【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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第13話

 運転手の腕か、それとも車の性能か。

 防音に加え揺れすらも軽微な、空気以外は快適と言える車移動は砂煙舞う光景の出現によって終わりを告げた。

 

「それでは先生、またあとで」

 

 車内の奥、紙袋を被った底知れぬ存在――ファウストこと阿慈谷ヒフミから掛けられた声を背に、先生は砂地を踏みしめた。

 

 ドアが閉まり、車が去っていく。

 

”ふぅ……”

 

 やがて車が見えなくなるところがまで見送ったのち先生は大きく息を吐き、胸を撫でおろした。

 

 キヴォトスの裏社会における絶対的支配者。

 

 これまで対峙したカイザーPMC理事や黒服などとは違う、圧倒的な存在感。

 相手がヒフミだとわかっているからこそ耐えられたが、そうでなかったら膝をついていたかもしれない。

 

 ともあれ、彼女に協力してもらえるという事実は大きい。

 

 あとはただ進むだけだ。

 

 先生は己の頬を両手で強く叩き気合を入れ直すと、対策委員会のメンバーが待つアビドス高等学校の部室へと急いだ。

 

 着いた部室ではシロコ、セリカ、ノノミ、そしてアヤネが、黙々と出撃準備を進めていた。

 

 先生は彼女たちの前に立ち、一人一人と目を合わせる。

 

”みんな、待たせたね。できることはしてきた。『秘策』もある”

 

 君には帰るべき場所があるんだよ、と。

 誰も犠牲になる必要はないんだよ、と、彼女に伝えるために。

 

「……帰ってきたら説教」

 

 シロコがアサルトライフルのマガジンを差し込み、決意を込めて頷いた。

 

 その言葉に皆が同意の声を上げていく。

 

”ホシノを、助けに行こう!”

 

 

 

 ――そうして訪れたアビドス砂漠。

 

 陽炎揺らめく過酷な環境の中を、先生と対策委員会の面々は駆け抜けていた。

 

『皆さん!まもなくホシノ先輩が監禁されている基地の座標です!』

 

 後方でドローンと通信機器を操作するアヤネから情報が共有される。

 

”よし、このまま一気に――”

 

 その言葉を聞き先生が指示を出そうとした、まさにその瞬間。

 砂丘の向こう側から、黒々とした巨大な影が次々とその姿を現す。

 

 以前襲撃してきた際に目撃したオートマタに戦闘用ヘリや戦車。

 それに加え、重装甲に身を包んだカイザーPMCの傭兵たちも確認できた。

 

 数は幸い以前の襲撃時ほどではないが、それでも圧倒的な数的不利は間違いない規模だ。

 

「予想はしてたけど、やっぱり多いわね……!」

 

 セリカが驚愕の声を上げながらも、咄嗟にアサルトライフルを構え牽制の銃弾を放つ。

 

「みなさん後ろに下がってください!いきますよ~!!」

 

 ノノミが得物のミニガンを構え、凄まじい弾幕を張って前線の敵を薙ぎ払っていく。

 

 シロコのドローンが爆撃を行い、セリカが遊撃に回り、先生がタブレット端末を駆使して最適な射撃ポイントを指示し続ける。

 少数精鋭の対策委員会の連携は完璧というにふさわしいものだった。

 

 が、このままでは以前の二の舞となることは必至。

 そもそもまだカイザーPMCの基地のゲートにすら辿り着いていないのだ。

 ここで足止めを食らうわけにはいかない。

 

(”そろそろ、かな?”)

 

 そう、内心呟いたとほぼ同時。

 

 ヒュルルルルルルルッ――!!

 

 空気を切り裂くような甲高い音がその場にいた全員の鼓膜を揺らす。

 

 ――ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 カイザーPMCの軍勢の中央部に、凄まじい爆発の火柱が何本も立ち上がった。

 

 大地が激しく揺れ、衝撃波が砂漠の砂を嵐のように巻き上げる。

 オートマタは紙屑のように空を舞い、戦車は砲塔を拉げさせ、ヘリはその制御を失っていた。

 

 カイザーの兵士たちにとってはまさに、青天の霹靂と言った出来事だろう。

 

「な、なんですか!?」

 

 思わずノノミが驚きの声を上げた。

 

『こ、これは……!』

 

 インカムの向こうでアヤネが興奮したような声を上げた。

 

『これは……L118!?トリニティの牽引式榴弾砲です!』

 

「と、トリニティ!?」

 

 セリカが目を丸くする。

 なぜ、遠く離れたトリニティ総合学園の兵器が、このアビドスの砂漠で支援射撃を行っているのか。

 

 セリカの疑問はすぐに入った通信が答えた。

 

『わ、私です!』

 

「あっ、ヒフミ!?」

 

『はい!先生の要請で、微力ながらトリニティから支援させていただきます!

