【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww 作:車検のコダック
『補習授業部』
それはトリニティ総合学園において、成績に難のある生徒を所属させ退学を免れさせるための特殊な救済措置制度である。
トリニティ総合学園は外の世界でいうところの貴族学校のようなものであり、その体でいくとここに在学している生徒たちは貴族の子供と定義できる。
そんな生徒を簡単に退学処分にできるかといえば当然、できるわけもなく。
ならばどうにかして成績を上げてもらうしかない。
そういった経緯で『補習授業部』は設立されたのであった。
だが、『設立』と書いたように基本的には存在していない部活である。
それはつまり、「こんな部活に入る人間、いるわけないよね~」という皮肉が込められていたりする。
さすがトリニティ。
そして、今日。
その不名誉極まりない部活への入部届(強制)はヒフミの元へと届けられていた。
「うぅ……自分がその立場になるなんて……」
トリニティの学生寮の自室。
ヒフミはベッドの上に正座し、手元にある一枚の通知書を見つめて一人ごちた。
原因は明白だ。
先日の定期試験を日程の勘違いから見事にすっぽかし、0点の答案を複数生産したからである。
「試験日を間違えるなんて……ちゃんと確認していればこんなことには……!」
ちゃんと試験勉強もしたのに……と、ため息とともにヒフミは肩を落とした。
(試験があることに気がついていれば、取れる手段もあったんですけど……)
ヒフミは「通学途中にヘルメット団の抗争に巻き込まれてしまい学校へ行けませんでした~(泣)」と学校に説明している自分の姿を思い浮かべる。
いや結局イベントを優先するんじゃないか。
ファウストの力があれば証拠くらいでっち上げることはできるのだろうが、なんとも力技すぎる。
「……ペロロ様との出会いは大切ですからね……!仕方なかったんです!」
ヒフミはイベントで出会ったグッズ、コスプレイヤー、同志のみなさん、そしてステージに立つペロロ様を想い、虚空に手を合わせた。
「……というかもしかして、最適解だったんじゃないですか!?」
そしてヒフミに、電流が走る。
「……誰にも迷惑をかけていませんし、ペロロ様のイベントには参加できて、補習を受ければ退学もない……!
次のイベントは周期的に考えてもまだだいぶ先のはずですし……そう考えると補習くらい安いものかもしれません!!」
先生、この子を叱ってください。
悲しいことにこんな思考回路を携えた『自称:普通の生徒』は友達がいないので、異常を未だに認識できないでいるのだ。
ヒフミはグッと拳を握り、ベッドから立ち上がった。
「勉強はしていたので補習も問題ないはずです!!」
(あ、でも補習となるとブラックマーケットには行きにくいですかね?)
近頃はナギサの監視もまた若干増えている。
あの日もナギサは「どうかされたのですか」などとメッセージを送ってきていたが、どうして試験を休んだのかは把握していたのだろう。
ヒフミはそう予想していた。
(私も監視を付けたりはするので何とも言えないですが、エデン条約が締結されれば監視もなくなりますかね?)
ブラックマーケットに行きにくいということは、ゲーテ本部に置かれているペロロ様グッズの手入れがしにくいということ。
それは彼女にとって死活問題であり。
(ナギサ様、頑張ってください!)
ゆえにヒフミは多忙であろう生徒会長へとエールを送るのだった。
【先生視点】
ミレニアムサイエンススクールでの『ゲーム開発部』の廃部危機もどうにか解決し、少し経った頃。
先生は再び、トリニティ総合学園の広大な敷地に足を踏み入れていた。
今回の訪問理由は、トリニティの最高意思決定機関である『ティーパーティー』からの連名による正式な呼び出しである。
指定された場所は、ティーパーティーの所属生徒しか基本立ち入ることができないらしい、美しい中庭を一望できるテラス席だ。
立ち入った部屋の、中央に置かれた純白のテーブルにはすでに二人の少女が腰を下ろしていた。
「――先生。本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます」
優雅に立ち上がり一礼をして迎えるのは、以前面識を持ったナギサ。
”うん。久しぶり、でいいかな。前は本当にありがとう、ナギサさん”
先生はカイザーPMC基地への強襲作戦の際、彼女が武力を貸してくれたことに対して、改めて深い感謝の意を述べた。
「いえ、お気になさらず。あれはトリニティにも関係のあること……いえ、トリニティを陥れようとした不届き者への、正当な処置でしたから。
あと、私のことはナギサで大丈夫ですよ」
”わかったよ、ナギサ”
「はい。ではそちらに」
ナギサは微笑んで席を勧める。
前回の彼女はひどく疲労困憊している様子であったが、今日のナギサは随分と顔色が良い。
トリニティから悪徳企業がある程度一掃されたからか、それともゲーテからの圧力が無くなったからか。
それを知る術はないが先生は幾分か安心した。
「お~い、ナギちゃ~ん?私の紹介されてないよー?」
先生が席に着いたと同時、ナギサの向かいに座っていた少女が立ち上がって身を乗り出してきた。
ウェーブのかかった美しいピンク色の髪に、純白の翼。
まるでおとぎ話のお姫様のような可憐な容姿と、それに反するような底抜けに明るく奔放な声。
「ああそうです。申し訳ありません、ご紹介がまだでした。こちら、ミカさんです」
「も~……。初めまして、先生!私は聖園ミカ。私もミカでいいからね?ナギちゃんと同じく、ティーパーティーの生徒会長だよ!」
ミカと呼ばれた少女は、先生の手を取らんばかりの勢いで満面の笑みを向けた。
”こちらこそ初めまして、ミカ。……ん?生徒会長?”
