名探偵ピカチュウの事件簿 -高名な仲介人- 作:じょうぶなメガネ
「よし、じゃあ説明してやろう」
ピカチュウはこほんと咳をすると、話し始めた。
僕たちは警察とベイカー探偵事務所に電話をかけた後、ブナウチの家にあったロープで悶えているブナウチを拘束した。そして、草むらの廃材に腰をかけて待っていた。クスネは大人しく座っている。
「まず、不思議だったのはイバンのみだ」
「うん」
「イバンのみなんてなかなか見かけないきのみだ。オレンのみやヒメリのみみたいな、ありふれたきのみならともかく、なぜヨーテリーは、しかも、こんなただの民家の前で拾ったのか謎だ。それで、家の周りを調べてみると、イバンのみだけじゃなく、タポルのみ、ザロクのみも落ちてる。これもそんなに見かける実じゃない。そこで、ティムの調査の結果だ」
「市場で売ってた詰め合わせだね」
「あぁ、ブナウチはネコブのみ、ズリのみ、マトマのみ、ベリブのみも合わせて買ってるようだが、それらは落ちていない。
そこへきて、クスネのいる部屋は通風口があって、きのみくらいなら通りそうな穴が開いてる。そうなったら、クスネはイバンのみ・タポルのみ・ザロクのみだけを選んで、あえて部屋から外に落としてるんじゃないか、と思ったわけだ」
「ヨーテリーはそれを拾ったわけだね」
「そういうことになるな。クスネがマトマのみを選ばなかったのはラッキーだったな」
いくらヨーテリーがものを拾う習性があったとして、流石にマトマのみを食べないと思うけど……とピカチュウを見やったが、あえて口は挟まなかった。
「で、もう一つ。ブナウチはクスネを連れていなかった。ケンカしてる、とか、病気にかかっている、とか事情があるなら別だが、ティムが尾行している間、クスネにそんな様子はなかった。
耳をたたんで行儀良く、ただずっと窓から外を見ていた。これは変だ。他の町ならともかくここはライムシティだぞ?何でパートナーポケモンを連れて歩かないのか、これも引っかかってた」
ピカチュウはここで得意げに指をピッと立てる。
「で、だ!そんなクスネが特定のきのみを外に落としている、これは誰かへのメッセージなんじゃないか、と考えてみたわけだ」
「メッセージ?」
「あぁ。そうだろ?クスネ」
「クス〜」
ピカチュウの問いかけにクスネは頷く。
「メッセージって何のこと?」
「簡単だよ、昨日、きのみを調べた時の説明文を思い出してくれ」
そう言われて、僕はふとピカチュウが読んでいたきのみの説明文を思い出した。
『タポルのみ:かわは からいが かにくのあまずっぱい かおりが しょくよくを
そそる きのみ。』
『ザロクのみ:ぶあつい かわを むくと なかからたくさんの かにくが こぼれでる。ちょっと あまからい おとなのあじ。』
『イバンのみ:ひょうめんは かたい かわにつつまれて いるが なかみは あまくやわらかい クリームのよう。』
「それが?」
「どのきのみも皮を食べずに中の実だけを食べるきのみなんだ」
「あっ」
言われてみればそうだ。
説明文のどれにも皮の中の果肉の存在を書いている。一方、昨日、ピカチュウが食べてみせたマトマのみを始め、他のきのみは皮ごと食べるのが一般的なきのみだ。
思えばそんな共通項がある。
「もちろんただ単にクスネが食べられないきのみを捨てているだけの可能性もある。だが、それならマトマのみが捨てられていない理由がわからない。あんな辛いきのみ、よっぽど好きじゃないと食べないしな。あと、ネコブのみも硬いきのみだが、図鑑には「そのままたべられる」とは書いてある」
「クス」
クスネは頷いた。
そうだ、と言っているのだろう。
「ブナウチはわざわざ他の町から連れてきたにも関わらず、クスネを連れ歩かない。
一方、そのクスネは、何かを知らせようとして、特定のきのみだけを選んで外に放り投げている。
そのきのみの特徴は”皮の中から果肉を出して食べるきのみ”。
こうなったら簡単だ。クスネはメッセージは”家から出してくれ”ってわけだな」
確かにそう考えられなくもない話だ。
「まぁ、これだけなら、推測の域を出ないわけだが、クスネは終始耳を伏せていた。
クスネのようなポケモンが耳を伏せていたら、それは警戒や怯えのサインだ。それを踏まえて、家に押しかけてみたら」
扉を固定する複数の留め具。
家具も何もなく、散らばった部屋。
そこに痩せ細ったクスネ。
ブナウチがクスネを部屋に閉じ込めていたのは明白だった。
「でも、どうしてクスネは閉じ込められていたんだろう」
