【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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こうしてヒフミは補習となった

 世間が三大校の一角、ミレニアムサイエンススクールにて開催されるという校内コンテスト、『ミレニアムプライス』の話題で盛り上がっている頃。

 

 ヒフミはトリニティ総合学園の学生寮、その自室にて、一人机に向かってカリカリとシャープペンシルを走らせていた。

 

 普通の生徒らしい可愛らしい内装と、それをかき消すレベルで多いペロロ様グッズに囲まれながら彼女はうなり声を上げていた。

 

 理由は言わずもがな、勉強である。

 

「うぅ、歴史、数学、哲学……まだまだ先は長いですね……」

 

 ヒフミは小さくため息をつき、ペロロ様の顔がプリントされたマグカップに淹れた紅茶を啜る。

 というかよく見たらペンにもペロロ様のプリントが。

 

 ――現在。

 トリニティ総合学園とゲヘナ学園の間で結ばれようとしている条約――『エデン条約』の調印式が間近に迫っている影響で、学園内の空気はどこかピリピリとしていた。

 

 ティーパーティーのホストである桐藤ナギサも、連日目の回るような忙しさで動いているらしい。

 

 しかしヒフミとしては、エデン条約に関しては「無事に結ばれて、平和になればいいなぁ」程度の、ごくごく一般的な生徒としての感想しか持ち合わせていなかった。

 

 彼女としても、エデン条約という相互監視機構的なものがあれば、ゲヘナで開催されるペロロ様のイベントだったりも行きやすいので出来れば締結してほしいものではあったが。

 

 ただ、肩書的には一般のトリニティの生徒である『阿慈谷ヒフミ』は、当然政治の最高意思決定に口を挟む立場にはない。

 

 そして、裏社会を統べる『ファウスト』としても学園同士の不可侵条約に、ブラックマーケットの自治組織がわざわざ首を突っ込む理由は皆無であった。

 むしろ介入することでややこしい事になる確率は高いだろう。

 

「ゲヘナ……というより今の万魔殿が条約を結ぶ理由はあるのでしょうか……?」

 

 雷帝も居ませんし、と内心で付け加えつつ少し思案する。

 

 ヒフミからして、ヒナが推進派であることは知っての通りだが、『混沌』を校風とするゲヘナ自体にはあまりメリットがないように思えた。

 

「……いえ、ここまで話が進んでいるんです。きっと大丈夫ですよね」

 

 脳裏に例の風紀委員会のアビドス侵攻が過るがそれを無視して、そう結論付けた。

 

「今のような何もない日が続くのが一番なのですが……」

 

 まぁひとまず、エデン条約は置いておくとしよう。

 今はヒフミの話だ。

 

 連邦生徒会長の失踪と治安悪化から始まり、先生の着任、アビドスとカイザーのあれこれを片付けたヒフミは、こうして今勉強に集中できていた。

 

 最近は欠席もしていないし、提出物も出している。

 今度の定期試験でそれなりの成績を収めることができれば、晴れて一安心。

 

 普通の生徒に元通り!

 

「ふふふ……しかもその直前には、待ちに待ったペロロ様のリアルイベントもありますからね……!それで英気を養って試験に臨む……完璧です!!」

 

 ヒフミは両拳をギュッと握りしめ、目を輝かせた。

 正直なところ、成績を上げたいというよりもイベントに成績という悩みの種を持ち込みたくないなぁ、という気持ちの方が明らかに強い。

 

 神聖なるペロロ様との謁見の場に、俗世のストレスなど持ち込むべきではない。

 

 その一心でヒフミは深夜まで猛勉強に励み、試験範囲の総復習を完璧に終わらせたのであった。

 

 ――そうして数日後。

 

 ヒフミの姿はトリニティ自治区から離れ、D.U.にある巨大なイベントホール前にあった。

 

 そう、今日は待ちに待ったモモフレンズ――とりわけペロロ様をフィーチャーした、大規模な公式リアルイベントの開催日である。

 

 雲一つない青空の下、イベントホールの前には、開場を待ちわびる大勢のファンたちが長蛇の列を作っていた。

 