先生はミカの言葉に少しだけ困惑して首を傾げた。
これまで関りがあった学園は……一度も生徒会長と会った記憶がなかったが、一般的には生徒会長は一人のはずである。
その疑問を察したナギサが、優雅に紅茶を注ぎながら説明を引き継いだ。
「ご存知ないのも無理はありません。
トリニティ総合学園は、かつて存在したいくつもの学校が統合される形で設立された巨大な学園なのです」
ナギサは、カップをコトリとソーサーに置く。
「そのため、旧学園の代表格である三大分派――私が率いる『フィリウス』、ミカさんの率いる『パテル』、そしてもう一つの分派、『サンクトゥス』の代表者が生徒会長となり、ホスト制で運営しています」
”なるほど。となるともう一人は……?”
先生が当然の疑問を口にすると、それまで笑っていたミカの表情が、一瞬だけふっと翳ったように見えた。
ナギサもまた、ティーカップの縁を指でなぞりながら、少しだけ視線を落とす。
「そうですね……。本来であれば、もう一人の代表であるセイアさんという方が、現在のティーパーティーの『ホスト』を務めるはずだったのですが。
……彼女は現在入院中でして。私が代理としてホストを務めているのです」
”……セイア”
その名前を聞いた瞬間、先生は妙な既視感に襲われた。
どこかで聞いた名前のような。
しかしまるで濃い靄がかかっているかのように、その先を辿ることができない。
(”……気のせい、かな”)
先生が眉間を押さえて沈黙してしまったこともあり、場に少しだけ気まずい空気が流れた。
「先生? 大丈夫?」
ミカが心配そうに顔を覗き込んでくる。
”あ、ああ、ごめんね。少し考え事をしてしまって。……セイアさんが、早く良くなるといいね”
「そう、ですね……」
ナギサもミカも、何かを堪えるような表情を見せていた。
(”思ったよりも、セイアって子は重病なのかもしれない”)
先生は彼女たちの反応から、触れない方がよかったかな、と少し後悔しつつ次の言葉を待つ。
「……さて、そろそろ本題に入らせていただきましょうか」
するとナギサがコホンと咳払いをして、場の空気を引き締めた。
「先生にわざわざお越しいただいたのは、他でもありません。実は先生に『補習授業部』という部活の顧問を引き受けていただきたいのです」
”補習授業部?”
「はい。名前の通り、成績があまりよろしくない方々を救済する制度なのですが……。こちらが、その生徒の名簿となります」
ナギサがテーブルの上に、四枚の個人ファイルが綴じられたバインダーを差し出した。
先生はそれを受け取り、パラパラとページをめくる。
浦和ハナコ。
下江コハル。
白洲アズサ。
知らない名前が並ぶ中、最後の一枚の書類を見た瞬間先生の目が丸くなった。
”えっと……”
「わかりますよ、先生。ヒフミさんのことですよね?」
怪訝な表情を浮かべた先生の心を読んだかのように、ナギサが苦笑いを浮かべて口を出した。
「あれ、先生もヒフミちゃんと知り合いなの?」
ミカが目を丸くして、先生とナギサの顔を交互に見る。
「ええ。この前のカイザーの一件で面識を持たれたようです」
「へ~」
”そうだね。ヒフミにナギサを紹介してもらったんだ。
……で、そのヒフミがどうして補習授業部に?”
