「あなた、意外とセンスあるのね。たったの四時間で弾幕を習得してしまうなんて。普通の人間なら基礎すらできないというのに。」
博麗神社の縁側。夕暮れ時の赤く染まった空の下で、霊夢は少し驚いたような、それでいて値踏みするような鋭い目で、僕の顔をまじまじと見つめていた。
彼女が言うには、弾幕を短時間で扱えるようになる人間は、幻想郷が広いといえどもごく僅からしい。
「ですが……まだ威力も低いですし、スピードも遅い。お世辞にも実戦で使えるレベルだとは思えません」
僕が謙遜するように苦笑いすると、霊夢はゆっくりと首を横に振った。
「そんなことはないわよ。普通の実践で使えるレベルだわあなたは自分の事を過小評価しすぎよ私だって、初めて弾幕を習得するのにはそれなりに時間が掛かった記憶があるもの。……ふと気になったんだけど、今のあなたの状態を見ていて思ったのよ。ひょっとして、あなた自身に何か特別な能力が発現しているんじゃないかしら?」
「能力、ですか? そんな、僕に特別な力なんてあるわけないじゃないですか」
「幻想入りしてきた人間には、稀にその身に特有の能力が備わることがあるのよ。ちょっと測定してみない?」
「分かりました。もし何か分かるなら、お願いします」
僕が居住まいを正すと、霊夢は懐から小さな玉を取り出し、僕の額にかざした。神社の境内に、微かな霊力が満ちていく。
――少女能力測定中――
やがて、玉が淡い光を放ち、霊夢は満足そうに頷いた。
「結果が出たわ。あなたの能力は『属性を操る程度の能力』よ」
「それって、強いんですかね……?」
「たぶん、かなり強いと思うわよ。自分の属性に合わせてスペルカードを作ることができれば、立派な戦力になるはずだわ。……でも、その話はまた今度にしましょう。能力を測定して私も少し疲れたし、まずはしっかり休憩を取らなきゃね。ということで、早速だけど神社の倉庫の掃除を手伝ってくれる?」
霊夢は当然のようにそう告げた。ただで弾幕の撃ち方を教えてもらっている手前、僕に断る権利などあるはずもない。
「いいですよ。手伝います。ただで弾幕を教えてもらっているわけですから」
僕たちが神社の奥にある倉庫へ移動すると、そこには信じられない光景が広がっていた。
倉庫の頑丈なはずの屋根に、巨大な穴が開いていたのだ。隕石でも直撃したかと思うほどのレベルの大穴から、夕陽の光が埃まみれの床に差し込んでいる。
「な、何よこれ……一体全体、どうしてこんなことになっているのかしら……!」
霊夢が呆然と声を上げる傍らで、僕は穴の真下に落ちている二つの武器に目を奪われていた。
一つは豪奢な装飾が施された美しい『刀』。そしてもう一つは、神秘的な光を湛えた『弓』。どちらもまるでこの世界のものではないような、神々しいまでの存在感を放っていた。
「なにこれ……昇、これ欲しいかしら? 欲しいならあげるわよ」
「本当ですか? ちょうど武器が欲しいと思っていたんです。ありがとうございます!」
僕は食い気味に答えながらも、その二つの武器――『飛龍の刀』と『飛龍の弓』に対して、言いようのない既視感と強い違和感を抱いていた。なぜ僕はこの武器の名前を知っているのだろうか?
なぜだか見覚えがある気がする。これと全く同じものを知っているような……。
恐る恐る、その刀の柄に手を触れた瞬間だった。
まるで頭蓋骨が直接引き裂かれるような、激烈な頭痛が脳髄を駆け巡った。視界が急速に歪み、目の前の霊夢の声が、風の音が、どんどん遠ざかっていく。
「ぐっ……!」
「昇、あなたどうしたの!? 起きなさい、ほら早くたっ……!」
霊夢の必死に叫ぶ声が聞こえたのを最後に、僕の意識はぷつりと暗闇の底へ落ちていった。
―――――――――――――――――――――――――
……思い出せ。
早く起きろ。
いつまで過去から目を背けている。
お前の使命は、一体何だ?