「そこは確かなことはわからんが……、ただ、ティム。もし、お前がブナウチだとして、警察の捜査から逃れられたタイミングで、わざわざポケモンを部屋に閉じ込めたりするか?」
「うーん、流石に自ら危ない橋は渡りたくないよ」
「だよな。だが、それでもクスネを閉じ込めておかないといけない理由があったわけだ」
そういいながら、ピカチュウは横のポケモンを見つめた。クスネは、一度すました表情を見せたが、
「クスー」
と息を吐くと、しっぽの陰から革張りに金色の金具がついた手帳を懐から器用に取り出した。よく見ると、表紙の皮がめくれていて、使い込まれていることがわかる。
「これは……」
「中を見てみないと詳しくはわからんが、ブナウチの犯行計画をまとめたものとかなのかもな。これをクスネが隠して、返そうとしなかったからブナウチは部屋に閉じ込めるしかなかったのかもしれん」
「自分が捕まるかもしれない、と思ったから」
その時、タイヤと道路と擦れる甲高い音が聞こえた。
住宅街であることに構わず、ぐいぐいとスピードを出している。角を左折して入ってくると、それまでの勢いを殺すようにしっかりとしたブレーキでブナウチの家の前に止まった。
流線形のフォルムのスポーツカー。運転席の扉を開けて出てきたのはアマンダさんだった。
「やっぱりか」
うげぇ、とピカチュウは辟易する。
アマンダさんの運転はかなり荒く、ピカチュウが苦手にしているものの一つなのだ。
アマンダさんはブナウチの家を見た後、向かいに僕たちが座っているのを見つけて駆け寄ってきた。それに、僕も手を挙げて応答する。
「ティムくん!」
「アマンダさん」
「無事そうでよかったわ、警察ももうじきくると思う……って、あら?」
横に座っているクスネを見つけた。
「え電話でも言った通りですが、クスネはブナウチに閉じ込められていました。
見ている感じ、元気そうではあります。それと、クスネはどうやらブナウチの手帳を隠し持っていました」
そう言ってクスネから受け取った手帳をアマンダさんに手渡した。
アマンダさんは中をさっと見て
「これ……ブナウチの計画がすごくたくさん書いてある。これがあればブナウチを捕まえられるかもしれない」
と目を見開いた。
「クスネはブナウチに立ち向かっていたってことね……」
そこで、バタンと車のドアを閉じる音がして、奥の助手席からふらふらとミキヤさんが出てきた。
「ミキヤさん!」
僕は、足取りのおぼつかないミキヤさんに駆け寄って肩を貸した。
「アマンダさんっていつもこんな感じの運転なんですか……」と口にしたので、小声で「そうです……」と答えておいた。
「ミキヤさんにも連絡したらちょうどこの近くに住んでるってことで、一緒に来てもらうことにしたの」
「はい……、そうしたら」
助手席の奥から時間を置いてヨーテリーが出てきた。
「ヨテッ!」
「クスネのことを聞いた途端、奥から出てきて車に飛び乗ったんです、何が何やら……」
そこで、僕はハッとした。
「おそらくヨーテリーは気づいていたんじゃないかと思います」
「気づいていたとは?」
「ものを拾う特性を持つヨーテリーであれば、落ちているきのみもよく見ていたのではないでしょうか。
いつもは見かけないようなきのみがクスネの近くで落ちていた。それで、何かが起きている、と気づいた一方で、故郷に帰らないといけない時間はそこまで来ている」
「だから、引きこもったりして、僕が帰れないように……」
「かもしれません」
「ヨーテリー、あいつ……」
ミキヤさんは、草むらに向かっていくヨーテリーを見つめた。目元にグッと力がこもっていた。
ヨーテリーの草むらに向かう足取りは重い。そこへ、ピカチュウが横からやってきた。
「でも、それだけじゃないんだろ?」
ヨーテリーはピクッと反応してから、顔を上げてピカチュウにさっと顔を向けた。
ピカチュウはウインクを一度すると、ポンとヨーテリーを軽く叩いてから僕の方まで歩いてきた。
「ヨーテリー」
ミキヤさんは思わず声をかけた。
ポテポテと一歩ずつ草むらをかき分けていく。向かう先には建材の上に座ったクスネだ。
ヨーテリーは、建材を器用に登り、クスネの前に来ると口を開き、ポトリとくわえていたものを落とした。
どこで拾ってきたかわからないが、それは鮮やかな朱色の小さな花だった。
「クスゥ」
驚いたように顔を上げるクスネ。
「ヨテ」
はにかんで、顔をそむけるヨーテリー。
とても微笑ましい光景だった。もしかしたら、この瞬間のために僕たちは事件に奔走していたのかもしれない。
その時、ピカチュウが肩に上ってきて、
「な、名推理だろ?」
と言った。
遠くからサイレンが聞こえる。
僕たちは事件の終わりを感じた。