東方scp財団幻想録 彼の99回目   作:妖ヶ夢

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9話 現世:ブライト博士の安否

 

「何なんだよ、またテロリストに攫われたのか?」

 

現在進行形で、俺は謎の粗末な袋の中に押し込められている。外からは、頭に直接響くような、不自然にノイズの混じったヒソヒソ話し声が聞こえていた。

 

バサァッ!

 

袋が荒々しく剥ぎ取られ、急に視界が開ける。

 

「やぁこんにちは。急すぎてビックリしてるかい?」

 

俺は椅子に固く縛り付けられていた。目の前にいる男は、顔のパーツが歪んで見えるほどの、不気味な笑みを浮かべている。こいつは誰だ?

 

直感が告げている。目の前にいるのは、ただの人間じゃない。認識そのものが汚染されそうな、形容しがたいタイプのクソッタレだ。

 

「やぁクソッタレ。俺はお前が大嫌いだぜ。見ず知らずの奴に拉致されて、ビックリしない奴がいるかよ」

 

「まぁそんなこと言うなよ、ブライト博士」

 

「このクソ野郎が、二度と俺の名前を呼ぶな! 用件を言え、何の用だ!」

 

「そんなに怒るなよ。カッカしてたら白髪が増えるよ? まぁいいや、自己紹介をしよう。僕の名前は███って言うんだ。よろしく」

 

男は一歩近付き、狂気を孕んだ目で俺を見下ろした。

 

「早速だけどさ、財団を裏切らない? こっちの味方に着いてくれたら……世界が終わった時、ちゃんと殺してあげるよ」

 

脳裏に、強烈な不快感が走った。

[88888] ――それは脳に侵入する、未知の概念の足音

 

「……良くは思えないな」

 

「そうかな? 永遠に死ねない君にとっては、これ以上ない最高の提案だと思うよ。これを断ったら、君は絶対に後悔することになる」

 

[88888] ――何かが変わり始めた

 

「そうかもな。俺は後悔するかもしれない」

 

「そうだよね。いっそ僕たちと手を組んで、楽になろう?」

 

[88888] ――「それ」は形を得て、俺の脳を物理的に握り潰そうとしてくる。だが、俺は数え切れないほどの地獄を見てきた男だ。

 

「だがな……それでも俺は、お前らみたいな奴と手を組むつもりは毛頭ない。出直してきやがれ、クソ野郎が!」

 

男の笑みが、ピタリと止まった。その瞳から、急速に人間らしさが消失していく。

 

「わかった。それが君の選んだ未来なんだね。――本当に、残念だ」

 

[88888] [88888] [88888]

 

ソイツは引きつった笑みを浮かべたまま、俺の耳元に顔を寄せ、何かを囁いた。

その瞬間、俺の頭の中で、何かが完全に弾け飛んだ。

 

「誰も逃げることは出来ない楽しみだなブライト博士お前の仲間もすぐに堕ちるぞ」

 

 

888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888

 

 

 

 

 

「なぁクレフ、こんな場所に本当にブライトの野郎がいるのか?」

 

じっとりとした湿気と猛暑が肌を焼きにくる。今、俺たちは赤道直下の異国の地にいた。どうやらブライトは、ここに拠点を置くカオス・インサージェンシーの部隊に攫われたらしい。

 

「あぁ、まず間違いない。あいつのデスクに転がってたUSBから引っこ抜いた情報だ。……それよりコンドラキ、これからカチコミに行こうって日ぐらい、鼻にシナモンつけるのはやめろ」

 

「別にいいだろ。これが俺のアイデンティティみたいなもんだ」

 

そんな軽口を叩きながら、俺たちは車を走らせ、目的の座標へと向かった。

 

やがて見えてきたのは、鬱蒼としたジャングルに埋もれるように佇む巨大な建造物だった。

 

「ここか、クレフ。どう見てもオンボロのデカい倉庫にしか見えないんだが」

 

「カモフラージュとしては上出来だろ。ここで合ってる。武器の用意はいいか? 最低でもショットガンは持っとけよ。向こうも重武装のはずだ」

 

「わかってる。念のために『蝶』も連れてきてる。こいつらで隠密行動を仕掛けるぞ」

 

「あぁ、事案-408か。さすが『蝶々たちの王』だな」

 

「違う。『ちょおちょお達の王』だ。二度と間違えるな」

 

「はいはい、そいつは失礼。……よし、行くぞ」

 