お前は、今回もまた失敗するつもりなのか?
あと何回失えば諦める?
いい加減に起きろ!!
――――――――――――――――――――――――
「――っは、あッ……!」
激しい動悸とともに、僕は跳ね起きるように意識を取り戻した。冷たい汗が全身を流れている。頭痛は嘘のように消えていたが、脳裏にはさっきの「声」の残響が、ひどく冷酷にこびりついていた。
「昇! よかった、気がついたのね!?」
視界が焦点を結ぶと、目の前には眉をひそめて僕の顔を覗き込む霊夢の姿があった。いつの間にか僕は倉庫の床に寝かされていたらしい。彼女の手には、心配そうにこちらを濡れ雑巾で拭こうとした跡が残っていた。
「僕、一体……」
「刀に触れた瞬間に、急に白目を剥いて倒れたのよ。声をかけても全然起きないし、正直焦ったんだから」
霊夢はホッとしたようにため息をつくと、立ち上がって僕に手を差し伸べた。その手を取って身を起こしながら、僕は視線を床へと落とす。そこには、『飛龍の刀』と『飛龍の弓』が転がっていた。
(思い出せ、か……)
謎の声が残した言葉が、胸の奥で不気味に渦巻いている。確かに僕は、この武器の名前を知っていた。使うべき術を知っている気がする。
「ねえ、昇。あなた本当に大丈夫?……顔色が最悪よ」
霊夢の鋭い目が、僕の異変を見逃さずに射抜く。
「ええ、すみません。ちょっと急に立ちくらみがしただけで……もう平気です。」
「そう? ならいいけれど。……ねえ、さっき言っていたその二つの武器、やっぱりただの武器ではなさそうよ。あなたが倒れたとき、その刀からほんの一瞬だけ、とんでもない力が溢れたのを感じたわ」
霊夢は腕を組み、床の武器をじっと睨みつけた。
「昇、あなたに発現した『属性を操る程度の能力』。そしてこの、上空から落ちてきた謎の武器。……どう考えても、偶然で片付けるにはタイミングが良すぎるわね」
彼女の言う通りだ。僕がこの幻想郷にやってきたこと、能力に目覚めたこと、そしてこの武器が僕を呼ぶように博麗神社に墜落したこと。すべてが、見えない一本の糸で繋がっているような予感がしてならなかった。
霊夢は刀と弓を拾い上げ、僕の手にしっかりと握らせた。手の中に伝わる、奇妙なほど馴染む重み。心臓の鼓動が、武器の波動とシンクロするように大きく脈打つ。
「さて、掃除は私がやっておくから、あなたは風にでも当たって頭を冷やしてきなさい。それとあなた何か変よ何かが混ざっているかのような感じほらさっさと行きなさい」
霊夢の言葉に、僕は自分の手のひらを見つめ直した。
霊夢に急かされるまま、『飛龍の刀』と『飛龍の弓』をしっかりと握りしめた僕は、彼女に背を向けて倉庫の外に足を踏み出した。神社の縁側に腰を下ろすと、幻想郷の澄んだ風が僕の火照った頬を撫でていく。その心地よい冷たさが、さっきの激しい頭痛と動悸をゆっくりと鎮めていく。
僕に昔何があったんだろう今僕に何が起こっているんだろうここに来たのも初めてのはずなのになぜ見覚えのある武器があるのだろう。05は何かを知っているのだろうか?だがこのまま行けばこの任務も達成できると自信が沸いてきた。だが一番気になるのは...
「僕は何を忘れているんだ」
僕は小さく呟きながら柄に指を這わせる。僕は過去の事を全て忘れることなく覚えている友達を失ったことも.....