「す、すごいです……!同志の方がこんなにも……っ!」

 

 ヒフミは列の中ほどに並びながら、興奮で頬を紅潮させる。

 

 そんな今日の彼女の出立ちは、一言で言えば『完全武装』であった。

 

 頭にはペロロ様の顔が大きくデザインされたキャップを被り、上半身には限定販売されたペロロ様のフェイスTシャツ。

 背中には当然ペロロ様リュックを背負い、両腕には抱き着きペロロ様(遊園地でよくあるあれ)を装着。

 首からはチケットホルダーと、手提げカバンにはペロロ様の大量の缶バッジ。

 

 一般人からすれば、さすがに常軌を逸している格好。

 しかし恐ろしいことに、このイベント会場においてヒフミは『ごく普通のファンの一人』の枠に収まってしまっていた。

 

 なんなら全身を缶バッジで埋め尽くす人間や、ペロロ様になりきる人間すらいるのである。

 

 類は友を呼ぶというか。

 ペロロ様はモモフレンズという作品の中では人気が少ないのだが、グッズの売り上げは一番多く、そしてつまりは狂信者が多いのである。

 

(おぉ……!ここがエデン!!)

 

 ナギサ様に謝った方がいいよ。

 

 ヒフミは周囲の同志たちと無言の連帯感を感じながら、幸福感に打ち震えていた。

 

 ちなみにヒフミは昨夜のうちに、部下に対してこう通達を出していた。

 

『明日はとても重要なイベントがありますから、電話には出られないと思います』

 

 部下たちはさぞ困惑したことだろう。

 そしてネットで調べてこう思うのだ。

 

 ファウスト様絶対このイベント行くつもりじゃん、と。

 

 なお、ヒフミがペロロ様と関わるとテンションが振り切れるのはいつものことであるので驚きはない。

 

 列が少しずつ前に進み始め、ついにイベントホールの入場ゲートが近づいてきた。

 

「よしっ……!」

 

 ヒフミは立ち止まり、ポケットから二つのスマートフォンを取り出した。

 

 一つは、『阿慈谷ヒフミ』としての、可愛らしいカバーがつけられた私用端末。

もう一つは、裏社会のトップ『ファウスト』としての、分厚い暗号化プロテクトが施された黒い業務用端末。

 

 ヒフミは迷うことなく、二つのスマートフォンの電源ボタンを長押しした。

 

 ブッ、という小さな振動とともに両方の画面が真っ暗になる。

 

 当然である。

 映画館では電源を切るのと同じように、イベントでも着信音が鳴ってはいけない。

 今ここにいるのはヒフミでもファウストでもなく、『ただのペロロ様のファン』なのだ!

 

 ヒフミは電源の切れた二つの端末をリュックの奥底に封印すると、晴れやかな笑顔でイベントホールのゲートをくぐっていった。

 

 ――そして。

 彼女にとっての、夢のような時間が終わった。

 

 限定グッズの物販列での熾烈な戦いを勝ち抜き、等身大ペロロ様のステージショーで感動の涙を流し、他のファンたちとレアな缶バッジの交換会で熱い交渉を繰り広げたヒフミ。

 

 両手には持ちきれないほどの戦利品が詰まった巨大な紙袋がいくつも握られていた。

 

「はぁ〜……っ。生きててよかったです!!新しいダンスも、限定グッズも入場者特典も最高だなんて……!」

 

 イベントホールから出てきたヒフミは、夕日に照らされたD.U.の街並みを見上げながら、熱い涙を一筋流す。

 

 周りの人々はその姿に引いていた。

 

 事前の試験勉強も完璧にこなし、一切の憂いなくイベントを楽しみ尽くすことができた。

 これほどまでに充実した休日は、これまでの人生でもそうそうないだろう。

 

「さて……帰る前にSNSに感想を……」

 

 ヒフミは興奮をなんとか静めながら、近くのベンチに腰を下ろす。

 そしてリュックの奥底から、朝に封印した二つのスマートフォンを取り出した。

 

 ファウスト用の黒い端末は、とりあえず後回しだ。

 どうせ「本日の市場の売上報告」や「小さな揉め事の事後報告」くらいしか来ていないだろうし。

 

 今はこの感動を共有することが先。

 

 そう考えながら私用のスマートフォンの電源を入れた、その直後。

 

 ――ピロリロリロリロリロリロリロリンッ!!!!!

