【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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うわぁ目の前にマフィアがっ!!

 

”ヒフミ。――いえ、『ファウスト』さん”

 

 トリニティ学園の校門前。

 背後からかけられたその言葉に、ヒフミは心臓が飛び出そうになっていた。

 

(ふぇっ!?)

 

 喉まで出かかった情けない悲鳴を、ヒフミはすんでのところで強引に飲み込んだ。

 代わりに口元が引き攣るのをはっきりと感じてしまう。

 

 だがそれよりも、と、ヒフミは咄嗟に周囲の気配を探った。

 

 時刻としては人がいてもおかしくはない時間帯ではあるが、幸い人はいないようであった。

 

(よかった……誰にも聞かれていませんね。不幸中の幸い、と言うべきでしょうか)

 

 もしここで誰かに聞かれていれば、明日にはトリニティ中に「阿慈谷ヒフミがファウストなんだって!!」という噂が広まっていたところだろう。

 

 トリニティ生は噂好き。

 あることないこと、ネット並みの速度で拡散されかねない。

 

 しかし、一番の問題は目の前の大人である。

 

(突然こんなところでやめてください!なんて言えればいいのですが……。これだと逆に怪しまれてしまいますよね……)

 

 ヒフミの脳内はいつも通り高速で回転し、先生の発言の根拠を考えていた。

 

 アビドスでの銀行強盗の一件か。

 カイザーPMCが何か口走ったか。

 それとも、ナギサの語った情報からなにかしら合致する符号を見つけたのか。

 

 先生が確信するだけの、何か具体的な証拠を持っているとは考えにくい。

 先生には監視を付けており、『ヒフミ=ファウスト』だと決定づける証拠には辿りつけていないであろうことも把握しているからだ。

 

(もしかすると、先生だけが使える特殊な情報網なんてものがあるのかもしれませんが……)

 

 とはいえ、それを考え出せばキリがないのは確かである。

 

 ならば打つべき手は一つ。

 ヒフミはいつもの表情を意識して先生に話しかけた。

 

「……えっと、確かにあの銀行ではそう名乗りましたが……」

 

 そう。

 あくまで「変装のために思いついた名前を借りただけ」という体裁を装うのだ。

 

 先生は少しの無言の末、納得したような表情を浮かべる。

 

”……そうだったね”

 

 先生は、ずいぶんあっさりと引いた。

 口調も敬語が消え、それ以上追及してくる気配はない。

 

 だがその態度は逆に、ヒフミの中に一つの確信を抱かせた。

 

(……なるほど。あくまでもただ協力してほしいだけ、ということですか)

 

 先生のスタンス、あるいは意思を確認したヒフミは小さく息を吸い込み、口を開いた。

 

「……先生」

 

 ヒフミの口から紡がれた声はいつものものとは違い、凪いだ水面のような静けさを持っていた。

 

「先生は、生徒の味方ですか?」

 

 唐突な問いかけに先生は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに真っ直ぐにヒフミの瞳を見つめ返す。

 

”そうあろうとは、務めているよ”

 

「……そうですよね」

 

 ヒフミは小さく微笑んだ。

 

「私も、守るべきものがあるんです」

 

 それは、ブラックマーケットへ。

『ゲーテ』に集まった、『生徒たち』へ向ける言葉だ。

 

(――ちょうどいい、ですかね)

 

「……少し、お時間いいですか?」

 

 ヒフミが踵を返し、正門へ向かって歩き出す。

 それに対して先生は何も言わず、彼女について行った。

 

 学園の敷地を出て少し。

 人気のない、監視カメラの死角となった市街地の路地へと差し掛かったところでヒフミは『ファウスト』のスマートフォンを取り出した。

 

「……私です。私の周りから『人払い』してください。あと、車を一台お願いします」

 

『人払い』

 意味するのは、自分につけられた監視を排除しろ、という命令である。

 

 電話を切り、数十歩ほど歩いた時。

 

 ――ガァァァンッ!!

 

 突如として、路地の先の交差点から激しい衝突音が響き渡る。

 

”なっ、何!?”

