【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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ファウスト?紙袋の怪異だっけ

 アビドス高等学校、カイザーPMC、そしてゲーテ。

 三つの勢力が複雑に絡み合い、そして一時的には三大校の内二つをも巻き込む騒動にまで発展した事件は、ついに一応の収束を見せていた。

 

 トリニティとゲヘナが介入したという事実は大きく、カイザーグループは完全にアビドスからの撤退を余儀なくされた。

 

 ブラックマーケットの最深部、ゲーテ本部ビルの最上階。

 分厚い防弾ガラス越しに広がるブラックマーケットの街並みを見下ろしながら、ヒフミは執務机の上で自らのプライベート用スマートフォンを眺めていた。

 

 画面にはアビドス廃校対策委員会のシロコからのメッセージが表示されている。

 

『カイザーローンが消滅したから、アビドスの債権は別の金融業者に引き継がれることになった。キヴォトスでも名前が知られてる、きわめて一般的な普通の銀行。利息も常識的なレベルに引き下げられた』

 

「……よかったです」

 

 ヒフミは紙袋の奥で、ホッとしたように微笑んだ。

 悪徳業者が排除されたことで、アビドスの生徒たちが背負っていた理不尽な重荷はようやく正常な形へと是正されたのである。

 

 そして、そのメッセージのすぐ下。

 先生から送られてきたそれは、驚くほど簡素なものだった。

 

『助かったよ。ありがとう』

 

 用件には一切触れず、ただ感謝の意だけを伝える短い文章。

 誰かが見ても、ヒフミに対する感謝としか捉えないだろう。

 それはファウストであることを隠しているヒフミに対する、先生なりの気遣いであった。

 

 加えて、先生側からしてもブラックマーケットと結託していたという事実は弱味となりうる。

 このメッセージは妥当な選択だと言えた。

 

 あの先生のことだから、ただヒフミへの配慮でしかない可能性はあるが。

 

(ホシノさんも救出できたようですし、少なくともアビドスがまた乗っ取られるような事態は避けられそうです)

 

 ヒフミは内心そう呟くと、スマートフォンを机の上に伏せた。

 

 コンコン、と。

 重厚なマホガニーの扉がノックされ、直属の部下が執務室へと入室してきた。

 

「ファウスト様、ご報告に上がりました」

 

 部下は一礼すると、小脇に抱えていたタブレット端末を操作しながら淡々とした口調で報告を始める。

 

「トリニティ総合学園における、カイザー関連企業への検挙が一斉に行われたようです。ティーパーティーをはじめとする各機関が、我々のばら撒いた『カイザーの連邦法違反の証拠』を元に強制調査に踏み切りました」

 

「想定通り動いてくれましたか」

 

 ヒフミは深くチェアに腰掛け、肘掛けを撫でる。

 

「例のアビドスへのカイザーローンによる法外な利息の取り立てやヘルメット団への資金援助の記録も白日の下にさらされたことで、現在カイザーグループの株価は凄まじい勢いで低下しています。市場は完全にパニック状態です」

 

「すばらしいですね」

 

(……いえ本当に!まさかうっかりが上手くハマるとは思いませんでした!)

 

 そんな内心などおくびにも出さず、ヒフミは冷静な声で返した。

 

 他人のうっかりで窮地に追い込まれているカイザーには涙を禁じ得ない。

 

「でも、それでもカイザーはまだ何かしてきそうなのが恐ろしいところですね……。

 当面の間は火消しと株主への対応に追われて身動きが取れないとは思いますが……」

 

「はい。ですので監視は今後も継続しておきます」

 

「そうですね。よろしくお願いします」

 

「御意。……ファウスト様の知略には恐れ入ります」

 

「いえいえ、そんな。やめてください」

 

 これは本心だろう。

 

 そうとは知らない部下は深い畏敬の念を込めて頭を下げた。

 

「あ、ティーパーティーには匿名で何かお礼でもしておいてください。迷惑をかけてしまいましたから」

 

「承知いたしました。手配しておきます」

 

 部下はタブレットにメモを打ち込むと、ふと、思い出したように顔を上げた。

 

「ああ、そういえば」

 

「なんでしょう?」

 

「先日、アビドスで捕縛いたしましたカイザーPMCの理事ですが……

 

 ファウスト様より「お仕置きをお願いします」との命を受けておりましたので、今回は彼の『首』をカイザープレジデントに向けて直接送付させていただきました」

 

「はい、ありが――」

 

 ヒフミは鷹揚に頷きかけ、その動きをピタリと止めた。

 

(………………え?……え?)

 

 今、なんと?

 首を?送付?プレジデントに?

 

 紙袋の中でヒフミの瞳が限界まで見開かれ、思考回路がこれまでにないくらいショートを起こす。

 

(ええええええええっ!? ま、待ってください!『お仕置き』ってこの前のようにキヴォトス追放ではないんですか!?毎回内容変わるんですか!?首を送るってそんなマフィアみたいな!?)

 

 ゲーテはマフィアではなかったらしい。

 ヒフミからすれば連邦生徒会のような認識なのだろうか。

 

 いくらオートマタといえど、首だけ送り付けるファウスト……。

 さすがのカイザーもこれはしばらく大人しくなることだろう。

 

(ど、どうしましょう……!)

 

 冷や汗が背中を伝う。

 しかし、ここで「なんでそんなことを!?」などと言ってしまえば部下が悪者になってしまう。

 

 結局のところ自分が思い込んでいただけであり、誰が悪いかと言えば自分である。

 そう考えたヒフミは、高速で納得できそうな理由を探し始めた。

 

(い、いえ。あれくらい徹底的にやっておいた方が、カイザーも怖がって大人しくしてくれそうですよね!?前のダミー会社の追放処分では効果が薄かったですし……!)