俺の合図とともに、無数の幻覚蝶(SCP-408)が周囲の光を屈折させ、俺たちの姿を風景と同化させる。完璧な迷彩状態のまま、薄暗い建物内へと侵入した。

一階には人の気配がない。だが、建物の奥へと進むと、地下へ続く不気味な階段を見つけた。

 

「足を早めるぞ、コンドラキ」

 

音を立てずに階段を降りていく。下層に近づくにつれ、男たちの荒々しい話し声が響いてきた。

 

「ここからは完全な隠密だ。蝶の隠密範囲から絶対に離れるなよ」

 

銃を手にした二人の警備兵が、すぐ目の前で話し込んでいる。その脇をすり抜けようとした、その時だった。

 

――ガタンッ。

 

クレフの足元が、床に転がっていた空き缶を跳ね上げた。静寂の中に鋭い金属音が響き渡る。

 

「……誰だ!? そこにいるのは!」

 

敵が異変に気ずき、銃口をこちらに向ける。隠密はここまでだ。あまりにも早すぎる

 

「クレフ、せぇのであいつらをボコすぞ!」

 

「せぇの!」

 

俺たちは自ら迷彩を解き、敵の目の前に猛然と姿を現した。

 

敵は二人。一人は凶悪なミニガンを構え、もう一人はアサルトライフルを握っている。

 

「クレフ、お前はミニガン持ちを黙らせろ!」

 

俺はアサルトライフルを持つ男へと肉薄する。男は引き金に指をかけたが、俺との距離が近すぎることに気づき、射撃を断念。銃身を構え直し、近接格闘で俺を叩き潰そうと突進してきた。

 

フック気味に放たれた敵の蹴りを、紙一重で体を捻ってかわす。

 

間髪入れずに男の重い拳が顔面を狙って飛んできた。俺はその勢いを逆手に取り、突進してくる腕を掴んで巻き込むようにひねり上げる。

 

鈍い破壊音が響き、男が苦悶の声をあげた。しかし敵も訓練された兵士だ。痛みに叫びながらも、執念で軸足を払うような蹴りを繰り出してくる。

 

俺は素早くしゃがみ込んでその蹴りをすり抜けると、そのまま男の残った片足の足首を強烈に払った。

 

完全にバランスを崩した男が、背中から激しく床に叩きつけられる。

 

すかさずその胸元へ馬乗りになり、自由な拳をその顔面へと叩き込んだ。

 

鈍い衝撃とともに、男の身体から完全に力が抜ける。

 

「ふぅ……」

 

息を整えて顔を上げると、すでにクレフの戦闘は終わっていた。ミニガンを持った男を足元に転がし、クレフ楽しむような顔で俺のフィニッシュを見届けていた。

 

 

そこから、いくつかの部屋をクリアして進んだが――不意に、通路の奥から最後と思われる敵の集団の声を聞きつけた。

「あいつらもさっさと殺るぞ。多分だが敵は5人、気張っていこう」

 

「あぁ、行くぞ」

 

「せぇの――」 

 

飛び出した視界に映ったのは、ミニガン持ちが2人、パンジャドラムを抱えた特攻兵が1人、そしてアサルトライフル持ちが2人。 

 

――流石にまずい。室内戦でその火力と殺り合うのは自殺行為だ。よし逃げよう

 

「流石に不味いし、俺は先に離脱するわ。じゃあなクレフ!」

 

「はぁ!?」

 

 

【視点交代:アルト・クレフ】

 

 

「あぁ、馬鹿野郎……!」

 

コンドラキの奴は、吐き捨てるのと同時に無数の幻想蝶を呼び出し、その光の中に紛れてどこかへ消えてしまった。最悪のタイミングでの敵前逃亡だ。

 

 だが、文句を言っている暇はない。敵の銃口がすでにこちらを捉えている。 しかし、距離はまだ近い。やるしかないか。 俺は一歩踏み込むと、アサルトライフルを構えた男の銃身の先端を強烈に叩き上げた。銃口が跳ね上がり、背後にいたもう1人のアサルトライフル持ちの胸を撃ち抜く。同士討ちだ。

 

敵が怯んでいる隙にもう片方の手でコートの裏から特製の散弾銃をぶち抜いた。轟音と共に、肉薄していたミニガン持ちの2人が血煙を上げて崩れ落ちる。

 

残るはパンジャドラム持ちと、体勢を崩したアサルトライフル持ちの1人。 間髪入れずにアサルトライフル持ちを関節技で極め、床にねじ伏せて無力化する。だが、その一瞬の体術の隙を、パンジャドラムを抱えた男は見逃さなかった。

 

超至近距離。男は狂信的な笑みを浮かべ、その信管を俺へと向ける。 

 

――詰みだ。 

 

この室内でアレをぶちまけられたら確実に死が待ってる

 

そう覚悟した、その瞬間。

 

 ――ガァン!!! 

