体が、魚のすり身と似た感じの肉塊へと変化する。
優鬼は、いい汗をかいたといわんばかりに、手拭いで額の汗を拭った。そして、消毒の上、ビニール手袋とエプロンを装着した優鬼は、こねこねと一生懸命、掌で団子状に丸めていく。ピラミッドのように積み重なった亡者の肉団子を巨大な油の海に落とし、狐色になるまで揚げる。最後の仕上げとして、特製デミグラスソースを上から掛け、見た目だけは立派な肉団子が完成した。
「肉団子の出来上がりだ!よし、閻魔大王に食わせるか」
その晩、現世でいう裁判の総責任者である閻魔大王の食卓には、豪華な料理が並べられていた。人類最初の使者にして、巨躯の閻魔大王。強面な見た目の閻魔大王は、白米を頬張り、味噌汁を啜る。そして、ちらちらと気になっていた肉団子に目を付け、一口で食べる。
若くして閻魔大王の三代目食事当番を務める優鬼は、閻魔大王の近くで待機していた。
「この肉団子、美味いなぁ。優鬼、これは何の肉だ?」
「はい、亡者の肉で拵えた肉団子です」
「ぶふぅーーー!!」
閻魔大王の問いに、平然と答える優鬼。肉団子の原材料を聞いた閻魔大王は、顔を青ざめながら吐き出す。
「優鬼ぃ!何故、亡者を儂に食べさせる!?綺麗に完食してしまったではないか!」
「面白そうだか…今日の料理の腕を披露したく、使用いたしました」
「だったら、普通の食材でよくない!?それに、さっき面白そうだからって言おうとしただろ!どこの地獄の第一補佐官みたいなドS精神!?そこは真似しなくていいんだよ!」
「ちっ!」
「舌打ち!?しかも隠さず!?」
ぎゃーぎゃーと抗議する閻魔大王を無視して、優鬼は明日の献立と新たな拷問もとい調理方法を思案していた。
「よし、明日はハンバーグにしよう!」
「無視しないでよ!」
「うっさい、ハゲ」
「酷い!?」
これは、地獄に落ちた様々な外道を相手に、獄卒業務に勤しむ一人の鬼のお話である。