 

 ヒフミは内心のパニックを微塵も表に出さず、紙袋をわずかに傾けて極めて冷静に言い放つ。

 

「……ありがとうございます。任せて正解でした」

 

「はっ。ありがたき幸せ」

 

 部下は主の称賛を受けてか満足げな様子で一礼した。

 忠誠心はさらに上昇したことだろう。

 

 少しの間、執務室に静寂が訪れる。

 ひとまずこれでカイザーを巡る一連の件は終了したのだ。 

 

 アビドスもホシノを無事に連れ戻すことができ、今はきっと借金返済に向けて前向きに議論していることだろう。

 

「ふぅ……」

 

 ヒフミは心の底からの安堵とともにチェアに深く背中を預け、執務室の豪奢な天井を見上げた。

 

 リラックスした姿勢になったことで被っていた紙袋がわずかに上にズレ、その下の素顔が部下の目に留まる。

 

 幹部でありお付きとしてヒフミの素顔は知っている部下であったが、そこで彼女の中に一つの疑問が思い出された。

 

「……ファウスト様。失礼は承知の上なのですが、よろしいでしょうか」

 

「?なんですか?」

 

 ヒフミが再び顔の位置を戻すと、部下は極めて真剣な表情で問いかけてきた。

 

「前々から思ってはいたのですが、その……ファウスト様がその『紙袋』を被ると、まるで別人のような圧倒的なオーラと威圧感を放たれるのは……一体どういった仕組みなのですか?」

 

「――へっ?」

 

 予想外すぎる質問に、ヒフミは間抜けな声を漏らした。

 

「……え、変わってるんですか?雰囲気」

 

「劇的に変わっております。紙袋を被られた今のファウスト様は、失礼ながら、すさまじい威圧感を放っておりまして……。

 我々ゲーテの幹部間でも、あの紙袋はオーパーツの類なのではないかという考察が出ております」

 

「お、オーパーツ……?」

 

 ヒフミは困惑した。

 

 オーパーツと言えば、キヴォトスで時折発見される謎の物体である。

 ピンク色の埴輪であったり謎の歯車であったりと、用途不明な物が多い。

 

 ゲマトリアの人間やミレニアムの一部生徒などがブラックマーケットで買い求めているのはヒフミも把握していたが、まさか自分の紙袋も同列扱いされていたとは夢にも思わなかった。

 

 ヒフミの記憶では、これは初めてブラックマーケットに侵入した際に屋台でもらっただけの、本当にただの紙袋であったからだ。

 

「私としては、紙袋を被ると「よし!」って、やる気が出るというか、気合が入るというか……そんな感じの、ただのスイッチみたいなものなんですけど……」

 

「無意識、なのですか?」

 

「ええと……そうなります、かね?」

 

 ヒフミはよいしょ、と両手で紙袋を持ちスポッと頭から取り外した。

 

 現れたのは柔らかな亜麻色の髪に優しげな瞳を持つ、どこにでもいる普通の少女である。

 

「どうですか?」

 

 ヒフミが小首を傾げて聞き返すと、部下は一切の表情を変えずに、淡々と事実を告げた。

 

「ヒフミ様ですね」

 

「え、そうですよ?」

 

「……」

 

「……いえ、ファウストも私ですからね!?別人とかでもないですよ!?」

 

 ヒフミが慌てて主張するが、部下は静かに首を横に振った。

 

「そういう部分です」

 

「どこですか!?」

 

 ヒフミはいまいち部下の言いたいことが理解できず、頭の上に大量の『?』マークを浮かべたまま、もう一度スポッと紙袋を被り直した。

 

 瞬間。

 やはり執務室の空気が、シン、と凍り付く。

 

 先ほどまでの愛嬌のある少女の気配は完全に消失し。

 そこに座っているのは、キヴォトスの裏を支配する冷酷無比な絶対者。

 

「……ご無礼をお許しください」

 

 そう頭を下げた部下に対し、ヒフミは驚きつつも大丈夫ですよ、と手で制した。

 

 部下からすれば、下手すれば別人とも思える変わりよう。

 彼女はこの得体の知れなさこそがファウストの本質であると直感的に理解していた。

 

「もしかして、便利屋の方や先生が敬語になっていたのもこれが原因でしょうか……」

 

 ヒフミはゆっくりと立ち上がり、巨大な窓ガラスへと歩み寄った。

 眼下には、ゲーテの厳格な法によって秩序を保たれた、ブラックマーケットの街並みが広がっている。

 

 アビドスの一件は終わった。

 しかし、トリニティの生徒でもあるヒフミには休む暇などない。

 

「もうすぐエデン条約の調印式も近いです」

 

 キヴォトス全土のパワーバランスを揺るがす、歴史的な条約。

 

 その裏で蠢く様々な陰謀の気配は未だ姿を現さず――。

 

「何事も起こらなければ、いいですけど……」

 

 ヒフミは窓ガラスに映る、紙袋を被った自分の姿を見つめた。

 

「……絶対、何かは起こりますよね……」

 

 ――されど、このまま平和に終わるはずがない。

 

 それをヒフミは経験として理解していた。

 




アビドス編は終わりです!
二話くらい幕間的なもの挟んでエデン条約編かしら?

感想によると、まだ理事は死んでません!


そして君たちの考察の一助、これでできたでしょうか……。
考察鋭いのよあなたたち。

これまでの話にもちょっと違和感を散りばめた(つもり)だからよかったら見つけてくれよな!
……普通にガバもありそうなのでそこは申し訳ないんだけどね……。


はよゴルコンダとか出してぇよな~。
概念バトルみたいなの好きなんだよ!
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