東方scp財団幻想録 彼の99回目   作:妖ヶ夢

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2話 幻想郷:宵闇の強襲

気がつくと、僕は見知らぬ森の中に横たわっていた。意識が急速に覚醒していく中、冷たい土の感触と鬱蒼とした巨木の隙間から差し込む木漏れ日が、ここが非日常の空間であることを告げていた。僕はこれまでのことを思い出す。眠らされる前は激昂していたが今は嫌に冷静だ

 

「眠らされたということは……たぶん、ここは『幻想郷』なんだろうな」

 

 状況を整理しようとして、僕は思わず今日ため息を吐き出した。

 

「はぁ、なんでこんな目に。僕も一応、財団の戦術神学部門のトップなのにな。連れていくなら、平山博士にしてほしかったよ」

 

 愚痴をこぼしていても事態は好転しない。僕はすぐに思考を切り替え、周囲を鋭く見渡した。近くの草むらに、見覚えのある標準支給品のバックパックが転がっているのを発見する。開けて中身を確認すると、詰め込まれた装備品が目に入った。

 

「ええと……グロック17に、反ミームネズミの認識阻害迷彩服。デザートイーグル、煙幕が10個、それに大量の予備弾薬か。あとはヒューム値測定器、スクラントン現実錨、カロリーメイトが3日分。記憶補強材と記憶処理材がそれぞれ20回分……。どう考えても2年間も維持できる量じゃないな。要するに、頑張って現地調達しろということか。本当に生き残れるかな、これ 05と倫理委員会は精神汚染されてるのか?」

 

 試しに認識阻害迷彩服の袖に触れてみる。僕の目にはその輪郭がはっきりと見えているが、これは僕が持つ特殊な体質の恩恵だった。ある程度の認識阻害であれば自力で見破ることができるため、僕の視界には影響がない。しかし、外部の人間から見れば、完全に背景へと溶け込む透明人間と化しているはずだった。

 

 続いて、携行型のヒューム値測定器を起動する。事前に目を通していた財団の極秘報告書が正しければ、この異常領域の現実性は著しく低いはずだ。

 

「ええと、現在のヒューム値は0.8か。予想通り低

いな」

 

一般にヒューム値が低下した空間では、因果律が歪み、怪異や異常現象が活性化しやすい。通常の人類にとっては、ただ滞在しているだけで精神や肉体が摩耗する危険な領域だ。しかし、僕のバックパックにはスクラントン現実錨(SRA)が稼働している。周囲の現実性を強制的に固定しているため、僕自身が空間の歪みから悪影響を受ける心配はなかった。

 

これからのサバイバルプランと、この世界の住人との接触方針について思考を巡らせようとした、その瞬間だった。唐突に周囲の光景が一変し、濃厚な完全なる暗闇が僕の視界を包み込んだ。

 

「――敵襲か」

 

どちらにせよ、戦闘になるならボコボコにするだけだ。僕は暗黒の空間に向けて、あえて毅然とした声を張り上げた。

 

「誰ですか!」

 

 返答はない。何も見えない虚無の空間。

 

 これが報告書に記載されていた、この世界の「奇跡論」に類似した超常の術式によるものなら、もはや対話による衝突回避は不可能な領域に入っている。それでも念のため、僕は相手の出方を伺った。

 

 闇の奥から、幼くも飢餓感に満ちた声が響く。

 

???「もう無理なのだー……お腹が減って、我慢できないのだ!」

 

 その直後、漆黒の帳を引き裂くように、赤く不気味な光を宿した球状のエネルギー弾が猛烈な速度で飛来した。やはり報告書の記述は正確だった。迎撃の初動が遅れ、直撃した赤い弾が僕の脇腹を激しく打ち据える。

 

昇「くっ……!」

 

 鋭い激痛が走る。即座に反撃へと移ろうとしたが、手元のグロック17にはまだ弾薬が装填されていない。敵の追撃速度を考慮すれば、リロードの時間すら与えられないのは明白だった。何より、初手から銃器を使用してこの世界の先住民を射殺してしまえば、後々の情報収集や交渉において致命的な不利益を被るという直感があった。

 

なら、最初から『あれ』を使うしかないな僕が覚悟を決めた瞬間、不意に周囲を覆っていた濃密な闇の霧が、急速に晴れていった。

 

 この突然の視界回復は、襲撃者であるルーミアが自ら動き出したためであった。彼女の能力は、自身の周囲に闇の塊を纏う性質を持つ。獲物である僕の正確な位置を視認し、確実に捕食するための直接攻撃へと移るプロセスにおいて、彼女は自ら闇の霧から顔を出し、その全貌を現したのである。