 

強烈な金属音が鼓膜を震わせ、パンジャドラムの信管ごと、男の頭部が真横から消し飛んだ。 返り血を拭いながら視線を向けると、そこには三脚を構えた見慣れた男が立っていた。

 

「……お前、逃げてなかったんや」 

 

俺の言葉に、コンドラキはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、手元で幻想蝶を遊ばせながら肩をすくめた。

 

「あぁ。流石にお前でも、これは厳しそうだったからな」

 

「これで最後の部屋だな」

 

敵兵が執拗に守っていたこの部屋だ。奥に『何か』があるのは間違いない。

 

「入るぞ」

 

扉を蹴破った。

室内にいたのは、見覚えのある首飾りを身につけた、謎の人型実体だった。

 

「その首飾り……お前、ブライトか?」

 

問いかけた、その瞬間だった。

 

――シュッ!

 

空気を切り裂く鋭い音が響き、目の前を白刃が通り過ぎる。

奴の瞳に理性はない。明確な敵意を持って、こちらを睨みつけている。

 

「どうしたんだ、ブライト!」

 

呼びかけは届かない。奴はさらに距離を詰め、容赦なく刀を振るってくる。

 

「流石に不味いな。クレフ、本気でこいつを殺(や)るぞ」

 

手元にあるのは三脚とショットガンだけだ。距離が近いことからショットガンを使うことは断念した方が良いだろう間合いの不利な近接戦など御免被りたいが、やるしかない。

 

「待てコンドラキ、妙だ。ブライトがこんな真似をするはずがない。それに、この斬撃のスピードは早すぎる。この『器』、生前は相当なやり手だったらしい。気をつけろ」

 

クレフがナイフを構え直しながら、鋭い声を張り上げた。

 

「それと多分だが……今のブライトは、強力な精神汚染を受けている!」

 

「チッ、来るぞ!」

 

俺が警告するのと同時に、ブライトの『器』が地を蹴った。

 

人間業とは思えない踏み込み。一瞬で間合いを詰められた、咄嗟に三脚の腹で、振り下ろされた日本刀を受け止める。

 

――キィィィン!

 

金属同士が激しく擦れ合い、火花が暗がりの部屋を照らした。

重い。並の兵士ではない。刀から伝わる異常な怪力に、恐怖を抱く。

 

「クソッ、なんて力だ……!」

 

奴はそのまま力任せに刀を押し切り、コンドラキの胸元を裂こうとする。刃が肉に届くかという刹那、真横から凄まじい風切り音が肉薄した。

 

「そこをどけ、コンドラキ!」

 

クレフだ。その手には、いつの間にか取り出したショットガンや俺と同じ三脚ではなく、鈍く光るナイフが握られていた。死角からの容赦のない一突き。

だが、ブライトの器はそれを予期していたかのように、超人的な反射神経で刀を引き抜き、後方へバックステップを踏んで鋭い刺突をかわした。

 

「嘘だろ、あの体勢から避けるかよ」

 

クレフが忌々しげに吐き捨てる。

ブライトを操つり人形にした何者かは、その『器』が持つ生前の戦闘技術を完全に引き出している。流れるような構え、一切の無駄がない足運び。

 

「コンドラキ、まともに受けるな! 刀のリーチに対抗するぞ。俺が意識を引く、お前は隙を突いて首飾りを狙え!」

 

「言うのは簡単だな!」

 

戦闘狂としての血が騒ぐのか、俺は元に狂気じみた笑みを浮かべる。正気じゃない

次の瞬間、ブライトの器がコマのように回転しながら、横一線の鋭い一閃を放った。

クレフが身を低くしてそれを潜り抜け、奴の懐に飛び込んでナイフを突き上げる。しかし、奴は刀の柄(つか)でクレフの手首を強打し、軌道を逸らした。

 

「ハハッ、こっちだブライト!」

 

