「朝のホームルームで言ったと思うが今日は避難訓練があるから放送があったらあわてず指示に従って行動するように」
避難訓練か…正直めんどくさいな……でも真面目にしてなかったら怒られるんだよね。
ふと、戌井さんを見るとものすごく緊張した顔をしていた。
すごい緊張感だ…でも、そんな時でも俺を見るのはやめないんだね……真面目なんだか…真面目じゃないんだか……
そんな事を思っていると急に非常ベルの大きな音が鳴り出した。
『食堂で火災が発生しました。
先生の指示に従って校庭へ避難を始めて下さい』
「よし、全員ハンカチを口に当ててあわてずに避難しなさい」
俺は口にハンカチを当てて教室から廊下に出た。
……なんでだろう…さっきから戌井さんが獲物を狙う獣のような目で俺の方を見てくる……
校庭に向かうためしばらく廊下を歩くと人混みのすごい階段にたどり着いた。
…みんなハンカチを口に当ててないな……人混みがすごいから息苦しいのかな?
俺は口に当てていたハンカチをポケットの中に入れると人混みの中に入っていった。
なんだか暑いし息苦しい…ハンカチをポケットの中に入れて正解だった……
俺は人混みに揉まれながら階段を降りていき再び廊下を歩く。
出口が近いからか周りから喋り声が聞こえてくる。
…出口には絶対先生が待機してると思うから喋らない方がいいと思うよ……
「コラッ!!誰だ喋ってる奴は!口にハンカチを当てて黙って外に出ろ!」
……やっぱり居たよ…とりあえず俺も怒られないようにハンカチを口に当てて……あれ?ハンカチがない…もしかして階段で落としたかな?……でも、戻るわけにはいかないし…しょうがない…
俺は出口で待機している先生にバレないようにこっそりと校庭に出てクラスが集まっている場所まで全力で走った。
…よかった……なんとか…バレずに済んだ……
全校生徒が校庭に避難し終えると消防士から火事の危険性について長い説明が始まる…
「火を点けて台所から離れないこと!それから…」
どうせ毎年言うこと同じなんだからそんなに長く説明しなくてもいいよ……でも、きっと戌井さんは緊迫した表情で話を聞いてるんだろうな…
戌井さんを見ると、戌井さんは話をそっちのけにして両手で大事そうにハンカチを抱えていた。
……あれ?それ俺のハンカチだよね?もしかして拾ってくれたのかな?後で返してもらおう!
…だが、戌井さんは両手で抱えていたハンカチを数秒間見つめると……そのまま大事そうにポケットの中に入れてしまった。
…………ポケットに入れちゃった…まぁ、いいや!そのハンカチあげるから大事に使ってね!
ようやく消防士の説明が終わり、避難訓練恒例の消火訓練が始まった。
「誰か前に出て消火してくれる人!」
……だが、誰も前に出たがらない…
…全校生徒の前で消火訓練の実演をやりたいって人うちの学校にはいないでしょ……
ふと、顔を上げたら消防士の人と目が合ってしまった。
「今、目が合ったそこの男の子前に出て!」
……俺は顔を上げてしまったことを後悔しながら前に出た…
「学年と名前を教えてください」
「2年鹿野 春風です」
「それじゃ鹿野君!大きい声で火事だー!!って叫んでこの消火器で火を消して下さい」
「……分かりました」
俺は全校生徒の前で…
「か、火事だー…」
と、呟いた……
「そんな小さな声じゃ誰にも聞こえないよ!もっと大きい声で!」
全校生徒の前で火事だー!!なんて叫んだら恥ずかしくて俺の顔が火事になっちゃうよ!
「いいかい?鹿野君の大事な人を思い浮かべてその人を助けるつもりで叫んでごらん?」
大事な人…俺はこの時なぜかあの人が思い浮かんだ……
「さぁ、もう一度やって下さい」
「……はい」
俺は思い浮かんだ戌井さんを助けるつもりで…
「火事だー!!」
そう叫んだ後に消火器で火を消した。
「はい!よくできました!鹿野君協力ありがとうございました!もう自分の場所に戻っていいですよ」
俺は恥ずかしさで顔を赤くしながら自分の座っていた場所に戻った。
あぁー恥ずかしかった!……そういえば、なんで大事な人を思い浮かべてって言われた時に戌井さんが思い浮かんだんだろう?