 ――ブブブブブブッ!ブブブブブブッ!!

 

 電源が入った瞬間、スマートフォンが壊れたのではないかと思うほどの凄まじい勢いで通知音とバイブレーションが連続して鳴り響く。

 

「ひゃぁっ!?」

 

 ヒフミはビクリと肩を震わせ、手からスマートフォンを取り落としそうになった。

 

「な、なんですか!? 一体何が……!」

 

 慌てて画面を確認すると、そこには信じられない数の通知が並んでいた。

 

 不在着信、十五件。

 そのすべてがトリニティ総合学園からのものであった。

 

「えっ……学校から? 今日はお休みの日なのに、どうして……?」

 

 ヒフミの背筋に、なんとも気持ちの悪い汗が流れる。

 

 さらに、モモトークのアイコンには、未読を示す赤いバッジがいくつかついていた。

 

 一番上に来ているメッセージは、なぜか何かと交友の多いナギサからのものだ。

 

 ヒフミは震える指で、そのメッセージをタップした。

 

『ヒフミさん。本日の試験休まれたようですが、何かあったのですか?教員の方から連絡がつかないと報告が来たのですが……』

 

「…………え?」

 

 ヒフミの思考は、完全に停止した。

 

 試験。

 しけん。

 シケン?

 

「な、何を言ってるんですかナギサ様……。試験は、来週の……はずですよね……?」

 

 ヒフミは引き攣った笑いを浮かべながらカレンダーアプリを起動した。

 

 画面に表示された、今月のスケジュール。

 そこには、ヒフミ自身が設定した『定期試験・初日』という赤い文字が。

 

 見事に、今日の日付の欄にデカデカと表示されていた。

 

「あっ。……えっ???」

 

 ヒフミの脳内でこれまで積み上げてきた完璧なスケジュールは幻覚であった。

 

 そう。

 試験は来週からではなく、今日からだったのだ。

 

 見間違えから始まった、日程の誤認。

 もっと確認していればこうはならなかっただろうに、ヒフミは「日程被ってなくてよかったです!」と、その時から一度も予定など確認していないのである。

 

 ファウスト様モードのときはあんなにも頭が回るのに、やはり本質はドジっ子であったか。

 試験の日にペロロ様のリアルイベントにフル装備で参戦し、あろうことかスマートフォンの電源まで切って、朝から夕方まで遊び呆ける……。

 

 キャスパリーグも真っ青のアウトローだ。

 ちなみに現実を認識し始めたヒフミも真っ青である。

 

「あぅ……」

 

 ヒフミは自分の足元にある、大量のペロロ様グッズが詰まった紙袋を見た。

 そしてスマートフォンの画面に並ぶ教員からの十五件の不在着信。

 ナギサからの心配のメッセージ。

 

 まさに天国から地獄への変遷を見ているようだ。

 

 いくらキヴォトスは生徒主体の、学校が国家としての側面を持っているとしても、トリニティ総合学園は学校である。

 

 赤点を取ればどうなるか。

 当然、退学が見えてくるのである。

 

 裏社会でどれだけの権力を持とうが、トリニティではただの一生徒。

 

「…………ぁ」

 

 ようやく事態を咀嚼しきったヒフミから、思わず魂の抜けたような声が漏れる。

 

「あぁぁああやってしまいましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?!?!?」

 

 やがてキヴォトスの空に、一人の少女の悲鳴が響いたのであった。




ナギサ様「え、ヒフミさん今D.U.で遊んでるんですか!?」



申し訳ナス……。
幕間がなんか違うな……って思って書き直してたけど、諦めてエデン条約に行きます!

幕間用に入れてた伏線、使いたかったんだけどね……。
没にしたのはチラシ裏にでも投稿します。いつか。いつかね!

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