名探偵ピカチュウの事件簿 -高名な仲介人- 作:じょうぶなメガネ
次の日の朝、僕とピカチュウは自宅で朝ごはんを食べた。
「はい」
コーヒーを注いだマグカップをピカチュウの前に置く。
「すまんな」
いつもの通り、ハイハットブレンドとりんごだ。ピカチュウはポケモンフードではなく、りんごを好んで食べる。今日もシャクシャクと音を小気味良く立てながら、皮ごとかじっていた。ちなみに、このりんごは僕が昨日買ってきたものだ。
「昨日はどうだった、ピカチュウ?」
「うーん、まずまずってとこだ。クスネだが、二階の窓辺にずっと座っていた。終始、あくびをしたり、舌で鼻を舐めたりして、何というか、暇そうだったな」
「何か話せたりした?」
「やってみようとしたんだけど、登れる場所はなかった。雨どいから伝っていこうと思ったが、クスネが見える窓が微妙に離れていてな。近くに通風口があったから、そこから入れないかとも思ったが、上手く近づけないことにはどうしようもなくてな。お手上げだ」
「そうか……」
「あと、ヨーテリーが拾ってきたと言っていた、イバンのみだ」
「うん」
「あれが玄関近くに一つ落ちていた。ちょうどクスネがいた窓の下だ。ヨーテリーが拾ってくるとミキヤが言っていたが、やっぱりブナウチの家の近くで拾ってきてるんだろうな」
「通風口があったってことはそこからクスネが落としているのかな」
「そうなんだろうな。窓は閉め切られていたが、通風口はきのみ一つくらい通りそうだった。もしかしたらクスネがヨーテリーへのプレゼントとして通風口から投げてるのかもな。気を引きたくて」
「いやいや、昨日も落ちてたんでしょ。ヨーテリーを狙って落としてるとは限らないんじゃない」
「まぁそうだな……よっと」
ピカチュウは椅子から降りて、部屋の本棚を探り始めた。
この部屋は僕の父ハリー・グッドマンが元々住んでいた部屋で、ライムシティにきてからは僕がここに住んでいる。本棚には、父が調査で集めた資料が多く詰め込まれていて、ピカチュウはその中から百科事典を抜き取った。
「待ってろ……」
そういうとピカチュウはパラパラとページをめくった。
「これだこれだ、このきのみだ!」
そう言って器用に尻尾で写真を示した。
「ザロクのみ?」
「あぁ、あの家の周りをよく見てみると、イバンのみだけじゃない。他にもきのみが落ちていたんだよ」
「ザロクのみか……確か、甘い実が詰まってるきのみだよね」
「あともう一つ、このきのみも落ちてた」
「タポルのみか」
外皮は淡いピンク色で、先端が黄色いきのみだ。
「なかなか見ないきのみだからかじってみたら辛かった。だが、ここに書いてるのを見ると、中は甘いみたいだな」
「外に落ちてるものは食べない方がいいと思うけど……」
こういうところはちゃんとピカチュウなんだな、と少し呆れてしまう。
「ミキヤの言ってた、珍しいきのみ、とはイバンのみの他に、タポルのみとザロクのみも含まれてるんじゃないか」
「なるほど、それでいうと、ちょっとひっかかることがある」
「引っかかる?」
「うん、大したことじゃないんだけど」
手に持っていたトーストを置いて、僕は昨日市場で買った袋から、網のネットでまとめられた複数のきのみを机の上に置いた。
「これは?」
「昨日、ブナウチは見失ったけど、ブナウチが最後に寄った屋台で見つけた。食べ歩きのスティック型の果物だけじゃなくて、普通にきのみも売ってたんだ。それでブナウチが買っていたのが、このきのみセットなんだけど、みてほしい」
「中にはイバンのみが入ってるな!」
僕は昨日聞いた話をピカチュウに伝えた。
「お店の人が言うには、普段は果物屋をちゃんとした店舗でやってるらしいんだけど、迷子市場ではなかなか見ないきのみを詰め合わせで面白いじゃないかって、置いてみてるみたい。セットで安く売ってるんだってさ」
「ふむ……」
「あと、今月は毎週、迷子市場が開催されてて、毎回きのみセットを出してたみたいなんだけど、何回かブナウチがこのきのみセットを買いに来てたらしいんだよ」
「何ぃ?」
「うん、派手な格好してるからよく覚えてるって」
「ティム、この中に他に何のきのみが入ってるか見てみよう」
「うん」
そう言って、ネットの口を開いて、机にきのみを並べた。
「タポルのみとザロクのみも入ってるな」
「うん」
「他にはネコブのみ、ズリのみ、マトマのみ、ベリブのみだね」
「変な詰め合わせだなぁ」
そういってピカチュウは一つ手にとってかじった。
「ヌァア!!辛っ!!!!」
「ちょっと!マトマのみじゃないか!」
マトマのみは丸々とした中に角のような形の突起が目立つ赤いきのみである。その味は口が真っ赤になるほど辛い。
「もうー、気をつけてよー」
そう言って冷蔵庫に入れておいた、おいしいみずをついで、コップをピカチュウに手渡した。両手で掴んでゴクゴクと喉を鳴らした。
「はぁ〜死ぬかと思った〜」
「全く……」
「うん……?」
ふと何かを思いつき、イバンのみ・タポルのみ・ザロクのみを手の甲で打つ。高低は違うが、それぞれのきのみからコンコンと音が鳴った。
「ふむ……」
そういうと、口元に手を当てた。考え込んで心ここに在らずという感じである。
「外に置かれていたイバンのみ……」
そういいながらピカチュウは窓際のところまで歩き始めた。外の光に当てられ、顔に陰影が目立つ。
「きなくさい男、ブナウチ……」
植木鉢が置いてある窓辺の板の上を進み、二枚の窓の中央で止まった。
そして、一呼吸おくと、くるっと回ってこちらの方を向き、高らかにこう宣言した。
「ピカっとひらめいた!」
その言葉を合図にしたみたいに、窓の外で二匹のムックルが左右にクロスして飛び立ち、木々がザワッと風に揺れた。
茶色いチェックの帽子の下の得意げな笑み。解決編の幕開けだ。