 

 先生が咄嗟に周囲を見渡し、ヒフミを庇うように身構えた。

 

「大丈夫ですよ、先生。……ただの『人払い』ですから」

 

 ヒフミが淡々と告げた直後、一台の真っ黒な高級セダンが音もなく二人のすぐ横に滑り込むように停車した。

 運転席の窓は防弾ガラスで覆われ、中の様子は全く見えない代物である。

 

 後部座席のドアが自動で開く。

 

「お先にどうぞ」

 

 促すままに、先生は車へと乗り込んだ。

 ヒフミもその向かい側の席へと腰を下ろすと、ドアが重々しい音を立てて閉まる。

 

 今巻き起こった喧噪が嘘かのように遮断された、完全な防音空間。

 

 ヒフミは膝の上に置いたペロロ様のリュックを開く。

 取り出したのは目の位置に二つの穴が開けられただけの、シワの多いの紙袋だ。

 

 彼女はそれを何の躊躇いもなく、頭からすっぽりと被る。

 

「協力しますよ、先生」

 

 再び『ファウスト』としての姿を見せたヒフミは一言、そう告げたのだった。

 

 

【先生視点】

 

「改めまして、『ファウスト』と呼ばれています。よろしくお願いします」

 

”先生です。よろしくおねがいします”

 

 ――恐ろしい。

 

 それが、今のヒフミを前にした先生の偽らざる本音であった。

 

 相手が自分の生徒であることは十分に承知している。

 彼女の本来の優しさも、ペロロ様を愛する女の子であることも知っているつもりだ。

 

 しかし。

 それを加味した上でも、今目の前に座る『紙袋を被った何か』から発せられる空気は、尋常ではなかった。

 銀行強盗の時に見せたあの威圧感は、見間違いや演技などではなかったことを思い知らされる。

 

”あの、ファウストさん。先ほどのあれは?”

 

「別にいつも通りで大丈夫ですよ?」

 

”……なら、ファウストさんでいいかな?”

 

「別に呼び捨てでもいいのですが……。あれはナギサ様からの監視を外したんです。今正体を明かす必要性はないですから」

 

”なるほど”

 

 電話一本で監視を逸らし、車を手配する。

 その一連の動作はやけに小慣れた様子であり、日常的に行われていることが察せられた。

 

 間違いなく、普通の少女ではない。

 この時点で、それは明らかな事実であった。

 

「……ヒフミは、本当にあの『ファウスト』なの?」

 

 ゆえにこれは確認であり、アイスブレイクに近い話題――そう考えた先生だったが、喉が妙に乾いて仕方がない。

 それでも絞り出すように、そう尋ねた。

 

 すると圧倒的な威圧感を放っていた紙袋が、こてんと少しだけ傾いた。

 

「……やっぱり、確信はなかった感じですか?」

 

 その声には先ほどまでの冷徹さが少しだけ薄れ、どこか困っているような年相応さがあった。

 

(”見抜かれてる……”)

 

 先生は観念したようにコクリと頷きを返す。

 

 トリニティの敷地内で彼女をファウストと呼んだのはメタ的に考えたような、あてずっぽうに近いものであったからだ。

 

「……銀行強盗のせいですよね……。迂闊でした……」

 

 ヒフミは小さくため息をついた。

 

「……でも、先生でよかったと考えるべきですかね。内緒にしてくださいね?」

 

 その言葉の後、紙袋の奥の瞳が再び鋭い光を取り戻す。

 

「――ではそろそろ、本題に入りましょうか」

 

 ヒフミは姿勢を正し、静かに口を開いた。

 

「そうですね……。まず、先生が一番聞きたい答えを先に言っておいた方がよさそうです」

 

 車内の空気が、一段と冷え込む。

 

「――カイザーPMC基地の襲撃に協力します」

 

 その言葉に、先生は安堵とも驚愕ともつかない息を吐き出した。

 

「ただ、なぜなのか疑問に思われますよね?なので、こちらの事情をお話しします」

 

 そこから、ヒフミはぽつぽつと、裏社会の自治組織『ゲーテ』と巨大企業『カイザーグループ』との間に横たわる、根深い因縁について話し始めた。

 