その隙を見逃さず、そのまま側面から突撃する。

狙いは胸元で不気味に輝く、あの赤色の首飾り。ブライトの魂が縛られた、忌まわしきSCPオブジェクト。

三脚の腹が、頭へ向かって真っ直ぐに突き出された。

三脚が、首飾りのチェーンへ肉薄した。勝った、そう確信した刹那。

 

「――甘いな」

 

ブライトの器の口から、おぞましい掠れ声が漏れた。

奴は避けた不可能な動きで。

 

「なっ……!?」

 

驚愕する俺の隙を見逃すはずもなく胸ぐらを、奴の左手が鋼鉄の万力のように掴んだ。凄まじい怪力で俺の身体が宙に浮き、そのままコンクリートの床へと叩きつけられる。

 

「がはっ……!」

 

肺の空気を強制排出され、俺の視界が火花を散らす。

ブライトの器は、冷酷に日本刀を逆手に持ち替えた。狙いは俺の首筋ただ1つ。完全に、形勢は逆転した。

 

「コンドラキッ!!」

 

クレフが叫び、必死の形相で背後から組み付こうとする。だが、ブライトの器は信じられない速度で後ろ回し蹴りを放ち、クレフの顎を正確に撃ち抜いた。

脳を揺らされ、膝をつくクレフ。

ブライトの器が、再び俺を見下ろす。刀身が、冷たい光を放ちながら振り上げられた。もはや、受け流す武器も、避ける体力も残されていない即死だ。

 

「クソが……おい、コンドラキ! 逃げろッ! 這ってでもここから失せろ!!」

 

あの冷徹なクレフが、声を枯らして絶叫した。

死を覚悟した俺はが奥歯を噛み締めた、その時だった。

 

――ズウゥゥゥン。

 

世界が、突如として激しく鳴動した。パキパキと音を立てて空間に亀裂が走り、そこから溢れ出たのは、人間の理解を拒むようなナニカだった。

光の裂け目から、それは静かに現れた。

 

その絶対的な威圧感を前に、精神汚染されていたはずのブライトの器さえも、本能的な恐怖からか、小さく身震いをした。

 

「――随分と賑やかなだね僕がいない間にネズミが入ったか」

 

88888

 

何かかは分からないだがひとつわかるのは

『 それはまるで最悪な終焉のような』

 

「お前は死にてぇのかさっさと失せろ!」

 

痛む身体を無理やり動かし、床に落ちていたナイフに手を伸ばすが...

 

「おぉやめてくれよあと僕はブライトの仲間だから退く訳には行かないんだ!!」

 

88888

 

不可視の衝撃波が俺の体に直撃し、俺の身体は弾け飛んで壁に激突する。骨の砕ける鈍い音が響く初めて聞く自分の骨が粉砕された音だ、血を吐いて完全に崩れ落ちるのが自分でも分かる。

 

「コンドラキ……! クソが、この化け物め……!」

 

クレフが必死に立ち上がるって、懐から隠し持っていた銃を抜こうしている。だが、神格実体はすでに、彼の目の前に『音もなく』移動していた。傍から見ていた俺でも見えなかった。

 

「ほらブライト君の仲間はこの程度なんだよ」

 

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「が、あ……ッ!!??」

 

クレフの口から、言葉にならない悲鳴が漏れる。

神格実体口から出た謎の声がクレフの色を上書きしているのだろうクレフの瞳から光が消え、濁った灰色に変色していくあいつの強靭な精神が、一瞬で書き換えられていくのが分かった。

 

「これで一人じゃあ君も」

 

88888

 

神格実体は、こちらへと向き直る。

その背後では、完全に自我を失い、操り人形のようになったクレフが、虚ろな目でじっと佇んでいた。

なぜ俺は何も出来ない?

 

「さあ君達も結局その程度だ」

 

88888

 

抵抗する術を持たない俺の視界を、神格実体の放つ、耳元で囁かれる丁寧な声が、俺自身の思考を、記憶を、自我を、急速に融解させていった。

 

 




クレフ博士の人事ファイル
著者:Dr.Clef
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/forum/t-100224/drclef-member-page
作成年:2008

ブライト博士の人事ファイル
著者:Dr.Bright
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
作成年:2008

コンドラキ博士の人事ファイル
著者:Dr.Kondraki
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/forum/t-98754/dr-kondraki-s-personnel-file
作成年:2008
(SCP-408 SCP-515-ARCもコンドラキ博士の作品の為割愛)
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