名探偵ピカチュウの事件簿 -高名な仲介人- 作:じょうぶなメガネ
その後、現場に駆けつけたのはブラッド警部補だった。今日は非番じゃなかったらしい。
僕はパトカーでベイカー探偵事務所まで乗せていってもらった。ブラッド警部補とアマンダさん、どっちの運転で帰るかについてはピカチュウの強い希望を叶えてもらった形だ。終始アマンダさんが不服そうで、どこか面白かった。
だが、ブラッド警部補には、それはそれで「全く、昨日の市場はやはり事件だったんじゃないか」と憎まれ口を叩かれた。車内でずっと気まずくて、ただ足元を見つめるしかなかった。とはいえ、その通りなので受け入れるほかない。
ブナウチは、クスネが渡してくれた手帳を証拠として、逮捕できるだろう、というのが車内でのブラッド警部補の見方だった。
実際、その後の取り調べにおいて、自分の筆跡で書かれている犯行の数々に否認の余地はなく、すんなり自供したらしい。
この手帳は、ブナウチが盗品の仲介業者を始めてから、ずっとつけている帳簿のようなものだったが、ある日、隠し場所を確認すると、忽然と消えてしまっていた。クスネが手帳を盗んだことはわかったが、するすると逃げるのに耐えかねて部屋に閉じ込めるに至ったらしい。
そのクスネであるが、今は警察で保護しているとのことだ。ブナウチ曰く、元々ライムシティで仕事をするために前にいた町で適当に捕まえたポケモンとのことだった。そんな経緯で捕まえたポケモンに、自分の稼業を潰されるのはいい気がしていないだろう
だいぶ痩せている様子だったが、特に病気や怪我は見られておらず、出された食べ物もしっかり食べているみたいだ。
そして、依頼人であるミキヤさんは、ヨーテリーと故郷へと帰っていった。
クスネを悪いポケモンかもしれない、としていたミキヤさんだったが、「これからはちゃんとヨーテリーを見守るようにする」と反省の言葉を口にしていた。
それでいうと、ホリデイ警部が教えてくれたのは、ミキヤさんはクスネを引き取れないか連絡があったらしい。
花を送り合ったヨーテリーとクスネに、いつか同じ場所で過ごす時がまた来るかもしれない。僕としてはそうなることを切に願っている。
ミキヤさんは、事件が解決してしばらくしてから、お礼に、とクッキー・フィナンシェ・パイなど美味しい焼き菓子の詰め合わせを贈ってくれた。ピカチュウがつまみ食いしていたのをきちんと覚えていたのだろう。
さすがレストランで働いているだけあって、どこから見つけてきたのか、と惚れ惚れするセンスの良さだった。
「これは俺宛だからな!」
とピカチュウは僕に取られないようにして、次から次に口に頬張っていった。少しお腹が出てきていないか心配である。
それを横目に、僕は先日、スーパーでたまたま見かけて、つい買ってしまったイバンのみを眺めていた。
こうして、イバンのみを見ていると、ふとヨーテリーとクスネの事件を思い出す。ブナウチにすごまれた時の苦い気持ちやピカチュウの得意げな表情など、胸に去来する感情は様々だ。
「あ」
その時、ふと一つだけ引っかかることがあった。
「そういえば、ピカチュウ。僕らをミキヤさんに紹介した知人って誰なんだろうね」
「あー、探偵に詳しいって言ってたやつか」
ピカチュウは砂糖がまぶしてあるパイのスティックをポリポリ食べながら答えた。今日はこれで何本目なんだ、と言いたくなる。
「前のレストランに戻ってから、手紙くれたんだろ?そこに書いてあったりしなかったのか」
「いや、特に書いてなかったよ」
「ふーん」
相槌をやんわり打ってから、ピカチュウはお菓子の物色に戻っていった。探偵好きの知人より彩り豊かな焼き菓子の方が興味は上のようだ。
ミキヤさんが故郷に戻ってから送ってくれたメッセージカードを手に取る。表には、ヨーテリーとミキヤさんがレストランの前で仲良く並んだ写真がプリントされていた。裏返すと、宛先と差出元が書かれている。
「ミキヤさんは今、サンヨウシティってところにいるみたいだね」
飛行機に乗って帰って行ったくらいだから、さぞかし遠く離れた地方だろう。僕は「どんな街なんだろう」と呟いていると、横から
「困ってるミキヤに、遠い街から律儀に俺たちを紹介するくらいやつだ」
ピカチュウがフィナンシェの個包装を開けながら答えた。
「それは、忠実な友人であり高潔な紳士」
ピカチュウは僕をたしなめるように手を上げて言った。
「そういうことにしておこうぜ」