 ……とはいっても、私は橋渡しというか……。部隊は他の方が指揮しているのですが……』

 

 なんとなく、のほほんとしているというか。

 気の抜ける補足に、アビドスの面々は少し強張った顔を緩めた。

 

『あ、シロコちゃん!私は大丈夫ですからね!』

 

 そう言ってプツン、と通信が切れた。

 

「……さすがファウスト。頼りになる」

 

 空を覆う爆煙を見上げながらシロコがぽつりと、心底感心したというように呟いた。

 

 それはおそらく冗談で口にしたものなのだろうが、彼女が本物の『ファウスト』であったことを知ってしまった先生は思わず。

 

”あはは……”

 

 と、ヒフミと同じような乾いた苦笑いを浮かべるのだった。

 

(”というか生徒会と取り次いだり部隊との橋渡しをするのも、普通じゃないのでは?”)

 

 よく気が付いたな。

 

 ともかく、支援射撃のおかげで分厚かった敵の包囲網に明確な風穴が開いた。

 

”みんな、今のうちに突破するよ!”

 

「「「了解っ!」」」

 

 先生の号令により対策委員会は崩れかけた敵陣を突破し、ついにカイザーPMC基地の巨大な敷地内へと足を踏み入れることに成功した。

 

 無機質なコンクリートと鋼鉄で構成された、巨大な軍事施設。

 

 周囲を警戒しながら進む中、セリカが息を弾ませながら先生に詰め寄る。

 

「というか先生!トリニティが支援射撃って……言ってた秘策ってこれのこと!?」

 

 セリカの問いに、先生は困ったように眉を下げた。

 

”そうと言えばそうなんだけど――”

 

 先生が言葉を続けようとした時だった。

 

「――まったく、どいつもこいつも計画を邪魔しおって!!」

 

 基地のメインゲートの奥。

 重装甲車両のタラップの上に立ち、激昂した様子の男が姿を見せた。

 カイザーPMC理事だ。

 

 苛立ちの他に焦燥も見て取れるのは、ゲヘナとトリニティが介入してきたことに対してだろうか。

 

 彼の周囲には、先ほどの砲撃を免れた基地の防衛部隊――さらに強力な武装を施された精鋭の傭兵と、大型の戦闘オートマタがズラリと立ち並んでいる。

 

「トリニティの砲兵隊だと!?なぜ奴らまでこんなところに出張ってくる!?

 ――まぁいい、さっさとこいつらを殲滅しろ!! 」

 

 理事の怒号とともに、基地内での激しい戦闘が幕を開けた。

 

 トリニティの支援砲撃に加え、他の地点ではヒナたちがいくらか敵戦力を引き受けてくれている。

 そのおかげか、敵一体の強さは上がったものの量自体は先ほどよりも少ない。

 

 しかし。

 それでも四方八方から浴びせられる銃弾とミサイルの雨に、先生と対策委員会の四人は遮蔽物に釘付けにされてしまう。

 

「くっ……弾幕が厚すぎます!」

 

「このままじゃジリ貧ね!」

 

 先生の指揮もありなんとか被弾は最小限に抑えられているものの、この膠着状態を打破する『決め手』が足りない。

 

 このままでは、ホシノが捕らえられている地下施設に辿り着く前に、押し潰されてしまうだろう――。

 

「――フフッ、随分と手こずっているようね!」

 

 戦場の喧騒を切り裂く、高らかな笑い声。

 基地の側面、強固な防壁が凄まじい爆発音とともに吹き飛ばされ、そこから深紅のコートを翻した少女が堂々と姿を現した。

 

『便利屋68』の社長、陸八魔アル。

 そして、彼女の背後にはムツキ、カヨコ、ハルカの三人がそれぞれの武器を構えて彼女に付き従っている。

 