裏社会のトップとしての策謀を見せつけていた彼女が、なぜ『成績不振』に陥っているのか。
まさか、潜入工作の一環だろうか?と先生は深読みせざるを得ない。
が。
「その、ヒフミさんなのですが……。実は試験の日に、ペぺロさん?のリアルイベントに向かったようでして……」
”ヒフミ……”
ナギサが困惑した様子で説明し、内容に先生も思わず言葉を失った。
しっかり名前を間違えているナギサは置いておくとして。
ヒフミのペロロ様好きはブラックマーケットでの様子から把握していたが、まさかそのレベルだとは思わなかった。
(”アルよりずっとアウトローだな……”)
ファウストですから。
とはいえそのポンコツを発揮しておいてよくバレていないものだと、少し関心する先生である。
「本人曰く、「試験の日程を間違えていました」とのことですが……理由はどうあれ、試験を受けなかった以上、赤点扱いに変わりはありませんから……。
彼女には、補習授業部でしっかりと遅れを取り戻してもらうしかありません」
ナギサが少々呆れた様子で言う。
ただヒフミがナギサと面識を持っていたように、ナギサがヒフミを思っての発言なのだろう。
彼女がファウストであることがバレないよう、祈るばかりである。
「ともかく、先生。この生徒たちをよろしくお願いします」
”困っている生徒を助けるのが私の仕事だからね。任せて”
先生がバインダーを閉じ力強く頷くと、ナギサとミカは顔を見合わせた。
「……報告書に比べて、思ったよりまともそうだね」
「だめですよ、ミカさん」
小声でなんとも引っかかる発言をする二人であったが、嫌な予感がした先生は聞こえていないふりに徹した。
先生には足舐めという爆弾が潜んでいるのである。
さて、それはそうとお茶会の目的は無事に果たされたらしい。
先生は席を立ちながらふと、気になっていたことを口にした。
”そういえば。『エデン条約』ってなにか聞いていい?”
前回のナギサやヒフミから出ていた、現在のトリニティを取り巻くそれ。
先生の問いに対し、ナギサは一瞬だけ表情を強張らせる。
「……そうですね。以前少し口にしてしまいましたし、顧問を引き受けてくださった先生にはしっかりとご説明したいのですが……」
ナギサはチラリと横のミカへ視線を流し、言葉を濁した。
「条約の全容や現在のトリニティとゲヘナの政治的状況をご説明するとなると、非常に複雑で長いお時間をいただくことになってしまいます。
……大変申し訳ありませんが、そのお話はまた後日、改めて場を設けさせていただくということでいかがでしょうか?」
”わかったよ。無理を言ってごめんね”
先生はそれ以上追及することをやめ、素直に引き下がった。
(”最悪、ヒフミに聞けば教えてくれるかな”)
普通の生徒自称してるんだからやめてあげてよ。
先生は彼女の正体を知ってからというもの、妙にヒフミの姿が頭から離れないでいた。
なお、恋ではない。
目の前にマフィアがいるような状況に恐怖を感じた結果、吊り橋効果のごとく意識せざるを得なかっただけである。
”それじゃあ、私はこの子たちに会いに行ってみるよ”
「改めて、よろしくお願いします」
「先生またね〜」
ミカが手を振り、ナギサが優雅に一礼する。
華やかで、しかしどこか見えない緊張感を孕んだティーパーティーの執務室を背に、先生は問題児たちを探して行動を開始するのだった。
もう少し進めば書きやすいぞ、がんばれ……。
ナギサに余裕があることがわかればね、この話は成立してます。
以下、テンポとさすがに明るくなりすぎるし余裕もありすぎるので消した会話。
「カイザーの一件で面識を持たれたようです」
「へー!そうなんだ? 世界って狭いね〜」
「あ、じゃあさ、先生は知ってる? あの子がいつも持ってる、あの『キモい鳥』のグッズ!」
「あ、ミカさん駄目ですよ。……絶対に本人の前では言わないでくださいね」
「えー、でもあのペロロ?って鳥、目が……」
「……私が以前、不注意でその鳥の名前を間違えた時には、殺されるかと思うくらい冷たい目で見られたんです……」
「あははっ!何それ大袈裟~。ヒフミちゃん優しいじゃん!そんなので怒らないって!ていうか、ナギちゃんがずっと覚えないのが悪いよ」
「ですが、なぜか覚えられないんです……。『ぺ』と『ロ』が入っていたのは覚えているのですが……」
「そういえばあの鳥、舌で攻撃するらしいよ?」
「そうなんですか!?」