名探偵ピカチュウの事件簿 -高名な仲介人- 作:じょうぶなメガネ
「ファ〜」
ピカチュウが大きくあくびをした。
グッと背伸びをしたにも関わらず、頭に乗ったチェックの帽子は絶妙なバランスでその位置を保ち続けた。事件続きだったので、あくびが出るのも無理はない。
「疲れてるの、ピカチュウ」
「疲れてるに決まってるだろ、この前の”フランシスちゃん”の捜索の疲れだって抜けてないんだぞ」
「あぁ、あの事件か、でも、よかったじゃないか、見つかったんだし」
「だけどな、ティム。どんな可愛いポケモンかと思ったら、コイルだったんだぞ!?あの時からだよ、なんだか疲れが抜けないのは」
つい先日のことになる。
「フランシスを探して欲しい」という依頼人のお願いを受けて、僕たちはパートナーポケモン探しに奔走した。
と言っても、裕福な依頼人の手厚い支援があり、移動は一等車両の特等席。美味しいドリンクに美味しい食事、至れり尽せりの高待遇でピカチュウもご機嫌だったが、いざフランシスを見つけ出すと、それはポケモンのコイルだった。
大きな瞳にネジがついた丸い鋼のフォルムのコイルの主食は電気で、ポケモンが蓄えているものでも吸収できる。
ピカチュウが行きの車内で蓄えに蓄えた元気はするすると吸い取られてしまい、ピカチュウは次の日一日中寝て過ごす羽目になった。
「なんか最近寝ても疲れが取れないんだよな〜」
「おじさんくさいなぁ……」
「なんか腰も痛いんだよ、はぁ〜、なんか温泉とか行きたいな〜」
「温泉?」
「どっかの島で温泉リゾートがあるらしいんだよ、この前テレビで見たんだ」
このピカチュウ、気がつくとすぐテレビを観てゴロゴロしている。
「へぇ、何がすごいの」
「温泉にマッサージ、泥パックとかもできるんだってさ。それだけじゃなく、ウォータースライダーとかプールもあって楽しいみたいだぞ」
「そんなところ、すごい人気なんじゃないの」
「予約取るのは大変らしいけど、その分、設備が最高みたいだ。あぁ〜やってみたいな〜、ウォータースライダー」
結局疲れるやつじゃないか、と言おうとしたところで目的地に到着した。
僕らが向かっていたのはベイカー探偵事務所。
父が懇意にしていた探偵事務所だ。僕たちに依頼したい人が来たと電話があって、事務所まで出向いている。
「ピカ〜」
僕には、おはよう、と聞こえる声で挨拶しながらピカチュウが事務所に入った。
「おはようございます」
「おはよう、ティムくん、ピカチュウ」
ベイカー探偵事務所のアシスタント・アマンダさんが僕たちを見て、挨拶を返してきた。
パートナーのヤヤコマも灰色の翼を羽ばたかせて、彼女の周りを元気に飛んでいる。
探偵事務所は部屋が区切られていて、奥の部屋には僕たち探偵のデスクがあるが、アマンダさんのデスクだけは入ってすぐの客間に置かれている。
ただ、今日のアマンダさんはデスクではなく、客間のソファーに座っていた。
ソファーの正面のテーブルには、黒字にゴールドのラインがあしらわれた高級そうな紙箱が置かれていた。
「おぉ!これはなんだ!?」
ピカチュウはこれに素早く反応した。甘いものに目がないピカチュウは、箱を見て、その推理力で、上等なお菓子が入っていることを見抜いた。
すぐに駆け寄って、上にかぶさっている紙のふたをとる。
中には、ピンク・ブルー・グリーン、パステルカラーの丸がきれいに整列していた。
「美味そうなマカロンじゃないかぁ!」
といって、ピカチュウは一つつまもうとした。
が、その時
「ピ・カ・チュ・ウ?」
といって、アマンダさんが2本の耳を両手でつかんで、その手を制した。
「うわわわ、いてててて」
「ピカチュウ、何つまみ食いしようとしてるんだよ」
「おい!いてててて、おい!ティム!アマンダに離すように言ってくれ!」
「まったく……」
僕も事務所に入ると、客間のソファーに見慣れない男性が座っていることに気づいた。
「どうもすみません……ピカチュウがいたずらするもので……」
「いえいえ、いいんです。元気で何よりです」
その男性は柔らかい笑顔で笑った。
男性は、白シャツにスラックスというシンプルな格好だが、のりがきいていてパリッとしわ一つない。
爪もつやつやと輝いていて、几帳面さを伺えた。
「アマンダさん、こちらの方が?」
「えぇ、そう。こちらはミキヤさん」
「どうも、ティムさん。初めましてミキヤと申します」
「こちらこそよろしくお願いします」
「朝電話した通りだけど、ミキヤさんはティムくんとピカチュウに依頼したくて来てくれたのよ」
「はい、実は、ちょっとトラブルでして……。そのことを、知人に相談したところ、ティムさんたちの評判を伺い、こうして訪ねてきたんです」
「その方が紹介してくれたんですね」
「えぇ、変わった知人なんです。探偵として働かれている方に詳しくて」
「探偵に詳しい、ですか?」
思わず聞き返す。
「えぇ、何度か旅先で事件にあった時解決したこともあるみたいですよ、まぁそれはいいんです」
探偵に詳しい知人、とは聞き馴染みのない単語だった。どういうことなんだろうか、と引っかかったが、話題は先に進んだ。
「あの……、実はパートナーポケモンの事で困りごとがあるんです……。その知人に相談してみたら、R事件をピカチュウと協力して解決したティムさんたちのコンビならば、解決できるんじゃないかな、と言われて、こうして来てみたんです」
そう言われて、僕はもう一方の依頼先であるピカチュウを見た。
当の本人は、アマンダさんのヤヤコマに怒られたことをからかわれたのか、部屋内を飛び回るヤヤコマを追って、トテトテと二足歩行で必死に駆けている。飛んでいる相手を捕まえられるわけもないのだけど……。
「ご依頼内容を聞いてもいいでしょうか?」
ミキヤさんに視線を戻し、質問してみた。
「構いません、少し長くなりますが聞いてください」
紅茶をすすると、ミキヤさんは話し始めた。