「なっ……!? ま、また貴様らか!」

 

 カイザー理事が、憎悪に顔を歪めて叫ぶ。

 

「こちらこそ、また会ったわね!ここで会ったが百年目よ!!」

 

 アルはスナイパーライフルを構え、不敵な笑みを浮かべる。

 

「アルちゃんかっこい~!よ~し、それじゃあドカンといっちゃうよ!」

 

 ムツキが楽しげに笑いながら鞄から大量の爆弾を取り出し、カイザーの兵士たちへと無造作に放り投げる。

 

「アル様の敵は、殺します!!」

 

 ハルカが声を上げながらショットガンを乱射し、オートマタの群れに単騎で突っ込んでいく。

 

「……ハルカ前出すぎ」

 

 カヨコが冷静にハンドガンで敵の急所を撃ち抜きながら、ハルカの死角を完璧に守る。

 

”……よし、右から攻め込むよ!!”

 

 まさかまた加勢してくれるとは。

 そう思いつつも、意識を切り替えた先生が指示を飛ばす。

 

 手数が増えたことで、戦況は目に見えて先生側に傾き始めていった。

 

 カイザーの精鋭部隊は次々と無力化され、防衛線が徐々に後退していく。

 

「おのれおのれおのれ……!」

 

 タラップの上、カイザー理事はLEDを明滅させ、忌々しげに先生を睨みつけた。

 

「……先生。貴様ならば事の全体像を把握していると思っていたが、勘違いだったらしいな」

 

 突然、理事が不気味な笑みを浮かべて問いかけてきた。

 

「貴様もまた、あの『ファウスト』という化け物に踊らされているだけだ。そうだろう?」

 

”……”

 

 先生が眉をひそめる。

 

「ゲヘナの風紀委員会がなぜ我々を牽制するのかはわからん。だが、トリニティは別だ!あのアビドスでの銀行強盗……あれはすべて、我々カイザーを陥れるためにファウストが張った罠だったのだ!」

 

 理事は可動範囲を超えるくらいに大きく口を開き、叫ぶ。

 

「ああ、そうだ!これまで幾度となく、奴らゲーテの連中は我々のビジネスを水面下で妨害してきた。今回のトリニティの砲撃も、ゲヘナの風紀委員会も、便利屋の介入も、先生がアビドスに向かったのもすべて!!すべては奴が裏で糸を引いているに違いない!」

 

 焦燥の正体は合っていた。

 彼からすれば、今の状況すべてがファウストの計画通りに進んでいるように見えているのだろう。

 

 先生からしても、おおむね間違っていないようにも思えるのが恐ろしいところだ。

 

「だがな……! ゲーテの連中がどれほど裏で画策しようと、奴ら自身が直接ここへ武力介入してくることは絶対にない!!」

 

 理事は、焦りをかき消すように狂った笑い声を上げ始めた。

 

「ここは表の世界、我々カイザーの領土だ! 法を作り、法に縛られたファウストには、ここに軍隊を差し向ける大義名分がない!奴は自分が作った檻に閉じ込められているのだ!」

 

 理事は懐から通信機を取り出し、いくらか冷静さを保った声で何かを指示する。

 

「私だ。『ゴリアテ』を出せ!!」

 

 ――ズズズズズズズンッ……!!

 

 突如地下からせり上がってきた巨大なリフト。

 その上に乗っていた『それ』を見た瞬間、戦場にいた全員が息を呑んだ。

 

 先ほどまで相手にしていた主力戦車の、優に倍はある巨大な質量。

 鈍い鋼の光沢を放つ、二足歩行型の超巨大決戦兵器。

 

 両肩には重戦車の主砲が二門据え付けられ、両腕はあらゆるものを粉砕する巨大なガトリング砲へと換装されている。

 さらに背部には、無数のミサイルポッドが花開くように搭載されていた。

 

「な、なにアレ……! ロボット……!?」

 

 セリカが驚きで声を上げる。

 

「お、大きいですね……!」

 

 ちなみにアルの方を見ると、彼女は白目を晒していた。

 

 呆然としている彼らを横目に、カイザー理事は素早い動きでゴリアテのコックピットへと乗り込み、ハッチを閉ざした。

 

「フハハハハハッ! そうだ、これこそが、いつか来るであろうゲーテとの全面戦争――対ファウストを想定して極秘裏に開発を進めていた、我がカイザーPMCの最高傑作、『ゴリアテ』!!」

 

 拡声器から、理事の勝ち誇った声が響き渡る。

 

「貴様らのような小娘が束になっても勝てる相手ではないわ!!消し飛べ!!」

 

 ゴリアテの巨大なガトリング砲が回転を始め、両肩の主砲が火を噴いた。

 

 ――ドゴォォォォォンッ!!