考えているといつの間にか背後から足音が近づいてきている。振り返るより先に、ふわりと甘い香りが僕の鼻腔をくすぐる。
「どう? 少しは頭、冷えたかしら?」
いつの間にか倉庫の掃除を終えていた霊夢が、僕の隣にちょこんと腰を下ろしている。彼女はいつも通りの涼しげな表情を浮かべていたが、その赤い瞳の奥には、かすかな優しさが残っている。
「ええ、すっかり。……本当に、ありがとうございます。」
僕が少し照れくさそうに微笑み返すと、霊夢はふいっと少し大げさに顔をそらした。
「別に、あなたのためじゃないわよ。神社の倉庫で倒れられたら、私が変な目で見られるじゃないそれに……」
霊夢は言い淀むと、ふっと柔らかく、普段の巫女としての顔とは違う年相応のあどけない微笑みを浮かべて、僕の方をそっと見つめ返した。
「あなたが倒れたとき、心臓が止まるかと思ったんだから。本当来てそうそう気絶するなんて迷惑だわだけど……少しは、自分の身を大事にしなさいよね」
「心配、かけてしまいました。……でも、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。嬉しかったです。」
「なに言ってんの」
夕暮れ時の淡い光の中、霊夢の白い肌がほんのりと、夕日とは違う紅色に染まっていく。どうしたのだろうか霊夢は慌ててなぜかそっぽ向く、だがその肩は僕の腕にそっと触れたまま、離れようとはしなかった。
霊夢の隣で高鳴る鼓動を落ち着かせながら、僕は膝の上の武器を見つめる。
だがこれは任務だ僕が何を忘れていようとどちらにしろ役目は果たさなくてはいけないそこら辺でへばっていたら戦術神学部門のトップの名が廃るものだ。
生存率をあげるための方法
幻想郷で戦うための、美しき決闘の法――スペルカードルール。
僕の『属性を操る程度の能力』と、手にある『飛龍の刀・弓』を組み合わせれば、一体どんな弾幕が生まれるだろうか。
僕はそっと目を閉じ、脳裏で自身の剣術と今ある武器と弾幕でスペルカードの案を構築していく。静かに組み上がっていく、新しいスペルカードのイメージ。
「……よし、こんな感じかな」
目を開けた僕は、頭の中で構築した弾幕の名前をサラサラと紙に書き写していった。
火符「炎竜の一閃」
水符「水竜の連撃」
風符「タイフーン・スパーク」
「できました。これどう思いますか?」
縁側で茶をすすっていた霊夢に紙を見せる。
霊夢はまじまじと文字を眺め、ふっと息を漏らした。
「まぁ、いいんじゃないかしら。あとは実戦で試してみるだけだけど……って、あら?」
その時、神社の鳥居の方から「ドカンッ!」と激しい爆発音が響いた。突然の轟音に、境内の静寂が破られる。
「魔理沙かしら。こんな時間に派手な音を立てて来るなんて、珍しいわね」
霊夢が呆れたように溜息をついた直後、魔法使い?が、箒に乗って勢いよく上空から舞い降りてきた。
「おーい霊夢! そこにいる奴は誰なんだぜ!?」
「今日、迷い込んできた能力持ちの『外来人』よ」
「へぇ、最近やけに外来人が多いな」
金髪をなびかせた魔法使いが興味津々といった様子で僕を覗き込んでくる。僕は一歩前に出て、丁寧に一礼した。
「こんにちは。高柳昇と言います」
「おう、よろしくな昇!私の名前は霧雨魔理沙…悪いんだが、さっそく私と戦ってくれよ! 能力持ちなんだろ? 頼むぜ!」
魔理沙は不敵にニヤリと笑い、早くもスペルカードに手をかける。
「ちょっと待ちなさいよ。昇、一応魔理沙も幻想郷じゃトップクラスの実力者よ? 戦うのは推奨しないわ」
心配そうに制止する霊夢。しかし、僕の心はすでに決まっていた。
「はい。さっき考えたスペルカードを試す、絶好の機会です。お相手しますよ。ですがその代わりに刀を使わせてください」
「ひゅぅ、言ったな! いいぜ刀を使ってもよし、じゃあ手加減なしでいくぜ!!」
昇は『飛龍の刀・弓』を構え、魔理沙は箒を浮かせる。
博麗神社の境内で、新たな戦いの幕が上がろうとしていた。
長いので少し遅れました。