 彼女はアビドスを取り巻く現在の絶望的な状況を、先生以上に正確に把握していた。

 さらにホシノが退学届を出したことで起こる廃校という結末。

 カイザーPMCが基地を建設し中隊規模の軍隊を動かした事実と、なぜカイザーがそのような強硬手段を打つことになったのか。

 

 ヒフミはすべて把握していた。

 

 そしてカイザーが学校を手に入れた際に発生する不都合についてを語り。

 

「――なのでカイザーPMCの襲撃の件は私にも原因があります。ごめんなさい」

 

 そう、締めくくった。

 

”便利屋の子たちを送り込んでくれたのはファウストさんだよね?ありがとう”

 

 だがもし軍隊の規模が少なかったとしても、あの時のアビドスでは太刀打ちできなかったのは間違いなかったのだ。

 

 その言葉に宿るやさしさに、先生は彼女が『阿慈谷ヒフミ』だと再認識することができた。

 

 それでも、『さん』付けが取れることはなかったが。

 

 まぁそれはともかくとして。

 

「――アビドスの借金に関しては正直なところ、私から直接口出しすることはできないんです。ゲーテはあくまでブラックマーケットの法であり、カイザーローンとアビドス高等学校が結んだ融資契約は表の世界――外部での契約ですから」

 

 話題はアビドスとカイザーローンについてのものに移る。

 

「……しかし、カイザーローンはブラックマーケット内で取引を行いました」

 

 ヒフミの真の狙い。

 それは、先生が持つ『超法規的権限』を利用することだった。

 

 実際のところヒフミ自身はトリニティのティーパーティーや、先日アビドスに押し寄せてきたゲヘナの風紀委員会。

 そしてアビドス対策委員会の面々がカイザーPMCと衝突し、そして潰してくれることを期待していたのだという。

 

 もしかすると、先生が声を掛けてくることすらも想定内であったのではないか。

 

 そう考えてしまうほどに、状況は彼女の手の平の上で動いていた。

 

「ゲーテの法を明確に犯したカイザーローンの支店には、近いうちに武力による『お仕置き』をする予定ではありました。

 しかし、砂漠のど真ん中にあるカイザーPMCの軍事基地を直接襲撃する大義名分が、未だ見つかっていなかったのです」

 

 ヒフミは、膝の上のペロロ様リュックを指先でなぞる。

 

「ゲーテという組織は、法を作った側です。だからこそ、誰よりも厳格に法を守らなければならない。ブラックマーケットに最低限の秩序を保つために、絶対に越えてはならない一線なのです。

 ……私怨や感情だけで軍隊を動かせば、私が作り上げた秩序はあっという間に崩壊してしまいますから」

 

 彼女の語る言葉のスケールの大きさに、先生はただ圧倒されるしかなかった。

 

(”これが、ブラックマーケットの『超人』……!”)

 

「しかし、だからこそ。

 

 法を犯しても学ばない、我々を舐め腐っているカイザーには、一度『致命傷』を与えなければなりません」

 

 紙袋の奥から、ゾッとするような殺気が漏れ出す。

 

「先生の要請――つまり、『所属や学籍を問わず不特定多数の生徒に協力を仰げる権利』があれば、カイザーPMCを直接叩けます」

 

「……カイザーを」

 

「はい。できればプレジデントを排除したいところですが……。とはいえ彼らの軍事力と金融業を同時に粉砕できれば、カイザーの持つ力を大幅に削ぐことができます。

 ……もしかすると、アビドスの借金問題もある程度解決するかもしれませんね」

 

 これが、紙袋の超人が描いた最終的な盤面だった。

 

「……犠牲になってもらいますよ」

 

 ヒフミはアビドスへと向かう車窓の中、ぽつりと呟いた。

 

「――カイザーPMC理事」

 

 そんな言葉が再び、先生に恐怖を植え付けるのであった。

 

 




先生「ひぇぇ……」


普通に物騒なファウストを書きたかったんだ……。
これは裏社会のトップだなって感じのさ……。

そしたら先生も怖がってるの……。
なんでだ……?


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