 

 凄まじい砲撃の嵐が、アビドスと便利屋を襲う。

 

「きゃあっ!?」

 

(”くっ、アロナ!シールドを!”)

 

『(はい、先生!)』

 

 間一髪といったところか。

 先生はシッテムの箱によるバリアでなんとか被弾はせず、他の面々も避けきることには成功していた。

 

 だが、無事とも言い難い。

 ゴリアテより放たれた戦車砲の威力はすさまじく、衝撃によって吹き飛ばされてしまう者もいた。

 

 比較的軽傷であったノノミとシロコ、アルが必死に応戦するが、逆にゴリアテの重装甲には傷一つつけられない。

 そしてゴリアテの圧倒的な面制圧の火力によって、先ほどまでの戦況を塗り替えていく。

 

「え、くっっ――!!」

 

 ミサイルが雨のように降り注ぎ、ついにはアルも吹き飛ばされてしまう。

 

(”まさかあんな兵器まで隠し持っていたなんて……!”)

 

 先生はタブレットの画面を凝視しゴリアテの弱点を探ろうとするが、弱点と言えるのはその鈍重さ程度。

 それを補うための装甲であることは明白であるし、そもそも戦車砲のインターバルが短すぎる。

 さらにインターバルを埋めるためのミサイルであり、ガトリング砲なのだろう。

 

 弾幕で距離を保ち、ミサイルで進路を妨害し、戦車砲で止めを刺す。

 

 まさに最高傑作。

 

 そんなゴリアテによって、先生らの作った戦況は再び。

 いや、押し込まれる状況に陥っていた。

 

 このままでは、全滅する。

 ホシノを助け出す前に、すべてが終わってしまう。

 

”散開して、的を絞られないように!”

 

 先生は必死に指示を出すが、皆の受けたダメージは大きい。

 彼女たちの動きから精細さが欠けているのは火を見るよりも明らかであった。

 

 何か、策は――。

 

『――すみません、先生。準備に時間がかかってしまいました』

 

 ――戦場に声が響く。

 

 基地のスピーカーから、突如として流れる音声。

 それは基地がジャックされたことを意味していた。

 

 こんなことができる人間は、そう多くない。

 

 ゴリアテを操縦していたカイザー理事も、その声を聞いてピクリと動きを止める。

 

『聞いていましたよ、カイザーPMC理事。ゲーテには大義名分が無い、と』

 

 その声はどこまでも穏やかで、しかし絶対零度の冷たさを孕んでいた。

 

 パラパラ、と、上空からプロペラ音が飛来する。

 

 そこで気が付いたのは、それ以外の戦闘音が聞こえてこないことだ。

 

「!?――おい、誰か応答しろ!!」

 

 カイザー理事の、焦った声がプロペラ音にかき消されていく。

 

 やがて、悠々と。

 着陸したヘリから少女がその姿を現した。

 

 途端に、戦場の空気が塗り替えられた。

 

 仕立てのいいスーツ。

 目の部分に穴を開けただけの『紙袋』。

 後方に同じくスーツを着た少女を従えた、彼女。

 

「……なっ、なぜ貴様がここにいる!?」

 

 コックピットの中で、理事が悲鳴のような声を上げた。

 

 少女は、紙袋の奥の亜麻色の瞳を揺らめかせ、口を開く。

 

「『お仕置き』の時間です。カイザー」

 

 ファウスト、現着。




遅くなりましたわ~!
昨日眠くてね、ごめんなさい。


二話に分けてヒフミさん視点入れてもよかったんだけど、というか途中まで書いてたんだけど、先生視点でも想像できる程度のことしか書けないしな~って思って。
駆け足になってしまった感は否めないね。力不足。


あ、ゴリアテ君は強化しました。


次で一応アビドスは最後かな?
エピローグ的なのは別で上げると思うけど。

むふふ、エデン条約書きたいわね
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