 

 視界の確保。反撃の好機だ。

 

 視線の先には、両手を広げてこちらを睨みつける、幼い少女の姿をした妖怪がいた。彼女は追撃として、赤い弾を放ちながら僕へと向かってくる。 

 

昇「っ――『確率論的回避』!」

 

 僕は全神経を集中させ、迫り来る弾の軌道を一瞬で見切った。超人的な速度で襲いかかる攻撃を、肉体を最小限にひねることで、すべて的確に、文字通り紙一重で躱していく。攻撃が止み、一瞬の静寂が訪れた。

 

昇「こっちのターンだ!『剛力羅漢の構え』――『共振脚衝』!」

 

 僕が今行使している体術は「財団神拳」と呼ばれる超常武術だ。その全容を習得するには、並大抵の人間なら最低でも7年の過酷な修行を要する。財団神拳は独自の「構え」と「技」の二段階で構成されており、それらを最適に組み合わせることで、破壊力を幾乗にも底上げすることが可能となる。

 

僕はわずか7年の実践経験だけで、この武術をゼロから開発したオリジネイターと同等の領域に到達していた。現在、この世に存在するすべての財団神拳の型を完全にマスターしているのは、開発者本人と、戦術神学部門のトップである僕の二人のみである。

 

 踏み込んだ足元から大地へと衝撃波が伝わり、僕の放った鋭い回し蹴りが、空気の壁を破って少女の懐へと突き刺さった。肉体への直接的な破壊を避け、衝撃のみを内部に浸透させる「共振脚衝」の直撃を受け、少女はなす術もなく地面へと転がり、そのまま動かなくなった。

 戦闘終了後、僕は警戒を怠らずに10秒ほどの制動時間を置き、呼吸を整えてから少女の元へと歩み寄った。

 

昇「あの、すいません。こんなことをしておいて言える立場じゃないんですけど、急に襲いかかって殺しに来るのはやめてください。普通に痛かったんですよ」

 

 地面に倒れた少女は、弱々しくお腹を押さえながら、消え入りそうな声で呟いた。

 

???「お腹が……減った……」

 

やはり極度の空腹状態だったらしい。先ほどの獰猛な襲撃も、僕を捕食するための防衛本能に近い行動だったのだろう。だとすれば、まさに報告書に記されていた「人間を食す妖怪」の生態そのものである。あの荒唐無稽としか思えなかった財団の異常存在報告書は、やはり紛れもない事実だったのだ。

 

僕は今日何度目か分からない重いため息をつきながら、バックパックからゼリー型のカロリーメイトを取り出し、彼女の口元へと運んだ。

 

その後、現地で安全を確保しつつ火を起こし、簡易的な食事を与えて体力の回復を待った。気がつけば、戦闘から4時間ほどの時間が経過していた。

 

やがて完全に生気を取り戻した少女は、目を丸くして周囲を見回した。

 

???「ここはどこなのだ? 人間さんがいるのだ」

 

昇「元気になったかい?」

 

 僕が声をかけると、彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

「なんでさっき襲った人間さんが、私を助けてくれたのだ? しかも、あんなに酷かった空腹がすっかり収まってるのだ。たはー☆」

 

「一つずつ説明させてほしい。僕は高柳。君に突然襲撃されたから、身を守るために撃退した。そのあと、倒れた君を助けてご飯を食べさせた。そういうことだよ」

 

ル「そーなのかー。だったら、ちゃんとお礼をするのだ! 私の名前はルーミア。種族は妖怪なのだ!」

 

 自己紹介の言葉が嘘か本当か、今の僕には判断する術がない。しかし、この見知らぬ土地で生きていく以上、彼女の言葉を信じるのが最善の選択肢だろう。

 

僕は支給品の詰まった重いバックパックを肩に担ぎ直し、微笑みを浮かべながら言った。

 

昇「ありがとう、ルーミア。もし可能なら、人間が住む『人里』という場所に行きたいんだけど、そこまで案内してもらうことはできるかな?」

 

ル「分かったのだ! 案内するのだ!」

 

こうして、財団の戦術神学部門トップである僕は、妖怪ルーミアであるルーミアに着いていったのだった。

 

 

 




ちなみに今回のヒロインはルーミアではありません

           出典

著者: Kwana
タイトル: SCP-710-JP-J - 財団神拳
URL: http://scp-jp.wikidot.com/scp-710-jp-j
作成年: 2014年

著者: sakagami
タイトル: INTRODUCTION OF 財団神拳
URL: http://scp-jp.wikidot.com/sakagami006-portal-of-foundation-shinken
作成年: 2016年
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